第7話:猫の力
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事は偶然出会ったことから始まった。
王都にむかう途中、道端で黒猫に出会う。実はその黒猫は精霊・クロックキャットだとコイルが見破る。そしてコイルがクロックキャットに自分の召喚獣になってもらえないかと頼んだところ、承諾を得たが力を見せてほしいとクロックキャットに言われ今に至る。
つまり、今戦闘が始まったばかり。
クロックキャットは力を高めはじめた。彼の周りの気の密度が高まるのが目に見える。
空気は震え、近くの草木は揺れて葉が散る。彼の毛は逆立ち、風が舞い起きる。
「先手必勝!土隆牙!!」
ノイが言葉と同時に技を繰り出す。
地に着けた掌からエネルギーを地に放す。地はノイのエネルギーを受け、耐えきれずに亀裂が入り破裂する。それは自然に、誰に操られるわけでもなくクロックキャットにむかう。 ガガガ
「バリアー!」
バシュッ ほんの少し、クロックキャットのほうが術を発動させるのが早く、ノイの攻撃は防がれた。
「ちっ」
「次は私よ!ファイアーブレス」
ノイに続いたのは、いつの間にか詠唱を終わらせているアイラ。
クロックキャットに向けられたアイラの掌から高熱の炎が現れる。
ゴォォ 炎の上が蜃気楼のように景色が歪み、通った後には舞落ちる木の葉の灰が地に墜ちる。 ガァン! アイラの攻撃がバリアーで弾かれた。
「うぅ〜ん、硬いなぁ」
「はいはい、次は私ね。シルフ!」
キィィン
耳鳴りのような音がした。
「はあぁい!呼ばれて飛び出ました、シルフちゃん」
光に包まれ現れたのはやはりあのシルフ。こんな場面でも彼女のテンションは下がることはない。
彼女の姿を見たクロックキャットは目を少しばかり見開く。
「ほう、シルフか。久しいな」
「ありゃりゃ?そういうあなたはクロックキャットさん。お久です!」
顔見知りだったのか会うなり仲良し口調で話しはじめる。同じ精霊同士。知らないはずもないのだが、あくまでも戦闘中。コイルがそれを許すはずもない。
「シルフ!悪いけど今、彼は敵なのよ」
「分かってるってぇ、だって中から大体の会話は聞いてたしぃ。ほら!指示出してよ指示!」
「はいはい」
何だか、少しばかり立場が逆転しているように見える。シルフに急かされコイルは言う。
「シルフ。竜巻!」
「はいさー!いっくよぉ・・・やぁ!!」
術を出すとは思えない口調で手から風を作り出し放つ。風は最初、小さく渦巻いていくが、みるみる大きくなっていく。まるで、周りの風を飲み込んで生物のように肥大していく。
ゴゥッ
勢い良くぶつかっていった竜巻だが、クロックキャットは微動だにしていない。
「うーん。凄い強度!」
「何でできてんだあれ?」
「知りたいですかぁ?タンパク質と鉄分を結合させて、」
「わかったわかった!とにかく硬いんだろ?」
こんな時でもこの人たちの会話は変わらない。
「さて、今度は私の番だ。」
クロックキャットはバリアーを解くと、直ぐさま詠唱を開始した。
「世界に散らばる数多の精霊よ。汝らの有り余る力を我に貸したまえ・・・」
幾多の黄色い小さな光がクロックキャットに吸い付けられているかのように集まっていく。天候が段々と悪くなり、今にも雨が振り出しそうなほど辺りは重い雲が広がる。
「天空舞う光走らせ、」
空に広がる暗雲が重く鳴りだす。
「鋭く尖る刄で地に跡残し、」
不定期に雲が光る。光る空はまるでクロックキャットの言霊に呼応しているかのようだ。
「対峙する者に後悔を。サンダーグランディオーソ!」
クロックキャットが詠唱終わると同時に空が競い合うように雲の中で光る。
一瞬、物凄い音と光がノイ達を襲う。
カッ! ゴゴゴゴッ
稲妻だ。稲妻の龍が空の黒い海を泳いでいる。
「!!アイラ!危ない!」
「え?」
ノイが叫んだが遅かった。稲妻の龍は黒い海を抜け出て既にアイラの背後に迫っていた。
ガァーン!!
「アイラーーー!!」
凄まじい音が耳を支配する。雷の衝撃で辺りは砂が舞い、何も見えない。アイラが生きているかなんて直ぐには確認できないし、駆け寄ってやることも・・・。
「アイラ・・・嘘だろ・・・?」
その場に膝を付くノイ。自然と目頭が熱くなる。
「・・・貴様あぁ!!!」
目に溜まったものを拭いもせず、目を充血させたままクロックキャットに掴み掛かる。
「お前よくもアイラを・・・!」
「ノイ待って!」
ノイを制止させたのはコイルの声。振りかぶった拳をそのままにコイルに目を向ける。
「なんだよコイルさん・・・」
「あそこ見て!ほら、あの影!」
「影?」
コイルが指差した先程までアイラが居た場所。そこには人のような影が立ち、周りには小さな光が幾つも見えた。
「ちょっとちょっとぉ!勝手に私を殺さないでくれるかなぁ?私はちゃんと生きてますって。」
「アイ・・・ラ?」
「アイラちゃん!」
砂が晴れた後にはアイラがしっかりと立っていた。どうやらアイラは攻撃をうまく躱したらしく、砂まみれにはなっているものの、外傷は一つもない。しかし、顔は不敵に笑い、怖い。
ノイはアイラが生きていることが分かり安心しクロックキャットに向けていた拳を下ろし、アイラに歩み寄る。
「よかっ・・・」
ノイは言葉を途中で切り止まる。それはいままでにないアイラの怒りの顔を見てしまったからだ。
「あの・・・アイラ?体は大丈夫・・・」
「ふふっよくもやってくれたわねぇ、クロックキャット?でも相手が悪かった・・・この私に攻撃するなんて。後悔させてあげるわ!ライトー!」
「まっ間に合わ・・・!」
ガガガガガガガ!!
以前マイブルで発動させた時よりも数倍威力は増していた。
幸いにもノイはクロックキャットから離れていたため巻き添えをくうことはなかった。
ちらっとノイはアイラの顔を見る。アイラの目はすわっていて、口の端持ち上がり笑っていた。『あ、悪魔だ・・・』ノイは顔を青ざめた。それしか当てはまる言葉は見当たらなかった。いや、その言葉しかこの世に合う言葉はないだろう。
そしてその攻撃は長かった。
「ちょっ、アイラ!?いくらなんでもやり過ぎ・・・!」
それまでクロックキャットのほうを見ていたコイルがアイラに振り替える。やはりコイルも止まった。『あ、悪魔だ・・・』
「ふぅ、スッキリ!」
アイラは約一分間。魔術にしては、いや、世の中の術の中で一番長くやり、満足したのか攻撃を止めた。
「アイラよ・・・お主には手加減とか思いやりとかそういう心をもっていないのか?危うくあの世行きの切符をもらうところだったぞ!」
「先にやってきたアンタが悪い!」
「いや、そうかもしれないが限度というものが・・・」
アイラに説教するつもりだったが、言い返されると先程の出来事が頭のなかに残り、うまく言うことができない。
「とにかく、アンタは負けたんだから早くコイルさんと契約しなよ」
「わかっているが、その前にだなぁ」
「コイルさん!早くこの口うるさい精霊と契約して!」
「わ、わかったわ!」
「くっ、口うるさいとはなんだ!」
アイラに言われ急いで準備をはじめるコイル。これから先、誰もアイラに逆らう人はいないだろう。