入学式と先輩と魔物
「包月、契、縁、そろそろ体育館に行こう」
春人がそう声をかけてきた。
確かにもう少しで入学式が始まる。今から行けばいい具合なので私達は教室を出た。
廊下を歩いていると階段のところで見知らぬ三人、いや一人は海破だった。残りは知らない。
一瞬海破と目が合ったが別段話すことがないのでそのまま階段を下りようとした。
だが
「ねーねー君達何組?」
赤髪の少年が訊ねてきた。
「四組だけど、それが?」
契が少しばかり好戦的に返した。
無視すればいいのに、だが、そう言っても始まらない。後の祭りだ。
「へー、四組なんだね。じゃ、弱いんだ」
「月冴!失礼なこと言わないの!たとえ事実だとしても」
「はーい」
なんなんだ、この二人は。
明らかにこちらを見下している。
海破といるので一組だと判断できるが、一組と四組とではこうも隔たりがあるのか。
「ちょっと、あんた達失礼じゃない?」
「そ、そうですよ!」
契と縁が抗議の声を上げた。
その行動は致し方ないと思うが、波風は立てないほうが良いと思ったのも否めない。
「でも事実でしょう?」
「はっ、事実かどうかは自分で確かめたら」
どうしよう。一触即発の雰囲気になってしまった。
どうにかしなければと思い海破に目線を送る。その意図が伝わったのか
「絵本、月冴。入学式が始まるから急ごう」
海破がそう声をかけると
「はーい」
「わかった。行くわ」
三人は去っていった。
三人が去った後
「何なのあいつら腹立つ!」
そう契がいきり立った。
「あたし達が四組だから何だってのよ!」
「同感です!」
確かに同感だ。
「今度あいつらに会ったら完膚なきまでに叩きのめしてやる!」
契が怒りに燃えていると
「契」
春人が静かに契を呼んだ。
「なに、春人も一緒に戦う?」
「違う」
「じゃあ何」
「反省しろ」
「何を!」
「今この場で戦っていたら、縁と包月に迷惑がかかっていただろうし、いくら馬鹿にされたからといってそう易々と相手に反抗するな。こっちが平静を保っていれば向こうも何か言うことは少なくなる。だから反省しろ」
春人の言う通り、契は少し血の気が多いみたいだからこれで少し落ち着いてくれればいいと思う。
春人の言葉を聞き、契は気落ちしたようだが春人の言葉は理解しているみたいだ。
契は縁と私の方を向き
「ごめん縁、包月」
と謝った。
「別にいいよ」
「そうですよ!あの人たちが悪いんですから」
私達のがそう言うと
「ありがとう」
とはにかんだ。
「じゃ、俺達も行くか」
春人のその言葉で私達も体育館を目指した。
「月冴、絵本、さっきのことだが」
体育館に向かうがてら俺は二人にさっきのことを問い質した。
「なにー?別に嘘は言ってないよー」
「確かに、事実をそのまま述べただけよ」
二人の様子と言葉でこれ以上のことを言うのを止めた。咎めたところで意味が無い。これがこの二人の考えだと分かった。
それとあの時戦っていたら二人はきっと負けていただろう。
あそこにいた男子、冷静にこちらを観察していた。あの反論してきた女子もそれなりの実力を持っているのが見て取れた。
きっと魔力量が少なく魔法に利便性がないと判断されて四組になったのだろう。
それに細原がいた。あいつは魔力が多いから身体能力が高い。それに戦闘にも長けている。
絵本姉弟の勝ちはなかった。
もし戦って負けていたら二人は立ち直れなかっただろう。
本当に何事もなくて良かった。
でも釘は刺しておこう。
「いらない喧嘩は売るなよ」
「はーい」
「わかってるわ」
「ならいい」
取り敢えずこれでいいだろう。
包月、契、縁、春人の四人は体育館に着きそれぞれの席に着いた。四人とも席は離れていた。
十分前には全ての生徒が集まったみたいで騒がしかったが、五分前になると流石に静かになった。そして
「これより東京魔法高等学校入学式をはじめます」
入学式が始まった。
それからしばらくは知らない人からの祝いの言葉を聞いていた。物凄く退屈だった。大半の者が眠さと戦っているだろう。斯く言う私もその一人だ。だが
「続いて生徒会会長三年凍堂より歓迎の言葉」
眠気が飛んだ。
壇上に上がってきたのは少し冷たい印象がするが不思議な雰囲気を纏った女性だった。
水色のロングヘアがその雰囲気を出しているのかは判断しかねたが、今この場にいる者すべての視線が壇上に向いている。
「はじめまして生徒会会長で三年の凍堂雹といいます。この度東京魔法高等学校に入学おめでとうございます」
その声はとても落ち着きがあり、同時に聞き入ってしまうものだ。
「みなさんがこの学校で多くのことを学び人類に貢献するのを期待しています。今世界は完璧に安全と言われる場所はありません。世界の安全、平和のため、自分の持てる力を精一杯発揮してください」
そう締めくくり壇上を下りようとすると
びーびーと
マイクを通して音が聞こえてきた。
凍堂先輩はそれを聞くと壇上を下りるのを止めマイクに近づき言った。
「魔物が現れました。生徒会役員がそちらに向かっています。そちらと映像で繋がりますので皆さんがするべきこと目指すものをしっかりと見てください」
そして凍堂先輩の持つ携帯端末から映像が映し出された。
そこには醜悪な二足歩行の十メートルある魔物と一人の男子生徒がいた。
腕には生徒会の腕章があり、身長は百八十センチは超えているみたいだ。黒髪で前髪を右に流し左にはヘアピンがいくつかついている。見た目は不良生徒。右肩に木刀のなりをした杖を担いでいた。
杖とは十二歳になるとみな創れる物で形状は様々で大概は自分の魔法に合わせたものを創る。例えば糸や銃がある。基本は一つだが、双剣のような二対一振りみたいな物は二本で創られる。
何故十二歳で創れるようになるのかは未だ謎である。考えても仕方の無いことだ。今は目の前の映像に集中しよう。
映像の男子生徒は木刀を魔物に向けた。すると魔物が地に伏した。
多分先輩の魔法だろう。
魔物は起き上がろうとしているのか
ごおおおおおおおおお
と声を上げた。だが上げただけだ。
体はどんどん地に埋まっていく、その内魔物は抵抗するのを諦めたのか声が止んだ。
その瞬間先輩は物凄い速さで魔物に近づきそして空高く木刀を振り上げながら飛び、そのまま魔物に向かって、重力に従い落ちて、魔物の胴を真っ二つした。
先輩の周りは地の海となっていた。
そしてその海の真ん中いる先輩の服と木刀には鮮やかな血がついていた。
今回登場した黒髪の先輩は学校の友達のに頼まれた人です。
多分作中で一、二位を争うイケメンかな?