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僕は女に生れて正解ですね。  作者: どんとこい人生
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好敵手

ちょっと投稿遅れました。月曜0時にアップすべきだったかな。

 小さな紳士2人が火花を散らしているのをルイズは微笑みを湛えながら眺めていた。

 マリーのことは可愛いと思っているし、アルもマリーのことを好いているのは明白だ。出来れば2人にはくっついて貰いたいと思っている。しかし、いくつになっても女は女。結末はどうであれ、人の恋愛模様ほど面白い物はないのだ。

 それに、ルイズはこの程度で心が折れてしまうのならそれもしょうがないし、この程度折れるやわな息子に育てた覚えはないと思っている。これも一種の息子への信頼の1つと言えるだろう。


 一方でリディアは仲裁に入るべきか悩んだ。

 今までマリーと一緒にかわいがってきたアルを簡単に無視することはできない。しかしそこは貴族の女性、マリーが戸惑う一瞬の間に家同士における現時点での関係とその他メリットデメリットを考えた。その結果、マリーの普段の行動と頭脳を視野に入れればどう転んでも問題ないと結論付けた。

 受け身なマリーと積極的だが押しの弱いアルの2人では、今後もこういった第三者からの介入はあるだろう。この展開をどうもっていくかで2人の未来は変わるかも知れない。そんな風に考えるのだった。


 マリーはディルクの手を取ってしまった時点で、振り払う勇気も後のフォローも出来る自信がなかった。そのため、アルには申し訳ないと思いつつもディルクと踊ることを決めたのだった。

 まだ他の家のことには詳しくないマリー。自信に充ち溢れた姿と、周りの反応から考えて、思いのほか高位の貴族なのかもしれないと思っていた。


 ディルクの手慣れたリードの元ホールの真ん中へと立ち並ぶ。前世での社交ダンスとほとんど相違ない構えをする。色気など微塵もないが中々様になっている。しっかり構えられたのを自分の中で認識すると、少し視線をずらしてアルの方へと向く。アルは悲しそうな悔しそうな、それでいて心配で心配で仕方ないと言った表情を浮かべていた。

 5歳くらいの子供が、自分がやるはずだった主役級の座を突然奪われたら普通は癇癪を起すだろう。しかし、アルはそんな様子をほとんど見せずにただマリーを心配していたのだ。そんな姿に愛おしさのようなものを感じた。やっぱりアルはアルだなぁと少しばかり不安に染まっていた心が浄化されていくような感覚がした。


 ディルクはそんなマリーの表情の変化を見逃すような男児ではなかった。マリーをじっと見つめてニヤリと笑みを浮かべる。その力強い眼差しにマリーは反応して視線を返す。

 特にリアクションを返すことも無く、年齢に釣り合わないニヒルな笑みを浮かべたままのディルクに業を煮やして思わずなんですかと聞こうとしたところで演奏隊による煌びやかな音楽が始まった。

 マリーが声を上げる間もなく踊り始める。そしてマリーはディルクのダンスの腕前に舌を巻いた。


(この子、素人の私でもわかる……すごくダンスがうまい。)


 初めて組んだとは思えないほど、なめらかな踊り出しだった。一緒に練習などしたことも無いのに動きに迷いも戸惑いも一切ない。

 アルとのダンスは二人三脚、一緒に頑張ろう、こっちだよ気をつけて、といった雰囲気なのだがディルクは全く違う。俺に付いて来い、ついてくれば俺が全部どうにかしてやるから俺に身を委ねろ、そう言われているかのような力強いリードだった。

 人によっては自分本位なダンスで不快に思うだろう。しかし、人の後ろについて指示を貰う方が楽だと思っているマリーからすると、初めての公式の場でのダンスパートナーとしては非常に頼もしい。単純な踊りやすさだけならばアルよりも上かもしれない、そう思った。


(でも……。)


 マリーが踊りながら思考の海に飛び込む直前でディルクが話しかけてきた。


「お前が今日の主役、マリアンヌだったんだな。」


 ダンスでの俺様っぷりが納得出来るような横柄な言葉遣いだが、太陽のような眩しい笑顔で中和されているように感じる。大抵の人が、しょうがないなと許してしまうような人を引き付けるような笑顔だ。

 しかし、初対面の相手である事には変わりない。もともとコミュ障を患い気味なマリーはアルとは違う好戦的な雰囲気に戸惑う。自分の掛けようとした言葉は消えて、いきなり話しかけられたのだ。唾が上手に飲み込めない、喉に突っかかりを感じて言葉がうまく出せない。とりあえず反応を返さなければと思い、小さく頷きを返す。


「さっきも言ったが、俺の名前はゲッツァルダント・ブルドン・ディルクだ。さっきはぶつかって悪かったな、このダンスはお詫びのしるしだ。俺は今、この年代の社交界で一番注目を集める熱い存在だからな、俺と踊れただけで箔ってもんが付くんだろ。お詫びってレベルじゃないと思うぜ。、むしろかなり得だ。他に何か聞きたいことは?」


 ぐだぐだと無駄話が好きではないのか、マリーが聞きたがっていそうなことをあらかじめ予想して答える。聞きたいのはこれだろう、とニヤニヤとした顔して言われたことに珍しく少しイラっとする。


(これがドヤ顔ってやつかな、これは流石に癪に障るというかなんというか。)


 そんなマリーのいらつきが顔に出ていたのか、ディルクは自信に充ち溢れた笑みを浮かべたまま、雰囲気だけ怒りにシフトしていく。


「なんだよ、不満か?この俺だぞ?それとも馬鹿なのか?」


 ディルクはこの会場の誰よりも人気と注目があると思っていた。家の格自体は上がいることを知っていたが、ここ最近の資金力は群を抜いており、嫁入りさせたい子供ナンバー1なのだ。特に、昔に貴族としての繋がりがほぼリセットされたため、やっかいなしがらみも習慣も少ない。まさに超優良物件なのだ。

 そんな自分と踊れるとなれば、どこの女子も喜ぶはず。事実、今までずっとそうだった。しかし、このマリアンヌというヤツは喜びもせずに、ずっと違うヤツにばかり視線をやり不満げな想いを隠すこともしない。その事実に憤りとイラつきを隠せなくなっていく。


 マリーからすればアルとのダンスを邪魔した厄介者という認識が一番である。貴族としての義務感、家族への義理がなくて強気であればお断りしていたはずだ。

 ただ、ここで文句を言えるような度胸がないからこそ踊っているマリーは口をもごもごと動かしはするが、何も単語は発しない。その態度にさらにいらつきを募らせたディルクは周りにばれないように舌打ちをする。その音に怯えてさらに言葉が喉の奥へと引っ込んでいく。そのことにもさらにいらつきを重ねて不機嫌になっていく。不幸な連鎖だ。

 しかし流石は大商人の息子と言うべきか、その不機嫌さはマリー以外にはほとんど伝わることはなく隠されている。


「なんだよ……文句があるならハッキリ言えよ。お詫びに踊ってるっていうのに意味無いのかよ。」


 理不尽とも正論とも取れる言葉を発しながら、構えている手を強く握る。マリーはその予想外な力強さに恐怖してしまう。たかが5歳か少し上の男の子に怯える必要はない、そうは分かっていても手を通して感じる微かな痛みはマリーに確かな威圧感を与える。

 男女の格差はまだたいして無くても現段階でマリーよりも一回り大きいのだ。ディルクが本気で引っ張ったらマリーはまともに抵抗できない、それくらいの力量差があった。周りに大人がいて守ってくれる、社交界で暴力を振るうような人はいない、そんな常識も動物的本能の前では霞んでしまう。

 その恐怖から逃れるように、また視線を外に逃がすとすぐに心配そうな表情を浮かべたアルが目に入ってきた。


 眉を八の字にして少しずつ移動していくマリーを追いかけるように移動する。そんな情けないとも取れる状態で、他の子とダンスもせずに私を追いかけていいのかと思わず心配してしまった。まるで飼っていた愛犬が必死に主人を追いかけるような、子供が親を追いかけるような姿に愛おしさが込み上げてきた。 先ほど感じた恐怖心はその愛おしさに飲み込まれて消えていき、笑顔を浮かべる余裕も出てきた。


 ディルクは先ほどまで怯えたような顔をしていた子が自分から視線を逸らしてすぐに笑顔を浮かべたことに酷く自尊心を傷つけられた気がした。しかし、マリーの浮かべた笑顔に思わず見とれてしまったことも事実だった。

 笑顔を浮かべたのは目を逸らして安心したのかと、マリーの視線を追うと1人の同じ年か少し下くらいの男の子がいた。その男はディルクからすれば『情けない男』それに尽きた。誰とも組まずにうろちょろと自分たちに、いやマリーに付いてくる。顔には自信など微塵も感じない貴族の男子としては残念としか思えないような者だった。


 そんな男には離れていても笑顔を振りまくのに、俺とはダンスするのも嫌なのかと考え付いて頭が沸騰したかのように熱くなった。

 周りからは気付かれないように怒りを溜めていく、そしてじっと見つめてしばらくするとソレンス家の三男であることを思い出した。


 俺は注目の貴族で、優秀で、長男なのに……と嫉妬心を込めた睨みを飛ばす。するとその視線にやっと気付いたのか、アルは一瞬はっとした後にディルクのような獰猛さはないが、静かな怒りを湛えた睨みを飛ばし返した。

 マリーはディルクが睨んでいることに気付いていなかったため、アルが突然見たことも無いような険しい表情を浮かべたことに驚いて、ただでさえ大きい目をさらに大きく開いてパチパチと瞬きをする。

 演奏隊の演奏が終盤に差し掛かったことに気付いたマリーは一旦アルの睨みについては置いておき、ダンスをしっかり終わらせようと気合いを入れる。アルとのアイコンタクトで色々回復もした。このダンスが終わったらアルのフォローをしに行こうと考えながら必死に足を動かす。

 ここまできて、やっと落ち着きを完全に取り戻したマリーはずっと視線をずらしていたことが、どれだけ失礼なことかを思い出した。そっと視線をディルクの方へと向ける。すると、いつの間にかディルクの視線が自分からずれていたことに、今更気付いた。もしかして、あまりに視線を逸らす自分に嫌気が差してやる気を失いつつあるのかもしれない。そう考えたマリーは何をどうしようかと考える。

 とりあえず握っている手を優しく握り返して、ちょっと情けない表情を浮かべながら謝罪をする。


「ごめんね。」


 人見知りで、話すのが得意ではないマリーの色々と足りていない謝罪。しかし、言葉足らずであってもマリーほどの美少女に上目遣いで謝罪されて悪い気がする男などいないだろう。もしも、いるとすればそれは幼児に一切興味がないか女性に興味がないか生き物に興味がないかの3択だろう。

 もちろん女の子に興味のあるディルクも例外ではなかった。今まで何人もの女の子に声を掛けられてたし、踊っても来た。その誰よりも可愛いと思った。相手からの拒絶反応こそあったが、ダンスの相性も良かったと思う。少し興味が湧いてきて独占欲がムクムクと出てきた。


 まだ、好きとか結婚したいとかの感情はないが、自分のモノにしたい、そしてソレンス家の三男には負けたくないという思いが湧いてきた。自分が好戦的であることを自覚しているディルクは早速アルには挨拶しておこうと、少しばかりダンスの進路を変える。

 アルの目の前へと違和感なく移動することに成功したディルクはまたアルへと勝気な視線送る。アルも幼いながらも男の勘とも呼ぶべきもので自分が挑発されていることを感じ取っていた。

 演奏の終わりと同時にマリーをギュッと抱きしめる。周りの大人たちからは踊り終えたこと喜びあっているか、こけそうになったのをフォローしたのかと温かい眼差しと拍手を送る。しかしアルは気付いていた。これはディルクからの見せつけだと。


 ディルクはすぐにマリーから離れて周りへと礼を返す。マリーもそれにならって礼を返す。その真似すような様子に大人たちは、存外に相性がいいかもしれないですねなどと呑気に談笑していた。

 ここまでくれば大丈夫だろうと思い、マリーへと駆け寄るアル。しかし、アルがマリーの元へとたどり着く直前にディルクがマリーへと話しかけた。


「なんだか、俺はお邪魔だったみたいだな。悪かった。でも、俺はお前結構嫌いじゃないんだ。友達になろうぜ?」


 先ほどまで悪印象ばかりだったディルクからの素直な申し出に驚いて固まるが、前世から続く友達の少なさを気にしているマリーにとっては渡りに船。アルとの関係を知らなければ、先ほどの言動も仕方のないことだったのかもしれないと思い直したマリーは笑顔で了承する。


 その一連の流れをまざまざと見せつけられたアルは呆然とする。今までは自分が1番の友達で、ライバルなんていなかった。しかし、今目の前でライバルが出来てしまったのだ。そのことに気付いたアルは苦虫を噛み潰したような顔しながら自分の行動の遅さを悔いた。


 ディルクは笑顔のマリーの後ろに映るアルの表情に、少しスカっとした気分に浸っていた。

 実はディルクの中ではマリーへの思慕よりもアルへの対抗心のほうが勝っていた。マリーは自分よりもソレンス家の三男を求めているんだ、という考えが生んだ対抗心。

 先ほどの反応から、マリーはあまりぐいぐいと強く責められるのは苦手だと分かった。ならば、友達として少しずつ近づいてあいつから奪ってしまおう。そんな考えからの行動だった。

 アルの表情を見るに、自分の行動は間違っていないと確信したディルクはそんなことは態度に出さす、マリーと友好的な握手を交わす。

 アルはどんどん自分が話しかけるタイミングを失って、足踏みをしている間に、どんどん2人が仲良くなってしまうと不安、焦燥感を感じた。急いで2人の間に割って入り、マリーへと笑顔で話しかける。


「マリー、一緒に踊ろうって言ってたのにごめんね。僕が遅かったばっかりに……。次は一緒に踊ろうね?」


 言外に空気を読まない馬鹿のせいで約束果たせなかったね、僕らのほうが仲良しだよねと言う。そのことをしっかり読みとったディルクは煽るように、言葉を重ねる。


「いやー、誰も前にいなかったから女の子に寂しい思いをさせたら駄目だと思ったんだけど、余計なお世話だったかな?ごめんね。あと、さっきの廊下でのことは内緒な?」


 アルの行動の遅さと、アルの知らない2人の時間があったことをアピールするディルク。マリーは5歳くらいでそこまで考えて話ているとは思っていないため言葉のままに受け取る。


(貴族の子供が他人様の廊下で走って女の子にぶつかったなんて、広まったら悪く尾ひれ付くかもしれないし……親に怒られることを心配してるのかな?)


 そう考えたマリーは素直に頷く。アルはマリーに隠し事をされたことにショックを受けるが、こいつには負けないとマリーへとさらに近付いて20cmも離れてない距離に立つ。それを見て、ディルクもアルが対抗してきていることに、まるで武術の試合をしているかのような高揚を感じてニヤリと口角をあげて犬歯をむき出しにする。互いに視線を合わせ火花を散らしながら笑みを浮かべた。

 その様子を見たマリーは2人とも男同士で通じるものがあったのかな?と呑気に考えているのだった。


 こうして10年以上も続くライバルが出会ったのだった。

ディルクくんも応援してあげてください。誤字脱字報告はとても助かりますので見つけたらドシドシお伝えください。


ちょっとシリアスのように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、簡単に言うと「プライドが高くて友達のモノの欲しがる子供と好きな子を取ろうとするのに過剰に反応する子供の喧嘩、ぼけっとした女の子が友達が増えて喜ぶ」話ですw

TS要素は思春期になったらガンガン来る予定です。

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