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プロローグ~後ろから視てる~

僕の名前は志賀伊田光雄。いきなりだと思うかもしれないが、僕には運命の人がいる。他の誰でもない、僕と結ばれるのが決定してる女性だ。

それがなぜか、どうしてかはいずれ話せるだろう。ただ今は僕と彼女が結ばれる運命であることを知ってくれればいい。


恋愛とは常に成就するものではない。

だけど、運命は違う。決して違えるの出来ない永遠の定めのことを運命と呼ぶのだ。


僕はこれまでに誰かを好きになったことはなかった。もちろん異性として、という意味の話だ。

母親は好きだし、父親は尊敬している。妹のことも愛してるけど、それは家族愛ってやつだ。言ってみれば家族というのは最初からお互いに繋がりを確信出来る存在だ。


そう、血のつながりというこの世でもっとも強い力によって家族はまとめられる。


それでは他人との愛は、血のつながりに劣るのだろうか?

否、それは違う。愛とは、とどのつまりは信頼という土台の上に成り立つ感情だ。血のつながりにも等しい信頼が二人の間に存在するのなら、愛はもっとも強い力のもう一つになるだろう。


愛は、絆は、人間を奮い立たせることの出来る希望の力だ。


人間を突き動かす心の力。その力の前には障害など無意味だ。


だから、僕は今日も彼女を見守る。愛する彼女を、電柱の後ろから。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


激しい動悸を必死に抑えながら、志賀伊田光雄は物陰に身を隠した。

幽霊のように青白い顔に黒っぽいジャージに革のジャケットというなんだかちぐはぐな格好は傍目からみてもただの不審者だった。


今日は、黒いスーツなんだね スカートも良いけどズボンをはいても君は可愛いなあ 


10mほど先を歩く少々小柄な女性のじっとりと見つめながら光雄は呻くように口を開く。その顔には恍惚とした表情が浮かべられ、まるでおもちゃを与えられたばかりの犬のように、視線はしっかりと女性に食らい付いたまま離れない。


やっぱり不審者にしか見えなかった。


女性はタイトめのスーツに少し開いた胸元という無防備な格好をしている。小振りの小さな顔に大きな眼、という風貌をしているその女性はなんとも小動物的で愛らしい。彼女は少し急ぐかのようにそそくさと十字路を左に折れて消えていく。


光雄は首をかしげた。いつもならば彼女はこのまま信号を渡り、300mほど先に進み古ぼけた廃墟寸前のアパートに消えていくはずだった。どこかに寄る用事でもあったのだろうか?あの彼女が?そんなことありえない。絶対にありえない。


彼女に何かあったのだろうか?それならば自分が助けねば…。未だ話しかける言葉すら見つけられていない光雄にとっては、これはよくとらえてみればチャンスとなるのかもしれない。深刻な表情を浮かべながら、光雄は嬉々として彼女の姿を追いかけて十字路を曲がる。


とっさに大声を上げなかったことには、光雄は自分を褒めたくなった。情けない姿を見られるのはやっぱり好きではなかった。

そこには彼女が仁王立ちしてこちらを向いていたのだ。



黙ったまま、こちらを向く彼女の表情はむっつりとしてスネたように見える。そんなことより運命の相手である彼女に見つめられるなんて、初めてのことであった。これはフラグが立ったということなのか!?そんなことを考えていくうちに、光雄は自分の脳みそがぐるぐると渦を巻いてどろどろにとろけていくのを感じた。


まともに思考など出来ない。愛する人が目の前で自分のことを見つめているのだから。心臓が耳元にあるのかと錯覚するほどに鼓動が五月蠅い。


「あのっ」


勇気を出して言葉をひねり出した瞬間に、同時に彼女も口を開く。

気恥ずかしそうに下を向く光雄を尻目に彼女は気を取り直してで言い放つ。


「その…困るんです、もうついてこないでください」


明らかな拒絶の言葉。照れているのだろう。


「ほんとにだめです!…だめなんですよ…」


二度目の拒絶。ここでやっと光雄は彼女が何かを伝えたいのだと気がついた。


何なのだろう。光雄は困惑した。運命の愛より重要な物…?一体何なんだろう。


「困るんです…その…私…」


もじもじと彼女が顔をそらした。


彼氏がいるのか? 許嫁? 婚約者? だが運命こそ真の愛。真の恋人だ。それに抗うことなどできやしない。


運命の話を聞かせれば彼女もわかってくれるだろう、いや分かるまで話すんだ。彼はそう心に決めていた。


「私、浮遊霊なんです!!」


「君を愛しているんだよ、そんなこと関係ない結婚しよう」


「……………。はえ!?」


数十秒ほどの静寂が通り過ぎたあとに、彼女は誰にも聞こえることのない叫び声をあげていた。

あまりにも驚いたせいか、彼女の顔は幽霊というよりはゾンビみたいになっていた。白目をむいても彼女は可愛いと光雄はしみじみと思った。


こうしてストーカー人間と浮遊霊の物語は始まってしまったのである。

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