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第5話 T-岡田をティーと気軽に呼んでもよいものか

T-岡田選手の守備は意外と華麗です。

第5話



「ふむ、ライトフライだな」

 部長花澤ノキアはタロットを見ながら、淡々とそういった。がきん、鈍い音とともに、西武ライオンズの4番バッターの打球は右翼定位置に飛び、ライトの坂口智隆選手コワモテのグラブにおさまった。


 今日は土曜なのでデーゲーム。部室には、土曜なのに暇をもてあました部員たちが、各自お菓子や差し入れの類一品を強制貢物として、馳せ参じていた。


「よし、ひまだな」

「何が『よし』だよ。土曜日の午後だよ、今? 世間はうららかな初夏の陽気に酔いしれとんだ。なにがかなしゅーて、ティーンエージャーの若者が、こんなジメッとした部室でよ?」

「せんぱーい、ここは4階なので湿度はわりとからっとしてまーす。現在湿度は45.5パーセントと割りに過ごしやすいかと」

「そういう湿度的データはいらんのだ。雰囲気の話だよ! 我がライトアーム(右腕)君」



「じゃー、暇なら、次のT-岡田(05年高校生ドラフト外れ1位)さんの打席予想をしてみる?」

 おっと、一番暇なおばはんがいた。一応、顧問です。

「殺すわよ?」

「なんですか、いきなり!」

「いや、なんとなくそんな気分に……。バラバラにして、瀬戸内海にでも捨ててやろうかと……」

「あんたは気分だけでそんな惨殺犯罪に及べるのか!」

 瀬戸内海、遠くね?

「まー、あっきー先生のおかげでこうして部室でテレビみれてんすからー、いいじゃないですかー」

 おっと、ピロピロ(後輩、野田ヒロコ)が珍しくフォローに回っている。

 まて、ここでぐだっとすると、オチまでが長引くんだ、自重しろ。



 というわけで、オレたちは次の回に、3人目として回ってくるT-岡田(ex履正社高校)の予想をすることにした。

「それでは一斉にフリップにお書きくださーい」

 なんで今年からフリップが用意されてんのかね? イマドキ、クイズ番組でも使わんよ?


 と爆発しそうな疑問をすんでのところで抑えつつ、さっとピロピロに目配せをする。

「まかせてください! もう予想は出てます」小声でね。

 さすが我がライトアーム(右腕)。データ収集能力は半端ないな。


「それじゃー、一斉にフリップをおだしくださーい」

 なんで、司会業をノキアがするのかね? 声をまったく張ってくれないんで、聞こえにくいのですが。

「早くださんか、馬鹿者!」

「……。そういう時だけ、声が鋭いな、お前」

 まあいい。こういう小さな勝負でもオレが勝っておけば、『ある目的』にも近くなろうというもの。



「ずばぁああり。2番のビッキーさんが出塁、3番イケメンのゴットゥーザ様が本塁打するので、おかっちはヨンタマよ!」

 うーん、先生、すごく元気にいってくれたところ悪いのですが……。グーグルで日本語翻訳を使わんとちょっと、理解しにくいです……。

「なにいってんですかぁ。あっきー先生は、3番の後藤選手(01年ドラフト10位入団)の大ファンなんです」

「はぁ?」

 なるほど。それじゃほとんど占いっつーよりは、ただの希望じゃねえか。『来年は浜中三冠王』って言ってた時代の阪神ファンですか、あんたは。


「うむ、先生、なかなか良い見解です」

 といって出したノキアのフリップにも、『四球』と書かれている。うそ、マジで?

「ふん、出たタロットは『塔』。これは絶対に四球なのだよ」

 お前の小アルカナの結果とフォアボールがどう関係しているのかがイマイチわからんが……。



「せんぱいせんぱい……」む、後輩が呼んでいる。

 小声の後輩、ピロコのフリップにも『フォアボール』。どういうことだ? オレは、第3打席のT-岡田(10年度本塁打王)は強振する事が多く、ひっぱり損ねのライトフライと見たのだが……。


「甘いです先輩。現在のスコアは4-1でオリッ◯スは負けてるんです。先発ピッチャーはベテランの石井一久投手。ここまで第1、第2打席ともにティーにはヒットを打たれてるんです。次のバッターが相性のいいバルディリスさんであることを鑑みてください」

 お前はノムさんか。

「何言ってるんですか! ティーには、まともに勝負してくるはずがありません。データは嘘つかなーい!(ちょっと外人風)」

 ピロコがT-岡田選手(高校通算55本塁打)を、完全に『ティー』と呼んでしまっていることも気になるが、いやしかし……。


 ここは仕方がない。ピロピロを信じよう。フォアボールね。

「あ、もうフォアボールは売り切れなのだよ?」

「おい、占いに売り切れとかあんのか!」

「当たり前だ。4人予想していて、3人が同じ答え。4人目の君も同じでは、面白くなかろう?」

「い、いや、お、オレもフォアボールかと……」

「あー、まねしたー♪」「まねですね……」「とんだフ◯ャチン野郎ね」


 散々だ。ピロコまで敵にまわっているのが気になるが。よかろう。ここは男らしく初志貫徹。頑固一徹。星一徹だ。

「わーったよ。ライトフライだ!」


 といって、一同は、飲み物などをつかみ直して、大画面に向き直る。


「「「「あ」」」」


 すでに9回オモテだった。


 うーん、今シーズンの西武の抑えは、牧田投手じゃないんだね。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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