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第29話:里へ

 無事、藍をスライム達の手から救い出したが、百合と星羅が黒龍家に伝わる秘術を使ったため意識を失い、危険な状態になってしまった。藍が言うには、長の斑しか二人の対処方法が分からないらしく、急いで里に戻ることになった。

 藍が一人で先に里に戻り長にこの事を告げ、ノイ、ウィークがグロー丸の誘導により百合と星羅を背負い里に行く。残りの三人は特殊な道具を使い歩く。

 藍は物凄い速さで里に向かった。限界の速さで走り続け、里に着いたのは約二時間後。遅いと思うかもしれないが、普通の成人男性が休まず走って三時間弱かかる道を約二時間で走りきったのだ。

「長、藍でございます」

 藍が巨大な屋敷の一室の前に座り、中に居るであろう人物に声をかける。

 老いた男性の声が返ってきて、藍はなるべく乱暴にならないよう戸を開けた。そこには、声の主であった長、斑と、薬の調合士であろう頭から爪先まで真っ白な服を身に纏った若い人が座っていた。

「失礼いたします。実は百合、星羅の両名が…」

「準備なら出来ておる。二人は旅の方々が連れてきているのであろう?」

「は、はい」

 藍が説明をしようとしたことは全て斑は知っていた、おそらく、百合達の行動を予想して後を付けていた者が居たのだろう。よく見ると、調合士の前にはいろいろな道具と薬の素となる草花等があった。

「藍よ、旅の方々が休息をとれるよう客室の用意をしなさい」

「はい」

 斑は目を閉じたまま藍がいる方とはまったく違う場所を見ながら話を続けるが、調合士も藍もそのことには触れず、斑の話を聞いていた。

 調合士はゆっくりと薬を作り始めた。

「里の入口には人を三人置いておる、そやつらと共に来るのを待っておれ、あと二時間くらいで来るだろう」

「はい」

 依然として斑は目を閉じ、顔を天井を見つめたまま。

「下がれ」

 藍は素直にその場から立ち去った。




「ワンワン」

 目の前を走る子犬が突然鳴き、止まった。その後ろを走っているウィークとノイも同様に止まる。

「着いたみたいだな」

 確かに前方30メートルの所には集落があった。しかし、裏側なのか見覚えのない門構え。自分達が最初に里に入った時とは違う雰囲気だった。

 ウィークは息をはずませることも疲れた様子も見せないが、ノイは反対に息をはずませこれ以上は無理、といいそうなほどに疲れているようだった。

 百合を背負いなおし、前屈みになりながらも星羅を落とさないよう背負うノイ。

「早く二人を斑さんの所に連れてかないとな」

 グロー丸は大人しく座り、二人を見上げている。藍からの指示を達成したためか、二人からの指示を待っているようだ。

「グロー丸、斑さんの屋敷まで案内を…」

「その必要はありません」

 ノイが指示をだそうとした時、聞き覚えのある子供の声が制した。

 少女が一人と大人が三人、門の里側から姿を現した。大人三人は性別が判別できないほど全身を黒い服で覆い、見えるのは手と目だけ。

「藍ちゃん」

 先ほどまでの幼さは無く、大人のような雰囲気があった。

「姉達は里の者に運ばせます。お二人は私に付いてきてください」

「…わかった」

 大人のうち二人が前に出てきて、ノイ達から百合達を受け取ろうと二人の前に立った。二人は後ろを向いて百合達を託す。近くで見たら二人の大人は男であったことが分かった。

 男達は一礼して里の方に走っていった。

「すまないが、他の三人がまだ森の中にいるんだ」

 ノイの言葉に藍は優しく微笑み。

「大丈夫です。既に里の者を三人、向かわせているのであと一、二時間で里に着きます」

 そう答え、ノイ達は礼を述べた。


 藍に案内された場所は百合達の家ではなく、全く別の広い屋敷だった。

「湯を沸かしておきました。どうぞお入りください」

 藍は広間に二人を案内すると荷物を預かり、風呂に入ることを勧めた。確かに二人には泥やら砂やらが汗によって付き、このままでは屋敷の物を汚してしまいそうだ。

 二人は言われた通り風呂に入ることにし、再び藍の案内で風呂に向かった。

「服は洗わせていただきますので、こちらをお使いください」

 脱衣場で渡されたのは紺色の浴衣。

「私は少しここを離れます、屋敷には二人ほど里の者がおります。何かありましたら二人にお申し付けください」

「わかった」

 脱衣場から出ようと一歩下がった藍に、ウィークが声をかけた。

「藍ちゃん」

「何でしょうか?」

 ウィークを見上げる少女の目は冷静なまま。思わず苦笑いをしてしまう。

「そんなにかたくなんなくて良いよ」

「いえ、お客様ですので」

 ウィークは残念そうな顔をして頭を掻いた。何なんだろう、とウィークのことを不思議そうに見て踵を返した。

「ごめん、あと一つ」

 今度は、あからさまに嫌そうな顔をする藍に、ウィークが目線を合わすように座った。

「百合さん達の様子、俺達にも教えてくれ」

 子供らしい大きな目がさらに大きく見開かれる。

「二人がこうなったのは俺達に責任がある。何もできないが…」

 言葉を詰まらせたウィークに藍が深く頭を下げた。

「ありがとうございます」 顔を上げた藍の目には涙が溢れていた。切羽詰まった状況でひとの優しさに触れたためだろうか。




 広い屋敷の一室、その戸の向こうに気配が3つ。

「長、百合、星羅の両名をお連れしました」

「入りなさい」

 一人の男は戸を開け、二人の男が中に入り抱えていた百合達を斑の前に寝かせた。衰弱も激しく、顔には血の気がない。

「下がりなさい」

 斑は目を閉じたまま伝えた。

 二人の男はすぐに部屋から出て、戸を開けていた男の後ろに座る。

「私が良いと言うまで、この部屋には誰も入れるな」

「はっ」

 戸が閉められ、部屋の中は静かになる。しん、と静まった空気の中、薬剤士は止まっていた手を再び動かし、器に入っていた粉を二つの小さい正方形に切られた和紙に分けた。

 薬剤士は粉の乗った和紙を斑の横に置き、部屋から出ていった。

「さて、始めるかの…」

 斑は目を開き、手を合わせて気を高め始めた。老人の目は瞳孔が開き、光を映していないようだった。




 陽は完全に沈み、かわりに辺りを照らすのは淡い光を放つ三日月のみ。ただえさえ森の中で陽の光が入りにくい場所なのに、三日月であるために普通の人だとこれ以上先に進むのは危険と判断し、洞窟かどこかで陽を待つのだが…。

「アイラ、灯り」

「は〜い」

 三人中二人は魔術士であるため、怖いものはないというように三人はどんどん機械を頼りに進んでいる。

「コイルさん。まだ?」

「まだ」

 先頭を歩くコイルに疲れ、へとへとなアイラが聞いた。コイルは振り返ることはなく、手の平に乗せられた機械をしきりに気にしながら短く答えた。

「あとどのくらいでしょうか?」

「四時間くらいじゃない?」

「えぇ…」

 四時間という言葉にアイラが反応した。

「文句言う暇があったら歩く。じゃないともっと遅くなるわよ」

「はーい」

 まるで小学生低学年の遠足のようにコイルを先頭に、一列になって進んでいく。

「セラフィー様、インフェルノ様、シード様ですね?」

 急に前方に現れたのは三人の忍。三人とも紺色の服を身に纏っている。

「そう警戒しないでください」

 声から判断して、女性だとわかった。

「私達は藍様の命により、あなた方を迎えに来た者です」

「藍ちゃんナイス!」

 藍の名前が出てきたことで三人は警戒を解き、安堵の表情をうかべる。

「術を使い移動しますのでこちらに…」

 真ん中の忍に言われ三人は歩み寄る。そして、右側の忍が手を合わせる。

  ザァァ…

 六人は木の葉に包まれ、その場から消えた。


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