第18話:犬猿の仲ならぬ犬猫の仲
更に悪化していくボーグドッグとクロックキャット。さあ、今後どうなってしまうのでしょう。。。それでは、このまま読んでいただけたら幸いです。
光の精霊ボーグドッグ(以下、ボーグと省略)と契約をするため光海という岬まできたのだが、出てきた彼にはこちらのことが全て分かってしまっているらしい。
それはそれで話が早く進んで良いのかもしれないが、口の利き方が悪くクロックキャット(以下、クロックと省略)が注意をしに主人の許可を得ず出てきた、そして喧嘩をしはじめたのだ。
「本当にうるさい。静かにしてくれないか」
白い犬、ボーグは顔をしかめて、迷惑そうな顔をしてまたもや言い放つ、
「くぅ〜!」
人型になっているクロックは、ヤンキー座りで彼と対峙している。ボーグに言われかなり悔しそうに手でバンバンと膝を叩く。
「それで、どうする。やるのか?」
ボーグは完全にクロックを無視して視線をアイラ達に向ける。アイラは笑顔で返した。
「ええ、お願いします」
アイラの後ろでは既に男共が準備万端で待っている。
「では、いくぞ」
ボーグはそう言いエネルギーを高め始める。
「ちょ、待てぇい!!」
ボーグの目の前にいたクロックは慌てて猫の姿に戻り、主人達の下に走っていく。主人達の前に滑り込んで体勢を立て直し、素早く術を発動。
「ライト」
「し、シールド!」
ガアアァン
どちらが早かったかというと。
「ふぅ、ギリやな…」
本当にギリギリで防いだようだ。ドールが目をつむって近くにいたアイラにしがみついているが、他はそれぞれ音に耳を塞いでいたり立ち尽くしている。
クロックが発動させたシールドは、以前見せたものよりもはるかに今回のほうが大きい。前回ドラゴンと戦った時は前方だけだったが、今は自分を含め6人が入るほどの半球の膜を作り出した。
「…ちっ」
ボーグが小さく舌打ちをする、それはもちろん相手の耳に届いている。
「あんさん。ちっ、ってなんやねん。なにか? 当たってほしかったんか」
顔に影を落として話すクロックは微かに震えている、それほど頭にきたのだろう。
「あたりまえだろう、戦っているんだから」
何もなかったかのようにボーグは話す。
それに彼の耳が動き、俯いていた顔が上がる。その顔は驚くほど笑顔、眼は冷たい。
「そやな、戦いやもんな」
ボーグを睨み付けるクロックの顔は徐々に険しくなっていく。
「借りはきっちり返すんがわいの流儀なんや…覚悟しとき」
ギロリと突き刺すような視線を相手に送っている。だが、残念なことに相手は全然怯んでいない。
「クラーク、君の実力はそんなものだった?」
さらにボーグはクロックを挑発する。
「クラーク! 挑発にのっては」
そこにノイが止めに入るが、
「なんやとぉ〜!? あんさんはよほどわいの本気が見たいらしいなぁ!」
遅かった、クロックは完全に切れてしまった。ウィークは深くため息を吐く。
「お望みどおり、いかせてもらうで!」
素早く人型になり突っ込む、ノイとウィークはやむなく援護にまわる。
「っく」
「しょうがないわねぇ」
そしてコイルは詠唱を始め、そこにアイラがコイルの隣に並び同じように詠唱を始めた。
「コイルさん、ちゃんと『しつけ』しないとダメですよ」
クロックに聞こえないように小さな声で告げる。
「…考えておくわ」
そうだと心の中で頷きながらも軽くながしておく。コイルが言いおわった途端、二人同時に術を発動させる。
「シルフ」
「ドラゴン出ておいで」
二人の前に小さな光りと龍が現われた。
「はぁ〜い…」
「……はぁ」
出てきた二人はなんだか覇気がない。
「どうしたのよ二人とも」
コイルが訊ねてきたのをシルフが首を横に振って答えた。
「あの二人は毎回ああなるんですよぉ…」
「毎回?」
アイラが確かめるように言葉を返してみると今度はドラゴンがゆっくりと頷く。
「うむ、会うと必ずじゃな。馬が合わんのか昔から会えば喧嘩をするのじゃ」
しかし、クロックとボーグは喧嘩というよりも完全に本気で術だしまくり。
「昔から変わらんな、その才のなさ…レイ!」
幾本もの光の槍が頭上からクロックに降り注ぐが、彼は素早く動き一本もかすることなく躱しきった。
「うっさい! あんさんは毎回グチグチと…ダークネス!」
ボーグの周りに様々な大きさの真っ黒な箱が現われた、箱の黒は普通の黒ではなく闇の黒、光などは反射せず全てを飲み込む。
箱はゆっくりと四方八方からボーグを追い込む、この術を跳ね返すにはかなり高度な術でないと無理なのだが。
ああ言えばこう言うの原理で二人の攻撃はエスカレート、こんな戦いに人間が入っていけるわけはなく、
「ノイ、猫を助けてやれよ」
さらっとすごいことを言いだすウィークさん。戦う二人の間はものすごいことになっている、二人の術のおかげで嵐が吹き荒れているのだ。
「バカ言うな! あんな中入って行けるかよ…おまえ行けよウィーク」
ウィークの背中を押すが、相手が踏張っていてなかなか動かない。
「行きたくねぇよ俺はまだドールの花嫁姿を見ていない。こんなところで死ねるか」
援護に入った男たちは離れたところでただ見ているしかなかった。というか、ノイは冷ややかな目でウィークを見る。
「…シスコン」
「俺はシスコンじゃない! 妹思いの優しい兄だ」
いやいや、そんな腰に手を当てて威張られてもシスコンですよウィークさん、その過保護っぷりは。と誰もが口を揃えていいそうな雰囲気である。
「まさに、犬猿の仲ならぬ犬猫の仲ですねぇ」
肩をすくめてシルフは戦う二人を見て言った。そこにまだ龍の姿でいるドラゴンが割り込む。
クロックが言うには、ドラゴンも力の流出を抑えるため龍の姿らしい。簡単に言えば人型ではない者は皆、姿を変えているということらしいが。
「しかしシルフ、このままじゃとボーグが『アレ』をやりかねないぞ」
「あ! やばいじゃないですかぁ、早く言ってくださいよぉ」
内容は切羽詰まっているようだ。
「どうしたのよ二人とも、このままだと何が起こるの?」
神妙な顔で会話する二人にコイルが更に割り込む。
「このままだとですねぇ…ボーグさんが『召喚』しちゃうです」
「『召喚』って? 誰を?」
ドールがコイルの後ろから顔を出してさらに聞いてきた。
「神の化身、こちらでいう神官を召喚するんじゃよ」
ドールの問いに優しく答えるドラゴン、その眼は他の者を見る時よりも優しい感じがした。
答えにすぐに反応したのはアイラ、目は大きく見開かれていたが焦っている様子はなく、どちらかというと嬉しそうだ。
「え? 神官なんて召喚しちゃうの!?」
「うむ」
「ちょっと! 喜んでいる場合じゃないでしょ」
普通はありえないことなので実感が湧かないが、『神官』とは前にも紹介したように、精霊の中で一番偉い人。つまり一番強い。
「そんな人を召喚されたらやばいですよね?」
ドールは首を傾げてアイラを見る。彼女はコイルやアイラより年上なのに敬語で話すのは何故だろうか。
「‥やばいじゃん! 確実に負けて仲間になってもらえない」
我に戻ったのかアイラは叫びだすが、
「え、みんなが危険とかは考えないんですか‥」
アイラの思考は確かにずれている、まず身の危険を案じるべきだろう。
五人で論じている間に恐れていたことが起きてしまった。
クロックが作り出した黒い箱がボーグのすぐ傍まできている。
「はぁはぁ…」
「く…あんさんもこれで…終わりやな」
フラフラになりながらも戦う二人、外傷はないがエネルギーの使いすぎで立っているのでやっと、という状態である。
「ふん‥こんなもの!」
ボーグはそう言うと人型(肌は色白で髪は金色、釣り上がった眼はまるで蒼い宝石を埋め込んだように透き通っている。服はやはり全身白が基調、腰を縛る紐だけが異色だ。)になり、最後の力を振り絞って術を発動させた。
「ラピュタ召喚!!」
刹那、目の前が白い布で覆い隠されたように見えなくなった。