第9話 エンドレスゲーム②
1万回以上人生を繰り返しても、わからないものはわからないかもしれませんね。
ティーはきっとそのうち半分くらいは本塁打王とってくれると思います。
第9話
10086回目。1回オモテ。
ここでいきなりのチャンスが訪れる。
1アウト1,2塁。ここで4番T-岡田。絶好の先制のチャンスなんだ。ただし、当の本人はあっきー先生に生命力を吸われているので、へろへろ。
「うーむ……。だめくさいな」
「そうですね。もう何回みても流れはここで決まってるんですよね……」ピロコが心配そうにゲームを見つめている。
そうなんだ。立ち上がりが不安定な西武の涌井投手を助けちまう。
で、結果。
一気に立ち直った涌井投手は10奪三振の完投だ。
いっつも3球目の外のヘボチェンジアップにひっかけて、セカンドゴロ。ゲッツー。
今回もまったく同じだった。
10050回目くらいからオレたちにはタイムリープの記憶がある。そこから、急激に今が10050回目だという認識とともに、そこからすべてのゲーム内容を記憶できている。超自我ってやつが目覚めたらしい。
これも部長花澤ノキアがやってくれたことなんだろうな。さすが部長。百発百中の占いも伊達ではないわけだ。
わかったことは、試合は大体同じ流れにはなるが、時間ってのはまったくもって同じように流れるわけではない、ということ。
例えば、プレイボール直後の涌井投手の初球に関して言えば、記憶のある36回のうち、ストレートは32回、あとはカーブから入ったことが4回。ストライクだったのが22回。14回はちょっと外れたり、審判のアヤシイジャッジにボール判定だった。
つまり、毎回なんらかの誤差はある、ということらしい。
ただ、36回すべてで、ティーは4タコで試合を終える。特に第1打席はゲッツー。あとは3つの三振。これがほとんど。4番としてはあってはならない打撃成績だ。
ただ、3回だけショートゴロとファールフライ、キャッチャーフライの誤差がある。
ただ、今日は徹底的にタイミングがあっていないんだ。近頃は三振が少なくなったティーからは想像もつかないほどの絶不調。
で、今回もゲッツーだった。
「ど、どうするよ……。今回も多分だめだぞ」
「そ、そうですね……。何か作戦を考えないと。もう涌井投手の配球はわかるんですから」
データ占いの創始者野田ピロコは、自分のノートPCを見ながらいった。
「元々涌井投手は初回に弱いタイプではないんです。でも昨年あたりから、ストレートにキレがないゲームは非常に立ち上がりに苦しむ傾向にあります。今年は調整がうまくいったみたいで、春先は絶好調。でも逆に今日はボールは速いんですが、どうにも荒れてコントロールが悪くなってしまっていたんです」
そこをティーが苦し紛れになげたチェンジアップをひっかけて助けちまうってわけか。
さすがデータ占い。西武のエースピッチャーのデータまで入っているとは。
「こりゃ、占いで全配球を弾きだして、ティーに叫びながら教えるしかないんじゃね?」
「そ、それが良いかと……。じゃあ、試しに、次はカーブなので、叫んでみてもらえます?」
ええっ? 今ここで? うわー、はずいわー。そりゃ1塁側(県営大宮球場は、ホームチームが三塁)でお客さんは少ないっちゃそうだけどさー。
そもそも、オレたちみたいな素人の配球、信じてもらえんのか?
「ティーーーーーーっ! 次はカーブだーーーっ! 」
で、ほんとにカーブだった。けど、ティーは見逃す。
「スライダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
ほんとにスライダーで、空振り三振。あたりすぎてて、ちょっと西武のキャッチャーがこっちを見たくらいだった。
ぜえぜえ、ほんとに、疲れんすケド。えらい恥ずかしいし。
「ちょっとは変わったか?」
「はい。先程までは私たちの記憶がある36回のうち34回は見逃し三振でしたが、今回は空振り三振でした」
じゃま、過去改変にはなってるわけだ。
「せんぱーい、涌井投手が投球モーションに入ってからすかさず言うようにしてください。さっき、配球を当てたとき、変えられちゃいましたから」
「え~。モーション盗まないとだめじゃん」
「盗塁すると思って! 坂口智隆さん(ex神戸国際大付)くらいならいけますって」
坂口智隆さん(11年度、守備率10割)は盗塁あんまりしないけど、成功率は高いんだよ。だいたい、プロのモーションなんか盗めるかよ。
「いえいえ、盗めますよ。あと10回くらいこのゲームを繰り返せば。私もさらにデータを集めます」
うわー、なんてこと言うんだ。
ということで、確実に配球を占うためのデータをとると同時に、涌井投手のモーションを盗むため、オレたちはさらにこの時間軸を周回せねばならんようです。
うーん。長門現象……。
いつも読んでくださってありがとうございます。