アルくんお疲れ
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ディルが学院に通うになって、マリーと2人で過ごす時間が増える。
「そう思っていた僕は、まだまだ駄目ってことかな……はぁ。」
部屋に大きな溜息とともに弱気な発言がこぼれる。しかし、部屋にはだれも咎める者はいない。机に向かい、一心不乱に書き進めていた課題の手を止める。
もう1つ、歳に似合わない大きな溜息を吐くと視線をツツと横にずらす。課題をやる前にはソイルの季節らしく眩しい日差しが差していた部屋は赤い色に包まれていた。
用意されていた飲み物は既に冷え切っている。手元にあるベルを鳴らせばすぐにでも扉の前で待機している誰かしらが温かいものを入れ直してくれるだろう。しかし、そんな気分には到底なれなかった。
ディルが学院に入学してから既に季節が移ったわけだが、マリーと一緒に過ごす時間はほとんどなかった。なぜならば、ディルの1つ下であるマリーとアルは受験生の仲間入りをしたからだ。前々から少しずつ受験勉強はしていたが、やはり受験生の立場となると訓練や課題はさらに厳しい物になった。
もちろん年齢や疲れ具合を考慮して、最良の状態になるようにしてもらってはいるが、アルにはここまで根を詰めなければいけない訳があった。
「……。なんだかんだ言ってディルは凄い奴なんだよね……。」
そう、多方面でライバルとなったディルの存在である。誕生会で出会ってから一緒に過ごすことが多かったディルだが、その間にもしっかりと受験の準備をしており、なんと学院に主席で合格したのだ。年上ということもあり、体力面では常に負けていたアルだが、まさか勉強もあんなに出来るとは思っていなかった。そして主席で入学することを知ったマリーの反応はアルが思わずマリーすらも睨んでしまいそうになったほど大げさなものだった。
キラキラと輝いた眼で見詰めて、凄い凄いとはしゃぐマリーの姿は可愛らしかったがアルにはまるで負けを宣告されたようだった。
体格で負け、武術で負け、勉強も負け、会話も貴族の息子らしく家に引きこもっている自分よりも商人の息子として色々触れているディルの方が会話もおもしろかった。
体格は年齢差を考えたら今はしかたないだろうと兄達にも諫められ、渋々大きくなるのを期待してるアルだが、勉強面はそうも言ってられなかった。せめてディルに対抗するには今度の学院の試験で主席を取って、並ばなければと行きこんでいた。そしてそれを親や兄弟、先生に話したところ全力でサポートをしてくれる運びとなったがそのせいでスケジュールが過密になってしまったのだ。
休息日にマリーのところに行って笑顔で遊ぶ元気も、あまりキープできない状態だ。それでも、たまにマリーに会いたくて我慢が出来なくて重い体を引きずって会いに行ったが逆にマリーに心配されてしまい、格好がつかなかった。そのためマリーと会う時間はむしろ前の半分以下になってしまったのだ。
優秀な世界中の子どもたちが集まる学院で主席を取るということは、もともと優秀なアルであってもここまでしなければ難しいものなのだ。それをマリーと高い頻度で会っていたにも関わらずもぎ取ったディルのそのポテンシャルたるや、今の段階ではアルを軽く凌駕していることが分かるだろう。
「マリー……にはかっこいいって思われたい。けど会いたいのに会えないのはやだ……。でもディルに負けたくない……。」
弱気になり、思わず目から滲んできてしまった水をゴシゴシと乱暴な手つきで拭う。声が微かに震える。感情がうまく抑えられない。
年齢を考えれば驚くほど冷静なアルだが、やはりまだ子供。好きな女の子を取られてしまうかも知れない、その恐怖心で浸水から洪水となった涙を止めることができない。しかし、声は必至に抑える。廊下で扉の前に待機している者に聞かれたら、ディルに対して弱気になって泣いている姿を見られてしまう。これでも貴族の子息、自分より下の立場の人間には基本的に弱気なところは見せないという意地があった。
本当なら母親に抱きついて泣きわめきたい気持ちがあったが、それではディルに負けを認めているようでそれも出来なかった。ゴシゴシと先ほどよりも強く目元をこする。綺麗な灰色のシャツが黒く染まる。まだ、負けてない。心の中で何回も唱えてマリーの顔を思い出す。
「……ぼ、僕はマリーと、けっ結婚するんだぁ……。」
しゃっくりあげながらマリーへの想いを口にする。それだけでもう少し頑張れる気がした。課題をちゃんと進めなきゃ、と鼻をずずっと吸って再び机に向き合う。なんとなく痰が絡んだ感じがしたので余っていた飲み物を一気に飲み干す。よし、っと誰に聞かれることもない気合いを入れて課題を進めようとした時、部屋に控えめなノックの音が響いた。
「おぼっちゃま。お客様がいらっしゃいました。こちらにお通ししてよろしいでしょうか?」
アルはその言葉に違和感を覚えた。普段、誰かしらアルが来訪者と会う時は必ず応接室で会っていた。それが個人の部屋で完全にプライベートな空間に人を通すという。
新しい先生でも増やすのかな?しかし、それならお客様だなんて言い方はしないよね?と頭を悩ませるが、けして短くはない時間を過ごしている家の者達が通すのだから問題ない人物なのだろう。そう結論付けると深呼吸をして目をそっと抑える。少しでも目の赤みが引くことを祈って冷えた手を少し当てたら「どうぞ。」と告げる。その声に呼応して静かに開かれる部屋の扉、その先にいたのはアルの会いたくて会いたくてたまらない人物。
「アル?来ちゃった……。えへ。」
いつものように可愛らしく、可憐な笑みを浮かべるマリーがそこに立っていた。
「マ、マリー?!どうしてマリーがここにいるの?!え、えぇ?」
マリーは今までアルの家には来たことが無い。この世界の貴族の令嬢たちは蝶よ花よと大切に育てられ、まさに箱入り娘である。そんな娘が小さくとも男の家に遊びにいくなど言語道断。貞操観念が現代日本では考えられないほど硬いのだ。そのため男女が遊ぶ時は男が常にエスコートするか、女の方へと行かねばいけない。その慣習に習って、アルも当然のようにマリーの家へと足しげく通っていたのだ。
だからこそ、マリーが自分の部屋にいるという状況に驚ききっていた。口をパクパクさせ、なんで?と焦る傍らに目の前にマリーが居る状況に嬉しさを隠しきれない。その結果目を見開いて、口は笑みを浮かべながらパクパクして頬を赤らめるという、微妙な顔になっていた。
そんなアルの心の乱れを知ってか知らずか、マリーはアルの方へと歩み寄る。その間に部屋に通した執事は部屋を出てまた扉の前に待機する。
マリーはすぐにでも手を伸ばせば届く位置までくると、あれ?と不思議そうな顔を浮かべる。
「アル……泣いてたの?」
そう言われてアルは顔をこれ以上ないまでに赤くする。好きな女の子にかっこ悪いところを見られた!その激情は想像以上のものであり、アルはせっかく止まった涙がまた溢れ始めてしまった。
これに驚いたのはマリーである。男の子に泣いたかなんて聞いたのは失敗だったと焦る。男を15年やっていたのに、男心を忘れているか!と自分を叱咤する。あわあわと近づいてどうすべきか悩む。
(どうしよう……まさか泣いちゃうなんて思わなかった。なんで泣いてるの?いや、私が恥かかせちゃったのが原因っぽいけど、その前に目を赤くした理由は何?!)
焦るマリー、泣くアル。いよいよ収集が付かなくなる。泣き止まないアルに、困るマリーだが前世で妹が泣き止まなかったときの事を思い出した。
(妹はいつもこれをやると泣きやんだ……。)
アルの頭にそっと手が置かれる。アルの体がビクっと動くがそれ以上は動かない。綺麗な手触りの良い髪をなでながらマリーは話し掛ける。
「アル、どうしたの?痛いの?疲れたの?眠いの?」
その声が存外に優しすぎてアルはさらに泣きたくなった。
「……。ま、まけたくないし、マリーと一緒がいい……。」
負けたくないはおそらくディルだろうとすぐに思い至ったマリーだが、マリーと一緒で混乱した。
「……。えっとディルは年上だし、まだまだ先がいっぱいあるし。それにえっと、あ、ほら、前にアルにあげたコースターあるでしょ?結局私がプレゼントしたのってアルだけなの。あれが私の分身みたいなものだしいつも一緒だよ!学院だって一緒に受験するし、家だって行き来できるよ。私が一番長い時間一緒にいる同年代の子はアルだよ?」
とりあえず、一緒で考えらることを告げて一緒にいるアピールをする。子供が泣いていたらまず不安の元らしきものを叩こうという安直な考えのもとに出した言葉だった。
マリーの言葉を聞いて顔を上げるアル。真っ赤になった目が痛ましい。
「マリーから貰ったの僕だけ?……特別?」
「そうだよ!特別。初めてのお友達で、一番の仲良し。」
「一番……ディルより?」
「うん。」
その言葉を聞いてアルはふにゃりと笑みを浮かべる。長時間の勉強と泣くという行為で疲れたのか、目がとろんとしている。少し足元がおぼつかない。その様子を見たマリーはそっとアルに近寄り腰に手を回す。そして優しく話しかけながらベットへと誘導する。まだ幼く極端な体格差の無いおかげで無事ベットまでたどり着いたアルをそっと座らせる。そして、そのままそっと寝かせる。アルは眠気がどんどん増してきたのかされるがままになっている。普段しっかりしているアルの歳相応な幼さに父性、今は母性と呼ぶべきものが湧いてくる。
アルがしっかり寝ころんだのを見たマリーはタオルケットをそっと掛けてあげて頭を撫で続ける。
「アルはいっぱい頑張って疲れてるんだよね。今は寝よう。……お休み。」
頭を優しく撫でながらそう告げると、アルはコクンと頭を軽く頷かせる。そしてふた呼吸ほど後に目を完全に閉じた。寝息が静かに部屋に響く。
泣きながら寝てしまったアルの様子に胸がきゅうっとなるのを感じながら撫で続ける。あぁ。
「可愛いなぁ。」
マリーの口からこぼれた言葉は完全に母性から来るものなのか、それとも……。
マリーは呼吸音しかしない部屋でアルと一緒に横になり、撫でていた手を止める。そしてすぅすぅと静かな寝息を立てるアルを慈しむような目で眺めると、そのまま一緒に眠りへと誘われたのだった。
分量が安定しないです。でも文字数合わせようとすると話しの間隔が微妙かなーってついついあきらめます。