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僕は女に生れて正解ですね。  作者: どんとこい人生
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ソレンス家

1週間に1回か2回、0時に更新するようにします。(週の終わりが日曜だとは言っていない)

大体土日月のどれかで更新します。あと、調子良かったら水にもう一本上がるかもしれない感じです。

「はぁー……。」


 真っ白な壁に大き目の窓から入る光が反射する。木をベースに貴金属で飾られた家具が、部屋の主のセンスの良さを感じさせる。そんな部屋で溜息を1つ。柔らかいソファーに身を沈め、ぼぉっとしているのはアルことアルゼウス。そのアンニュインな表情はアルが4歳であることを忘れさせる大人びたものだ。


 キィ、バタンと小さく音が鳴る。部屋に入ってきたのは2人の兄だった。14歳の長男ゼルエウス、13歳の次男ゴルゼス、年齢の割に高めの身長が2人の元からある存在感を増させている。


「よぉアル。どーしちゃったんだ?そんな溜息ばっかりついて。」


「そうだぞ、ケビンも母様も心配していたぞ。」


 言葉だけ聞けば幼い弟を心配する台詞だが、2人のにやついた表情を見れば、それは違うことが分かる。アルの座るソファの前と後ろに挟み込むように立ち、見下ろす。その姿を見とめたアルは訝しげな目で見つめる。


「お兄様方、なんですか?」


「いやー?俺はただ、可愛い可愛い弟のことを心配してるだけだぞ?」


 ゴルの口の端をつり上げて、孤を描く目はどこまでも信用できない顔だ。アルの表情はまだ訝しげなままだ。


「お兄様には分かっているぞ……。マリーちゃんのことで悩んでいるんだよな?ん?」


「マリーちゃん……可愛いんだって?ギルが自慢してたぞ。まるで女神ネイリアル様の生まれ変わりのようだとさ。お前もその可愛さにやられちゃったのか?んー?」


 兄二人の言葉にアルは口と目を見開き、愕然とする。そして数秒掛けて、その言葉を脳に浸透させると顔を一瞬のうちに真っ赤に染め上げた。意味も無く手をあわあわと泳がせて、壊れたおもちゃのように目を上下左右にとせわしく動かす。

 そんなアルの様子を見て、兄2人は顔を見合わせてさらに笑みを深くする。


「な、なんでマリーのことで悩んでるって分かったんですか?!」


 名門貴族の子供であるアルのことは、お付きのケビンが見守っており、逐一あったことを母親であるルイズへと報告している。その際に臨席して話しを聞いていたため、知っているのだった。

 からかっているようにしか見えない2人だが、なんだかんだで可愛がっている末っ子の初恋だ。出来るだけ応援してあげたいし、構ってあげたいのだ。


「まぁまぁ、なんでかはおいといて!」


 両手を横に動かす動作をして、話しを進めるゴル。どう考えてもふざけているだけなのに、その動作にどこか品の良さがあるあたり、流石名門貴族の次男といったところか。


「俺たちはなーこれでも可愛い可愛いお前を応援したいと思っている。そ・こ・で、だ。ちょっとした良いことを教えてやろうと思ってな。」


「良いこと……?」


 ゼルの完全な上から目線にどこか居心地の悪さを感じたが、その内容には興味を持ったのか、怪訝な顔をしながらもゼルに聞き返す。


「あぁ、お前が大好きなマリーちゃんだが、ギル情報によると少し好意に鈍いところがあるらしい。だからお前が、大好き!とか言っても友達としてしか思わないだろう、と言っていた。」


 アルは自分の顔からサァーっと血の気が引いていくのを感じた。その顔を見て、ゴルがまぁ落ち着けと両手を軽く振ってアルを落ち着かせる。


「ちゃんと話しは最後まで聞かないと困るぞ?で、だ。俺たち貴族の間では、ある習慣がある。」


「ある習慣……?」


「あぁ、そうだ。俺たち貴族の間では名前はとても大切なものだ。そして名前を付けて贈りものをするということは、家として仲良くしたい、感謝したいとか家を通して好意……仲良くしたいっていう意味があるんだ。」


「へぇー。」


アルが言ったことを理解できたのを確認したゼルはゴルの話しを引き継ぐ。


「逆に、家の名前を使わなかった場合。それは個人での気持ち、つまり自分自身が君のことが好きだ、感謝しているという意味がある。そしてこれは男女間で行われた場合、それは恋愛絡みであるとされているんだ。たぶんこれは、女の子なら知ってるんじゃないかな?」


 アルはその言葉を聞くと、少し困惑した表情を浮かべる。少しだけ遠回しな表現に理解が足りていないようだ。そのことに気付いたゼルは言葉を少し選び直す。


「つまり、アルが『僕がマリーにこれをあげたいんだ』って贈りものをしたら、それはマリーちゃんといつか結婚したいな、っていう意味になるんだよ」


 結婚したいまで聞いたところでアルはやっと落ち着いた顔をまた赤く染めて、今聞いた言葉を頭の中でもう一度再生して頭へとしっかりインプットする。行動派なアルは思い立ったが吉日とソファーから跳ね降りる。


「ゼ、ゼル兄様!今日は……今日は商人は来ていますか?!」


 その一言で兄2人はアルの考えたことを理解した。相変わらず行動が早い、流石俺たちの弟だ、と心の中で思いつつ商人がもうすぐ来訪することを教える。

 アルは一言ありがとうございますと言うと、すぐに扉へと駆け出した。しかし、ゼルは扉から出る前にアルの腕を掴んで止めた。


「に、兄様?あの、僕は商人に話しを……」


「まぁ、待て。落ち着け。お前もソレンス家の一族として、もっと計画性を持たねばいかんぞ?」


 早く商人の元へと行きたい気持ちを隠すことのない弟に心の中で苦笑しつつ、ゼルは掴んだ腕を離さない。


「まず、お前は誰のお金で買うんだ?次にマリーちゃんが好きなもの、嫌いなものは知っているのか?そして最後に商人はまだ来ていない。」


 言い聞かせるように、目を見てゆっくりと話すゼル。その言葉に同調するようにゴルも話し始める。


「そうだぞ。お前はまだ子供で自由に使える金はないんだ。実際に金を使った勉強は一切手を出していないし、商人からどうやって良い物を仕入れるのか、買い物のノウハウも知らない。そんな状態でマリーちゃんへ最高の贈り物ができるのか?ん?」


 兄二人の言葉にはっとしたアルは眉を八の字にして2人を不安げに見詰める。そんな弟の様子を見て、いくらしっかりしていても4歳であることを再確認して安心する。優秀なことは喜ばしいことだが、まだ4歳である。今の時点で自分達がいらないほど成長していたら寂しいものだ。

 この国では長男が絶対ということはない。より優秀な者が上に立つべき、という考えなので家長が末の子になる可能性もあるのだ。

 もっとも、ほとんどの家が体裁を気にして長男に一番教育を施すことがほとんどなため、下剋上をすることは稀なことであるが。


「お兄様……で、ではどうすればいいのですか?」


「とりあえず、母様に相談だ。そのうえで色々考えよう。」


 そう言うと、掴んでいた腕を話して手を繋ぐ。そのまま部屋を出てルイズのいる書斎へと足を運んだ。

 柔らかい絨毯の廊下を抜け、書斎の扉の前へと辿り着くと兄2人はアルの背中をそっと押し促す。アルは2人の顔見上げて頷くと軽くノックをして名前を告げる。静かな廊下にコンコンという控えめな音とアルの幼児特有の舌足らずな可愛らしい声が響く。数秒待つと、中からルイズの声で入室を許可する声がする。それと同時に扉が開いた。


「ん、可愛い私の息子たち。3人揃って一体どうしたのかしら?」


 言っている内容な質問だが、顔に浮かんでいる表情は確信めいたものを感じる。その顔を見てゼルは自分の考えていたことが相変わらず筒抜けで、まだまだかなわないことを痛感した。

 ゼルがそんなことを考えているとはつゆ知らず、アルは先ほどのやり取りをルイズへと話し始めた。ルイズはそれを聞きながら目を閉じ、顎に手を当てて、ふんふんと合槌を入れる。話しを最後まで聞くと目を開いてアルの方へと視線をやる。


「うん、アルの言いたいことは分かったわ。あと半周もしたら商人が来るから、その場に同席させてあげる。お金は出世払いね。マリーちゃんの好みは、そこの弟想いのやっさしーお兄様に聞きなさい。」


 チラリと兄2人に視線を飛ばしつつ、ニヤリと笑う。笑い方がゼルとゴルと似ているあたり、性別は違えど血の繋りを感じさせる。

 2人は少し気まずそうに視線を逸らすが、そんなことには意も介さないルイズ。これで話しは終わりと言わんばかりに書類へと目を戻し、手を軽く振る。すると、傍に控えていたメイドが扉を開いた。部屋から出なさいということだろう。3人は軽く一礼をすると部屋を後にした。


 部屋を出るなやいなや、アルは兄2人へと詰め寄る。


「お兄様!マリーの好みを知っているのですか?教えてください」


 ここで知っていることを教えてくれなかったことを責めないあたり、兄2人を信用しているのが良く分かる。ソレンス家もなかなかのブラコンなのだ。ゼルとゴルは目を見合わせると、やれやれといった表情で頷きあう。そしてアルの部屋へと戻ると互いに違う方法で集めたマリーの情報をアルへと教えた。といっても、まだ社交界デビューもしていない小さな女の子だ。これが男ならも少し情報が出回るのだが、と心の中で愚痴をこぼす。アルは兄2人の言う言葉を一字一句聞き逃さないぞ、と言わんばかりに目を輝かせて話しを聞く。

 その結果、使えそうな情報は5つだった。1つ、花や動物などの自然を見るのが好き。2つ、家族からよく褒められる髪と瞳の色を気に入っている。3つ、派手すぎるものは好まない。4つ、高価すぎるものは遠慮してしまう。5つ、可愛いもの、綺麗なものは興味が高い。


 そこまで分かったところで執事が部屋へとやってきて、商人の来訪を告げる。アルは自分で考えて買うために、兄2人は部屋で待っていて欲しいとお願いする。2人もそれを受け入れて商人の元へと掛けて行こうとするアルに、廊下は走るなよと笑いながら声をかけた。その声が届いたのか分からないほどの早さで部屋を出ていく。下の階にある、商談用の部屋の前に着くと呼吸を整えてからノックをして自分の名を告げる。

 すると中からルイズの声がして入室を許可される。アルが部屋の中へと入ると、ルイズと向き合う席に恰幅のよい笑顔を浮かべた男が座っていた。ルイズは手招きをして自分の隣へアルを座らせる。


「おお、こちらが……お初にお目にかかります、ログバート商会のログバート・バンドルと申します。いやー、こちらがソレンス家の末っ子ですか。噂通りの利発そうなお子さんで、えぇはい。」


「はいはい、アルのことは今度正式に紹介するわ。それよりもこの子に女の子へのプレゼントとして人気の商品を見せてあげて頂戴。」


「ほほう……女の子向けですか。それはまた……。」


 ルイズの言葉に笑みを浮かべた顔にさらににやにやとした感じを付け加えた。その2人のやり取りに、見透かされて恥ずかしいような、居心地の悪さを感じたが、マリーのためだと我慢をした。

 バンドルはアルを少し見た後に、すぐに切り替えて持ってきた荷物の1つをテーブルの上へと置いた。


「女の子に人気の商品はこちらでしょうか。」


 そう言いながら大きな箱を開けると、中には煌びやかな装飾品や華やかな文房具、可憐な人形などが入っていた。一から自分で選びたかったアルとしては選別された状態なのは少し不満だったが、箱の中身を見て目を輝かせた。どれもこれも素敵な物ばかりで、この中から選べばより良い物が手に入るのではないかと期待した。

 色々な者を見て、厳選する。その中で一際アルの目を引いた物があった。


「あの……この花は何でしょうか?」


「おや、これに目を付けるとは流石お目が高い。」


 アルの指差した商品を見ると、感心したように細い目を少し開く。商品を手に取ると、説明を始める。


「こちらの商品は女性に人気のあるブランドのアクセサリーです。日常で、パーティーで式典で、どこでも使える便利なものですよ。特にこの花をメインに据えたフルールシリーズは幅広い年代に人気なのです。」


 アルは商人の説明を聞きつつ、手に取ったアクセサリーをじっと見つめる。特に目を引くのは、マリーの髪色に映えそうな朱色の花の華やかさ。それに沿えるようについている黄色ベースにキラキラとした加工がほどかされたリボンがマリーを連想させる。


「ほっほっほ。どうやらアルセウス様の心はこれに決まっているようですな。」


 齧りつくように見つめるアルの様子を見て、バンドルはまだ貴族にありがちな腹黒さはないようだと思った。


「もう、アルったら。まだ値段も何も聞いてないじゃない。せっかくの説明もちゃんと聞いているか怪しいし。……まぁ決めたのなら良いのだけれどね。」


 ふーっと軽く息を吐いて、やれやれと首を左右に振る。だが、一発で人気の商品を見抜いた当たり、しっかり美的センスは育っているようだと満足気だ。

 アルの商品購入の理由に感づいているバンドルは少しばかり言葉を付け加える。


「アルセウス様。そのアクセサリーのメインになっている花の名前を知っていますかな?」


「え、知りません。何なのでしょうか?」


 まだ、言葉やマナー、数字の計算中心の勉強しかしていないアルでは身近にない植物の名前など知るはずがなかった。アルは素直にバンドルへと質問する。


「この花の名前は、アリスラピズ。花言葉は愛しい貴方、貴方を守りたい。」


 胸に手を当てて、その言葉を噛みしめる。アルはマリーのことを想った。そして、その言葉は今の自分のメリーへの想いとしっくりくる気がした。

 

「それは……とても素敵な花言葉ですね。」


 にっこりと、先ほど商品を熱心に見ていた少年と同じと思えないほど暖かく、落ち着いた頬笑みを浮かべた。その表情を見たルイズは息子が、また少しだけ大人になったのを感じた。この成長の早さは好きな女の子がいるからなのか。

 一方でバンドルは少し拍子抜けだった。もっと照れた反応を示す思っていたからだ。しかし、そのことを微塵も感じさせない営業用の仮面をしっかり付けると細かい値段や包装に付いて話し始めたのだった。


 その日の夜。ソレンス家はいつもよりも少しだけ温かい空気に包まれていた。


「で、商品を買ってから今日はずっとこんな感じなのか……。」


「よほど嬉しかったのねぇ。まぁ女の私から見てもセンスの良い物を買ったと思うわよ。ちゃんと条件も満たしていたしね。」


「それにしても貴族として、あの弛んだ表情を垂れ流しなのはいかがなものだろうか……。まぁ家だから良いか。」


 夕食後のくつろぎの場として利用している談話室での一幕である。

 マリーへの贈り物として買ったプレゼントをずっと頬を緩めながら眺めているアル。既に箱に入れてしっかりと包装がされているため中身を見ることはできないが、マリーへプレゼントした時のことを考えているのだ。


「それにしても、ちょっと想像だけであんなにニコニコしてるって……どうなんだ?」


 少し引き気味に笑うゴル。それを来たゼルは悪い笑みを浮かべながら、ゴルの過去の恋愛話をし始める。それを聞いて慌てて止める。思春期になった男子には黒歴史の一つや二つあるものだ。

 ルイズは話しに参加することなく、息子の成長を見守る母親の顔で眺める。


「それにしても、あれだけ大好きオーラ出してるのに、まだキスしたいとか抱きしめたいとか考え付かない当たり、まだまだ小さいよなぁー」


「まぁ4歳だしな。4歳で全力でセックスアピールしてたら引く。早い子はキスに関しては積極的に行くらしいがな。あいつは真面目だし遅そうだな。お前だってファーストキスは10歳のころじゃなかったか?」


「だから!もう、俺の話は良いって兄様ぁ~。」


 話しがまた、自分の過去の話になったことにうなだれるゴル。まだまだ思春期真っ只中の13歳としては母親の前で恋愛トークは止めて欲しいものだ。顔を真っ赤にして制止するように乞う姿はアルに見せていた兄らしさが霞んでいた。

 プレゼントを嬉しそうに眺めるアル、2人でじゃれ合っているゼルとゴル、そしてそれを楽しそうに見守るルイズ。そんな一家の傍に控える複数人の執事とメイド達。


 こうして、今日もソレンス家にぎやかな一日が過ぎて行くのだった。

年齢の説明を入れるタイミングが分からなくて、とりあえず今入れてみました。ユークラテス家のほうはまだ判明してないの……w

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