『破壊』の魔法の噂
今回は生徒会黒木先輩視点です。
「的場凛ただいま戻りました」
先程食堂でのいざこざを治めてもらうためちょうど食堂にいた生徒会役員二年会計の的場に頼んだのだ。
「ありがとうね凛ちゃん、昼ご飯の時にわざわざ」
そう言ったのは凍堂だ。
「いえ、大丈夫です。御三方は授業の方は大丈夫なのですか?」
的場が心配そうに訊ねてきた。
「大丈夫よ。ただ一人の風紀委員にして風紀委員長の金剛君にノート取ってもらうよう頼んだから」
凍堂はこう言っているが実際は頼んでいない。
「さすが凍堂先輩ですね!」
そしてそれに全くと言っていいほど的場は気付かない。気付けと言う方に無理があるかもしれないが、的場は凍堂に対して少し盲目的な部分がある。
「橘先輩はどうですか?」
「僕は大丈夫だよ。高校の授業内容は全部頭に入っているからね」
さらっと凄いことを言うな橘は。
「一応訊いときますけど黒木先輩は?」
「一応ってなんだ!」
「すみません何となくです」
「な、何となくで」
「嘘です」
「どれが!」
「一応ではなく訊くきはありませんでした」
そ、そうか
と口にすら出せなかった。
最近生徒会の皆から遊ばれてる気がする。
主に凍堂と瑞輝に。
二年生は一年生だった頃はそうではなかったが、一年の終わりごろから遊ばれるようになった。
いい傾向だと思う。打ち解けてきた証拠だ。
だがいじられたのは俺だけだった。
原因は凍堂と瑞輝だろう、いやそうに違いない。
そう思うとどっと疲れが。
「どうされたんですか黒木先輩。溜息などついて。幸せが全て逃げていきますよ」
そう言われますます疲れてきた。
はぁ。
まあ今に始まったことではないし、皆楽しそうで何よりだ。
そんな思いで皆を見ていると
「なんですかそのにやけた顔は」
「黒木くん一度顔洗ってきたら」
「黒木くんのにやけた顔も十分かわいいよ」
散々だ。それと瑞輝男にかわいいと言っても誰も喜ばねえよ。
はぁ。また重い溜息をついた。
「それでどうだった凛ちゃん、細原さんかわいかったでしょ」
凍堂の最近のお気に入りは『野菜シリーズ』そして細原だ。
「かわいいかどうかはわかりませんが、よく食べてましたね。男子用の昼食を」
ま、まじか。ここの男子用の昼食は男子も音を上げる量なのにそれを女子である細原が食べたのか。
「へえー細原さんすごいね」
瑞輝はこう言っているがこいつもその男子用を平らげる。だが問題は細原の外見や食事についてじゃない。
「的場。細原達の会話の内容は何だった?」
的場に訊ねる。
「では大まかな内容を簡単に説明すると――」
語られた内容は食堂でのこと全てだった。
「――ということで以上になります」
的場から語った内容は先日と似たような物だった。だが今回は海破の取り合いではなく細原の取り合いだった。
この騒動の原因は一組の差別意識だろう。
対魔物に有効な魔法を持つ者、魔力が多い者の大半は小中学校は公立ではなくて民間の学校に入る。民間の学校は魔法主義のところが多く魔法での優劣を重要視している。故にそこで差別意識が育てられてしまう。
高校の入学時のクラス分けは実力順で決められているので一組や二組にこういった者が沢山集まる。
だから今回のような問題が一年次は起こる。
二年からはクラス分けは実力順ではないし、一年の間にそういった差別意識を無くすのでこの問題は自然に消滅する。
だがそれまではこういった問題が多々起きる。
大変困ったものだ。
しばらくすると一年生のオリエンテーションがある。これが最初の関門だ。
「的場」
「はい」
「食堂に一年はどれぐらいいた」
「そこまでではなかったですが、すぐに広まるでしょう」
そう、それが問題だ。
昨日も動画が流出していた。
どこの誰かが特定出来ていない。
まあ、特定出来ないのはいたし方ない。
だが今回また同じ人物が噂になるのはあまりいいことではない。これがまた差別問題に発展しなければいいが。
「ですがそれほど心配する必要はないでしょう。私の時はそこまで問題ではなかったですから」
「いや、今年はそうはいかねえ」
「どういうことですか」
「『破壊』だ。あれはこの世界での最初の魔法だ。海破で二人目、それまで誰も持っていなかった。だからこの世代は他の代より魔法を絶対的な物と見ている。厄介だ」
「……………」
何故だか的場は黙って考えごとの仕草をした。
ほんの少しして的場は口を開いた。
「――ずっと疑問に思っていたことがあるのですが……」
「なんだ?」
「『破壊』についてなんですが。そもそも何故その魔法が最初の魔法とされているのですか?魔法が誕生した時はそれをすぐに認識するのは無理なことではないですか。それに最初の基準が怪しいです。その当時の人が最初に認識する――つまり名前を与えるにしても最初に生まれたのは誰だか分からないのでは?」
俺は的場の疑問に答えることは出来なかった。よくよく考えると的場の言う通り。どれが最初の魔法かだなんてわかるはずがないじゃないか。
俺が的場の問に答えられないでいると。
「それについては僕がある1説を教えるよ」
瑞輝がそう切り出した。
「でもこれは都市伝説のようなものだけどいい?」
「構いません」
「わかった。『破壊』が今のようになったのはね昔魔物との戦いで皆を導いて戦っていたのが『破壊』だからだよ。でもここで一つの疑問が出てくるんだ。何故『破壊』の保持者の名前が何一つ伝わってないのか。何故先導者としての魔法として伝えなかったのか。実はこれにもある噂があるんだ。ある人物がそうなるよう仕向けたって」
「あら、私もそのある人の噂を知っているわよ」
「それも教えてもらえませんか」
「いいわよ。じゃあまず質問。魔法で『回復』のような戦闘において敵を倒すの役に立たない魔法はあるかしら。あっ細原ちゃんは除いてね」
「ありませんね」
「正解!実はそれもある人が操作、というよりも敵を倒せない魔法を持って生まれた人どこかに隔離もしくは殺してるんじゃないかって噂よ」
「そ、そんな!」
「凍堂それは!」
本当なのかと目で訴えた。
「勿論噂よ。そもそも人を隔離したりましてや殺すのは並大抵のことじゃないわ。でもね黒木くん、凛ちゃん」
―――火のないところに煙は立たないのよ
「ま、この話はここまでにしましょう。取り敢えず今年は要注意!わかったわね凛ちゃん!」
「わかりました」
「そういえば的場もう一人の奴は」
「寝てます」
もう一人とは的場と同じ二年の役員だ。
よく寝るが仕事はしっかりしている。
「ではまず凛ちゃんは寝ている子を連れてきて。凛ちゃんが連れてきしだいオリエンテーションについて話し合います。午後の授業は今日はお休みね」
今日も長い一日なりそうだ。