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第8話 エンドレス・ゲーム

呪いって、ほんとに、こわいものですね。何度も繰り返す時間軸の中で、ノキアたちは、ほんとうのあっきー先生を取り返すことができるのか!

第8話



 どうしてこんなことになったのだろう?

 オレは今、埼玉県は県営大宮球場にいる。横には、後輩でデータ占いの創始者、野田ピロコ(13)が心配そうな顔でマウンドを見つめている。普通、ナイトゲームのプロ野球観戦といえば、ビール片手に、ヤジをとばしながら、へらへらしていればいいのだが、オレにも、ピロピロにも、全く余裕というものがない。

 

 ふたりとも、まるで祈るような面持ちである。


 どうしてこうなったか。オレもよくはわからない。


 でも、コレだけは言える。現在、西武のピッチャーはエースの涌井投手。3回裏、12-0で、オリッ◯スはボロ負けである。肝心のティーも2タコ。絶望的だ。


 だが、ここから、オレたちは、オリッ◯スを勝ちに導かなければならないのだ。


 すでに、10085回、この試合をオレたちは観戦している。オリッ◯スが勝たないと、9回裏が終わった時点で、また試合開始15分前に戻されてしまう。オレとピロコだけが、ループされた記憶を保持するようになった。

 いや、記憶できるようになったのは、ほんの数回前だ。それまでは、オレたちは何食わぬ顔で西武戦を1塁側スタンドで見ていた。

 『ノキアのやつ、おせえなあ』なんて言いながら。



 絶対時間での、数時間前。

「え? 呪い?」

「そうなのだよ。あっきー先生が小生の占いグッズを悪用して、祟られてしまったのだよ」

 は? なにそれ? お前の占いグッズって、東急ハンズで買ったタロットとか水晶とかだけだろ?

「まあ、そうなのだが、小生がしばらく使うと、『気』が蓄積されてモノは単なるモノではなくなってしまうのだよ」

 淡々と話しているようだが、ノキアの顔色はいつもより、ほんの少し、青ざめている。

「ほー。やっぱお前ってすげえんだな」

 ますますオレの『ある目的』を果たさせてもらわんといかん。

「いやいや、そんなのは誰にだってできることなのだよ。君だって『やり方』を知れば、簡単に占いグッズを創ることはできる。問題はその『使い方』にあるのだよ」

「使い方?」

「そうだ。占いは『売らない』、自分の役得のためにしてはいけないのだよ。これは高島易断で有名な、高島嘉右衛門おじさんも言っている」

 嘉右衛門おじさんって、親戚のおっちゃんか。高島嘉右衛門つったら、明治から大正期の大実業家じゃねえか。

「……んで、あっきー先生はお前の占いグッズをパチって、自分のためにやっちまったってこと?」

 こくりと頷く占い部部長、花澤ノキア。

 部室の隅っこに、古びたソファがあるのだがそこに、でんとあっきーのグラマーな肢体が横たわっている。ご丁寧に、タオルケットまで用意して頭っからかぶってる。部室に入ってきた時、『誰かお亡くなりに?』とおもっちゃったくらいだ。

「えと……? それで、私たちはどうすればよいのでしょう? 呪いって怖いものなんですか?」

 一緒に話を聞いていたピロコが不安そうに告げる。

「うむ……。『Seeing is beliebing』とも言うしな、見てもらった方が早かろう」

 ビリーブのつづり、間違ってるけどな。そんな学力でよくもまあ、いつも学年1位に君臨できるな。やっぱ、テスト問題占って出してんだろうなぁ。

「そんなことはない。君を試したのだ」

 にやりと笑う、ノキア。

「嘘つけ! いたいけな少年の心、よむんじゃねー!」


 ノキアがばばっと、タオルケットをめくった。『きゃ』と意外にもあっきーの乙女らしい声が聞こえた。まー、似合わんわ。


「うわ……」「まあ……」

「な? 目も当てられんだろう?」

 しくしくしく……。目の前の泣きむせぶ年増女をオレは直視できなかった。なぜだ、なぜ運命はこんなにもむごたらしく……。


「て、『ティー』ですね……」


 そうなのだ。『ティー』だ。今、あのパイオツの大きいだけが取り柄の、綺麗だったあっきー先生は、顔だけがその……。『ティー』だった。

 ゴリラ的髭面が、豊満なバディにくっついている。髪型も以前のまま長いストレートでカチューシャをしているので、よけいにキモい。打席でみるティーは、けっこう可愛げもあるのに、間近でみると、ケッタイそのものだった。


 ………………。


 いかん、この沈黙は重いぞ。なんか言わねば。

「ま、まあ、そういうしつこい髭面も、に、似合いますね?」

 バキゃっ。激しく叩かれた。

「せ、せんぱーい! 乙女になんてこと言うんですか…………ぷぷ」

「オメエも半笑いじゃねえかよ!」

 い、いかん、ここで笑ってはいかん。オレもヒトデナシになってしまう。

「笑い事ではないのだよ。これは、生霊の反射を受けているのだ。T-岡田選手になんらかのまじないをしてしまったが、相手の方が格上であったため、それが跳ね返された。その時に、ティーの生霊を持ち帰ってしまったのだ」

 ティーの祟りってことかよ。

「まあいいじゃねえかよ(面白いし)」

 バキ。後ろの髭面にはたかれた。泣きながらのティーの顔が、ティーの顔がよー。

 ぷぷぷ、もう笑ってしまおうか? いっそ一思いに楽に……。

「殺すわよ?」うわー、ティーからおばはんの声が、ぶはははははははっ。

「あー、そんなこといっていいですかねー? オレたちが動かないと、呪いとけないんですよ? それとも、年下男子の顔になれたので、そのままがいいですか?」

「くっ!」

「ダメだ。そのままでは、ティーの生命力が落ちて、非常にまずいことになる」

「なによ? まずいことって?」

「おそらく、ティーは早死にする。近いうちに。そしてそのカルマは、あっきー先生がすべてを背負うのだ。きっと、そのカルマの影響でゴリラのよーな女になるに違いない」

 だー。あっきー先生が激しく泣き出した。ノキアがえらく真剣にしゃべってるから、そろそろこりゃ笑い事じゃなくなってきたな。

「ど、どうすれば良いのでしょう?」

 だな。オレも気になる。

「小生はここで、呪いを解く術式を今晩かけて行うのだよ。君たちの方は、ティーの生霊を満足させる手助けをしてほしい」

「満足? 手助け?」

「そうだ。あと2時間でプレイボーイだが、おそらく今日のティーは、生霊をあっきー先生に吸われているので、生命力がなく絶不調だろう。だが、今日はなんとしても4打数4安打くらいの大活躍をしてもらわなければならん」

「な、なんで?」

「その本人からの迸った生命エネルギーをだどって、この生霊を元のカラダに戻す。そのための準備はこちらでヤッテおくので、君たちは県営大宮球場にいってほしいのだよ」

「いや、だから、なんで? 行く必要、なくね?」

「今日、それがなされないと、ティー、あっきー先生ともども、非常に危ないことになる。もって今日の深夜24時くらいだ」

 24時って、えらい迫ってんな。

「だから、オレたちが行ったって、何もかわんないでしょ?」

「君たちには、小生の占術により、『無限ループ』に陥ってもらう。君たちの魂を司る、3本目の遺伝子を小生が夜9時近辺に呼び出し、プレイボーイの前に戻す」

 プレイボー『ル』な。そのあっきー先生のボケ、採用しすぎだから。さっきスルーしちまったわ。

「えっと、それってどういう?」ピロコの疑問ももっともだ。

「ふん、現代科学ではわからんだろうが、魂にはそれを司る大元の遺伝子があるのだ。うちの家系は、それにアクセスする法を知るからこそ、占いが百発百中たれた。我々にすれば、タイムリープなど簡単なことなのだよ」

「た、タイムリープ? そんなことが……」

「うむ。何度も試合を見たところで、君たちの超自我を目覚めさせる。そうすれば、前の記憶を保持したまま、同じ時間軸を生きることができる」

 ノキアは自信たっぷりといった風だ。もうね、全然、理解が及びまへん。


 とにかく、何度も今日の試合を見て、試合のポイントとなるところで、なんとか時間軸に逆らってでもティーに打たせろとのことらしい。できれば、あっきー先生のまじないの関係で、オ◯ックスが勝つまでやれと。

 ってか、まあ、ティーは4番なんだから、チャンスで打ちゃ、試合、勝つだろ。


「一応、携帯電話はいつも肌身離さずもっておくのだよ、いいな。充電も切れないように! 小生も部室でテレビ埼玉で観戦しておく」

 お前はいい気なもんだな。

 でも、一体どうすりゃティーは打てるようになるの? オレたちが過去改変なんてやる術、あんのかいな。

みんな、『ティー』って気軽によんでしまってますが、T-岡田選手は偉大な選手です。きっと今年も4番でしょう。イ・デホに負けるな、ティー! 


いつも読んでくださってありがとうございます。

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