ディルクは年上
今回は短めです。
自分の書いたものを読み返してくどいと思ったので、もっとあっさりした感じにもっていきます。(もっていけるとは言っていない)
無事に社交界デビューは終わった。あの誕生日会で出会ったディルクはあれからアルと同じくマリーの家へ遊びに来るようになった。
アルとディルクは犬猿の仲になってしまい、顔を合わせるたびに喧嘩をしていた。しかし、喧嘩するたびにマリーが怯えたような、呆れたような顔をするためマリーにバレないように静かにやりあうようになった。まぁ、やりあうと言っても言い争いか武術での試合形式なのでさほど問題はないのだが。
いつのまにか3人で一緒にいることが当たり前になって1年の時が過ぎた。その間に身長は少しずつ伸びて、もともと年齢が上だったディルクは1番身長が高い。しかし、小さい頃は男女差はあまりないためアルとマリーはほぼ横並びになっていまい少し拗ねていた。マリーは手芸以外にも料理や宗教など他のジャンルも習い始めた。アルはよりいっそう修練に余念がなく、以前よりも一回り成長した。ディルクのせいで多少腹黒くなってしまったのが実に残念だ。
そしてメイルの季節が来た。花々が咲き乱れ、温かい空気に包まれる入学式の季節だ。1つ年上で7歳になったディルクは学院に入ることになった。家柄もあるが、それ以上に優秀な成績であるディルクが学院にはいるのは必然と言って差し支えないだろう。
今日は入学式前にディルクがマリーの家へと来ていた。
「おーマリー。割と久しぶりだな。どーよ俺の制服姿?いつもよりさらに男前だろ?」
要はマリーに制服を見せつけに来ただけだ。ジャジャーンと言わんばかりに両手を大きく広げて見せるディルク。白いブレザージャケットが眩しい。学年ごとに色の違うタイは深緑の大人っぽいものだった。胸元には成績優秀者に与えられる金色のバッジが輝いている。まだ小等部なため膝小僧の眩しい半ズボンだ。黒地にうっすら入っている灰色のチェック模様が思い印象を消していて可愛らしい。靴は指定のブーツだ。しかし、そこは大手商店で流行を追いかけているディルク。紐だけは別の物に替えて一味違うお洒落上級者のような雰囲気を漂わせていた。
「うん、かっこいいよ!お兄様達で制服は見慣れてるけど、そのタイの色は初めて見たなぁ。制服いいなぁー大人っぽい。」
見慣れたものではあるが、改めて新品の制服に包まれているディルクを見ていると懐かしく思う。今ではほとんど思いださなくなった前世での学校生活。以前は学ランを着ていたが、今度自分が着るのはブレザーで女子の物である。人生とは何があるか分からないものだ。
いつもならすぐに噛みついてきそうなアルだが、この時ばかりはディルクの制服姿をおとなしく見ていた。その見つめる視線には分かり辛いが憧憬の念が込められている。この制服は兄2人も着いたものであり、アルにとっては一種の大人になった証のようなものなのだ。自分も来年になったら着るのか……似合うかな、マリーも当然似合うだろうな、などと妄想して頬を緩めた。
「おい、アル。何ニヤけてるんだよ。……どうせ自分の制服姿とかマリーの制服姿でも考えてたんだろ?ケッ、お前が来年学院に入れる保証なんてないだろ。お前1人だけ学園かもよ?」
どこか見下したような視線で語る。もちろんディルクは本気でアルが学院に入れないなどとは思っていない。1年一緒に競い合っていたのだ、相手の実力がどんなものかは下手したらアルの両親よりも知っているだろう。
アルもこれがいつもの皮肉や、からかいの類だと分かっているため本気では怒らない。
「僕は優秀だから大丈夫さ。ディルの胸にあるバッジだって付けるさ。マリーもきっと女子の部で貰うだろうし、お揃いだね!」
そう言ってマリーへ笑いかける。突然自分に話題が飛んだため一瞬驚いたが、この2人が強制的に話題を自分に向けるのは今に始まったことではないため、すぐに応対する。
「えへへ、アルはすごい成績良いってルイズ様も言ってたしきっと学院でも1番取れるよ。私は……どうかなぁ?他の女の子には全然会ったことないし……。私、2人としかまともに遊んでないけど学院でいじめにあったりしないかな?入学したら既に仲良いグループ出来ててハブられたりして……。」
笑顔から一転、ネガティブな想像で顔色を悪くするマリー。その様子をみてポカンとする2人。
「マリー?学院では成績優秀で家柄良い人が酷いことに会うことはないよ?将来に影響出るからね。」
「そうだよ。マリーが黙ってても、みんな仲良くしたいって寄ってくるよ!それに学院に来るレベルの人でそんな滑稽で低俗な事する人はいないんじゃないかなー?」
不安がるマリーを励ますように学院の事を話す。
「それにマリーは僕と一緒に入学するんだから友達がいないってことはないよ!」
「馬鹿か!男と女は結構授業別になるから一緒にいれない時間のほうが長いんだぞ?それより、先輩と仲が良いってだけで充分牽制になるって。上下関係厳しいからな。」
「そうなの?」
兄が既に学院に通っているが上限関係が厳しいとは初耳だった。兄達は上下関係を気にしなくていいほど既に上の立場なのか、それともネガティブな話しはしなかっただけなのか。ディルクの言葉に乗っかるようにアルも話す。
「僕も兄様に聞いたけど、男子は特に厳しいみたい。ただ、女子はどうかなぁ?男女一緒にいるときは和やかそうだけど、別になったらどうかはわからないっていってな……。女の子は謎がいっぱいだって。」
マリーは女の子だけど裏表ないよね、なんて言いながら笑顔で告げる。それを聞いてディルクは顔をげっそりとさせ、脱力する。
「うへー。男の上下関係厳しいってマジかよ。嫌だなー俺は常に上でいたい。」
「ディルは上級生から怒られそうだね。まぁ面白そうだったらマリーと一緒に怒られてるの見に行くよ。」
凄い良い笑顔で告げるアルの言葉に、顰めっ面になる。マリーはそんな言い方だめだよと軽く注意しながら笑う。マリーは本気だとは思っていないが、アルは割と本気で見に行くつもりだった。年齢差や体格差によって武術関係は負け越しているのだ、出来ればマリーにディルのかっこ悪いところを見せて幻滅させたいと思っていた。ちょっと卑怯だ。
「うるせー。俺はそこんとこヨーリョー良いんだよ。それよりお前のほうが色々言われるんじゃないか?なよなよしいからな!チビは舐められるんだぞ。」
その言葉を聞いて渋い顔をする。確かにアルはディルだけではなく他の同世代と比べても小さい方なのだ。渋い顔をしたのはアルだけではなかった。マリーも前世ではかなり小柄な方で女男とからかわれることも多かった。アルの気持ちが痛いほど分かる。男としても悔しいし、身長など努力だけでどうにかなるものではないのだ。
「アル、大丈夫だよ。すぐに大きくなるよ。あっという間に大きくなって私も見上げるのが大変になっちゃうかもね。あ、でも今のほうが目線が近くて話しやすいな。」
そう言いながら顔を近づけて見つめ合う。好きな子と至近距離で見つめ合い、呼吸が止まるアル。それを苦々しく見つめたディルはすぐに詰め寄り2人を引き離す。
「あーでもさ、大きかったらおんぶも抱っこもやりやすいぞ。怪我とかしても背負えない男なんて頼りにならないだろう。」
嫉妬丸出しの言葉にアルはズボンをギュっと握り睨む、マリーは対抗していることが分かりやすかったため苦笑する。そんな対称的な反応を見て、ボケっとしているようで自分のほうが中身は大人だよな、と改めて思う。
そんなことはつゆ知らず、アルはいらだちをぶつけるように強い語調でディルに問いかける。
「……だいたい、今日はマリーとふ・た・りでお茶会だったんだけど?制服見せに来ただけとか言わないよね?僕たち2人は兄がいるから制服なんて見慣れてるんだけど?」
「え?制服見せに来ただけだけど?」
「ディールゥー?」
後ろにゴゴゴと効果音が入りそうなしかめっ面で睨むアルに、まぁまぁと両手を軽く振りながらあしらう。
マリーはなんとなくそれだけじゃないような雰囲気を察してジっと見つめる。するとマリーの視線に耐えきれなくなったのか、浮かべていた軽い笑みを消し、微かだが悲しそうに眉を下げる。
「……まぁ、学院に通い始めたら今まで見たいに会いに来れないからな。俺がいなくて寂しくなっちゃって泣くなよ?」
笑いながら軽く言うが、その言葉を聞いて2人もハッとする。あのシスコンである兄達でさえ夜くらいしか話せないのだ。さらに学院では学舎や学園よりも休みが少なく、休みの日でもイベントがあるのだ。
マリーが悲しそうに目を伏せると、ディルは優しく微笑みながら頭をなでてやる。今日は髪型がアップでなくてよかったと内心で思いながら何回も優しく撫でる。いつもならここで突っかかるアルもライバルが1年もの間会う回数が極端に減ると思うと寂しくなる。大人になってからの1年など一瞬だが、6歳の子供にとっての1年はとてつもなくなく長い。なにせ今まで生きてきた中での人生の6分の1も待たなくてはいけないのだ。
いつもからかってばかりのディルも寂しそうにしているアルを見て軽く背中を叩いてやる。兄はいなくとも弟のいるディルだ、慣れた手つきである。アルは恥ずかしくなったのか、手を払いのけてフンっと顔を横に向ける。その仕草がどことなく子供っぽくてマリーはやっぱり1年の差は大きいなと思った。
「まぁ、どうせ2人とも来年には一緒にくるんだ。それまでの我慢な!くぅーマリーの1年後は楽しみだな!」
場を明るくするために言った言葉だが、実際に未来を想像してにやにやと笑みを浮かべる。アルも先ほど思い浮かべたマリーの制服姿を思い出して悦に浸る。マリーは女子の制服がどんなものかしらないので想像ができない。しかし、この2人はきっと大きくなったら素敵な男性になるだろうと思う。今の時点で一目見て綺麗な顔をしていると思うのだ、将来は女泣かせになるだろう。
「それに学院に入ったら町の散策もオッケーになるしな!」
その言葉に全員が明るい表情になる。警備や成長、常識の問題で学院に入る年齢まで町を自由に出歩くことのできなかったアルとマリーはいつもよりもさらに目を輝かせる。ディルは元商人である父の教育方針により少しは町へと出ているが、まだ1人で出かけたことはない。おつかいなどももちろんしたことがない。学院に通うにあたり指定の車で現代のバスのようなシステムで移動することとなる。3人が考えるのは学院帰りの食べ歩きや、友人との戯れ。それぞれが、思い思いに未来に希望馳せる。
「俺は一足先に行ってくるから、お前らもせいぜい自分を鍛えろよ!じゃあ、俺は明日に備えて帰るわ。じゃあな。」
そう言って颯爽と帰っていく背中は今までで一番大人に見えた。
ちょっと、脱線しやすい性格なので最後までプロット書こうと思います。じゃないと蛇足とか閑話多すぎる……。もしかしたらその関係で来週の更新無い可能性もあります。