第25話:魔物退治
最近飲み会続きで疲れている作者。。。明日も飲み会だ。こんな作者が書いた今回、このまま読んでいただけたら幸いです。
お風呂から出てきたアイラ、コイル、ドールの女性陣はあの長い廊下を再び歩き、居間に戻ってきた。
「あ〜、気持ち良かった」
「あら?」
「もう戻ってきていたんですね」
「ははっ…」
ガラリと開けた引き戸の向こうには、仰向けに倒れているウィークと彼をタオルで仰ぐノイがいた。
ウィークが真っ赤な顔をして倒れているところを見ると、どうやら上せてしまったようだ。
「まあ、自業自得よね」
倒れているウィークに何をするでもなく、女性陣は再び机の周りに座る。
「そういえば、星羅さんは?」
部屋の中をぐるりと見渡したコイルがノイに尋ねた、ノイは仰ぐ手が疲れたのか、手をひっぷるっていた。
「星羅さんなら、百合さんの様子をみてくるって今さっき外に。妹さんがまだ帰ってこないらしくて」
目だけを玄関の方にむけ、答えるノイ。その答えにのぼせて床に寝ているウィーク以外のメンバーは、不安の色をあらわにする。
「だ、大丈夫よ! ね?」
なんとかメンバーの不安を取りのぞこうとコイルが声を掛けるものの、誰一人として、俯いたまま顔を上げる者はいなかった。
「そういえば…」
声を出したのはノイ。ズボンのポケットから取り出したのは小さく折り畳まれた一枚の紙、それを女性達が囲む机のうえに置いた。
それをアイラが手に取り、開きながら訊ねる。
「何?」
「斑さんからの伝言だ、って星羅さんたちじゃない忍びの人から渡された」
ノイの返答を耳に入れながら、折り畳まれた紙を広げて読み始める。
「なんて書いてあるんですか?」
アイラが読んでいる手紙を覗こうとドールが顔を近付ける。
それに気付いたアイラは手紙をドールに渡し、他のメンバーにむかって話しはじめた。
「魔物退治の依頼。相手はスライム。最近になって里の人を襲い、畑を荒らすんだって」
コイルがスライムと聞いて顔をしかめた、どうやらスライムに関して良い思い出がないらしい。
「スライムか…私苦手なのよね。斬っても斬ってもきりがない、敵が増えるばかり。しかも分裂するたび毒を吐いてくるし…」
煙たげに話すコイルはすぐに席を立ち上がり、
「喉渇いた」
と言い、台所にむかう。やかんのような物に水を入れ、火にかけた。
ノイとドールはコイルの話を聞いてすでに引いているようだ、ムリもない相手は際限なく増えていくスライム。誰だっていやになる。
「ここって忍の里なんだよな? だったら、里の人達でどうにかなんないわけ?」
ノイは倒れているウィークを仰ぐことを止め、体を女性陣のほうに向けて会話に交じっている。ドールも手渡された手紙を自分で読むことはせず、アイラの話に耳を傾けている。
「確かに、ここは忍の里なんだけどね、肝心の忍達は任務で外に出ちゃってるの。残されているのは女子供と老人、怪我して身動きの取れない忍だけ」
コイルが人数分の水をコップに注ぎ、おぼんに乗せて持ってきた。もちろんウィークの分も含まれているが、先程火にかけていたやかんの中の水は一滴も使っていない。やかんは今も火にかけられている。
「それじゃあスライムを追い払うのはムリね。まして倒すことなんかも…」
腰を下ろしてコップを持ち、コイルは口に水を含む。
それにつられ、床に倒れているウィークとコイル以外のメンバーもコップを手にするが、ドールだけが口を付けず、何かを考えるようにコップの中の水を見る。
「だっだら、その依頼引き受けませんか?」
真剣に言ったドールにアイラは一つ、はあ、とため息を吐いて答えた。
「誰も引き受けないとは言って」
その時、玄関の扉がガラリと開いた。
中に入ってきたのは星羅と百合の二人だけ。星羅はずっと外にいたためか、心労のためか顔色の青い百合を支えるように、肩を抱いて入ってきた。
「百合さん大丈夫!?」
百合の顔色に驚いたドールが駆け寄る、その声に反応したのはウィークだった。
「百合さん!!?」
ガバッ、と起き上がったウィークは未だ熱が残り赤い顔を妹が走っていった先、玄関に向けた。
百合の青い色を見てウィークは一気に熱が冷めた。
「だ、大丈夫ですか!?」
彼は立ち上がり、既に玄関から居間に入ってこようとする二人に支えられた百合の前に立つ。
しかし、妹に脇腹を足で蹴られた。声にならないほどの痛みに、腹を押さえて縮こまる。
「お兄ちゃん邪魔!」
ドールは冷たい視線を兄におくり、百合を居間の机の前に座らせる。横には星羅が座った。
すると、二人の目の前に温かそうなお茶の入った湯呑みが二つ置かれた。
置いたのはコイルだった。そう、先程沸かしていたお湯はこのためだったのだ。
「ありがとうございます…」
やっと百合が出した声は今にも消えてしまいそうな小さな声、外の外気でかじかんだのか不安でなのか、震える両手で湯呑みを持ち、ゆっくり体に馴染んでいく温かさを口に含み内側からも温かさを取り戻してゆく。
「妹さんは?」
少し落ち着いた様子の百合にアイラが訊ねた。
「妹、藍は未だ森に行ったまま帰ってきていません」
湯呑みを持っていた手に力が入った。
「森にはスライムがいるそうですね?」
さらにアイラが確信に迫る。
「何故それを…」
星羅が身を乗り出すように聞き返してきた。それに先程の斑からの手紙を二人に見せた。
「あなた方の長、斑さんから私達に魔物退治の依頼がきました」
渡された手紙を二人は目を通し、先程とは違う顔をアイラに向けた。
「それで、答えは?」
「イエス。そう言っておきましょう」
何か企みのある顔でアイラは百合に告げた。百合は訝しげな表情で、
「…ということは、何か条件でも?」
と聞いた。
二人の会話にまだ痛みはあるのか脇腹を擦りながら座るウィークと、ノイ、ドールはハラハラとした様子で聞いている。
「今回の件、百合さんの親族も関わっていますね?」
この言葉でアイラの意図が読めたのか、少しばかり表情が柔らかくなった。
「はい」
「なら、私達とともに魔物退治に行きましょう」
「私達の力を試したいのですね?」
核心を突く言葉にアイラはうんともすんとも反応はしない、ただ、力強い眼が百合を見ていた。
百合は湯呑みを机の上に置き答えた。
「…良いでしょう。行きましょう」
冷静な声で答えた百合とは対照的に、星羅は百合に掴み掛からんばかりの勢いで話した。
「百合! 本気で言ってるの!? 今夜入ってた任務はどうするのよ!」
「こんな心境じゃ、掟を守って任務なんか遂行できない。それに、あの程度の任務なら下級の者にもできる」
星羅の気迫にたじろぐわけでもなく、先程と同じ調子で答える。
「責任はすべて私が負うわ、星羅には迷惑かけない」
彼女に負けたのか、大げさに息を吐き先の勢いはどこへやら、落ち着いた声で返してきた。
「…当たり前じゃない。ま、私もついて行くけどね」
お互いの意志を確認し合うかのように眼を見る。
その時、アイラが二人だけでなく、この場に居る全員にむけて話した。
「では行きましょう? そっちも早いほうが良いでしょう?」
「ええ」
迷いもなく百合は立ち上がり答える、同時に星羅もノイ達も立ち上がった。
五人と二人は身仕度を整え、スライムが住む森に入っていった。




