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第30話:藍

お待たせして誠に申し訳ございません(え? 待ってない?)お話はまだまだ長いのでホントにペースあげなければと焦っております。2ヶ月半ぶりの更新です。すみません。では、このまま読んでいただけたら幸いです。

 屋敷の居間に、五人の男女がいた。

 皆、紺色の浴衣を身に付けて机を囲むように座っているが、どこか落ち着かない様子。

「何時?」

 金髪の女性が尋ねる。髪は上でまとめられているものの、肩まであることから彼女の髪が長いことが分かる。

「まだ陽は出てないから…」

「朝ではないな」

 赤髪の男が考えながら答えようとしているが、黒髪の男が割り込み、答えた。

「遅いですね…百合さん達大丈夫でしょうか?」

「…今の私達には待つことしかできないわ」

 黒髪の女性は手を胸の前で組み、祈るように閉じていた目を開き、横に居た茶髪の女性に話しかけた。

 メンバー全員が集まってからかなりの時間が過ぎた、いや、過ぎたように思える。というのも、時計がないめ時間が分からない。

 外は未だ暗いが、そろそろ陽が昇りそうなのか、空を飛んでいたはずの蝙蝠が居なくなっていた。

「お茶をどうぞ」

 居間に入って来たのは、黒に金の糸で鶴が描かれた着物を着た若い女性、この屋敷の女中だ。手には五つの湯飲みが乗せられたお盆を。

 湯飲みを置く音だけが居間に響く。

 その時――

「藍さま!」

 玄関の方向から聞こえたのはこの屋敷のもう一人の女中。

 ウィークが直ぐに立ち上がり玄関に向かって走り出した。その後に続いて他の者も走り出した。

 居間を出てすぐの廊下の突き当たりを曲がれば玄関だ。ウィークが角を曲がりながら思わず叫んだ。

「藍ちゃん!」

「何です?」

 そこには、傷も汚れも無い元気な藍の姿。他の者もウィークのように驚いた様子だ。

「あれ? 元気…」

 ノイの思わず出た言葉に、藍は普通に答える。

「元気ではいけませんか?」

「いや、そういうわけでは…」

 思わず口ごもるノイ。何だか、藍に口で勝つことは無理だと思ったアイラ。

 六人がこの空気をどうしようかと考えていた時、藍の横に居た女中が藍に耳打ちをした。藍は思い出したのか、あっ、と小さな声をだした。

「そうでした、皆様に報告があって来たんでした」

 藍は身なりを整え、改めて五人と向き合う。

「姉達の意識が戻りました」

「本当か?」

 ウィークが玄関まで降り藍の肩を掴む。藍は少し迷惑そうに顔をしかめたが、彼の目の下にできたくまを見て本当に心配してくれていたのだと分かり、微笑んだ。

「はい。今はまだ長のお宅に居るそうです」

 しかし、ウィークの手を肩からさりげなく払う。

「居るそうですって…まだ会ってないの?」

「…? はい」

 アイラの質問に疑問を抱きながら答える藍の姿は、忍ではない人間から見ると不思議だと思うだろうが、この村では普通らしく、藍の隣に居る女中も首を傾げる。

「なら早く行ってあげないとな」

「はぁ…」

 藍を回れ右をさせながらウィークは微笑んだ。

「百合さん達も藍ちゃんのこと心配してますよ」

「そう…ですね」

 ドールに言われ少し頬を赤らめる。

「私達は着替えてから行くから先に行ってて」

 ウィークに背中を押されまた家の外に出た藍に、コイルが声をかけ、手を振る。

「はい。では失礼します」 はやる気持ちを押さえながら駆けていく藍の後ろ姿を全員で見守った後、五人は居間に戻り、洗濯して乾いた服を着込んだ。




 旅の五人に見送られた藍はすぐに菓子屋に行き、姉たちが大好きな甘露飴を二袋買って長の家に向かった。もちろん途中でグロー丸を見つけ、一緒に向かった。

 長の家に着くと、門前には先程までいた忍は居なくなり、戸が開いていた。

 無用心だと思いつつ中に入るとすぐに足を進める。

 足を進めると長い廊下にでる、そこから先を見ると、奥の部屋だけに明かりが灯っていた。

「やっぱり…」

 藍は不安から足が重くなっているのが分かった。

 姉たちを森からつれてくる時、藍は五人に相応のリスクを負うと少しはぐらかしたが、実はどんな状態になるかは藍は知っていた。

 今から二年前、百合と星羅が高位の忍になったとき、二人は長に呼ばれ、家に行った。幼かった藍は家に姉が居なかったのが寂しく、今回のように長の家に忍び込んだ。

(お姉ちゃんどこ…?)

 藍は長い廊下の端から先を見て、一番奥の部屋に明かりが付いているのを見つけ、ゆっくりと近づいて行った。

 その部屋の傍まできてふと足が止まった。長が自分の家に二人を呼ぶくらいだから、物凄く大事な話なのではないか、自分は入ってはいけないのでは…と。しかし子供はそんなことを考えても好奇心には負けた。

 中の様子を探ろうと耳をすました。


「…ということだ、分かったか?」

「はい」

「しかし、長」

「なんだ? 百合」

「普段の二倍の力を発揮できるこの秘術。何かしらのリスクは伴うのでしょう?」

「うむ。今からその事について話そうと思っていたのじゃ」

「そのリスクとは?」

「…二度と忍として活動できなくなる」

「力を失う…」

「常人ほどにまで筋力が衰えると言ったらよいかの」

「だから使うな、という事ですね?」

「使うなとは言っておらんよ、使うような状況を作るな、と言いたいのじゃよ」

「わかりました」


  ガタン

「誰じゃ? 星羅」

「はっ」

  ガラッ

「…誰も居ません」

「ねずみかの?」


 長の家から少女が逃げるように走り出てきた。

「はぁ、はぁ」

 少女は走った。後ろからは誰も追ってきていないと分かってはいたが、走り続けた。

 少女は自分の家に着くとすぐに部屋に向かった。部屋に入ると気が抜けたように座り込んだ。

 障子に人影が写る。少女が帰ってきたことに気付いた女中が、部屋の前まで来たらしい。

「藍さま? どうなさいましたか?」

「何でもないわ、私はもう寝るから…」

 藍は這うように既に敷かれている布団の中に入り、頭まで掛け布団を被った。

「かしこまりました」

 女中は問い詰めることはせずにさがっていった。

 その日、藍は眠ることなく朝を迎える。何度も三人の言葉が頭の中をめぐり、ひたすら考え、眠ることができなかった。

 その結果、一つの考えに行き着いた。それは―


「絶対に二人が術を使う前に私が終わらせる…そう決めたのに…」

 息を深く吸って、ゆっくり出す。一歩足を踏み出して廊下を歩く。

 目的の部屋の近くに来ると、空気が変わったことに気付き、足を止めてしまう。

「いかなきゃ…謝らなきゃ…」

 藍が躊躇していると、部屋の戸が開いた。そして、斑の声がした。

「藍、そこに居るのであろう? 中に入りなさい。話したいことがある」

「は、はい!」

 斑の言葉に藍は躊躇なく、部屋の中に入った。

 中には入ると、百合と星羅が斑と向かい合って座っていた。重々しい空気の中、斑に座るよう言われ三人から離れた所に腰を下ろした。

「さて、藍よ。お主に話さなければならないことがある」

 ついに言われると思い、身構える。

「秘術を使ったことにより、二人は体力が落ち、術が使えなくなった。つまり常人になった」

 やはり、と思いつつ罪悪感に顔を伏せる。二人の顔を正面から見れない。

 しかし、次の斑の言葉に顔をあげることになる。

「二人からの申し出により、これから旅に出て修行してもらうことにした」

「ノイ達に了承を得て、付いていこうと思う」

「だから藍も付いてきてほしい、貴方には外の世界を見てもらいたいの。まだ連れていってあげたことがなかったから」

「お姉ちゃん…星羅さん…」

 二人の優しい言葉に肩を震わせながら涙を流す藍。百合は隣に座り、藍の頭を撫でる。

 涙を流したまま、藍は少しずつ話始めた。

「私…二人が秘術使うとどうなるか知ってたの。だから、秘術を使わなきゃいけないような状況を作らないようにしてたのに…私がその状況…作っちゃった…ごめんなさい…」

「藍…」

 話ながら姉の膝の上にある手を小さな両手が握りしめてきた。

「藍のせいではない。この役がたまたまお主だっただけじゃよ、それに二人も誰が悪いなどとは考えておらんじゃろう」

「ええ、そんなこと思って無い。今まで苦しい時も共に歩んできた仲間だもの」

 長からの優しい言葉、星羅からの嬉しい言葉。さらに涙を溢れさせ藍は泣き崩れた。



 三人からの暖かい気持ちに、藍は背中を押され姉達と共に旅に出ることに決めた。


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