第26話:スライムとは
お久しぶりです。もしかしたら、初めて深海瑠璃という人の存在を知った方も多いのではないかと思います。その言い訳は他の作品にてさせていただいたので、ここは短く…。すみませんでした。それでは、このまま読んでいただけたら幸いです。
忍である黒龍ノ百合の妹、黒龍ノ藍を捜し出すため森に入ってきたノイ達。
この森にはスライムという魔物がいる。実際、そのスライムを退治することがノイ達の本来の目的であったりするのだが。
「百合さん、藍ちゃんがよく行く場所って分かります?」
先頭を歩くアイラはライトで辺りを照らし、自分の後ろを歩く百合に聞いた。
百合は星羅に身体を支えられながら歩いている状態で、はい。と小さく答えた。
「藍はよく、森の奥にある老樹に…」
なんとか絞りだした声ながらも、前方をしっかり見据えている。
「百合、気持ちは分かるけど、やっぱり家で休んでたほうが良いんじゃない? 足もフラフラだし」
星羅が彼女を気遣って言ってくれたのだが、逆効果だったのか、自分の身体を支えてくれていた星羅の手を振りほどき、きびきびと歩きだした。すぐに前方にいたアイラの横に並び、何やら話しはじめる。
残された星羅は、はじめて百合に邪険に扱われたことで、少し傷ついたようだ。ドールが星羅に近寄ってきた。
「百合さんは焦っているんですよ、大丈夫です」
なにが大丈夫なのだろうか、と不思議に思ったが気遣ってくれた彼女に微笑んで返した。
彼女はそれが嬉しかったのか、歳に似合わぬほどきらきらとした笑顔を顔に浮かべた。
「…なあ…」
「………」
ウィークが後ろにいるはずのノイに声を掛けるが、返事は返ってこない。
「…なあ…!」
今度は身体ごと後ろを向いて、すこし声を張ってみる。
「…何?」
ノイは眉間にしわを寄せて怪訝そうな顔で答えた。
「…なんでもない。ただ声を掛けただけ」
そう、ウィークはただ暇だったのでノイに声を掛けたのだ。まあ、迷惑な話だ。
その言葉が頭にきたのか、ノイは右足で彼の背中を蹴った。
「いてっ!」
ウィークはそのまま前につんのめる。彼の背中には、くっきりとノイの足跡が残っていた。
「…っ!」
誰かに頭を叩かれたノイ。
「少しは静かにしなさいよ」
それは、二人の小学生の様なやり取りにあきれているコイルだった。
彼女は大きなため息を吐いた。それは二人に対してだけではなく、周りの気配に対してもだ。
コイル以外のメンバーも気付いているであろう、草木に隠れている者達からの無数の視線。
先頭を歩くアイラと百合の足が止まった。
「藍!!」
目の前には少なくとも千年は生きているだろう老樹、それに十二、三歳の少女が蔓で張り付けられていた。綺麗な水色のツインテールに雪のように白い肌、服も髪に合わせて水色の着物を着ている。
「藍! 返事しなさい!」
意識を失っているのか返事をすることも、体を動かすこともしない。百合は駆け寄ろうとするが、老樹の周りに数えきれないほどのスライムが現われた。
「百合さん!」
アイラが走りだした百合の腕を掴もうとするが、忍である百合には触れることすらできず、アイラの手が宙をかいた。
そんなアイラの横を、ウィークが百合と同じくらいの速さで駆け抜けた。
「やるしかねぇな」
続いて、ノイが駆け抜ける。
「もう!」
「エアーアロー!!」
アイラは怒りながらも詠唱を始め、コイルは魔術を発動させる。
「わ! 後ろにまで!?」
ドールが後ろのスライム達に気付き、リボンを構える。
スライムの姿は気持ち悪い、という言葉が似合う。紫色の半透明で、形を保ちつつもどろどろした体に、その体の中央には巨大な眼のみ。
シュッ、と空を裂く音と同時に一体のスライムに手裏剣が突き刺さった。
「さっさと片付けてしまいましょう」
どうやら星羅が攻撃をしたようだ、手には次の手裏剣が数枚持たれていた。
「ちっ、こいつら本当にしつこいな…」
百合、ノイ、ウィークの三人は藍を助けだすため、老樹の周りにいるスライム達を片付けているのだが。
斬っても減らず、斬れば斬るほど増え、毒を吐いてくるスライムに、百合とウィークはてこずり、気ばかりが焦っていた。
しかし、ノイだけは違った。彼は刃物を使わないため、自身の気の力で倒すため相手を粉砕することができる。
「やっぱり、物理攻撃は基本効かないみたいね…三人とも下がって!」 その声に、スライム達の中に入っていた三人がすぐにアイラの両脇に戻ってきた。
スライム達の中に仲間が居ないことを確認すると、アイラはスライム達にむけて術を放った。
「ファイアーブレス!」
炎の渦がスライム達を焼いた。だが、数匹残ってしまっている。残ったスライム達は魔術のダメージによって、動きが鈍くなっている。
「な、なんで…」
完全に仕留めたと思っていたノイは驚きを隠せないでいた。その答えをアイラが言った。
「スライムには属性があるの。それは火、水、雷の三つ」
指を三本立ててノイの目の前に突き出す。
「耐性があるのは三分の一の確立か…でも残った数が少なくないか?」
「良いとこに気付いたな」
アイラをはさんで反対側にいたウィークが、いつのまにかノイの背後に立っていた。
そして、得意げに話す。
「やつらは無限に分裂できると思っているだろう?」
「あぁ…」
ウィークが横にきて顔を近付けて質問をしてきたが、ノイはウィークを煙たそうにしながら頷いた。
ウィークはノイの態度に気付かず、自分の世界に入ったかのように話しはじめた。
「だが、やつらの分裂にも限界があるんだよ。仮に、百パーセント火の耐性を持っているスライムがいたとしよう、そいつは斬られると分裂をする。ここでやつは毒を吐くわけだが…なんでかわかるか?」
「…知らねぇよ」
べらべらと話すウィークにいらついているのか、素っ気なく返す。そんな険悪ムードに気付いたアイラが、ウィークが話しはじめる前に答えた。
「スライムが分裂するとき、身体だけではなく核も分裂するの。じゃなきゃただの紫の物体が増えただけで何の戦力にもならないからね」
「核…心臓みたいなものか?」
先程のウィークに対する態度とは一変して、少し興味があるような質問をした。
「それはまだ謎。たぶん生命維持のための機能がすべてそこに集まってると言っていいと思うわ」
へぇ、と相づちをうったノイだが、その後が続かず、沈黙する。
痺れをきらしてウィークが
「続けていいか?」と問うと、ノイが無言で首を縦に振った。
「その核が分裂するとき、なにかしらの化学反応が起きて、毒のような物質が周りに飛び散るんだ。しかし、分裂した個体の機能は元の半分しかない。つまり、耐性も半分。分裂をすればするほどやつらは耐性が無くなる」
「だからこんなに少ないのか」
ノイはウィークの説明を聞いて、現状に納得したらしい。しかし、百合は声を荒げた。
「そんなことはどうでもいい! 早く…早く藍を助けだしてあげないと」
「わかっている…」
「星羅さん!?」
いつのまにか、百合の背後に星羅が立っていた。後ろからコイルとドールが駆けてきた。
「後ろの奴らはすべて倒した。残るは目の前の奴らだけだ」
「星羅さんが全部倒しちゃって、私たちなんかいらなかったぐらいよ」
「へぇ…」
星羅の言葉にコイルが続け、アイラが感嘆の声を漏らす。それは、星羅の身体は汚れもなく、乱れてもいなかったからだ。
「ん? 数が減ってないじゃない」
コイルが前方の敵を見て言った。
そんなはずはない、とアイラ達はスライムを見るが、コイルの言う通り。敵が術で焼き払う前と同じ数までに戻っていた。
「どういうこと…?」
百合がその場に崩れるように座り込む。