理髪店にて
髪を切る俺
「コーヒーにはシロップ入れる?」
「ああどうも、お願いします」と俺は結構年がいったおばあちゃんに勧められるままにコーヒーをうけとった。
俺はいまコーヒーを飲んでいるが別にコーヒーを飲むのが目的ではない。伸びきってうっとおしくなった髪を切りにこの理髪店に来ているのだ。
コーヒ―はいつも髪を切り終わった後、俺がいつも休憩してから帰っていたので、お店の人の気遣いで出てくるようになったものだ。それにしてもうまい。頭もすっきりしたしとても気分がよかった。
それにしても美容室もいいが、こんなちょっと昔ながらの理髪店もいい、気を使わなくていいのだから。
「すいません…先にお会計をしてもらっていいですかね」と40代半ばの店主は言った。たぶんこのひとは老婆の息子だろう。それにしても会計を忘れてコーヒ―をタダでいただいてるなんて、『なんて厚かましい奴なんだ』と店主は思っただろう。
少し抜けている俺…。
しかしそれも俺なのである。
『よかった…。』と顎を触りながら俺はおもった。
何が良かったって、ひげそりが最高によかったのである。とても丁寧だった。でも傍から見たらこのひげそりはとてもつまらないだろう。いや、この髪を切る行為自体がみてる人にはつまらないだろう。しかしこれが本来ある姿だろう。
何を勘違いしているのか髪を切る行為をパホーマンス化している奴が世界にはいた。なんで知っているかって? テレビで偶然見たからだ。そういえばそのパホーマーは目隠しをして体をくねくねくねりながら踊っていたような気がする。音楽もかかっていた。もちろん髪も切りながら。
これがもしひげそりだったらゾッとする。
「お客さーーン。今から髭剃りますね――」とフャンキーナ店主がいった。
「店長! 目隠し忘れてますよ」と若い女従業員が目隠しを渡す。
「おお! 池ね―イケねー!」
「はい! お客さんも!」と女従業員。
「え? なんで」と俺。
「はいはいきにしなーーーい!」と女。と言われるがままなされるがまま俺は目隠しをされる。
「いったい何のプレイだよ。」と俺はおもった。
「はい! レッツスタート。ミュージックON」
チャチャチャら茶々! と軽快な音楽が始まるしかし。
「しまった!」と店主。
「早く止血を!」と女の声が聞こえる。それにしてもいい気持ちだ。まるで天国にでも登る気分だ。
「しまった頸動脈を! 救急車――」
となるに違いない。
「よかった。おれの通う理髪店は普通で。」と俺は一人わけのわからないことを呟いていた。