ラストバトル!
シドニーはムーブを殺し、無のオーブを手に持った
それをかざしてまじまじと見る
「これがオーブのかけらか 美しくもあるが、魅入られてしまいそうだ」
興奮して手が小刻みに震えている
ようやく、自分も神に近づけるのだ
そして、それを飲み込んだ
ムーブの亡骸を探り、銃と弾丸を取り出す
そして、「無」とコールし、自分に撃つ
しかし、何も起こらない
「どうした 条件はそろっているハズだが」
無の力を発現させるには、オーブの力ともう一つ、「言霊の力」が必要だった
これは言葉に物理的な作用をもたせるために必要な力で、ある部族が持つ特性であった
シドニーには、その言霊の力がないため、銃は使えなかったのである
「まだ何か秘密があるのか」
シドニーは亡骸をあとにし、テッカのところへ向かった
テッカはまだそこに立っていた
銃を撃ってしまったことを後悔し、打ちひしがれていた
生き残るために、気の合う友人を手にかけてしまった
なんで、こんなことになった
つい先日のことが思い出された
スタンクと組み、戦闘訓練
そして、ウォードに向かって銃を撃った
その時も後悔した
なのにまた同じことをしてしまった
何も変わっていない
「俺はどうしたらいい もう何もかもが嫌になっちまった」
テッカは銃を放り投げ、座り込んでしまった
気が付いたら目の前に男がいる
黒髪で、軍の制服を着ている
男は何か石のようなものをかざし、それを口の中に入れた
それを飲み込む姿がぼんやりと見える
そして、その男がこちらに来る
テッカの目の前に来ると、こう言った
「教えろ、この力はどうすれば扱える?」
「お前は、誰だ」
「私はシドニー・レインズ この国の軍事責任者だ 君たちが特殊な力を持っていることは知っている どうしても使いたいんだ 教えてくれ」
テッカは何を言われているのか全く分からなかった
そして、寝起きのようなぼんやりとした頭が少しずつ冴えてくる
「お前はスタンクたちに何を吹き込んだんだ?」
「彼らは私たちに協力しただけだよ 政府直属の部隊として、丁重にもてなす代わりに、君たちの命を差し出してほしい そう交渉を持ち掛けたんだ」
ふつふつと、体の中で沸き立つのを感じた
スタンクがそんな交渉に乗ったのか?
俺たちを裏切ったのか?
怒りで目が覚めたテッカは立ち上がった
シドニーを睨み付ける
「黒幕はお前か」
「聞いてなかったのか?交渉を持ち掛けただけで、行動を起こしたのは彼らの意思だ」
それを突き付けられ、内心はたじろいた
確かに交渉にのって、自分たちを売ったとなれば、テッカはスタンクを撃って正解だった
だが、それを正解にしたくなかった
仲間を撃って正解なんて、間違っている
気持ちの矛盾の中で、自分はどうすればいいのか
必死に答えを模索した
真実がそれなら、自分はこのまま戦わなくていいのか
今度は奴に交渉を持ち掛けて自分を直属の部隊にしろと言うのが正しいのか
それとも、創始者の意思を次いでこの目の前の男に弾丸をぶち込むのが正しいのか
霧の中にいるような、目をつぶって前を進んでいるような、そんな感覚だった
何が正しいんだ・・・
刹那の中で、必死に考えた
利益のために生きるのか、使命のために生きるのか
その時、頭の中に浮かび上がったのは、ウォードとの病室での出来事だった
あの時「気にするな」とウォードは笑って答えてくれた
この目の前にいる男は、交渉を持ち掛けたんじゃない、脅したんだ
そう直感した
ウォード、スタンク、あの2人はそんなことをするやつじゃない
間違いない
テッカは迷いを振り切った
「お前は、この俺が倒す」
「君には失望したよ」
シドニーが腰のサーベルを手にかけた
次の瞬間、シドニーの体が膨れ上がった
「なっ、ウゴゴゴ」
「なんだ?」
テッカは後ずさりした
シドニーの体が、ゼリーのように無色透明の液体となり、一気に膨れ上がったからだ
オーブの力が体内で反応を起こしたのであった
「ウゴゴゴゴゴゴゴ」
どんどん膨張していく
このままではゼリーが街を覆い隠し、飲み込まれる
「これを使え」
ふと振り向くと弾丸がこちらに向かって飛んできた
それを中空でキャッチした
スタンクの投げた弾丸だった
空前のともしびでスタンクは生きていたのだ
「闇と石の合成弾・・・ダークマター・・・すべての属性をその石に閉じ込めることができる・・・」
なんとかそう答え、テッカはすぐに弾丸を銃に込めようとした
しかし、銃をどこかに放り投げていたため、すぐに撃てなかった
「くそっ」
銃は3メーター先にある
今にもシドニーは街を飲みこもうとしていた
一気にダイブして銃を手に取り、その弾丸に火、鉄を込めた
弾丸の特性を加えた、遠距離からのダークマターである
「くらえ!SSS」
銃口から弾丸が火を噴いて、飛び出した
その弾丸はシドニーの体に命中し、そこからブラックホールのような空間が現れ、シドニーを飲み込んだ
銃は4つの属性を加えた弾丸の威力に耐え切れず、砕けた
次で終わります




