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その出会い(2)

 この世界には、未知数な物が溢れている。UMAやUFO、古代のよくわからない地上絵やら大きな墓、更には心霊現象など、意味のわからないものや、知られてすらいないものが無数に存在してる。

 その中の一般には知られていないものの1つが‘ゲート’と呼ばれるもの。何が原因で、いつどこで起こるかは予想ができない。そして、ゲートという名前の通り、扉の役割も果している。扉と表現されるため、それを通って来る物もある。人であったり、魔獣であったりと様々だ。その中でも、魔獣は危険だ。問答無用で目についた物を、人であろうと建物だろうと関係なしに破壊を始める。

 その対処のために、秘密裏に世界各地にある組織が立ち上げられた。どの国にも属さず、どの国のルールにも縛られず、一般にも、裏ですらも一部の人間しか知らない、ただゲートに対処するためだけの組織、‘イミュニティ’。通称‘特殊現象対策局’。そこで、ゲートから来る魔獣等に対応する人材、‘異能者’を育成し、対処させている。凪のような力を持つ少ない人間を世界中から集めて育成し、ゲートに対処させているのだが、いかんせん人が少ない。世界中から集めていても、数十人いる程度。その中には、ゲートを通ってきた異能者達もおり、こちらのが居心地がよくて居座った者も何人かいる。

 そんなイミュニティの人員が働いている一部の場所がここ日本支部。戦艦のブリッジの様な感じの部屋の中に、数人もの人達がそれぞれ目の前に浮かぶモニターを見ながら、カタカタとキーボードを叩く。ここはブリッジ兼管制室となっており、ゲートに対応する凪達にバックアップを行っている。インカムでの通信を行うオペレーターも、ここでモニターを見ながらサポートをしている。

 そのブリッジで、任務を終えた凪は椅子に座ってボーッと目の前に浮かぶモニターを眺めていた。大きさは、オペレーターやサポーターが使っているモニターの倍以上あり、縦3メートル、横5メートル程はある。このモニターは、ゲートの発生している場所を画面分割して映している。現在は、4ヵ所発生しているようで、それに対応している仲間が1人ずつ分割された画面に映っている。ゲートからはすべて魔獣が出てきていて、全員が戦闘を始めていた。

「魔獣に交渉するだけ無駄じゃないかと思うんだけどなあー」

 凪はボンヤリと見えるモニターに目を細めて見ようとする。だが、凪の視力は左右ともに0.1以下。裸眼では、近づかないと人の顔すら判別できない。それを本人は苦にも思ってないが、戦闘では確実に枷としかならない。そのため、コンタクトレンズをして任務に出ている。緊急時の予備も普段から持っている。コンタクトレンズは付けるのがめんどくさいし、落として探すのもめんどくさい。だから嫌い、と凪は思っている。が、メガネもフレームが邪魔等の難癖をつけて拒む。見えないのも困るため、やむ無くコンタクトレンズを選んで使っていた。

 そんな目の悪い凪が、モニターを見ようと必死に目をこらしていると、後ろの扉がプシューと音をたてて開き、ブリッジに誰かが入ってきた。

 それに凪以外のオペレーターやサポーター達が振り返って誰か確認をして、声をあげた。

『お疲れさまです』

 ブリッジに入ってきた人は、黒い髪を後ろで束ねてポニーテールにした二十代後半くらいの女性。ビシッとイミュニティに配属された人間が着る制服を着こなしている。軍服を元にしたかと思えるデザインで、上下ともに白色。男はズボン、女はフレアスカート(ズボンでも可)。靴、制服の下に着るインナーは自由。制服さえ着てれば何でもOKな、割りと緩い規則。更に改造して自分なりの制服にもしていいため、緩いどころか無いに等しい。

 制服を着こなした女性は、椅子に座ってモニターをガン見する凪に気づいて近づいていく。その後ろにテトテトと付いていく人影。

 女性は凪の真後ろに立ち、腕組みをして凪を見下ろす。

「メガネをしなさい」

「!?」

 モニターに集中していた凪は、急に声をかけられて驚き後ろを振り返る。

「お疲れさまです、局長」

 凪は苦笑いしながら、聞こえた声で誰か判断して挨拶する。凪の目の前にいたのは、イミュニティのトップである‘天衣(あまぎ) (ひかり)’。光は若くしてイミュニティの日本支部3代目局長となり、今現在も上手く仕事をこなしていた。幼いころから今までほとんど近くにいる凪と光。凪の異能者としての力に気づき、凪よりも先にイミュニティに入り凪を迎え入れた。異能者の力に悩んでいた凪にとって、イミュニティという同じ境遇の人間が他にいる組織は落ち着けた。他者に気味悪がられることもない。それだけでも凪のストレスは軽減されていた。更に、光が自分の上官としていたことも大きかった。知り合いが1人でもいるのは頼もしくありがたい。そのために凪は光に好意と絶大な信頼をおいていた。光も同じく凪に信頼をおき、他の者にはしない対応をしている。

「ほら、かけなさい」

 光は制服のポケットから黒フレームのメガネを取り出して、凪に差し出す。しっかりと凪の度にあったメガネ。なぜか光はいつも凪の眼鏡を持っている。凪の眼鏡を常に持っているのも、他者に見られない対応の1つ。周りから、恋人や姉弟のような関係だと言われて周知の事となっていた。

 凪は苦笑いしながらその眼鏡を受けとる。

「ありがとうございます……」

 凪はメガネをかけてモニターを見る。さっきと違い、ハッキリとモニターの映像が見える。

 ふと、光の後ろに誰かいたようなと思い凪は光の方を振り向いた。

 光の後ろには、凪が連れてきた女の子がおり、光の背中越しにピョコピョコと覗きこんでいた。

「あ、着替え終わったんですね」

 凪が立ち上がり、光の後ろにいた女の子の方に移動する。

 シャワーを浴びたようで、汚れのきれいに落ちた白い肌、ボサボサの髪も櫛できれいにとかれている。服はどこから持ってきたのか、白いシャツと黒いミニスカート、ニーソックスを履いている。尻尾がスカートの中から出てきてるのか、左右に揺れる。

「さすがに肌をさらしたままなのは可愛そうだし、あなた達男に見せていいものでもないからね」

 光は微笑んで女の子の頭を撫でる。女の子は嬉しそうに撫でられる。

 そして、何を思ったのか女の子は光の真似をして、凪の頭を撫でる。

「え?」

 凪はそれに驚き固まる。頭を撫でられたのが久しぶりなのと、なぜ撫でられたのかわからず戸惑う。戸惑う凪に苦笑いする光。

「大人しく撫でられてなさい」

 女の子が嬉しそうに凪を撫でるため、凪は気がすむまで撫でられる。

 何となく恥ずかしくなってくる凪。ここにいる全員にその光景を見られて、クスクスと笑われている。

「ナギ」

 女の子が撫でながら凪の名前を呼んだ。その可愛らしい声と、名前を呼ばれた事に驚く凪。

「あれ、なんで俺の名前を?」

 まだ自己紹介してないのになんで? と光を見る凪。

「私たちの会話を聞いてて、あなたの名前を覚えたんじゃない? 着替えてる時も『ナギ、ナギ』って言ってたし」

 微笑む光。それに恥ずかしさを感じ、撫でられている事も拍車をかけて顔が熱くなってくる凪。

「……っ。いい加減撫でるの止めてくれない?」

 ここで撫でられるのに耐えきれなくなってきた凪がぎこちない苦笑いをしながら、女の子に言う。だが、女の子は何を言ってるのかわかってないようで、首をかしげる。そして、なぜか手を離す。

「ナギ」

 女の子は不思議そうに凪を見ながら、凪の服を指で掴む。

 それにどう対処していいのかわからず困った顔をする凪。助けを求めるように光を見る。

「私を見てもその子の事はよくわからないわ」

 肩をすくめる光。別世界の人間のことが、こちらの人間にわかるわけない。

「ナギ、ナギ」

 女の子は嬉しそうに凪の顔を見ながらクイクイと裾を引っ張る。

「おお、何? どした?」

 クイクイと引っ張られて、苦笑いしながら尋ねる凪。女の子はニコニコ笑顔で凪に話しかける。

「ナギ、アイカタスケタ」

 そのカタコトの言葉を凪は聞き逃さないようによく聞き、理解した。アイカって、この子の名前だろうか。凪は確認するために、その名前で女の子を呼んでみた。

「アイカ?」

「?」

 首をかしげる女の子。

「あれ? 違った?」

 凪も首をかしげる。アイカがこの子の名前だと思ってたけど違ったのかな。光もアイカが名前だと思ってたようで困惑した顔をしている。

 凪はうーん、と頭をかいてから女の子に話しかける。

「君の名前は何?」

「?」

 案の定、首をかしげる女の子。単語なら聞き取れるようだが、意味も理解しないと話せないから簡単じゃない。凪は頭を捻り何かいいアイディアを出そうとする。

「ナギ、名前」

 凪は女の子に単語だけで話しかける。単語だけで言った方が理解しやすいのかもしれないと思って、やってみた。

 女の子はキョトンとしながら首をかしげる。

「ナギ、ナマエ?」

 凪の言ったことそのままを繰り返す女の子。どうやら理解はできてないようだ。

「ナギ」

 凪は自分を指で指しながら名前を言う。

「ナギ!」

 それに、大きく頷く女の子。指差しながらナギ、ナギと連呼する。何度も名前を呼ばれて恥ずかしいが、我慢しながら続ける。

「アイカ?」

 女の子を指さして聞く凪。

 女の子はそれに大きく頷く。

「アイカ!」

 嬉しそうに自分を指差しながら名前を言う女の子。アイカという名前は合っていたようだ。

「合ってたのか……」

 それに凪と光は苦笑いする。単に言葉がよくわかってなかっただけで、名前だけなら理解できるようだ。

「さて、困ったわね。言葉が不自由で、こっちの文化にも適応できるかわからない」

 と、何やら光が言い始めた。それに嫌な予感がひしひしと全身に伝う凪。

「1週間ほど様子見をしたいけど、‘オペレーターやサポーター’の子達だと手が空いてないし、手の空いてる‘ストライカー’の子がいないかな~」

 チラッチラッと横目で凪を見る光。これは、一応強制ではない。自分から名乗りを上げさせてからやらせるのが光の中のルールで、‘提案’する前に誰かが言えばその通りとなる。誰もやると言わなかったり、今回のような困った状況になると‘提案’というなの実質‘命令’がくだる。今回、その白羽の矢が刺さったのは凪だった。

 凪は小さくため息をつく。

「俺が面倒見るのは構わないですけど、アイカがどうなっても知りませんよ」

 アイカの部分に耳が反応するアイカ。名前を呼ばれて嬉しいのか尻尾を左右に揺らす。

「凪くんやってくれるの? ありがとう~。君ならきっとそう言ってくれると思ってたわ。手を出すなら、彼女の同意を取ってから出すのよ」

 と、微笑む光。

(この人は~……っ)

 あっさりと、男女の同棲に許可を出した上司にイラっと来る凪。元より、そんな風に言っても凪が手を出さないとわかっているから許可を出す光。上司である光が凪を信頼し、部下である凪も光を理解して信頼してるから成立する関係であって、そうじゃなかったら確実に許可はおりない。でも凪は、男である以上、そういう欲求がないわけではないから、少しは悩んでしぶって欲しかった。

「あ、そうそう。ちゃんと言葉も教えてあげてよ。ここが気に入って住むことになったら言葉は覚えてないと困るからね」

 それに凪はあからさまに嫌そうな顔をする。そこへ、自分のデスクから立ち上がって1人の女の子が3人の元に近づいてきた。

「大丈夫ですよ! あたしが教えますから!!」

 耳にヘッドセットをつけたショートカットの青髪の子が会話に入ってきた。その声は、凪が現場に出てた時、インカムから聞こえていた声と同じ。

 現場に出る凪達‘ストライカー’を、ここで任務を伝えたり、アシストする‘オペレーター’の1人。

 名前は‘ミリア・ハーメルト’。凪のいる日本地区のオペレートを担当している。おかげで、凪とミリアは付き合いが長い。凪の絡む面白そうな事には決まって首を突っ込んでくるミリア。ニッと笑みを浮かべて凪の横に立つミリア。

「何でミリアが出てくるんだよ。いいよ、俺が教えるから」

 凪はミリアをめんどくさそうな感じで見る。

 それを見てミリアはムッとする。

「いいのかな~。女の子の事を色々と知らない凪くんが、女の子の世話ができるとは思えないんだけどな~」

「……」

 凪はそれに黙る。女の子の世話をするのに、知識がいるのか? 自分と同じような感じでは駄目なのか?

 凪はミリアに言われたことで戸惑い始めた。

 それを見た光は、若干不安になったのかミリアを見る。

「どうやら、凪くんだけでは心もとないようなので、ミリアさんに手伝ってもらいたいのだけど、いいかな?」

 ミリアはその言葉を待ってたようで、ニコッと笑い頷く。凪は不満そうだが、1人でやるよりはミリアにも押し付けれるからいいかと判断する。

「オッケーです!」

 凪はこれから1週間、どんな生活になるのか予想がつかず若干不安になった。

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