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僕は女に生れて正解ですね。  作者: どんとこい人生
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マリーさんソレンス家訪問

マリーが主人公なのに他の人が出張りすぎですかね?

意見いただけるとありがたいです。

 空調の作動させた涼しい部屋の中、マリーはずっと動かしていた手を止めて溜息を吐いた。その主人の大機溜息を聞いたナナルが話し掛ける。


「お嬢様?まだお昼も召されていないのに、既に溜息をついた回数が10を超えましたよ。何かお悩みでもあるのですか?」


「……そんなにしてた?」


「してました。」


 その発言に気まずそうに視線を逸らして課題をのろのろと再開する。


「悩みっていうかね。」


「はい。」


 少し間を開けるように話すマリーに合槌をはさみ、話しを促す。


「ちょっと寂しいなぁって、思ったりして。少し前までずっと3人で色々話したりしてたし、その前だってアルが定期的に遊びに来てくれたでしょう?でも、ここのところは誰も家に遊びに来なくてずっと課題。もちろんナナルやお母様、お兄様方と話すのは楽しいわ。でも、やっぱり同じくらいの歳の友達って大切だなって、改めて思ったの。そしたらさらに寂しさが増しちゃって……。」


「お嬢様……。」


 館内ではもっとも年齢が近く、一緒にいる時間も長い家族以外のナナルにだからこそ吐露したであろうマリーの本音。

 普段から大人しく、親の言うことを聞いていい子で優しいマリー。だからこそ、アルが遊びに来ないのが寂しくても互いに受験生だから仕方ないと我慢してしまっていた。中身が外見年齢を大きく上まっていることもあり、我慢が出来てしまっていた。

 しかし、中身がいくら成長しても友達と過ごせない日々というのは今まで友達と楽しく過ごしていた人間にとって苦痛だ。マリーにもアル同様に限界が近づいていた。


「……訓練が大変なのはわかるの。でもね、入学するだけならアルはもう十分力が足りていると思うの。だって入学して主席を取ったディルとずっと競い合っていたのよ?それで極端に見劣りしてなかったんだから、すごいと思うの。でも、それでもアルは訓練が忙しくてって遊びに来ないでしょう?本当は男の子と遊ぶことに楽しさを覚えて、私のところにくるのつまらなくなっちゃったのかなって、そんなこと思ったりして。」


 顔には薄く笑みを浮かべているが、ナナルにはマリーが自嘲しているようにしか見えなかった。普段から優しい柔らかい雰囲気に包まれているマリーのその姿はナナルの胸に痛みを齎した。胸元で両手をギュッと握る。


「お嬢様、私にはアルゼウス様がお嬢様と過ごすのがすごく楽しそうに見えます。楽しくなければ訓練で疲れて、うっかりマリー様の前で寝てしまうほどの状態の体を引きずっていらしたりしません!絶対です!お嬢様の前ではいつも笑顔で幸せそうでした。きっと訓練は……あれですよ、ディルク様に負けたくないという男心ではないでしょうか?!とにかくお嬢様の事は大好きなはずです!!」


 後半にいくにつれて激しくなっていく言葉に目を見開くながらも、ナナルの言った言葉を噛みしめて、そっと目を閉じる。そして、思い出すのはいつも笑顔で話しかけてくれるアルの姿。

 目を開けて最初に見えるのは顔を真っ赤にして真剣な顔で見つめるナナルの姿。マリーすぅーっと深呼吸をしてうんと頷く。


「そうだね。アルはいつだって笑顔だった。負けん気も強かったし、うん。そうだね。ディルに対抗してる……だよね?」


 マリーの尋ねるような語尾に反応して激しく首を上下にブンブンと降る。その光景がまるで人形のようで思わず笑みがこぼれる。

 やっと見れた主人の微笑みに一緒に嬉しくなったナナルは思わず、といった感じでこんなことを言ってしまった。


「きっとアルゼウス様も寂しがっていらっしゃいますよ!マリー様から会いに行ってさしあげたら喜びますよ!」


 その言葉はほとんど勢いに任せた、平民出身のナナルらしい考えだった。本来貴族女性ならあり得ない行動。しかし、マリーの笑顔を取り戻さなくてはと興奮した状態のナナルはそのことを忘れてしまっていた。

 そしてハッっと気付いた時にはマリーの顔を見て手遅れだと感じて顔色がスッと青くなっていく。マリーは先ほど凹んでいたのが嘘のように瞳を輝かせナナルを見つめていた。


「私が会いに行く……当たり前のことなのに、家から全然出ない生活してたから頭から消えていたわ!そうよ!私がアルに会いに行けば、アルの負担はぐっと減るはず、そうよ。うん。ナナル、用意してきてくれる?」


 まるでだましているかのような気分になり、だらだらと冷や汗が流れる。しかし、自分で提案した内容だ。ナナル自信が否定したら駄目だろうと考える。とりあえず親の許可が出なければいけないのだから、そこで止めてもらおう。そう考えるとマリーに「許可をもらわなくては……」と控えめに提言する。


「それもそうね。今晩お母様に聞いてみるわ。」


 そう言って、周りに花が咲いているかのような雰囲気で課題へと戻り、黙々と手を動かし始めた。その様子を見てばれないように安堵の息をこぼす。


(お嬢様……上げて落とすようなことをしてしまい申し訳ございません)


 おそらく親から許可がおりないであろうマリーの心情を考えて、心の中で謝罪する。

 しかし、そのナナルの謝罪は不必要なものとなった。


「うーん、良いわよ。」


 娘から婚約者(にしたいと思っている)の元へ行きたいという、おそらく産まれて初めてであろうおねだりに応えるリディア。喜ぶマリー。ナナルは驚くことしか出来ない。口に手を当てながら悲鳴にも似た声で尋ねる。


「お、奥様!?え、その……えぇ!?よ、良いのですかっ!?」


 マリーの手前、断らなくていいのかと言えないナナルは言葉をゴニョゴニョと濁らせながら驚く。そんなナナルの気持ちを知ってか知らずか、リディアはにこにこと聞いてくる。


「んー?ナナル、何か私に言いたいことがあるの?」


「い、いえっ!な、な、何もありません。」


 ビクっという擬音がぴったりな動作で姿勢を正す。マリーはそんな2人を見て疑問を覚えるが、今はアルに会えるという事実のほうが大切だった。


「お母様!いついけますかね?」


 娘のキラキラした瞳にご満悦なリディアは、優しく頭を撫でながら今後のスケジュールを思いです。そして頭の中で色々整理すると、よしと一言言ってマリーを抱き上げて自分の膝に持ち上げる。突然の抱っこに驚くが、特に嫌なことでもないためキョトンとした顔でリディアを見つめる。そのマリーの姿に内心で悶えるが表には微塵も出さない。


「明日行きましょう。」


「本当ですか?!嬉しい。」


「えぇ?!え、えぇ?!?!」


 リディアの言葉に全く違う反応が二つ返ってきた。


「なんでナナルがそんなにびっくりしてるの?」


 当たり前なマリーの質問にしどろもどろになりがら、えぇとかうぅとか唸りながら視線を逸らす。あまりに下手なごまかし方に思わず笑ってしまったリディアは助け船をだす。


「明日で急だからびっくりしたのよ。ね、ナナル?」


「は、はい。そうです。」


 リディアの言葉にありがたい、と乗っかりごまかそうとする。マリーはまだ違和感があったが、お母様が何も言わないのだから問題ないのだろうと納得しておく。しばらく母娘で談笑を楽しむとマリーは自室へと戻っていった。


 そして、マリーが部屋に戻ってから数周後にナナルが部屋を訪ねてきた。


「失礼致します。……あの、奥様。」


「分かっているわ。なんでマリーのアルへの訪問を許可したのか、でしょ?」


 リディアのストレートな言葉に、たじろぎながらコクンと頷く。リディアは飲んでいたお茶のカップを指でなぞりながら話す。


「マリーもアルもね、色々限界みたいなのよ。ただ、アルのほうが意地張っちゃって。男ってどうして、あぁも意地張るのかしらね。おバカなんだから。」


 言葉では呆れたような言いぶりだが、その声は優しい。


「でもね、あの年頃であそこまで我慢はしちゃいけないと思うの。人とふれあえなくてさみしいって思えなくなったら駄目でしょう?でもきっとそいってもアルは意地張ってこないの。ディルの優秀さは家の独自によるところも大きいから、彼と比較しても仕方ないのにね。だから、マリーが言ってあげなきゃ多分駄目なのよ。って母親同士で話してたの。」


 ナナルは自分が全く知らない間に、しっかり互いの子供の事を話していたのかと驚くが、リディアとあのアルゼウスの母親ならさもありなんと納得する。


「し、しかしそれにしてもお嬢様が異性の家に行かれるなんて……はしたなくないですか?それもユークラテス家のたった1人の娘ですよ?」


 普段なら絶対にしないような態度で尋ねる。ナナルの言葉に「そうねぇ」と言いながら視線を窓の外にやる。


「ナナル。ようは男性のエスコートがあればいいのよ。」


「はい?」


 思わず気の抜けた返事をする。そんな様子がおかしかったのかリディアがクスクスと笑い声をあげる。少し間をおいて笑いが止まったリディアはにやりと人の悪い顔でナナルを見つめる。


「明日はルイがソレンス家に仕事で用があるのよ。流石にマリーだけでは行かせられないけど、父親であるルイが居れば話しは別よ。」


 それを聞いて確かに、と頷く。女性が1人(従者は数えない)で行くことが問題なのだ、確かに父親付きで行くのならば問題はないだろう。


「それにしても、あの忙しい旦那様がよくタイミング良くお仕事でソレンス家へと行かれるのですね。運がいいです。」


 ルイは大手貴族の当主として非常に多忙な日々を送っている。そのため一日休みの日はほとんどなく、休みなように見えても食事先で何やら会合があったりして、純粋な休みなど数えるほどしかない。遠出してしまうことも少なくないため、基本は家の切り盛りを妻がするものなのだ。

 そんな状態ですぐにソレンス家へ仕事など奇跡である。


「ふふふ。確かに言いだした次の日って言うのは運が良かったけれど、そろそろマリーが我慢できなくなる時期かなーって予想してたから、スケジュール調整してたのよ。うふふふ。」


 ぞっとするような綺麗な笑い声をあげるリディアは戦慄する。


(これがユークラテス家の中を取り仕切るリディア様……。どこまで先を読んでいるのか。)


「はい、疑問は解消できたでしょう?さぁ、明日の準備をしてきてちょうだい。」


「はい、奥様。」


 素直に頭を下げて部屋を後にする。そして、マリーの笑顔を見るためにも気合いを入れて明日の準備をし始めるのだった。


 次の日、マリーは珍しく父親であるルイとともに車に乗り込んでいた。久しぶりの父親と2人でいることに喜びを感じ、ニコニコと笑顔が溢れる。そんな娘の様子に愛おしさを感じて優しく眺める。


「マリーはなんだかご機嫌だね。」


「うふふ。はい!お父様と出かけるのも嬉しいですし、アルに会えるもの楽しみです!それに遠出するのも初めてです!」


 今回は寄り道することはできないが、それでも色々見れるのは楽しみだった。母子家庭だった冬樹としての人生を含んだうえで初めての父親と2人の遠出。大切にされていることは分かっているが、多忙な父と一緒に過ごせる時間は少ない。左手に繋がれている父の手が温かい。母親とは違った、少し硬くて大きな安心出来る手だ。


「旦那様、そろそろ着きます。」


「あぁ、分かった。」


 運転席にいる男が装置を通して告げる。運転席と他の席は仕切りがあって音が無線のようなものを通さないと聞こえないため、気付かなかったが既にソレンス家の敷地内に入っていた。

 マリーの身だしなみを優しく整えて降りる準備をする。大人しく、されるがままのマリー。その顔はどこか嬉しそうだ。前世ではほとんど記憶の無い父親の存在はマリーにとって母親よりも少し特別な存在だ。

 ゆっくりとスピードを落として車が止まる。お付きの者がマリーとルイのいるところの扉を開けて待機する。開いたことを確認したルイはマリーと手をつなぐと一緒に車から降りた。


「わぁ。これがソレンス家の家かぁ……。」


 ユークラテス家よりも色が涼しげなものが多く、綺麗というよりかっこいい印象の館だ。植物も自宅と比べると少なめだが、地面に敷き詰められた石畳みや、街灯は近代的な雰囲気を醸し出している。

 ルイとともに眺めて歩いているとソレンス家の従者と思わしき老人がやってきた。


「本日はわざわざご足労いただき、ありがとうございます。お待ちしておりました。旦那様が執務室にいるのでそちらへ案内させていただきます。こちらへどうぞ。」


 そう言って歩き出す。マリーはなんとなくおざなりな対応に思えたのでルイに歩きながら聞いてみる。するとルイはとろけるような笑顔で答える。


「ソレンス家とは付き合いが長いからね、多人数での会合とかもっと違う場所でだったら、違う態度になってるよ。でも、まぁソレンス家の中でだからね。」


 そう言いながらマリーを抱っこする。突然の抱っこに驚いて思わずルイの首元にしがみつく。その仕草さえ可愛くて仕方ないのか、朝に車に乗り込んでから頬笑みが絶えることはない。父親はみんな娘に弱いのだ。

 広い館とはいえ、流石にそう時間がかかることも無く、執務室へとたどり着く。ルイーはそっとマリーをソファへと下ろす。肌触りが良く、柔らかすぎないソファは誰でも一目で高級品だと分かる物だ。マリーも思わず撫でて無意識に「はわぁ……」と零す。可愛いなぁと言った表情で娘の様子を眺めるルイだが、本題を思い出してマリーへ声を掛ける。


「マリー。これからちょっとお仕事があるから、その間にアルのところに行っておいで。」


「!!……はい。」


 いつの間にか傍に来ていたアルの付き人、ケビンが静かに案内をしてくれる。広い館内に足音が響く。ユークラテス家では絨毯が敷いてある廊下だが、ソレンス家では大理石のようなピカピカした床だ。ただ、足音は石のようだが踏んだ感じが石っぽくないのでマリーの知らない素材か何かなのだろう。

 マリーそうやって色々観察していると、いつの間にかアルの部屋の前へと着いていた。ケビンがノックをするが返事がない。何回か叩いてみるが、やはり返事がない。流石のケビンも客人を待たせるわけにもいかないため、そっと扉を開いて中を確認する。すると、アルが机に向かっているが、ぐずぐずと泣いている姿が見えた。その姿に心を痛めるが、癒すにはマリーが一番だろうとすぐに判断し、マリーを中へ通すことに決めた。


「マリアンヌ様、坊ちゃんはどうやら課題中のようです。ちょうど休憩をはさむべき時間ですので、そのまま話しかけてあげてください。」


「え、良いんですか?私なら待ちますが……。」


「いえ、マリアンヌ様に休憩を告げられた方が坊ちゃんも喜びますゆえ。」


 そう言って、厳つめの外見とは裏腹に柔らかい笑みを湛えると一礼して扉近くで待機の態勢を取る。それを見て、マリーもこれは入る流れだろうなと思い一応もう一回自分でもノックをする。やはり返事はない。


 マリーは男の子の部屋に勝手に入るのに思春期時代の気恥ずかしさを思い出すが、相手は6歳、大丈夫だろうとあたりを付けて扉を開けたのだった。

多分SAO始まったのでしばらく日曜日更新だと思います。

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