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僕は女に生れて正解ですね。  作者: どんとこい人生
22/42

初日

もう少し描きすすめようかと思いましたが、また切りどころが迷子になるので短めです。

 マリーは廊下で教室のある階が違うディルと兄達2人と別れて、アルと共に教室へと向かう。一部の生徒を除き、車で登校してくるためほぼ同じ時間に教室へと揃う。

 基本的に挨拶は異性に対しては会釈のみ、同性に対しては声を掛ける。そして学院はエリートの集いなので現代日本の公立小学校よりも静かなものだ。7歳の子供が集まっているとは思えない音の少ない教室で自分の席に着く。


 多くは無い荷物を筆記用具を除いて机にしまうとマリーは当たりを見回す。女子はだいたい座って大人しく本を読んだり、ソワソワと視線をさまよわせたりしている。それに対し、男子は静かに本を読んでいる者もいるが半分くらいが囁くような小さな声でおしゃべりをしている。


 マリーも誰かしらと会話したいところだが、立って話ている生徒は誰もおらず、窓際の席であるマリーの隣は1人しかいない。そして、その1人は女の子のように可愛いが性別はれっきとした男だ。マリーから声を掛けるのは憚られる。せめて隣の席のルミウスが声を掛けてきてくれたら会話ができるのだが……と隣の席にチラリと視線を投げる。ルミウスはB5サイズほどの大きさの本を読んでいる。覗いた感じでは小説や教科書の類ではなく、どうやら図鑑のようだ。綺麗に描かれた動物の挿絵に解説がずらりと並んでいる。動物図鑑をこの世界で見たことのないマリーは無意識に身を乗り出してしまう。と、マリーが僅かに身を乗り出したせいで机の上に置いておいたペンが転がり落ちた。カランという軽い音に本を読んでいたルミウスが反応する。横を見れば身を乗り出している女の子と床に落ちているペンという構図。多少空気の読める人ならば何が起きたのかすぐにわかるだろう。

 ルミウスは恥ずかしがりでコミュニケーションは苦手なように思えたが、状況を察する能力はしっかりとあったようだ。マリーがしゃがんで拾うより先に片手で本を抱きながらペンをサッと拾いあげる。軽く手で埃を払うような仕草をするとマリーへと差しだした。


「おはようございます。あの、落としましたよ。」

 

「え、あの、おはようございます。あと、ありがとうございます。」


 目線こそしっかり合わせているが、頬は赤く染まる。それに釣られるようにマリーも体温が上がる。精神年齢は上がっているはずなのに、おっちょこちょいなところが消えない。もしかしたら体に心が引っ張られてプラスマイナスがないのかもしれないな、と心の中でひとりごちるとペンを受け取る。

 美少女と美少女にしか見えない少年が互いに頬を赤らめながら会話をしている姿には百合の花が咲く。

 せっかく話掛けられたのだから話を膨らませようとマリーはパッと目についた本に付いて聞いてみる。ルミウスは手にしている本をマリーの方へと開き、目を輝かせながら説明をする。


「この本はね、お母様が作った動物図鑑なんだ。文章も、絵も、本の装丁も全部お母様1人でやったんだ。それでね……」


 母親のことがよほど好きなのか、それとも本が大好きなのか、話すにつれて自己紹介の時に見せた恥ずかしがりの仮面がぼろぼろと崩れ落ちて、ルミウスの本来の明るさが顔を覗かせる。これで顔がブサイクだったら駄目なオタクの典型なのかもしれない、と意外と辛辣なことを考えているとはつゆ知らず、ルミウスは本の説明を続ける。次第に大きくなっていくルミウスの声。その声と手元で広げられている本に反応して教室内の注目はどんどんルミウスへと向いていた。


「それでね、この色を出すのに凄い苦労して……でもこの動物はこの羽の綺麗さが特徴だから絶対はずしたくないって粘ってって……え?」


 夢中でマリーに本の素晴らしさを説明していたルミウスはやっと教室の視線を一身に集めていることに気付いて口を止める。目の前のマリーはニコニコと話しを聞いている。これは良い。しかし、他の子どもの唖然とした表情を見て、またやってしまったと高揚していた気分がサーっと引いていく。3回も瞬きをすると、彼の薔薇色に染まっていた頬は土色へと変化していた。照れたのかと思ったマリーだが、流石にここまで血の気を失うのはおかしいと思い、声を掛ける。


「あの、大丈夫ですか?顔色がすぐれないようですが。」


「あ、はい。だい、じょうぶ……です。」


 相変わらず血の気の無い顔で、ひきつったような笑みを浮かべ自分の安否を伝えるが、大丈夫なようには見えない。さっきまであんなに嬉しそうに話ていた本をそっと閉じて鞄へとしまう。マリーが保健室にでも連れて行った方がいいか、しかし保健室はあるのか、などと悶々としているとヒソヒソと聞きとるのも難しいほどの音量の会話が耳に入った。


「おい、あいつってやっぱり。」


「あぁ、たぶんそうだな。噂は……。」


 会話の内容はほとんど聞き取れなかったが、端々に感じるの言葉の棘と表情からあまり良い噂ではないと思った。教室には少しずつ嫌な雰囲気が少しずつ少しずつ、満ちていく。

 そこで教室にガラリと音を立てて先生が入室してきた。先ほどまでの陰鬱な雰囲気は扉が開くと同時に霧散し、最初のような朝の静謐な空気へと戻る。先生は一瞬だけ眉をしかめたが、大人しく席に座って指示を待っている生徒を視認すると、元のキリッとした表情に戻ってホームルームを始めた。


 マリーの初めての授業は順調なものだった。というのも、男子と女子はホームルーム以外は授業が別で先ほどの空気が一切持ち込まれなかったからだ。

 女子は数が少ないこともあり、割とすぐにみんな仲良くなった。前世では男より女と一緒にいた時間の長かったマリーだ。何の問題も無く溶け込み、刺繍の授業では先生にも褒められ、順風満帆といったところだ。


 二つほど授業をこなすと1学年から5学年の昼食の時間になった。授業は男女別々で行われるが、食事はまた男女混合になる。一旦教室へと戻り、荷物を置いてから食堂へと向かう。

 女子同士でご飯を食べるべきか悩んだマリーだが、朝に話したきりのアルが気になり、一緒に食事をどうかと誘う。アルは満面の笑みを浮かべてからハッとしたように表情を微笑みレベルに落とすと快諾する。

 マリーはもしかしてマセた子に顰蹙を買うかもしれないと思い、周りの女子生徒を見回すが、そもそも考えていた以上にグループ行動とうものが無い。マリーとしては女子はトイレに行くのも、帰るのも、昼休みに遊ぶのも友達とべったりというイメージがあるのだが、意外とグループを形成している者はほとんどいない。当たり前のように食事を1人で摂っている子も少なくない。ボッチに優しい世界だ。

 逆に男子の方がつるんで食事を食べている、という印象を受ける。1人で食事をとっている者はほぼ居ない。上の学年の生徒は男女混合で取り巻きのような状態になっている。よく目を凝らして奥の方の日当たりの良い席を見るとディルも10名ほどの生徒に囲まれて食事をしていた。流石にあの中に飛び込んで一緒に食事をしようとは声を掛けられない。

 アルと一緒に開いてる席に座るとすかさずウェイターとウィトレスが飲み物を運んでくる。デザートだけ何がいいかメニューを選ぶと厨房の方へと去っていった。どうやらデザート以外は全員同じものを食べるようだ。ちなみにマリーは知らないが、みんなが同じメニューなのは上の学年の生徒の食べ方を見て自然と学べるように、という配慮である。


 マリーは食事が運ばれてくるまでの間にアルと互いの授業について話す。まだ二つしか授業を受けていないが、大勢の同年代の子供と一緒に授業を受けるのは初めてのことで、普段は落ち着いているアルも少し興奮気味に話す。


「それで、一つ目の授業の先生が凄い迫力のある人でね、思わずみんな目をそらしちゃったんだ、えへへ。……。」


 照れたようにはにかむアルに癒されていると、アルが突然会話を止めて視線を逸らす。マリーは何事かとアルの視線を追うと、その先にはルミウスが1人でいた。朝に本の話をしていた時のような覇気は無く、うなだれたような様子で席に着く。


「……ねぇアル。彼って何かあるの?教室でなにかコソコソ言ってる子がいたけど。」


 マリーがそう聞くとアルは持ていたコップをテーブルの上に置いて、苦虫を噛み潰したような顔をする。アルにしては苦々しい顔だなと思っているとアルが話始めた。


「うーん……僕も詳しい話は知らないんだけどね、なんか、ずっと本を持ち歩いてて、あんまり話したりとかもしないみたい。本の話題を振った時だけびっくりするくらい話始めるらしいんだ。それで、パーティとか乗馬の時も肌身話さず持ち歩いてるみたいで……学校なら違和感ないんだけどね。そ、それで、えーっと……へ、変人として有名らしいよ。」


 もともと小さな声で話していたアルだが、変人というワードのところで更に声を潜める。善良な男児であるアルは基本的に人を悪く言うのが苦手だ。ディルが例外なだけで、ちょっとした罵倒も口にするのを嫌がる。そんな彼が変人という表現を使ったということは、もっとひどい表現をされていたのかもしれない。

 マリーとしては朝、話したときに良い子だと感じたのだが本の話題を振ったおかげなのだろうか。いや、違う。マリーはアルに身を乗り出して耳打ちをする。アルは耳元にマリーが寄ったことでドキリとするがマリーの言った内容に驚いて、器用に椅子の上で跳ねるようにして距離をとる。しかし、すぐに納得したように頷くと、立ちあがってルミウスの方へと向かった。

前言は撤回してなんぼ。前書きを結局使っちゃいました(・ω<)

話進むのが遅すぎて自分でもびっくりします。まだ初日の昼……だと!?

でも進む時は一気に年単位で進む予定です。まぁ7歳から丁寧に毎年毎年描写してたら大人になるのにリアルで年単位掛るので……。

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