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僕は女に生れて正解ですね。  作者: どんとこい人生
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マセガキ

 アルとの一緒に過ごす時間を確保するために役員になることを決意したマリー。しかし、登校中の今に何か出来るわけもないので兄2人と穏やかな時間を過ごしながら学院への到着を待つ。

 しばらくすると車が止まった。止まると言っても体に揺れを感じたという訳ではなく、窓から見える景色が止まったから判断が出来た。それほどまでに静かで、なめらかな運転なのだ。


「お兄様。もう学院に付いたのですか?思ったより早いですね?」


「マリー、流石にこの車が優秀だからと言っても、そんなに早くはつかないよ。次の停留所に着いたんだ。学生全員を載せるわけじゃないけど、それなりの数がこの車に乗るからね。」


 それもそうか、とマリーは思った。今乗っているものはユークラテス家の専用の車ではないのだ。スクールバスが一番近い存在だろうか。各家の近い停留所に止まっているため。学院に着くまでに何度か止まるのだ。

 マリーは身を乗り出して窓を覗く。マリーの居る席は奥の方な為、乗車口はあまり見えない。だが、なんとなく人影が見える。マリーは兄妹3人で乗ってきたが、この停留所は多少、利用者人口が多いようで10人前後の人影が見える。随分と利用者の人数に差があると思いつつも大人しく席に座る。


「お兄様、普通の停留所はこれくらいの人数なんですか?」


 マリーが首をかしげながら問いかけると、めんどくさがることも無くナディが説明をしてくれる。少しばかり自慢げな顔をしている。


「そうだね、僕たちのところが少ないだけだよ。普通はいくつもの家が合同で使うんだけど、僕たちの停留所付近はたまたま合格者が少なかったんだ。」


「そうなんですか。」


 ナディの説明を聞いている間に乗車は済んだらしく、窓から見える景色が動き始めていた。あまりに体に感じる揺れが少ない為、窓を見なければ判断ができないのは不便なような気もする。学院に着いたことを気付かなかったりするのではないか。兄に尋ねると、降りる人がいる場所ではちゃんとチャイムが鳴るそうだ。そんな些細なことを話していると、マリー達の座る部屋にコンコンとノックの音が響いた。

 座高の低いマリーには見えないが、兄2人には扉の窓からノックした人物が見えているらしく、微妙に驚きの表情を浮かべた。だが、すぐにニヤニヤとした表情に変わると立ちあがって扉を開けて来訪者を招き入れる。


 入ってきたのはディルだった。相変わらず不敵な笑みを立てている。受験生である時は会うのを控えていたので最後に見たのは季節二つ分くらい前だったろうか。


「おはよう、マリー。お兄様方もおはようございます。」


 兄2人にはかしこまった挨拶をしたが、どう考えてもマリーのついでの挨拶だった。しかし、兄達は嫌な顔一つせずに席に座るように促す。


「おはよう、ディル。久しぶりだなぁ。まぁ学院ではちょくちょく会ってたけど。」


 どうやらマリーの預かり知らぬところで兄2人はディルと交友を深めていたようだ。同じ学院に通っているなら、さもありなん。

 流石にマリーの隣に座らせるようなことはしなかったが、マリーの斜め前の席を勧めた。ディルも軽く謝辞を述べると、大人しく席へと座る。そこまで自体が進んでマリーはやっと言葉を発した。


「おはよう、ディル。……ちょっとびっくりしたよ。ディルもこの車乗るんだね?」


「まぁね。俺の家はマリーの家と学院の間にあるからな。……それにしても、マリーの制服姿やっとまともに見れたよ。よく似合ってて可愛いよ。」


 少しびっくりした後にやっと普通に会話を始めたのに、家族以外に可愛いと褒められて照れる。どうやらディルはマリーと合わない間に男前度とでもいうのだろうか、そういった対女性スキルが上がったようだ。


「ん?マリーは可愛いなんて言われ慣れてるだろう?特にアルとかアルとかアルがマリーのことを褒めないとは考えにくいんだけど。」


 自分の可愛い発言だけで、照れるとは思っていなかったディルがマリーに尋ねる。兄2人はニヤニヤと見ているだけで何も口を出さない。普段のマリーなら何かしら尋ねるのだろうが、今のマリーには目に入らないようだ。


「アルも似合ってるとは言ってくれたけど、可愛いとかそういうのは無かったよ。」


 それを聞いたディルは一瞬びっくりしたかのように眉を上げ、目を見開いたがすぐにいつもの不敵な笑みを浮かべると、あいつもまだまだだなとボソリと零した。ただ、小さな声だった為マリーには聞こえておらず、何をボソボソ言っているのだろうかと疑問を抱いた瞳に見詰められた。

 ディルは、なんでもないよと言うといつの間にかハルが用意したコップを手に取り、軽く感謝の意を告げるとまったりと飲み始めた。それにならってマリーも飲み物を飲む。窓から見える景色はまだまだ動いていて、通り過ぎる家や自然の色が混じり合い一枚の立派な絵画を見ているような気分になった。そんな風にぼんやりと過ごしていると、ナディの少し怒気を孕んだ鋭い声が飛び出した。


「おい、マセガキ。色気づいてマリーの膝をチラチラ見るんじゃない。調子に乗るなよ。」


 怒鳴ってはいないが、その顔に浮かぶ表情は険しく、良い感情ではないのは明らかだった。マリーには何故膝を見ていただけで、そんなに怒られているのか分からなかったが、ディルは怒られるようなことをした自覚があるのか、素直に謝罪の言葉を述べた。バレて恥ずかしいのか、少し気まずそうだ。

 マリーはそもそも膝を見ただけで怒られたのか終わらないため、気にしないでと笑顔で応えた。その言葉を聞いてディルは安心したのか、ほっと息を吐く。マリーは隣に座っているハルの耳元にそっと顔を近づける。


「ハルお兄様、なんで膝を見たら怒られるのですか?」


 その言葉を聞いたハルはバッとマリーのほうへと体を向けてからナディへと顔を向けて。何やらアイコンタクトをしたのちにマリーの方へと再び顔を向けて肩をガッチリと掴んだ。何か言いたそうな顔をして、はぁぁぁぁぁと長い溜息を吐きながらしたを向いてボソボソと言葉を零す。微かに聞こえた単語は、母親として、なんで、教えて……など何かリディアに対する愚痴のようだ。しばらく下を向いていたハルだが、マリーの方へとまた顔を向けて、マリーを見つめる。マリーはここまでのリアクションが来るとは思っていなかったため、きょとんとした顔でハルを見つめ返す。

 ハルは何か言葉を選ぶように、えーうーと唸った。徐々にハルの顔が赤くなっていく。


「……膝は、女の子の膝は……なんていうか。お……いや、女性の胸というか、いや、そこまでじゃないか。胸の谷間と同じくらい見られたら恥ずかしい物なんだよ。だから隠さなきゃいけないんだ。」


 マリーの方をガッチリつかんで、真顔で何を言うかと思えばそんなことだった。マリーとしてはハルの胸発言よりも、膝が谷間見られるのと同じことよりも、ハルの年齢でこのことを告げるのに顔を赤く染めることに意識が行っていた。とりあえず、自分の膝を見てみる。上から見た状態では完全に隠れている。しかし、今座っていることもあり、膝が見えそうで見えないラインにスカートが上がっていた。マリーは無言でスカートを直してポンポンと膝を叩くとディルの方を見る。ディルは顔を少し赤くして目を逸らしていた。マリーは静かに、ディルも8歳ながらに既にお年頃なのかと目を細めた。

 というか、この世界の子は成長が早くないだろうか?それとも小さな子供がおっぱい!と叫んで喜んでいるようなものなのだろうか?マリーとしては恥ずかしいよりもそっちの疑問の方が重要だ。

 なんとなく男3に女1なせいもあって、部屋内に気まずい空気が流れた。


(あー……この空気は家族でテレビを見てたらエッチなシーンが流れた時の感じだなぁ。)


 未だに価値観が現代日本の方が強いマリーとしては膝を見られたからどうこうとはないのだが、兄を含む男3人は違うらしい。現代日本風に置き換えると、胸の谷間をチラ見していたことをバラされた男と家族がそういう目で見られていた兄と小さな妹に性について教える兄、といったような感じになるのだろう。さらにマリーがさっと無言でスカートを直したことは、視線に気づいて胸元を隠す女性のようなものだったのだ。

 マリーはそこまで考えて、今のこの空気感に納得した。母親どうこう言っていたのは、リディアがこのことをマリーにしっかりと教えていなかったことに対する愚痴なのだろう。

 この空気を打破しようとマリーが何か言い掛けた瞬間、部屋にコンコンという音が響いた。ハッとして窓の外を見ると景色が止まっている。次の停留所に着いていたのだ。また、誰か来訪者が訪れたようだ。

 マリーはこの空気をどうにかするチャンスだ、と一番最初に動きだして扉へと向かった。窓を見ると笑顔で手を振っているアルの姿が見えた。マリーも釣られて笑顔になりながら扉を開けてアルを部屋の中へと誘った。


「おはよう、マリー。一緒に登校初めてだね!入学式は互いの車で行ったから一緒じゃなかったし……。あ、お兄様方もおはようございます!……て、ディル……?」


 元気に挨拶するアルに癒されるマリー。アルは部屋に入ってすぐにディルが居ることに気付き、怪訝な顔をする。そして、その後に部屋の中の空気がおかしいことに気付いたアルはマリーとの距離をそっと詰めて、この雰囲気の謎を聞くことにした。


「ねぇマリー、なんか部屋の雰囲気変だけど何かあったの?ていうかディルがなんでいるの?」


 ヒソヒソと内緒話をするような囁き声でマリーに尋ねる。マリーとしてはディルが私の膝を見たことでごにょごにょとは言いづらい。

 マリーが曖昧で微笑んでいると、アルは疑問符を頭に浮かべて首をかしげる。


「とりあえず、アルも座ろうよ。」


 ソファ自体は二つしかないが、大きめなので今のメンバーの体の大きさなら窮屈さを感じることなく座われるだろう。マリーが手を引いてハルの隣へと座る。ここまで来て兄達は切り替えたのだろう、もう普通の態度に戻っている。ディルだけはまだ少し恥じらいが残っているのか、いつもだったら軽くアルと言葉を交わすのだが、目を逸らしたまま口をとがらせている。ディルもちょっぴり女の子に興味を持ち始めたところなのだろう。もともと大人びた少年である。先ほどナディが言ったマセガキという表現もあながち間違いではないだろう。


「……何、ディル。……なんか大人しくて気持ち悪いよ。元気ないの?」


 いつもなら何かしらちょっかいを掛けてくるディルが大人しいことに違和感を感じたアルが声を掛ける。その言葉に本人を除く全員がディルを見る。

 流石にディルもこれ以上、引きずっているのも駄目だと思いフゥーと息を吐くとニッといつもの不敵な笑みを浮かべる。多少ぎこちないが、そのことを指摘する人はこの中には居ない。


「アルにそんなこと言われるなんて、俺もまだまだだなぁ。そんなことより、お前はもっと勉強頑張らないと。お前の学年はアルジェント家の、えっとステイルだったか。」


「そんなに有名なの?」


 ディルの何かありそうな言い方にマリーが問いかける。


「すっごい名門貴族だよ。色々優秀だって噂が広がってるんだよ。実際に見た人は将来有望だぞって言ってるし、俺も父さんから一度見とけって言われてる。」


「そ、そんなに凄いんだ……。」


「ふ、ふーん。」


 ディルの言葉にマリーもアルも驚きを隠せない。確かに主席である時点で優秀なのは分かっていたが、7歳にして既に他家の間に優秀で見てきた方がいいと言われるほど優秀だとは思っていなかった。

 ちなみになぜマリーが他家について知らないのかというと、女の子はほとんど他家と結婚以外で鑑賞しあうことがほとんどないから、というのとマリーが誰に対しても丁寧に接しているから家で態度変える必要がないから、というものが大きい。大きいのだが、一番はマリーの家の格が圧倒的に高いのでいちいち下々こと詳しく知らなくても困らないのだ。

 むしろマリーに事前知識を与えすぎて態度を固められるよりも、実際に接したうえで接触の仕方を考えてほしい、という親心である。


 と、話していると室内にリンゴーンリンゴーンと涼やかなベルの音が鳴り響く。その音にはっとして兄達がスッと立ち上がる。


「さて、学院に着いたよ。みんな用意して。」


 思った以上に話しこんでいたようだ。全く揺れることのない車はいつの間にか学院に到着していた。全員、荷物を持って部屋を出る。同じようにベルの音に気付いた生徒たちがわらわらと通路へと出てきていた。とは言っても、この車は学院に向かうものの一つに過ぎないので人数はさほど多くない。車を降りると目の前に見知った人物がいた。


「あ、スヴァルくん。」


 どうやら、眼鏡君はマリー達と同じルートの車に乗っていたらしい。女から男に声を掛けるのは破廉恥なので、マリーはつぶやくだけに留める。マリーの視界にいるスヴァルは自然な笑顔で学友と話している。前からの知り合いなのかもしれないが、それにしても挨拶される人数も多い。初日でステイルに怒鳴り掛ったのが嘘のようなコミュニケーション能力だった。そもそも初日で怒鳴ったという事実はだいぶマイナスイメージを植え付けたと思うのだが、それを払拭するほどの人柄、成績、格なのだろうか……。

 そんなことを考えずにはいられないマリーだった。


更新遅れました。申し訳ない。もーリアルめんどくさいので二次元に行きたい。話の切りどころが迷子になって困りました。皆さんどうやって綺麗に治めてるんですかね。

サブタイが仮タイトルのまんまでうわぁぁってなりました。直しました。

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