第14話:アパートの住人
長いです。設定を元に書きましたが、書いてみたら以外と長くなってしまいました。それでも、このまま読んでいただけると信じて。。。
ウィークの家でアイラの怪我の手当て中。
実際、手当てをしているのはコイルで、ウィークはお茶を入れてくれている。
「なぁ、ここには独りで住んでんの?」
「いいや」
暇なノイは椅子に座り小さな机に肘をつけたまま台所で湯を沸かしているウィークに話し掛ける。ウィークはシュッシュと音をたてるポットを手に取り短く返した。
「女と二人」
「へ…?」
ウィークの不意打ちに情けない声、僅かに上ずっていた。
「ってか妹と二人」
続いてきた言葉に胸を撫で下ろす。何故安心するのかと聞かれても、それが人間の心理だ! と答えるしかない。
コイルはアイラの手当てが終わったのか、消毒液などを片付けながら会話に参加する。
「ご両親は?」
「亡くなってしまいました」
答えたのはウィークではなく、ウィークの後ろに立った女性。
「なんだ、起きていたのか」
「なんだ。ってなによ! あ、初めまして。アホウィークの妹、ドール・シードといいます」
「お前こそアホってなんだよ」
ドールはノイ達には礼儀正しく挨拶をしたが、実の兄のウィークにはなんだかきつい。これも仲が良いうちに入るのだろう。
ドールはウィークと同じ純粋な黒でセミロングくらいの長さの髪、耳は髪で隠していても見える。耳が尖っているということは、彼女は魔族なのだろうか。そして兄に似て美形だ。
「お兄ちゃんが他人を家に上げるなんて珍しいじゃん」
「いやぁ、走ってたらぶつかって怪我を…」
「怪我!? 走るなんてお兄ちゃん何したの! また八百屋さんから盗んできたの!?」
「あの…ま、まあ落ち着け」
ドールに言われたことは図星らしく、かなり焦っている。というか、妹のドールに兄であるはずのウィークが負けている。
それから二・三十分は兄妹喧嘩が続く。
「ところで、あんたらこの辺の者じゃないだろ?」
兄妹喧嘩が終わり、ドールに入れてもらったお茶をいただいていたとき、ウィークがきりだした。
「ええ、旅をしていて」
「なんで旅なんてしてるんですか?」
コイルがすぐさま返すが、ドールがさらに突っ込んだことを聞く。あまり関係の無い人に旅の目的を話してはいけないのだが。
「それは、世界を」
ガタガタ
ノイが地雷を踏みかけ、アイラがノイの口を押さえた。
「…うぐっ…」
ノイの口はすでにアイラの手の下、話すことができない。
「ちょっと言えないです」
詳細を話そうとしないこの三人はかなり怪しい。ウィークはアイラ、コイルの身なりを見て一つの職業を思い出し、更に聞く。
「…この島に来たってことは、大精霊と契約にでもしにきたのか?」
「えっ…!」
アイラがウィークの言葉に驚いたのは、図星というわけではなくこの島にも大精霊が一人居るということ。しかもドラゴンとは…。 人間と精霊の交流が盛んな今でも、ルイ達以外に人間を嫌う精霊は何人もいる。ドラゴンもその一人。
「あんた達のその格好って、魔術士か召喚士だろ? この町に訪れた旅人(召喚士)は大抵、町の南西にある『地の洞窟』にドラゴンと契約しにくるんだ。んで、諦める」
「なんで諦めるの? 魔物が思っていたものより強かったの?」
「いいえ、私たち兄妹は、昔から大精霊であるドラゴン様に仕えてきた民族の生き残りなのです。ドラゴン様をお守りするため、お会いしたい方は、私たちの試験を突破していただかないといけないんです」
ドラゴンに会うために突破しなければならない、この二人が出す難関試験。どんなもなか気になる。すかさずアイラは尋ねる。
「へぇ…その試験って難しい?」
「人それぞれですかね」
「内容は?」
「内容はですねぇ」
なぜかすべてを遠回しに、しかも曖昧に返してくるドール。そんな二人のやりとりをコイルは真剣に見ているが、ノイとウィークは関係なさそうにお茶をすする。
「うちのお兄ちゃんと戦っていただきます!」
「はぁあ!?」
さすがにこの時はノイもウィークも驚く。何故ウィークまでも驚いたのかというと、
「まて! いつオレが戦うことになったんだ! 第一、試験なんて存在しねぇだろうが!」
そう。実は、ドラゴンに会うのに試験などはないのだ。ドールがなかなか話さなかったのはただ考えていただけ、試験内容を。
「だって、試験があったほうがおもしろいじゃん」
ドールの意見はこれだけ。
そして、討論した結果、ウィークと戦うことは無くなった。だが、またドールが。
「暇だからついてく!」
とか言いだし、ウィークが、
「ドールだけだと不安だし、ドラゴンに仕えている身だし、ついてく」
ということで、ノイ、アイラ、コイルそして、ウィークとドールの五人でドラゴンの下に向かうことになった。
カツーン カツーン
一行はドラゴンが棲む『地の洞窟』の前に到着。シード兄妹の話によると、ドラゴンは洞窟の一番奥に居るということ。
「物凄く暗くてなんも見えないんだけど…本当にこんなとこにいんの?」
ノイの声が洞窟内に響く。
「いますよ!」
ドールの声までもが響く。
ノイが疑うのも無理はない、洞窟ないは目を開いていても何も見えないほどの暗やみ、一筋の光も入り込まないほどの完璧なる洞窟。響き渡る音は自分達の足音とため息。それと、どときどき交わす会話だけ。
カツーン カツーン
「…ライト」
ポウ
以前アイラが敵に放った『ライト』を工夫して右手の人差し指に発動させる。人差し指に発動させた光は小さく、直径二センチほどだが、バラバラに散らばった五人の足元まで見えるほど広範囲にわたって明るくさせた。
「眩しい…」
「前が見えなぃ〜…」
「…頭痛くなる」
「うわぁ! アイラさん凄い」
「へへっ!」
『ライト』を発動させてプラスになったか、マイナスになったかは人それぞれのようで。
「ところでさ、なんでドールってそんな格好なの?」
アイラがこのように思うのも無理はない。ドールは場違いな格好をしている。
「可愛いでしょ? 私は踊り子のお仕事をしてるんです。その衣裳なんです!」
そう、ドールは踊り子の衣裳で同行中。踊り子の服は青地に赤のラインが入り、かなり露出度が高く、動き易そうではあるが、かなり場違いな服だ。
「武器はこれ! リボンです」
ドールが取り出したのは今で言う新体操で使うリボン。殺傷能力は低く、浅い傷を負わせたり捕獲したりといったことに使われる。無論、ドラゴンのような強大な者には痛くも痒くもない。
「…もし戦うことになったら後ろに隠れててね」
「え!? 何でですか?」
本人は分かっていない、リボンのような武器では傷一つ付けることができないと。
「ウィークは?」
「コイルさん無視しないでよぉ!」
コイルは説明するのが面倒くさいようで、ドールの言葉はスルー。
「? …ああ、オレは剣士だから長剣だけど?」
「やっぱり。うんうん」
「コイルさん?」
ウィークの返答にコイルは満足そうな顔で腕を組み深く頷く。そしてノイのほうを向き小声での会話を開始する。
「さっき言ったでしょ? 男子は剣を用い、女子は氣を使う民族の話」
「はい、聞きました」
「ウィークが剣を使うのが分かったことで、彼があの民族かもという仮定が少し証明されたでしょ?」
「そういえば…!」
「おーい! なんの話してんの」
「何でもないない!」
さすがに二人のひそひそ話に疑問を抱くウィークが声を掛ける。その頃、ドールとアイラで話をしているのだが、どうもドールの様子がおかしい。
「なんでドラゴンと契約したいんです?」
「うーん…ごめん、まだ話せない」
「そう…」
「でもこれだけは言える。安易な気持ちで契約しに来たのではないわ」
「そう、なら少しは信じてやろうかのぅ」
ドールの声色が変わる。
「あなた…誰?」
アイラの問いにドールの影が揺れた。