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僕は女に生れて正解ですね。  作者: どんとこい人生
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お食事会

「やぁ、よかったら一緒に昼ごはんを食べない?」


 1人で大人しく食事が運ばれてくるのを待っていたルミウスは突然掛けられた声に驚き肩を震わせた。


「え?……でも僕と一緒にいたら、君も……。」


「じゃあ僕が一緒に食べたければ良いってこと?」


 ルミウスの言葉にほとんど被せるような早さで返事をする。アルの食いつきに多少身を引きながらも頭を縦に振る。了承を得たアルは笑顔で「友達も連れてくるね」と言うと自分の席へと戻っていった。

 笑顔を浮かべながら話しかけてきたアルの顔に邪気は一切なかった。ルミウスは自分が本を常に持ち歩いていることで変な噂や評判が立っているのは知っていた。それでも本は手放すことができず、またこの本よりも大事だと思えるような友人は出来たことが無かった。そんな状態で意地悪以外の目的で誘われるとは思いもしなかった。


「……なんか悪い人じゃなさそうだけど……。」


 自分の膝の上に置いてある本を無意識に撫でながらポツリと言葉を零す。ルミウスからすれば本のことをからかって意地悪してくる子達の方が、まだ分かりやすかった。ルミウスは7歳にして自分の家や家の持ついろんなものが貴族にとっても価値があり、いろんな人が狙っていることを身をもって知っていた。本を常に持ち歩いている変わりものでも、家の価値は確かで今までにいろんな人に媚び諂われてきた。仲良くしたいと言う子供は大抵が親に言われて仕方なくだった。初めて知った時こそショックを受けたが、徐々にそのことは日常となり、それはさらにルミウスを友人から遠ざけて、本を近づけさせた。


「今度はどれくらいでボロがでるのかなぁ?」


 吐息を洩らすような声で呟く。そんなことをつぶやきながらも了承するあたり、ルミウスはまだ期待しているのだろう。

 手は相変わらず本を撫でていた。ルミスウがぼんやりと待っているとアルがマリーを引き連れて戻ってきた。さらに後ろにはウェイターが付いてきている。ルミウスより先に注文していた為にメニューが届いていたのだ。よくみればウェイターの押す台車の上には3人分のメニューが乗っている。おそらく3人で食べることを知ったウェイターが気を効かせて順番をずらしたのだろう。


「ちょっと遅くなってごめんね。ちょうど僕たちのメニューが届いてたから移動するのお願いしたんだ。」


 そう言いながらルミウスの前の席に座る。マリーも続いてアルの隣へと座る。ウェイターは3人分の食事を置くと、一礼をして席を去っていった。


「教室では隣の席にいるから知ってると思うけど、改めて。私はマリアンヌ。アルにはマリーって呼ばれてるよ。」


 一回話した仲である。ルミウスが緊張しやすく、本がお友達という点で色々察したマリーは率先して笑顔で声を掛けた。同類には積極的な女(男?)である。ルミウスはマリーの笑顔を正面から見て少し居心地の悪そうに身をよじってから赤い顔をマリーの方へと向ける。


「うん、僕はルミウス……だよ。ルミウス……としか呼ばれたことはないかな?えっと、よろしく?」


 一緒に食事するだけなのによろしくは変かな、と思い語尾には疑問符が付いている。マリーは美少年の首をかしげる動作に心を打ち抜かれつつも、表面上はなんともないようにふるまう。そこでアルも改めて自己紹介をして、みんなで食事を始める。

 マリーとアルは学院に入れるほどの実力を持つ2人だ。食事の所作には問題はない。もちろん子供ということで多少のやり辛さがあるようだが子供用の銀食器というものが存在がしていないため、必然的に大人サイズのナイフ、フォークを使うのだ。多少のぎこちなさで済んでいることを褒めるべきだろう。

 それに対してルミウスは本当に美しい所作だった。マリーも中身が大人であることもあって綺麗に食べれていると思うが、ルミウスは違うのだ。何が違うのか箇条書きにしろと言われたら困るが、食べる時の手や姿勢だけではない。表情やちょっとしたしぐさすべてが洗練されている。

 天然の本物の貴族だからなのかとも思ったがアルもマリーと似たようなものであることを考えればルミウスが特別なのだと分かる。

 3人が黙々と食事をし、あらかた食べ終えてデザートを残すのみとなったところでアルがルミウスに話しかける。


「あーおいしいなぁ。学院の昼ごはんは期待していいよって言われてたけど、流石だね。」


「うん、そうだね。特にスープの煮込み具合なんて最高だったね。口の中でお野菜が解けちゃったよ。まろやかなだけじゃなくてスパイスもちょうど良く効いてて、野菜の甘さとスパイスの辛味が交互に口の中に広がったよ……。」


「私としてはパンがすごく良かったなぁ。ふわふわもちもちで、ほんのり甘味があって、他のお肉との相性も凄く良かったね。黒い方は表面が少しカリっとしてて、ちぎったパンにソースをかけると中の柔らかい生地と溶け合って……学食でこんなおいしくていいのかなぁ。」


 味はしっかり着いているのに、しつこさは一切なく食感は日本人好みでマリーも満足な出来だった。他の2人にとっても満足な出来だったらしく、恍惚な表情を浮かべながらため息を漏らす。

 前世でも食事は大事なもので腹が満たされれば幸せだと思う人がほとんどだったように、この世界でも食事というのは非常に重要なファクターであり、人と人とを簡単につなげる役割を持つようだ。3人は食べたばかりの食事の話で盛り上がる。しばらくするとデザートが運ばれてきた。ルビーのように輝くケーキだった。ケーキを囲うように同じくルビー色のソースが皿を満たしており、ケーキに傍にいっぱいのフルーツと少量のミントの類が添えてあることで、どこか貴婦人の帽子のような雰囲気を漂わせている。ツヤツヤと光沢を放つケーキの魅力には誰も抗えない。

 例にもれず3人もこのデザートに歓喜し、目をキラキラと輝かせる。話を中断して黙々とケーキを食べ進める。途中でケーキの間にも挟まれているフルーツが全員バラバラたということで少し盛り上がったが、それ以外は静かに食べ終えた。

 食後の紅茶で口を湿らせる。先ほどのケーキが口の中の水分を奪っていったあとなので、ちょうど良い。あっさりとした風味に身をゆだねて3人ともゆったりとくつろぐ。周りを見渡せば他の生徒も同じように紅茶を飲みながらくつろいでいる。この食堂は生徒たちの憩いの場でもあるのだ。そのため席には大分ゆとりがあり、のんびりとその場にとどまっても困る生徒はめったに出ない。


 ふぅーとアルが温かい息を吐いて目を閉じる。3人の周りにはデザートの甘酸っぱい香りと紅茶の鼻を抜けるような爽やかな香りで満たされている。この香りには人を落ち着かせる作用があるのかどうかは分からないが、ルミウスも含めて最初の緊張は一切なくなっていた。食事の力とは偉大なのだ。


「……このごはんをほぼ毎日かぁー。これだけでも学院に入った価値があったよね。」


 アルの素直な感想にマリーが口元を隠しながら清楚に笑う。ルミウスもアルの無邪気な感想に小さく笑い声を洩らす。その間も手元にはあの本があり、そっと撫でている。弛緩しきった空気。マリーは気になっていたことを切り出してみた。


「ねぇルミウス。その本が大好きなのは分かったのだけれど、なんでそんなにどこでも持ち歩くの?お母様が作ったから?お守りみたいな機能があるの?」


 弛みきった空気が多少硬くなるが、まだクッション位の硬さだ。アルはちらりとルミウスに視線をやるが何も言わずに紅茶を飲む。ルミウスは飲んでいた紅茶を静かに置くと、マリーの方へとチラリと不安と疑問と好奇心を混ぜたような複雑な視線をやる。


「うーん。そんな風にストレートに聞かれるのは初めてかも?ふふ。……うんとね、まぁお母様が作った本で、僕が本が大好きだからずっと一緒にいたいだけ……だよ?」


 それだけと言われれば7歳という年齢を考慮したら、ありえなくはない理由だった。ある程度大きくなっても小さい頃からのタオルが手放せない子供や、癖が止められない子供など特別珍しくはない。しかし、最初の印象よりもずっとしっかりとしているルミウスが自分の評判を下げてまでそんなに本に固執しているのはおかしいと感じた。

 黙って見ていたアルがおずおずと質問をする。


「……噂で聞いたんだけど、もしかしてお母様が……?」


 そこまで聞いてマリーはハッとする。小さい頃に母親がなくなって、形見として持ち歩いているとしたら。それは十分にありえるし、周りが強く言えないのも納得だ。マリーは眉を寄せてルミウスをじっと見つめる。


「うん……。実は……。」


 重々しい雰囲気で話そうとするルミウスにマリーは、母親の死を子供に語らせるのは、非情だと思い台詞を遮ろうとするがルミウスの方が一歩早かった。


「2冊目の作成に取り掛かってるんだ。」


「って生きてるの?!」


 マリーは思わず日本語で叫んだ。と言っても日ごろの躾けのおかげで食堂に響き渡る音量ではなかったのが幸いだろう。思わず音を立てて席を立ちあがったマリーにルミウスが驚いていた。


「ねぇ、アル。マリーはなんて言ったの?」


「マリーは昔から、びっくりしたり咄嗟に声出す時はたまに変な言葉言っててるよ。わぁとかえぇ?とかと同じ意味なんじゃない?」


「へぇーそうなんだ。」


 マリーを後目に会話を進めるアルとルミウス。この短時間でかなり仲良くなったようだ。そんなことよりマリーとしては形見オチでは無かったこともおどいたが、自分がたまに日本語を言っていたこともにも驚いたし、そんな風に思われていたことにも驚いて顔だけではなく耳までも赤くした。

 突然立ったことで近くの席の子供はびっくりしたようで、マリーの方を見る。流石に居た堪れなくなって、また静かに席に座った


「……お母様はちょっとだけ神術が使えるんだ。それでこの本にもそれが仕込んであるみたい。お母様とお父様両方から常に持つように言われてるし、先生にも許可貰ってるんだよ?……な、内緒だよ?」


 それを聞いてマリーは納得した。だから先生の誰も注意しないし、他の大人達も口を出さないのだ。生徒達の間だけで、いわば特別あつかいされているやっかみもあって変な噂が流れたのだろう。

 それにしてもアルの母親以外にも、こんなに身近に神術使いがいるとは、とマリーはそちらにも興味が言った。神術が使える者は本当に少ないのだ。それが知り合いの少ないマリーの周りに2人もいるなんてすごい確率だ。


「ルミウスはその本に何があるか知らないのにずっと持ってるんだね。僕だったら置き忘れたりしちゃいそう。」


 アルは頭をカリカリと掻きながら苦笑する。確かに、子供ならいくら言われても忘れる確率は高そうだ。マリーもどうなの?とルミウスを見る。


「うん。僕としては何があるのか分からないけど、この本が大好きだから。だから、ずっと持ってても怒られなくてラッキーって思ってるんだ。へへ。」


 そう言いながらはにかむルミウスの表情は本当に好きで堪らないと物語っていた。本を撫でるその手は優しく、マリーはその本を気軽に触らせてもらうことが出来るくらい仲良くなってみたいな、と思った。

若干ルミウス掘り下げ回。一応メイン級の同級生は掘り下げる所存。お兄様方は掘り下げません(`・ω・´)キリッ あくまでもマリーと年齢が近い友達がメインです。最悪お兄様のスペック忘れてもさして問題ないと思います。


あと、アルは当たり前に傍にいる幼馴染系男子なので、下手すると描写がなくてもさらっとマリーの隣にいる可能性があります。

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