お友達
毎日更新してる人ってどんな生活してるんですかねぇ……。
定時に帰りたい。
マリアンヌが産まれてから、早くも3年が過ぎた。
今では、マリーの愛称て呼ばれ、屋敷中を元気一杯に歩き回り、軽くなら走ることも出来るようになっていた。
また、全くわからなかった言語に関しても熱心な教育と、やたらめったと話しかけてくる屋敷の人間のお陰で5歳程度の言葉を操れるようになっていた。感覚としては日本語文法の英語といったところてある。文字は日本語のように一文字一音なので発音が楽だ。そのお陰で、本は早い段階で読めるようになり、習得が早かったのだった。
今日も今日とて育児担当のメイドと穏やかに過ごしているマリー。上の兄たちは全員学校に通っているため夕方からしか会えないのだ。
ちなみに、学校は7歳から通うことが出来る。日本のように義務教育が一応あり、庶民も10歳までは無料で通い、簡単な四則演算や文字、法律や身分についてなどを学ぶ。
学校は大きく分けて3つある。
・無料で誰でも入れ、最低限の知識を身につける『学舎』
・金持ちの商人の子供や、小さい貴族の次男以降がメインで、多少お金を払い、更に専門的なところまで学ぶ『学園』
・受験での優秀な成績が必要て、大手貴族の子や非常に優秀で天才と呼ばれる庶民の子、王族や他国の有力者などが通う、『学院』
学院は家の格と勉学、武術の成績で審査され、狭き門となっている。また庶民でも非常に優秀ならば身分の壁を取り払い入学することが出来る。
厳選された優秀な生徒を送り出すことに定評があり、卒業後に職に困る人はいない。また、学院を出たというだけで色々優遇処置があるため、皆一度は駄目元でも受験するのだ。
実は貴族としてのランクの高い家であり、優秀で成績も足りていた為、兄達は最高峰である学院に通っている。
しかし、まだマリーは3歳なため受験資格すらないため、のんびりと家で過ごしている。将来的には受験をするはずたが、一般的には5歳から2年間みっちり勉強するものだ。
マリーも3年間でだいぶ女の子の体(幼女)にも慣れて来たので、可愛いメイドさんと戯れる毎日を送っている。受験するなどとは知らず、貴族の女は学術的な勉強をあまりせず、マナーや淑女としてのレッスンでもして結婚をするのかなぁなどと考えていた。
だからこそ母の発言を聞いても驚きはしなかった。
「マリー、今日は貴方にお友達を紹介するわね。うふふ。もしかしたら、貴方の旦那様になるかもねぇ?」
「おともだちぃ?けっこんすぅのぉ?」
ニコニコと笑みを浮かべながら告げる母に、気になる単語を復唱する。
まだ小さく呂律が回らない為、話すのにつっかえてしまう。そのイライラを解消するため単語を尋ねるのだ。母とは偉大で、これでだいたい察してくれる。父や兄達もそれなりに理解はしてくれるは母には及ばない。
「そうよ、お友達。お母様の友達の子供でね、ずっと会わせたかったのよ!本当は女の子の友達が先かなぁって思ったんだけど、私と直接知り合いで年齢近い子が男の子しかいなかったの。」
リディアの話す内容から、相手は男の子なのは分かった。普通は前世が男なら男友達を喜びそうなものたが、マリーは違った。
前世では殆ど女友達しかおらず、小さい頃は女々しいと弄られ、冬樹からしたらいじめにしか思えなかった為、男友達にあまり良い思い出がないのだ。
「でも、とても素敵な男の子よ。礼儀正しいし、優しい紳士よ。マリーと同じ年だし、きっと仲良くなれるわ。」
この世界では貴族の社交界デビューは5歳とされている。リディアとしてはそれまでに仲の良い友達を作ってあげたいのだ。
「おかあしゃまが、そういうならぁ。たぁしみです。」
マリーとしても、ずっと屋敷の中だけで生きていく訳がないし、友達は欲しい。リディアも含めて、周りにいる人物は良い人ぱかりで過保護とも取れるほど大事にしてくれており、信頼をしている。そのリディアが勧めて来るのだから本当に良い子なのだろう。
そう思い、母親を安心させる意味でも笑顔で楽しみであることを伝えたのだった。
そして夕方になり兄達が帰ってくると、今度可愛い妹に男(友達)が出来ると聞いて騒ぎ始めた。
「お母様!マリーに男なんて早すぎます!間違いが起きたらどうするんですか!?あの可愛い可愛いマリーですよ!?」
帰って来た次男のシェリーがリディアに食いつく。
「あのねぇ、男の子の『友達』よ?それにまだ3歳。間違いも起きないし、友達は大切よ?」
全くの正論であった。
「落ちつけよシェリー兄さん。マリーだって友達は欲しいだろうし、駄目なやつなら後からどうにかしたら良いじゃないか。」
「そうだよ。それにソレンス家のとこの子だろ?前に話を聞いたけど特に問題は無いようだし、ソレンス家も良識のある良い方じゃないか。」
まともなようで物騒なことをさらっと言う三男ダイ、まだ知らせていない男の子の情報を入手している長男ギル。
「やっぱりギル兄さんは耳が早いなぁー。どうせソレンス家の長男さんから聞いたんでしょ。兄さんは同じ学年だから友達だし。まぁ僕も知ってたけど。」
「ナディ兄ちゃんはどーせ、女の子とか誰かのお母さんから聞きだしたんでしょー?ぼく知ってるよ!!そーゆーのオンナタラシって言うんでしょ?」
ちょっとおませな四男ナディの台詞にかぶせるように五男のハルが人に聞いたままの単語を混ぜながら話す。
「もう、みんな耳が早いのね。そうよ。ソレンス家の三男、アルゼウスよ。マリーと同じ年の3歳で、お兄さんにいろいろ付いて回ってるから社交性も高いわよ。ギルはちょっと会ったわよね?」
「ああ、ゼルとはよく遊ぶからな。何回か家に行ったときに会ってる。」
リディアからの質問に頷きながら軽く返すギル。同じ13歳ということで学校でも同じ学年であるギルとゼルは仲が良いのだ。そして同じ学校、学年ということはゼルも同じく優秀で格のある家柄なのだ。
「ギル兄さん、会ったことあるんならもっと詳しく教えてよー。僕も気になるよ。だってマリーの初めての友達になるかもしれないんだよ?」
などと家族で話が盛り上がってるが、当の本人であるマリーは2階の自室で絵本を読んでもらっていた。一応、妹に悪口のようなものを聞かせないほうが良いだろうという配慮なのだが、マリーとしてはヒートアップした会話がチラチラ聞こえているのであまり意味がない。
「うー……おにいさまのはなし、きになります」
「あら、マリアンヌ様。下の階に降りますか?……そうですね、そろそろお夕飯の時間ですし、確認して参りますね。」
マリーに絵本を読んでいたメイドは一礼すると静かに退出をした。言葉通りに確認しに行くのだろう。部屋を出たのを確認したマリーは溜息をついた。
幼女マリーの言葉では分かりづらいが、本人は新しいお友達とやらが非常に気になっているのだ。母と兄達は相手がどんな者なのかは分かっているようだが、マリーには母からの説明以上の情報はない。、せめてもう少し情報が欲しいと思っているのだが、いまだに教えてくれないのだから初対面まで内緒なのだろう。
そんなことをつらつらと考えていると、先ほど出たメイドが戻ってきた。
「マリアンヌ様、準備が整いました。」
マリーはすでに3歳。中身は18歳ほどなので出来れば家族以外に抱っこされて移動するのは勘弁したいものだ。マリーはメイドに分かったと告げると座っていたフワフワのソファーを軽く跳ねて降り、開けたままにしてくれている扉へと向かう。
「ありがとー」
一言お礼を言うと廊下を歩き始める。その後ろをメイドが付いてくる。
最初は自分に常付いてくるメイドに落ち着かなかったが、3年間毎日メイドが付いてくる生活を送れば慣れたものだ。
ゆっくりと階段を下りるとギルが廊下にいた。ギルもすぐにマリーに気づいて手招きをする。
「マリー、歩くのもうまくなったな。でも、早くご飯食べたいだろうし抱っこでテーブルまで一緒に行こうか。」
マリーを溺愛しているギルは一瞬も悩むことなく、当たり前のようにマリーを片手で抱き上げる。マリーも産まれてからずっと家族中から溺愛されてきたので抱っこくらいでは動じない。慣れとは偉大である。
「ギルおにいしゃま、あぁとうごじゃいます」
食事は終始穏やかに進んだ。マリーは中身が18歳ということで、他の3歳児とは比べ物にならないほど食事がうまい。そのことをベタ褒めされるが、いつものことなので笑ってお礼を言い、流す。
マリーは食事中に新しいお友達について聞いてみるが、名前がアルゼウスで男の子ということ以外教えてもらえなかった。
リディアいわく、お友達とは何も知らない状態で会ってみて初めて色々分かってくるものよ、だそうだ。マリーに向けて言葉を直しているが、前提情報なしに人を見極めて欲しいということだろう。そのことを兄弟達も察して、自分達が知っている情報を教えない。
マリーとしては不服だったが、兄弟も含めて何も言わないということは悪いことにはならないだろうと思い、聞き出すのを諦めた。
そしてリディアの新しいお友達宣言から3日、今日はアルゼウスと会うことになった。
マリーはいつもよりも少しおめかしをしている。普段はシンプルなドレスワンピースだが、今日は白ベースの膝丈プリンセスドレスで下品では無い程度にフリルをあしらい、胸元と腰に大きな赤いリボンが付いている。綺麗な桃色の髪は揉みあげ当たりを軽く流し、その後ろを緩めのみつあみにして反対側へと流してバラのような花のコサージュで止め、カチューシャの代わりにしている。後ろは素直に流し、いつも以上に丁寧にブラッシングをする。それだけで軽くカールしている髪は絵本のお姫様のようになる。
アクセサリーはまだ早いだろうとほとんどしていないが、無駄な装飾が無いことでマリーの黄金の瞳がより輝いて見える。
「うん。マリーは今日いつも可愛いけど、今日は特に可愛いわ!これならどこに出しても恥ずかしくない立派なレディね」
「はい、マリアンヌ様はとっても可愛らしいです!特に今日はお姫様のようですわ!!」
いつも以上に時間と労力を費やしたおめかしはリディアにもメイドにも好評だ。兄達もこの場にいたのなら引くくらい絶賛していただろうが、あいにく今日も学院がある日なので見ることは叶わなかった。
そんな可愛く着飾ったマリーだが気持ちはどんよりとしている。いくら大丈夫だろうと思っていても、基本人見知りなマリーは家族以外の赤の他人に会うということだけで遠慮したいことなのだ。そのため可愛らしい外見に似合わない暗く不安げな表情を浮かべていた。
そのことに産まれてからずっと一緒にいるリディアもメイドも気付いていた。しかし、ここで甘えさせたら今後の人間関係もうまく築けない人間になっていまう、と心を鬼にして気付かないふりをする。
「さぁ、マリーもう少しアルくんはもう館についてるから、すぐにこの部屋に来るわよ。きっとアルくんも不安がってるわ。笑顔で迎えてあげて?マリーは優しい子だからできるわよね。」
母にそう言われれば、マリーもそうだなと思う。自分は2回目の人生で中身は18歳だが、アルくんとやらは正真正銘の3歳児なのだ。ここは自分が大人になって対応しなくては、と考える。
そうだな、子守をすると思えばいいんだ、と1人でうんうんと頷いていると部屋にコンコンとノックの音が響く。その音に反応してリディアが一言どうぞ、と告げると同時に扉が開く。
「リディア?久しぶりー!こっちの館で会うのは久しぶりね。大体2年ぶりくらい?やだー色々懐かしいわ!」
明るく、快活な声で話しかけながら入ってきたのは美しいまっすぐな漆黒の髪を靡かせた女性だった。貴族とは思えないフランクさで、思わずマリーは失礼と思いながらもまじまじと見つめてしまう。
そのフランクさとは反対に猫のような目ときりっとした眉毛が特徴的なきっちりとした印象受ける人だった。後ろの髪の毛と長さが大差ない前髪を8:2くらいで耳の後ろに流し、少しだけ揉みあげあたりを前に流して他はアップにまとめている、というシンプルな髪型だが、それだけで品があるように見える。
服装はワインレッドベースのオフショルダードレス。派手になりすぎない程度に胸元、指、耳に装飾品を身につけており、大人の色気をかすかに匂わせている。隠しきれない豊満な胸が背筋の良さで、さらに強調されていて初な少年なら頬を赤く染めてしまいそうだ。
「久しぶりね、ルイズ!相変わらず色気が溢れてるわね。」
立ちあがりながらリディアが頬笑み話しかける。パーティーでもないのに色気があるということが誉め言葉になるのか怪しいような気もするが、二人の笑顔を見るに特に問題はないようだ。
リディアも今日は少しおめかしをしており、薄水色の髪を片方にすべて流して軽くまとめて巻いており、お淑やかな貴婦人といった風体だ、ドレスは紺色のAラインドレスで全体にレースで装飾が施されている以外は何もないシンプルなものだ。そこに白いレースのショールを羽織っている。
「うふふ。魅力というのは隠しきれないのね。一応三児の母として落ち着いた格好はしているのだけれどね、髪が黒くてつり目なせいか何来ても気が強そうに見えるし、胸は潰すものではないしね。」
人によっては嫌みともとれそうなリディアの発言を笑いながら流すと、背の高いルイズに隠れていた息子を前に出す。
「ほら。この場で唯一の男の子なんだから頑張って!」
そう言うと黒髪の将来有望そうな可愛い顔をした男の子が前に出てきた。グレーベースで黒いラインをところどころにあしらった半ズボンのスーツを着ている。
少し緊張しているのか表彰は少し硬いが、しっかり社交界デビューに向けて練習しているのか笑顔を浮かべて挨拶をする。
「はじめまして、ほんじつはおまねきいただきありがとうございます。ソレンス・ディラルド・ヴィズメル・アルゼウスです。いごおみしりおきを。」
たどたどしいながらも噛むこともなく、3歳児とは思えないほどしっかり挨拶をする。
「こんにちは、アルくん。じゃあマリーも挨拶しましょうね?」
そう言われリディアの傍に寄り、スカートをちょこんとつまんで挨拶をする。
「はじめまして。ユークラテス・アルフェンリード・ワナルヘル・マリアンヌです。ほんじつはたのしんでいってください。」
マリーも軽く笑みを浮かべながら挨拶をする。一応、マリーも3日前から挨拶の練習をしていたのだ。ちなみに一番の難所は名字だった。
アルはマリーの挨拶を見てぼーっとしていた。周りの平均顔面偏差値が高すぎて、マリーは気付いていないが相当な美幼女である。アル自身も同年代の友達は男しかおらず、女の子とは初めてで邂逅であったため、思わず身惚れてしまったのだ。
そんな息子の状態に気付いているルイズは浮かべている笑みをさらに深くするとアイコンタクトをリディアへと送る。リディアもすぐにアイコンタクトの意味に気付いて、微笑ましく生暖かい表情を浮かべながら席へと案内する。
丸いテーブルに囲うように置いてあるお洒落な椅子に時計回りに、ルイズ、リディア、マリー、アルの順番に腰掛ける。マリーもアルも互いにチラチラと視線を通わせるが話掛けはしない。その様子をニヤニヤしながら二人の母親は見つめていた。
席に着いたところでメイドがお茶とケーキを配膳し始める。リディアが目だけで軽く礼をすると、メイドが一礼して壁際へと離れた。しばらくケーキを堪能しつつ近況報告をしていた二人だが、子供たちが気になって仕方ない。大人気なくそわそわしてしまう。普通の人なら気付かない程度のものだが、ここに夫がいたのならやれやれと言った顔で見ていただろう。
そして、当の子供二人はぎこちないながらも改めて自己紹介をしていた。
「えっと、アルゼウスくん?わたしはマリアンヌってなまえで、みんなからはマリーってよばれてるよ。よかったらマリーって呼んでね。」
事前に大人としての対応をしようと決めていたマリーは、勇気を出してアルに話しかけてみた。人見知りの自分である。何をどうしたら相手が緊張しないかは見当がつくので、それを意識して話しかけてみた。
話掛けられたアルは少しビックリしたが、すぐにマリーへと返事をしなくてはいけいないと考える。女であるマリーとは違い、男であるアルはすでに社交界デビューに向けて、将来のために色々習っていた。兄がいるのもあって女性への接し方はも少し教えられている。
いくら可愛さに目を奪われていたとはいえ、女性に声を掛けさせてしまったことを後悔しつつ口を開く。
「わかったよ、マリー。ぼくのこともアルってよんでくれないかな?なかのよいひとはみんなそうよんでいるんだ。ぼくはマリーともなかよくなりたいよ。」
本人は自覚していないが、アルはすでにマリーに心を奪われ始めていた。しかし、幼いアルにはまだ胸に走る甘くときめく感覚の意味を知らなかった。それでも自分が好意を抱いているのはわかったアルの発言は社交辞令などではない。
この年で嘘をつくことも無いだろうと思っているマリーはその言葉を素直に受け取る。初めてのこの世界の子供との対面だったが、家族が問題無いと認めただけのことがある。3歳とは思えないほどしっかりしているし、こちらに好意も示してくれているようだ。これなら仲良くなれそうだな、と思った。
2人で色々話してみた。と言っても3歳児でまだまだ二人の世界は狭い。主に家族のこと、メイドのこと、家での出来事などがメインだ。
最初は3歳児相手ということでつまらないかと思っていたが、アルのコミュニケーション能力が高いおかげか、まだこの世界のことについて詳しくないせいか、意外なほど盛り上がった。
そんな子供2人の様子を頬笑み、ケーキを食べながら眺める母親2人。子供の成長を感じつつも、女としては初恋の行方が気になるところだ。
マリーは気付いていないが、母親2人からしたらアルがマリーの気を引くのに必死なのが分かり、そのことに気付いていないで楽しそうにしているマリーも含めて可愛くて仕方ない。
口に広がるケーキと同じ、いやそれ以上の甘さを感じながらその日の邂逅は無事に終わったのだった。
本当は1話あたり8000文字くらいにしたいですが、色々厳しいものがありますね。1話~3話はそのうちに1つ扱いにするかもしれません。
今後はもっとマリーちゃん全面に出てくる予定です。