朝チュン
ちょっと忙しくて更新遅れました。切りどころが微妙だと文字数が安定しないですね。
チュンチュンと鳥の鳴き声がする。フカフカの布団に包まれ、温かい空気、それでいて暑すぎないように調整された室内はまるで季節を感じさせない心地よさだ。
「んー、ん……。」という唸り声というには余りに可愛い声が部屋に響く。朝のささやかな音に包まれたマリーは静かに目を開いた。
「……あれ?ここ、私の……部屋?」
マリーの最後の記憶はアルの部屋の中だったはずだった。それが何故か自分の部屋で目が覚めて、混乱していた。もう一度、記憶を整理してみる。
(アルの部屋に入ったら、なんだか泣いた後みたいな顔してて……声掛けたら泣き始めて、撫でたら落ち着いて……?それで寝かせてあげようとして一緒に寝ちゃった……だっけ?)
これで自分が妙齢だったら色々アウトな行動ばっかりだったな、と自分の行動に苦笑する。
「うーんここから先は記憶ないなー。なんで自室?」
1人でうんうん唸っているとノックをされる。そして返事をする間も無く扉が開かれた。
「お嬢様、朝ですよ。起きてくださ……あれ?起きていらっしゃったのですね。おはようございます。」
「おはよう。」
反射で挨拶を返すが、すぐにハッとしてナナルを見つめる。見詰められたナナルは首をコテリと横に倒して不思議そうな顔をしている。
「ナナル、なんで私ここにいるの?」
「え!?お嬢様、それはどういう……。」
マリーの質問にどこか焦ったような返答が来て、一種な疑問符が頭に浮かんだが、今の言い方だと色々な受け取り方があるな、と気付き質問をしなおす。
「うんと、私アルの家に行ってたと思うんだけど、なんで自分の家にいるのかなって。」
その言葉を聞いて、今度はしっかり理解したナナルはなるほど、と手を会わせた。そしてマリーにさらに近付いて話し始める。
「旦那様がソレンス家から戻っていらっしゃったときには既にお嬢様は眠っていらっしゃったので、そのまま部屋にお運びさせていただいたのです。遊びに行った先で寝てしまわれるなんて、お嬢様もうっかり屋さんですね。」
にこにこと話し終えたナナルに礼を言い、何故自分が自室にいるのか納得した。現代日本よりも貞操観念が固い国だ、他人様の家で娘を眠らせるなんて言語道断だったのだろう。そして、娘にデレデレなルイはマリーを起こすことなく家へと連れて帰ったのだ。
(んーアルには悪いことしたかな?)
目が覚めたら一緒にいたはずの人がいないのはちょっとホラーっぽいかもしれない。もしかしたら夢だと思っている可能性もあるだろう。しかし、家の者に聞いたらユークラテス家が家を訪れたのはわかるだろうし、すぐに現実だと分かるだろうが。
「お嬢様、朝食の用意が出来ておりますので、お着替えを。」
「うん。よろしく。」
そう言ってベッドから降りる。そして慣れた手つきでナナルが服を脱がし、マリーも脱がしやすいように微妙に体を動かす。赤ん坊のころから意識のあるマリーは今更恥じらいなどない。赤ん坊のころとは違い、全裸になるわけでもなくカボチャパンツに薄いシミーズのような服を着た状態の着替えなので、そもそも上着を着せられてる感覚の方が近い。
手早く顔や体を拭くとシンプルなドレスに着替える。次は鏡台の椅子に座って髪のセットだ。これもまだ思春期も訪れていないお子様のマリーは整髪料を使うことも無く、軽くブラッシングして、ハーフアップにしたら完成だ。
「はい、完成です。今日も大変愛らしいですよ。」
満足気に笑うナナルは幸せそうだ。その笑顔にマリーも幸せな気分になり、温かい気持ちで朝食の場へ向かった。
マリーが家族で和やかな朝食を摂っている頃、ソレンス家はユークラテス家と打って変わって騒がしい空気に包まれていた。
「ケ、ケビンッッ!!ケビ、ケビンッッ!!!!ちょ、ちょ……え?マリー!そう、マリーいたよね?!え、夢……夢だったの?!」
普段ではありえないほどバタバタと足音を立てて部屋を飛び出す。いつものように扉前で待機しているケビンへと問いかける、というには余りにも忙しない。いつもは幼いながらに落ち着きある行動をとっているアルの慌てた姿に、想像通りの反応だなと心の中でニヤニヤしつつ実際の表情はいつも通りにする。
「夢ではありませんよ。マリアンヌ様は昨日の晩のうちに御帰宅されました。流石に未婚の男女を一晩過ごさせるわけにはいけませんので。」
「そうだね。前に結婚するまで女の子と寝ちゃだめって習ったね。」
「……そうですよ。」
2人の間には『寝る』に含まれる意味が天と地ほど差があるのだが、まだ精通も迎えていないアルに説明するのは憚られる。
「あ!でも一緒の部屋でベッドに入っちゃったよ!これは大丈夫かな?」
「一晩過ごしわけではありませんし、マリアンヌ様と坊ちゃんのお2人なら大丈夫でしょう。」
「ふーん……これは大丈夫なんだ。」
本当に友人関係なだけなら2人だけで異性の部屋にいるということ自体が駄目なのだが、ほとんど婚約者状態で互いの両親(主に母親)の同意もあるので、だいぶ判断基準が緩くなっているのだ。ただ、これを公の場で言うと結構問題になるあたり、色々と微妙にめんどくさい考えである。
そのことも踏まえて「女の子にはちょっと恥ずかしいことなので言いふらさないように」と言っておく。アルからしたらマリーの事は自慢したいけど教えたくない男の子心があるので、そもそも誰にも言うつもりがない。素直に頷く。
「さて、少し時間は経ってしまいましたが朝食に致しましょう。」
「そうだね。」
流石に落ち着いたアルは大人しく部屋に戻り、着替えをする。ケビンの手を借りつつ、といっても女性のようにめんどくさい服ではないのでボタンを留めたり、タイを締めたり、髪を整える程度だ。無事に着替えると階下のリビングへと向かう。部屋に入ると既にアルと父親以外が揃っていた。
「おはようござます。」
「おはよう、アル。朝からずいぶん元気だったな。」
ニヤついた表情を隠すこともせずにアルの挨拶に返事をするのは次兄のゴルだ。既に食事は終盤に差し掛かっているようで、目の前にはデザートがあるだけだ。ルイズは完全に食べ終わっているようで優雅にお茶を飲んでいる。ゼルはまだ食事の真っ最中な為、目だけで軽く挨拶をするだけにとどめている。
「アル?元気なのは良いけど、あんまり足音とか派手に立てるのはかっこ悪いわよ。」
コツリとコップを置いてクスクス笑う。その反応を見て、ここにいる全員にすべて聞こえていたのかと、やっと気付いて顔がカァっと赤く染まる。
「き、今日は特別です!いつもはあんなにバタバタしてないです!」
「そうねぇ、一緒に寝てたはずのマリーちゃんが目が覚めたらいなかったんだもんね。一大事よねぇ。」
「すごいな、アル?俺もまだ女の子と一緒にベッドに入ったことないぞ。先越されたなぁー。」
咄嗟に応えた言葉に、どんどん言葉を重ねられ成す術もない6歳児。食事中な為、声こそ出していないがゼルも同意だと言わんばかりに首を縦に振る。大人げない3人である。会話はまだ止まらない。
「ゴルはアルみたいに同じ歳くらいの女の子が身近にいなかったしね。まぁそろそろ婚約者決まるけど。」
「ちょっと!そんな大事なことさらっと言わないで下さいよ!ていうか兄様差し置いて、俺のですか?」
「あーゼルはね、候補はいるんだけど色々ゴタついてるのよ。まぁ後は子供たちで話しあってもらおうかなって感じね。」
ルイズの言葉を聞いて咽かえるゼル。頑張って噴き出すのを阻止したが、水飲んで必死に食べ物を流している様は滑稽だ。アルをからかうつもりで待機していた2人に衝撃のアタックである。最早アルそっちのけ状態だ。
2人ともアルをからかうどころではなくなり、ルイズを問い詰めている。そんな様子を後目に、自分がターゲットから外れたことに安心して息を吐く。そして席に座ると素早く食事が運ばれてきた。
食事の雰囲気はフランス料理のようだが、ほとんどの食事が一遍に運ばれてくるのと、食器の数が以外と少ないのが一番大きな違いであろう。栄養面も見た目も考慮された最高品質の食事だ。マリー達の住む国、アイルザークにはこんな言葉がある。
『相手を知りければ、食事を見ろ。全てが見えてくる。』
こんな言葉が世間一般に広がるくらいには食事が重視されている。そのためどこの家も食事と食事マナーにはお金と気合いを入れるのだ。
ちなみに、学院でのテストは一日がかりなのだが、その際に挟まれる昼食では食事マナーのテストも兼ねている。なのでアルもばっちり教育されている。6歳には見えない優雅な手さばきで綺麗に食べていく。そして思い出すのはマリーのことだ。
(マリーと寝ちゃったのが夢じゃないなら、泣かれたの見られちゃったんだよな。……恥ずかしいな、男の子なのに。あーでもマリーに撫でてもらうの気持ち良かったなー。お母様と同じくらい。)
黙々と食事を進めつつ、やはり何度思い出しても恥ずかしい。好きな子にはカッコイイところだけ見てもらいたいのだ。
(でも、あれが夢じゃないなら……マリーの一番が僕だっていうのも本当なんだよね。……それはとっても嬉しいな。)
スープを飲みながら顔がニヤける。下心のあるような汚い笑みではなかったため、何も知らなければスープのおいしさを喜んでいるように見えるだろう。アルはパクパクと割と早目のスピードをぺロリと食べ進めていく。量はもともと少ないためあっさり食べ終わった。そして最後の締めにお茶を飲んで、口元をぬぐうとサっと椅子から降りた。
(よし、とりあえず勉強頑張ろう!それで、明日マリーの家に遊びに行こう。お母様が前に好きな人に会ったら元気出るって言ってたし!)
そう考えながら部屋へと戻るアルの足取りは前日と打って変わって非常に軽いものだった。
割とアルが主人公に見える件については反省してます。
※どうでもいい話
マリーの設定は結構悩んでて、最初はゲイだった主人公が転生して女になったからラッキーって話しにするつもりでした。でも流石に私以外喜ばないな(´・ω・`)ってなって今の感じになりました。