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その出会い

 高層ビルが何棟も並び、車線の多い道路が続く街。電灯がついて、その街中を明るく照らす。だが、夜にも関わらず、がやがやと人々で騒がしい街中。学生のように若い人や、仕事終わりに飲んで帰るサラリーマン達で街中は溢れていた。

 そんな騒がしい街の中で、‘異変’が起きた。


*****************************************


 1人の青年が、街の中を走っていた。耳に白いインカムを付け、黒髪を風に靡かせながら目的地を目指して走る。

 その青年は深夜に入ろうとしているにも関わらず、街にいる人の多さに若干のイラつきを感じながら、騒がしい夜の街を駆けていた。人と人との間を縫うようにすり抜ける。

 そんな青年のインカムから、ジジっとノイズがした後に声が聞こえてくる。

『もうすぐ目的地です。準備はできてます?』

「できてる」

 若い女の声に返事をして、青年は指で宙を軽く突く。その瞬間、青年の前に小さなテレビ画面のような物が現れた。青年はそれに表示された地図情報を確認するように、指で地図を動かす。地図は指の動きに合わせて、上下左右斜めに動き、拡大縮小も自由自在にできる。

 地図に示された目的地である赤い丸マークのついた場所を見て青年は顔をしかめ、インカムのマイクに声を発する。

「この地点人がかなりいる。人が巻き添えくらうぞ」

 青年の言葉にインカムから聞こえてくる声の調子は、全く変わらない。

『平気です。人払いをしておくので、気にせずドンパチしちゃってください』

 むしろ、楽しそうな声がきこえてきた。

 それを聞いて青年は苦笑いしながら一気に目的地へと走る。

 目的地に近づくにつれ、少しずつ‘その存在’がはっきりとしてくる。言葉でそれを現すとしたら、違和感だ。本来、存在しないはずの存在がいる。そのことが、違和感を生み、青年のような存在に察知される。その違和感は、ごく一般の人間には感じとれず察知できない。たまに、鋭い感覚を持った人が違和感を感じ取れるが、感じ取れるだけであまり意味をなさない。

 青年のような‘力’を持ち、訓練を受けていなければ、違和感に気づけても‘対処’ができないため、宝の持ち腐れに等しい。

『わかってますか? ‘交渉’が無理なら、その次の対処として‘撃退’もしくは‘捕縛’ですよ』

 場合にもよるが、交渉で終わる時もある。だが、ほとんど撃退の割合が高い。その理由ははっきりしている。交渉が意味をなさない‘相手’がほとんどだからだ。

 駆け付けた青年が目的地にたどり着いた。周りは本当に人払いがしてあり、誰もいない。が、青年は違和感を強く感じる上方を見上げた。

 高層ビルより高い位置で、月を背にした‘何か’が、背中の翼を羽ばたかせて浮いていた。

 その‘何か’は青年を見下ろしたまま動かない。青年は警戒しながら、インカムのマイクに向けて話す。

「ターゲットを目視で確認。タイプは‘魔獣’。戦闘をしかけてくる気配は今のところなし」

 青年がボソボソと、マイクで拾える程度の声で話す。

『了解です。交渉をお願いします』

 青年の報告を聞き、インカムから指示が来た。

「了解」

 青年は短く答えて、戦闘する気はないのを伝えるために警戒を最低限まで解き、‘魔獣’を見上げた。そして、青年は手をメガホンのようにして、魔獣へと向けて大きめの声を放つ。

「おーい、言葉わかりますかー? こちらは戦闘をする気はありませーん。話をしませんかー?」

 と、何とも気の抜けるような事を言い始めた青年。元より、青年は交渉する気があまりないため、適当になる。魔獣型に交渉は無駄だと青年は思っているから、交渉する気がない。そんな青年に、戦闘を避けさせるためわざわざインカムから交渉の指示がくる。

 青年ももしかすると可能性があるかもしれないと思っているから、仕方なく魔獣に声をかけるのだが、未だに魔獣型で交渉に成功したことはない。そもそも魔獣型で交渉の成功する確率なんて10%にも満たない。知能が低い、知能が高くても言葉が理解できない、理解する気もなくただ襲ってくる、等の理由で魔獣型は交渉をするだけ無駄だった。それがわかってるのにあえて交渉させるのに、青年は不満を持っていた。戦闘するならさっさとやって、さっさと帰りたい。何が楽しくて、夜の11時にこんなことをしないといけないんだ。

 返ってこない返事を待ちながら、青年は無駄なことをさせるオペレーターにイラつき始める。

 それを悟ったのかはわからないが、オペレーターから通信が入る。

『どうやら、交渉は無理のようですね。では、後は任せますよ、凪くん』

 うふふ、と笑い声が聞こえてきた。完全にわざと交渉させたのがわかる。

 凪と呼ばれた青年は、オペレーターにムカッときながらも宙に浮く魔獣を見る。

 先程から全く動く気配がなく、ただ凪を見下ろしているだけ。

(何だろう、動く気配がないのはタイミングを計ってるのか、それとも……)

 凪が警戒しながら魔獣を見ていると、ふいに視線を感じた。魔獣とは違う方向から、じっと観察するように見られている感じがする。

 もう1体いたのか! と凪がその視線を感じた方を振り返る。

 ここに来たときには気づかなかったが、ビルとビルの間の狭い道に、ぺたんと座って凪を見ている女の子がいた。

「!?」

 凪が女の子を見て驚いた。腰まで伸びたボサボサの茶髪に、泥のついた小さな顔、じっと凪を見つめる碧眼。そこまでは、まあいいだろう。しかし、凪を驚かせたのはその女の子の頭に猫の耳のような物と、腰辺りから尻尾がピョコピョコと揺れている。そして、全裸だった。所々泥で汚れているが、綺麗な白い肌。

「はっ!? 見とれてる場合じゃなかった!」

 思わずじっと見てしまっていた事に気づき、焦りながら報告をしようとする。

「もう1体を確認した。こちらは‘人型’で、戦闘意欲はない」

『こちらでも確認しました。2体一緒に襲ってくる可能性もあるので気を付けてください』

 オペレーターの声がさっきよりも真剣な物になった。状況は普通に考えたらよくはない。緊張するのも無理はない。

 その時、大人しかった宙を浮いてる魔獣が急に咆哮に近い声をあげた。

「キシヤアアアアア」

「!」

 その声に反応して、魔獣の方を振り返ると、背中の翼を羽ばたかせて女の子の方へと向かう。

「……」

 女の子はその場から動く気配もなく、ただそれを見ているだけ。

「くっ!」

 先ほどから魔獣型が動かなかったのは女の子を狙っていたようだ。とりあえず、凪は女の子と魔獣の間に割り込むように入り、何処から取り出したのか一丁のハンドガンを手にして魔獣に狙いを定める。

 ガン、ガンと銃口から2発弾丸が放たれて、魔獣へと飛んでいく。

 魔獣はそれを避けようともせずに突っ込んできて、そのまま2発とも、肩と翼に直撃する。

 翼を撃たれて、バランスを制御できずに高度を一気に落とし、地面にぶつかって身を擦りながら止まる。

 ギギッと低く声をあげて、凪の方を見る魔獣。いや、後ろの女の子を見ているのかもしれない。

 よくわからないが、2人の方を見ていた。

「狙いはこの子か?」

 チャキっと音をたてて銃口を魔獣に向ける凪。狙いをつけたまま、凪はゆっくりと立ち上がる魔獣の様子をうかがう。

 のっそりと立ち上がり、肩と翼から青い体液を流して、虫の様な目が凪をにらむように見ている。それに凪は、頭を狙ったまま相手の動きを待つ。魔獣は、たまに予想外の行動に出る時がある。それによって致命傷を受ける可能性だってある。後手に回るが、致命傷を受けないためには様子見も必要だ。

 その様子見が幸いにも意味を成し、突如魔獣は凪へと向けて6匹の小さな虫を飛ばしてきた。

「虫っ!?」

 凪は自分に向かってくる魔獣を小さくしたような緑色の虫を銃で撃ち落とす。1匹、2匹と次々に虫を落としていく凪。

 そして、6匹目を落とそうとした瞬間、凪は頭上からの、ブウウンと言う羽音のような音に気づく。見上げると、凪へと向かって突進してくる魔獣がいた。

 目の前の小さな虫、頭上の魔獣。魔獣がとった連携攻撃にムカッときた凪は銃を左腰へ引いた。

「しゃらくせー!」

 凪はそう叫びながら、右手を思いきり右上へと振る。その振られた右手には、銃ではなく刀が握られていて、向かってくる虫と魔獣の両方を切り裂いた。

 魔獣は右腰から左肩にかけて斜めに切り裂かれ、そこから青い体液が流れる。

 魔獣はその一撃により地面に倒れた。

 ビクビクと痙攣を起こしている。

 凪はそれを見下ろしながら、一瞬にして刀を銃へと切り換えた。これは凪の力で、通称‘ジョーカー’。‘何にでもなる’力で、兵器からアーマーまで自由自在に作り出して使うことができる。

 そのジョーカーで、刀から銃に作り替え、魔獣に銃口を向ける。

「悪く思うな」

 そう言って、凪はトリガーを引いた。


*****************************************


 虫型の魔獣を片付け、凪は残ったもうひとつの問題である女の子へと接触を試みる。

 近くまで歩いていき、上に着ていた七分丈の黒いカーディガンを女の子に着せる。女の子は肩にかけられたカーディガンを不思議そうに見てから、凪の顔を見上げる。

「……」

 凪は全裸を隠すためにカーディガンを着せたのだが、羽織っただけで前を隠そうとしないしない女の子に戸惑い始めた。

 だが、このままでは何もわからないため、女の子の顔だけを見るようにして話しかける。

「君は言葉がわかる?」

 女の子は不思議そうに凪を見上げて首をかしげた。尻尾がゆらゆらと左右に揺れている。

 凪は確認のためにもう一度声をかける。

「名前を言える?」

 だが、女の子の返事は来ず首をかしげて見上げているだけだった。

「うーん、言葉わかんないか。とりあえず報告だけしとこう」

 凪はポリポリと頭をかき、オペレーターに報告を始めた。

「あー、魔獣は撃退した。それから、もう1つの反応の方だけど、戦闘意欲は変わらず無し。言葉を理解はしてないようで返事が来ないが、このまま連れて帰ろうと思う」

『連れて帰るって、凪くんえっち~』

 真面目な報告をしたのに、茶化す返事が返ってきた。それにイラッとくる凪。

「誰がえっちだ! 本部に連れて帰るんだよ!! わかってるだろが!!」

「!」

 凪のあげた怒声にビクッとする女の子。

 それに気づき、凪は苦笑いして謝る。

「あ、ごめん」

 女の子は、ビクビクしながら凪を見上げる。その顔は、恐怖を感じてるようで涙目だ。

 完全にビビらせた、そう思って凪は戸惑う。言葉がわかってないからなんと言えばいいのかわからない。

『困ってないで、早く本部に戻って来てくださいよー。そろそろ人払いを解きたいのです』

 と、インカムからのんきな声が聞こえてきた。

 凪はそれにムッと顔をしかめる。

「誰のせいだと思ってんだ……」

 ボソッと呟く凪。

『何か言いました?』

 インカムからなぜか威圧感のある声が聞こえてきた。それにゾッとしなら苦笑いする凪。

「なにも」

 その時、女の子がクイクイと凪のズボンを軽く引っ張った。

「ん、どした?」

 言葉がわからないのはわかってるのだが、つい聞いてしまう。

 だが、返事は来ない。変わりに立ち上がって、凪の服の裾をつまんでいる。

「……」

 思わず凪は唖然としたまま、女の子を見る。

 身長は凪の肩くらいで、スラッと綺麗な手足がよくわかる。

「はっ!」

 凪は見とれてる場合じゃないのをさとり、慌ててまた声をかける。

「ごめん、よくわからんだろうけど連れてくよ」

 そう言って、女の子の手をとり抱えあげて走り出した。靴はいてないから走らせるわけにはいかないし。

 凪がその場を離れ始めてから、その場所にも人が流れるように歩いてきた。

 いつもの街並みに戻るのは、すぐだった。

お久しぶりです。はじめましての方は初めまして。

かなり時間を空けましたが、完全新作を投稿しました。

ファンタジーバトル物です。よろしくお願いします。

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