表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は女に生れて正解ですね。  作者: どんとこい人生
35/42

女になった日

ガッツリ生理ネタなので苦手な方は薄目で見るか、飛ばしてください。

 白く、柔な肌に伝う雫に体が震えた。その雫は水のように流れることはなく、どこか濁ったようにとろりと動く。座り込んだ辺りから違和感はあった。もしかして、と頭では考えていた。12歳の体、朝からの不調、今の状態、そして伝う雫。すべてが如実に表していたが、それでも無意識にマリーはその事象を受け入れてはいなかった。


(あぁ……僕はやっぱり、女の子なんだな。)


 改めてそのことを実感した。下半身に棒と玉が無くとも、胸にささやかな膨らみがあろうとも、男に言いよられようとも、心のどこかで自分が女であることを完全には分かっていなかったのだ。

 しかし、それもこれまでだ。今、マリーの太ももを伝う雫、それが血であることは明白だった。そして、それは女にしか現れない母親になるための準備。このことを完全に座り込むまでに考えて、更に3回ほど大きく深呼吸。

 おそらく、今立ち上がれば血が足を伝って足首まで流れるだろう。長いスカートではあるが、流石にそこまで流れてしまえば人にばれてしまうし、見られて良いものでも、見て喜ぶものでもない。

 目の前には呼びに行こうとしたがマリーの声に反応して立ち止まったままの少年、スヴァルが1人立っている。頭の良い彼でも、なぜマリーが座り込んでいるのかは分からないのだろう。そうであって欲しい。どの道、今の状態では歩き出せないのだから結局は大人を呼んでもらうしかないだろう。


 座り込んだままだんまりとしたマリーを心配したのだろう。スヴァルは数歩だけ進んだ体を戻し、マリーへと声を掛ける。


「大丈夫かい?先生より保険医を読んだ方が良さそうかな?」


 体調の悪化を感じたのか、直接保険医を呼ぶべきかと思ったようだ。マリーは囁くような声で「お願いします」と頷く。届くか心配したが、授業中の静謐な廊下では十分な音量だったようで、彼は素直にうなずくと早歩きだと言い訳するのが苦しい速度で保険医を呼びに行った。






 アルはいつもなら集中して受ける授業を、心ここにあらずといった状態で受けていた。その理由はもちろんマリーだ。最近は同性の友達との交流も増えてきたため移動はバラバラなことも多い。それでもここは成績上位者があつまるクラスだ。素行不良な生徒などおらず、授業態度もみな真面目だ。


 それなのにマリーが授業が始まっても来る様子が無いのだ。いつもマリーと行動している女の子は授業が始まる直前に先生に何やら話していたので、何か頼まれごとでもして遅れているのかとも思ったが、流石に遅すぎる。

 そもそもこの学院では役割分担がかなり厳密にされているので先生のお手伝いが多少あったとしても授業に食い込むようなことは滅多にない。何か忘れ物をしたにしても流石に遅すぎる。先生も心配になってきたのか、少しばかりそわそわしている。幸い今の時間はレポートのような文章作成の時間なので自分の分が終われば多少席を離れても問題ないだろう。


 そう考えるとアルは先生に声を掛けようとした。その時、凛としたテノールボイスが教室内に響く。


「先生、授業開始から大分時間が経つのに生徒が1人足りていません。問題ないのでしょうか?」


 マリーは有名な生徒だ。いてもいなくても目立つ存在なので他の生徒も気になっていたのだろう、ほとんどの生徒の目が先生へと向く。先生も心配になっていたのだろう、少し思案した後にこう切り出した。


「問題は……あります。もしかしたら体調を崩しているのかもしれません。皆さんには申し訳ないですが、幸いなことに1人でやる作業なので少しばかり先生が席をはずして探しに行こうと思います。」


 この科目の先生は気の弱そうな男性で、いつもは頼りになるイメージではないのだが、この時ばかりは大人の男性としてしっかりして見える。

 本来なら教師が教室から離れるのは良くないが、もしかしたら倒れている可能性もあるのだ。仕方無いだろう。他の生徒もそう思ったのか特に不満の声も無かった。ただ1人の少年、スヴァルを除いて。


「先生。先生は生徒の質問に答え、見守る義務があります。授業中ならなおさらです。行くべきではないと思います。」


 その言葉を聞いてアルを含む何人かの生徒が顔を顰める。マリーが何かしら教室に来れない状態なのは確実なのに何を言っているのだと憤慨し、言い募ろうとすると眼鏡の奥にある鋭い瞳にじっと見られて思わずたじろぐ。


「いえ、探しに行くなという話ではありません。先生がおっしゃるように幸いにも今は個人で出来る作業。そして私はもう課題が終わっている。ならば、私が探しに行くのが妥当でしょう。」


 くいと中指で眼鏡を押し上げながら言うスヴァルの表情は、本当に事務的にそうするべきだと考えたのだろう。先生はスヴァルの課題をチェックし、特に不備が無いことを確認したのか、頷くと「では頼んだよ。」と言って彼を教室の外へと送りだした。

 本音を言えばアルが探しに行きたいところだが、まだ少し課題が残っている。終わっていないのに止めて、自分が行くことは難しいだろう。いくら自分の好意が周知のものだったとしても、まだ何があったかもわからない状態で授業の課題を放りだしてまで探しに行くのは学院のルールに反するだろう。幸いと言っていいのか、彼はマリーとさほど接点もなく彼自身浮いた噂も聞かないので変なちょっかいを出すこともないだろうと心に言い聞かせて素直に見送る。今はとりあえず課題をこなそう、早く、もっと優秀になればいいのだ。今だって課題を終わらせるのがもっと早ければ自分が探しに行けたのだから。

 アルの手は止まることなく動き続ける。





 マリーは医務室のベッドで横になっていた。傍には保険医が1人。学院内には男女1人ずつの保険医がいるが、今いるのは男性の方だった。


「月経は今日が初めてなのかな?」


 ああ、その単語は聞きたくなかった。というか生理って正式には月経だっけ。そんなマリーの思考を知らない保険医は子供に言い聞かせるような優しい声色で尋ねる。柔和な笑みは誰もが心を開いてしまいそうなものだが今のマリーにはその笑顔さえもどこか憎い。八つ当たりのような感情だ。どこか不貞腐れながら返事をする。


「……はい。」


 慣れた女性なら朝の腹痛の時点で察することができただろう。普通の腹痛とは痛みの種類が違うのだから。

 しかし、当然ながら前世で男だったマリーにそんなことは分かるはずもなく、その結果が授業中に廊下で垂らすという恥ずかしいことになってしまった。それも同級生の男子の前でだ。今のマリーには色々な負の感情がせめぎ合っている状態だった。


 保険医を長年やっていれば、なんとなく想像がつくのか困ったような笑みを浮かべたまま薬と水の入ったコップをベッド脇のサイドテーブルへと置く。


「着替えはさっき済ませたし、君はどうやら重い方のようだから今日の所は薬を飲んで寝ておきなさい。授業の方は先ほどの彼に休む旨を伝言を頼んだから心配しなくていい。月経についてはちゃんと習ったよね?女性にはとても大切なことだから不安に思わなくても大丈夫だよ。」


 授業でも、家でもしっかりと話は聞いている。素直に頷くと彼はマリーの頭を軽く撫でてからベッド周りのカーテンを閉めて出て行った。保険医が怪我人や病人を見る以外にどんな仕事をしているのかは知らないが、何かしら事務作業でもあるのだろう。

 マリーはここ数年はなかったような大きな、とても大きなため息を吐くとサイドテーブルに置かれた薬を手に取る。よく見てみればその薬は今朝がた渡された薬と全く同じ見た目、淡いブルーと白のカプセルだった。

 リディアはマリーの腹痛が生理の可能性が高いことを見抜いていたのか、それとも腹痛にはみんなこの薬なのか。マリーには判断することは出来なかった。口にカプセルを放りこんで水で流しこむ。ほんのり甘い後味は子供向けだからなのか、女性向けだからなのか。


(そうか……。生理。生理かぁー……。覚悟はしてたし、分かってはいたけど。……生理ってこんなんだったんだな。通りで女の子に貧血が多いわけだ。こんなのが毎月来るのか。嫌だなぁ。めんどくさいなぁ。)


 飲み終わったコップを元にもどして布団を被る。今は制服を脱いで簡素なワンピースを来ているので皺を気にする必要はない。行儀が悪いが頭まで一気に布団をひっぱると暗闇に包まれて落ち着いた。


「子供を作るための準備……か。」


 生理は無意味に血を流す、非生産的な生体反応ではない。子供を作るために主に女性ホルモンと子宮が頑張って赤ちゃんの寝床を作る生物として非常に重要なもの。成熟した女性の子宮から周期的に起こる、生理的出血。そんなことはもちろん知っていた。それが自分の体に起きている。無意識に下腹部に手を当ててそっとなでる。ここにいずれ子供が宿るのだと思うと、なんとも不思議な感覚だ。

 大分落ち着いた今でも、たまにどろりと垂れる感覚が非常に不快だ。まだ薬が効き始めていないこともあって、お腹がじくじくと痛む。授業にも出れなかった。恥ずかしいところを異性に、それも対して仲がいいわけでもない相手に見られてしまった。下着を取り変えるときはまるでおもらしをしてしまったような気持ちになって顔が赤くなった。


 ちゃんと女として暮らしているつもりだった。しかし、まだ前世の男とし過ごした時間の方がまだ長かった。そのせいなのか、まだ「女になったことを分かったつもり」でしかなかったのだ。


 そして今日、マリアンヌは女になった。

いろんなTS小説を探しても月経に1話使ってがっつり語るのは少ないんじゃないかな?(白目)

生理ってもっと一大事だと思うんですよ。いやまじで。次の話も生々しくはないですが生理ネタ出てきます。苦手な方には申し訳ないですが男→女だと普通の女より大事件だと思うので。


間隔が開いてしまって申し訳ない。明日も更新したい気持ちに溢れてる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ