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僕は女に生れて正解ですね。  作者: どんとこい人生
30/42

新展開?

一カ月ぶり更新ですね。申し訳ないです。

 マリーが少し長めのお手洗いへと行っている間、アルとディルは男2人だけで微妙な空気に包まれていた。先に口を開いたのはディルだった。


「……おい、アル。何か言いたげな視線をよこすな。言いたいことがあるならはっきり言えよ。」


 科白(セリフ)自体はきつく感じるが、口調は存外に柔らかい。口元には薄く笑みが浮かんでおり、怒っているよりはからかっているような雰囲気だ。

 だが、アルはそれすらも気に入らないと言わんばかりに視線を一段と強くする。年齢とともに増す美しさから来る凄みはまだまだ大人には効かないが、同年代の子供なら思わず肩を揺らしてしまうであろう迫力があった。

 しかし、ディルは一切怯えることなく相変わらず飄々としたものだ。


「ディル、今日はどういうつもりなんだよ。」


「どういうつもりって、単なる親切だよ。やっぱり良い所の坊ちゃん、お嬢ちゃんだけで街を歩くのは不安だろうっていう兄心だよ。」


 アルの質問に即答する。表情にも口調にも変化はなく、アルにはこの言葉が嘘か本当かはわからない。ただ、今日の案内が助かったのも事実なので少し返答に詰まる。一口紅茶を飲んで、口を潤す。


「……ディルは……。もう、マリーのことは諦めたのか?それとも小さい頃の初恋なんて、良い思い出になってるのか?」


 眉を顰めながら探るような瞳で見つめる。大きくなって、大人びてきてその瞳の純粋さは変わらない。ディルは思わずフッと息を漏らす。その息に笑われたのかと思ったアルが眉を吊り上げる。アルの素直な反応に心が癒されていくのを自覚する。


「好きだよ。マリーのことは、まだ好きだ。初めて会ったあの時からずっと一番の女の子だ。」


 ディルの言葉が想像してよりもずっと柔らかく、甘いものだったのでアルは真意を探るような眼を向けるが、すぐにそれが無駄だとわかる。自分もマリーのことが好きな人間だ。同じ想いを抱えた、その言葉にその表情に嘘偽りが無いのを感じる。


「じゃあ……じゃあなんで今日はあんなナンパみたいな事ばかりしていたんだ?紳士であることは大事だけど、あれはどう考えても度を過ぎてただろ。俺とライバルなら、マリーのことが好きなら、もっと誠実であってくれよ。」


 その言葉は幼馴染としての言葉でもあった。自分と一番付き合いの長い、なんだかんだで信頼している友人が軟派であることが嫌なのだ。不誠実でマリーを自分の大好きな子を泣かせるような、困らせるようなことはしないで欲しい、そう思う純粋な想いから出た言葉だった。


「俺は誠実だよ。」


「あんなに女性に声を掛けまくって、口説くような甘い言葉を言って……それもマリーの目の前で!それで他人の女性を口説いたその口でマリーのことも口説くつもりなのか?!それは誠実だって言えるのか?!」


 まだしっかりと残っている理性で、店内で大声で叫ぶ下品な真似はしない。しかし、静かに怒鳴るという高等技術を披露する。抑えきれない怒気にそのテーブルだけが包まれる。流石の付き人である執事達も、その怒りに反応して万が一のためにすぐ動けるように重心を動かしておく。

 ディルはティーカップを見つめながら、ツツツとカップのふちを撫でる。テーブルは静かで、少し離れた席に座る客の食器の音やささやかな話声だけが、その場の音となる。


「……。俺とマリーは恋人でも婚約者でも夫婦でもない。何か問題があるか?」


 長い間を空けてディルが話したのは、そんな言葉だった。そしてその言葉は正論だった。アルの言っていることは素晴らしいだろう。好きな女性以外には一切手を出さない、そぶりすら見せない。それは最強の誠意だと言っても良いのかもしれない。しかし、それは理想でしか無い。さらに言えばディルはマリーに正式な告白すらしていないのだ。つまり友達関係でしかない。今の人間関係だけを書きだして、他人に見せてもディルの行動は仲の良い友達がいる状態で他の女の子に声を変えているだけなのだ。何一つ問題はない。ただ、ディルがマリーに惚れていることを知っているアルが気に掛る程度の問題でしかないのだ。

 そのことはアル自身にも分かっている。それでも誠実を絵に描いたようなアルには自分のライバルがそんな状態なのが許せないのだ。


「俺には好きな子がいるのに、他の子に手を出す意味がわからない。」


「手は出して無いさ、声だけ。何も問題ないだろ?俺みたいなイケメン御曹司に声を掛けられた女の子もに良い気分だしな。みんなハッピーだ。」


「じゃあ、もう自己責任で勝手にやってくれ。でもそれで関係者をマリーを泣かせるようなことしたら怒るからな。」


「誰も泣かない人生なんて無いさ。」


「あー!!もー!!ああ言えばこう言う!」


「盛大なブーメランだな。」


 どんどん怒りのボルテージが上がっていくアルとは対照的にディルはいつもと変わらない調子だ。どんどん声が大きくなっていくアルに流石に止めに入ろうかと執事が動こうとした、その時。


「どうしたの2人とも?アルもなんだか大きな声出してるけど。」


 何も知らないマリーが、お手洗いから戻ってきた。2人の会話は何を言っているのか聞き取れるレベルではなかったようで、キョトンと首をかしげている。

 そんなマリーを見たことでアルも冷静さを取り戻し、大きく深呼吸をして完全にいつものテンションまで下げた。ディルは相変わらず飄々としていて、優雅に紅茶に手を付けている。


「なーんにもないさ。ちょっとからかったら思ったよりアルが怒っただけだ。」


「あんまりからかいすぎるのは良くないよ?」


 ディルの雰囲気から本当に重い喧嘩ではなくじゃれあいだと判断したマリーは苦笑しながら席に着く。

 その後はアルもディルも何を話していたのかマリーに話すことも無く、和やかに談笑をしたのであった。


 いい加減、日も沈み始めて空が赤くなり始めたころ、ようやく3人は席を立つ。マリーが知らぬ間に会計は済まされていたようで、申し訳なく思ったがアルとディルが「女性に払わせるわけにはいかない」と言うので甘えることにした。内心としては、この年齢でお金の男女差はないだろうと思いつつも言わないのも、また美徳である。

 3人は歩いて最寄の停留場まで行く。その途中で相変わらず女の子に愛想を振りまくディルにマリーは笑い、アルは最初よりも一層顔を顰めた。


 和やかに談笑していると聞き覚えのある歌が聞こえてきた。マリーは思わず足を止めて、その歌に聞きいる。


「ん、マリーどうしたの?何か忘れ物?」


 突然、足を止めたマリーにすぐに反応したアルが問いかける。マリーはなんでもないと言って足を進めようとしたが、何かが引っ掛かる。


「ねぇアル。この歌聞いたことない?」


「え?」


 マリーに言われてアルも足を止めて耳を傾ける。2人が足を止めたのでディルも立ち止まって、ついでに耳を傾ける。夕方になって少し静かになってきた停留所傍の道にかすかな歌声が響く。


「確かに聞こえるね。」


「そうだな。聞いたことない歌だな。」


 マリーの空耳ではなかったようで2人とも、しっかり聞きとっている。


「知らない歌……というか、知らない言葉だなぁ?」


 それを聞いてハッとした。


「そうか、これ、日本語だ。」


 ぼそりと零すように言う。他の2人には聞こえない程小さな声だった。

 あまりにも当たり前に知っている言葉だったから、自然と聞いてしまっていた。そして色々と芋づる式に思い出していく。この歌は日本にいたころに人気だったJ-popだ。マリーはあまり芸能人には詳しくなかったが、それでもサビくらいは歌えるくらいには有名だった。そんな歌がこの異世界で聞こえる。つまりそれは……。


「日本人が……いる!?」


 目を見開き、思わず日本語で小さく叫ぶ。急いで口を塞ぐが既に遅く、隣にいたアルがマリーへと問いかける。


「マリー、どうかした?ニホン……とかなんとか言ってたけど。」


「な、なんでもないよ!なんでも。うん。えへへ。」


 アルはまだ不思議そうな顔をしていたが、しつこく聞くようなことでもないだろうと判断したのか一つ頷くと、また歩き出そうとする。しかし、マリーとしては是非歌っている人間に会いたい。会ってみたい。なんて言い訳しようかと必死に頭を回転させる。


「あ、私、あの……あ!あの歌気に入ったから、ちょっと何の歌か聞いてくるね。」


 名案だ、と言いたげに目を輝かせながら2人に提言する。アルは悪気も他意も無く「一緒に行こう」と声を掛ける。治安の良い場所とはいえ、大通りから外れるようなら1人で行くべきではないし、急いでもいないのだから、むしろ全員で言った方が良いのだろう。

 しかし、日本の事を尋ねようとしているのに2人が付いてきたら、聞き出すのも難しいだろう。せめて付いてくるのがナナルだけなら指示をして少し距離を置くことが出来るのだが。


「えっと、すぐ終わるし、相手が女の子だったら2人みたいなかっこいい男の子が突然来たらびっくりして委縮しちゃうよ。だからナナルと2人で行ってくるね!」


 そういうと、マリーにイケメンと言われたのも功を奏したのか、ナナルと一緒という言葉に安心したのか、アルは「じゃあここで待ってるね?」というと道のわきで待っていてくれることになった。


「早めに戻るからね!」


 マリーはそういうとナナルへ一声かけて、スカートを蹴りあげない程度に足早に歌の聞こえる方へと向かう。大通りの店の脇道に入ると、歌がより大きくハッキリと聞こえる。マリーは歩く速度を落として、気持ちばかりの忍び足で近付く。


「みんなーいのちをー」


 歌詞がはっきりと聞き取れるほどになった。既に歌っている人物が視認出来る距離まで近づいている。綺麗な金髪だ。パーマが入っていることもあって、昔に絵画でよく見た天使のようだ。顔も綺麗なのも、その天使っぽさに拍車を掛けている。鼻周辺にあるそばかすが気さくな印象を与えていて可愛らしい。しかしマリーより年上だろうと思われる骨格の大きさは細いながらも男らしさを感じさせる。

 いまだにこちらに気付くこともなく、1人で歌を歌いながら野菜の皮をむいている。かなり手慣れている所を見ると、おそらく店の子供で昔から手伝いをしていたのだろう。

 マリーはナナルにそこで待っているように、と告げると1人でその子供のそばへと近寄る。目の前に近寄って、その金髪の子供に影が掛ることでやっと自分のそばに人がいることに気付いたのか、手を止めて顔を上げる。


「あの、もしかして日本人の方ですか?」


 マリーは思い切って日本語で話しかけてみた。もし、日本人でなくても言葉が通じて無くて、何を言っているかわからないだろうから問題はないだろうという判断だった。

 彼はこぼれんばかりの大きな目をぱちくりとさせ、口をポカンと開けてマリーを見て固まっている。それも無理もないだろう。普段絶対高貴な人なんて入ってこないような裏路地に、あの有名な学院の制服を着た美少女が立っているのだから。


「……君も、もしかして日本人?」


 しばらく待って返ってきたのは日本語だった。

年末進行とか突然の仕様変更とか休日出勤なんてこの世から消えればいいと思います。

また来週以降は週1更新出来ると思います。

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