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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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だって、やっぱり好きだから

掲載日:2026/06/27

***BL*** 好きだった貴方と付き合う事になったけれど、、、。 ハッピーエンド



「待って!お兄様!違うのっ!」



次の瞬間、僕は世界一好きな彼に殴られた、、、。



**********



 彼女は、友人の婚約者だった。

 お互い思い合っているのに、上手く行かない。

 友人は優しいけれど無口なほうで、彼女の事が好きで好きで堪らないのに、それを表現出来ない。

 彼女は素直な人だから、全身で愛を表現する。

 

 そんな二人を応援していたけど、本人達は上手く行かず悩んでいた。


「彼の気持ちがわからない、、、。頑張れば頑張る程、虚しくなりますわ、、、」

そう言って涙する彼女を励ましていたら、いきなり殴られた。

 


 僕は意識を失った。



*****



 目を覚ました時、此処ここ何処どこか分からなかった。

 左頬が痛い、、、。


「いきなり殴って済まなかった。妹を泣かせていると勘違いして」


 声が聞こえた方へ視線をずらすと、申し訳無さそうな顔をした彼がいた。



 僕は彼が好きだった。話しをした事は無い。

 彼は背が高くて、格好良い。落ち着いた感じがして、いつも冷静で、、、。


 

 でも、妹君に関しては冷静でいられないんだな、、、。ちょっと羨ましい。



 殴られた場所はめちゃくちゃ痛いけど、彼に顔を覚えて貰ったと思えば、まぁいいか、、、。



*****



 彼、ウィリアム様の妹好きには驚いてしまう。

 学園の登下校は勿論一緒、アメリア嬢の教室まで送り迎えしている。


 僕達中等部と、ウィリアム様の高等部は校舎が違う。中庭を囲んで、真ん中に移動教室や教員室があるコの字型の建物。

 彼と僕達の教室までは、それなりに距離がある。


 彼は遠くから歩いて来ても、直ぐに分かった。人目を引く彼が中等部の校舎に入るだけで、周りが騒めくからだ。

 僕を見つけて

「、、、君は、この間の」

と言いながら、殴られた方の頬に触れようとする。


 僕はびっくりして、キツく目を閉じた。


「済まない、、、。勝手に触れてはいけないね」

優しい声だった。

「腫れは引いた様だけど、大丈夫かい?」

ウィリアム様はお見舞いに毎日花を送ってくれた。

 優しい色の花だった。

 アメリア嬢を思い描いた様な、可愛い花束。


 僕はそっと目を開く。ウィリアム様の優しい顔があった。


 あぁ、、、格好良い、、、。

「ベンジャミン?」


 あ、、、!見惚れている場合じゃない!


「いつもお見舞いの花束を届けて頂いて、有難う御座いました」

僕は気持ちを込めてお礼を言う。



**********



 ベンジャミンには本当に申し訳ない事をした。

 私の勘違いで、殴ってしまった。

 アメリアの悲鳴に近い声が聞こえても、止める事が出来なかった。

 彼が地面に倒れ込んだ時は、本気でしまったと青()めた。


 彼を抱えて、医務室に走る。

「お兄様っ!」

 男にしては軽い身体。線が細くてギョッとした。

 女性の様に柔らかな身体では無い。今にも折れてしまいそうだ。

 私は罪悪感で一杯になった。

 アメリアの婚約者が前から歩いて来て、驚いた顔をしている。

「ウィルフレット、アメリアを頼む!」

返事も確認せずに先を急いだ。


 医務室で処置をして貰っても、なかなか目を覚まさない。彼が目を覚ました時は、本当に安心した。



*****


 

 暫く学園を休んでいた時は、花を贈って見舞った。

 それから、彼を見つけると声を掛ける様にした。


 学園で最初に会った時は、まだ頬に少し内出血の跡が見えて、可愛い顔が痛々しい、、、。


 彼は私が声を掛けると、表情が花開く様に明るくなる。その変化を見るのが何だか嬉しくて、私は彼を探すのが上手くなって行った。



 そして、私は彼に告白した。

 お互い婚約者もいなかった。

 彼は戸惑いながらも、付き合う事を許してくれた。



**********



 アメリア嬢は、ウィルフレットの横に立つ。そこが彼女の一番落ち着く場所だ。

「あの時は本当にごめんなさい。まさか、お兄様があんな事をするとは思わなくて、、、」

「大丈夫です。もうすっかり良くなりましたし」

と僕は左頬を撫でて、へへへと笑う。

 ウィルフレットは、静かにアメリア嬢を見る。その優しい視線をアメリア嬢が見れば、きっと不安な気持ちになんてならないのに、彼はアメリア嬢には何故か見せない。


 ウィリアム様とは真逆なタイプかな?

 でも、アメリア嬢はウィルフレットの事が大好きなんだ。彼がもう少し意思表示をして、彼女がもう少しウィルフレットを信じて上げれば、彼女の不安は無くなるのに。



「アメリア」

毎日毎日ウィリアム様が迎えに来てるけど、ウィルフレットとアメリア嬢は放課後デート、した事あるのかな?

「あの、、、ウィリアム様。この後は何かご予定がありますか?」

「いや、特には」

「僕、街に買い物に行きたいんですけど、皆んなで一緒に行きませんか?」

アメリア嬢が嬉しそうな顔をした。ウィルフレットはデートに誘ったりしないだろうし、ウィリアム様も二人きりで街中に行かせるのは、反対しそうだ。

「何故?」

「母の贈り物を探したくて」

咄嗟に嘘をいた。嘘は嫌いだけど、これ位なら許して欲しい。

「わっ、わたくし、お薦めのお店がありますわ!」

ふふ、元気なアメリア嬢。ウィルフレットとデートしたくて、前のめりになってる。

「ウィリアム様も一緒なら安心ですから」

僕が言うと、彼は暫く考えて

「分かった。馬車はこちらので構わないかな?」

と言う。

「是非、お願いします」

アメリア嬢は嬉しそうに、ウィルフレットの腕を組み、彼を見上げる。彼は、口元をほんの少し綻ばせ、彼女の組んだ手にそっと触れた。


 ステキだな、、、と思う。僕はウィリアム様に告白されたけど、まだ手も繋いだ事が無かった。



*****



 えー、、、アメリア嬢の横は、ウィリアム様なんだ、、、。

 馬車の座席に文句が出そうになった。正式に婚約しているんだから、二人で座らせて上げれば良いのに、、、。と、内心思いながら目の前のウィリアム様をこっそり見た。

 僕だって本当は、ウィリアム様の横が良かったのにな、、、。

 チラリとアメリア嬢を見ると、アメリア嬢もウィルフレットを見ている。目があわない様に、彼の胸元を見ながら、たまにチラッと視線を上げては嬉しそうに笑う。

 ウィルフレットは本当に愛されているな、、、と思いながら、僕は窓の外を見た。



*****



「お兄様、喉が渇きませんか?」

アメリア嬢はウィリアム様に甘える様に言う。


 僕とウィルフレットは少し後ろを歩いていた。

「、、、あのお二人は本当に仲が宜しいんですね」

僕がウィルフレットを見ながら言うと、彼は小さく笑った。

 本当は、彼もアメリア嬢と並んで歩きたかったんじゃないかな、、、。僕はウィリアム様と歩きたいよ。

「ウィルフレット様、ベンジャミン様、先に何か召し上がりませんか?」

「良いですね」

ウィルフレットが答えると、アメリア嬢は

「お兄様、わたくし皆さんと一緒に行きたいお店がありますの」

くるくる変わる表情に目が離せない。



「ウィルフレット様、こちらのお店にいらした事はありますか?」

可愛らしいお店だった。

 でも、ウィルフレットには兄弟しかいないから、このお店は知らないと思う。

「初めて来ました」

と彼が言うと、アメリア嬢は嬉しそうに笑う。

「紅茶とケーキが美味しいんです。お好きなケーキを選ぶと、ケーキに合った紅茶を教えて頂けます」

「アメリア嬢はどのケーキが好きですか?」

 僕は二人の会話を聞きながら、お似合いだなぁと思って、ウィリアム様を見た。

 あれ?ちょっと機嫌が悪い?


 まぁ、可愛い妹を取られてしまって、淋しいんだろうけど、、。。


 僕はウィリアム様に話し掛ける。

「ウィリアム様はどのケーキにしますか?」

「私は紅茶だけで」

「召し上がらないんですか?」

「甘い物が苦手なんだ」

だからさっき変な顔をしていたのかな?

「そうですか、、、」

僕はメニューを眺めながら悩む。

 チョコレートケーキが大好きだ。白い生クリームと赤い苺のショートケーキも可愛い。タルトケーキのサクッとした生地と、キャラメルとナッツの組み合わせも捨て難い。フルーツたっぷりのケーキに入っている、カスタードも堪らない。


 、、、悩んじゃうな、、、


 アメリア嬢は苺のショートケーキにした。ウィルフレットはシフォンケーキ。


「ベンジャミンは決まったかい?」

「チョコレートケーキとタルトケーキで迷っています、、、うーん、、、」

「両方食べると良いよ。私の分を上げるから」

「え?宜しいのですかっ?」

僕は少し大きな声が出た。

「お店の人も喜ぶよ」

え〜、嬉しいな、、、。

「ウィリアム様、有難う御座います」

僕は遠慮無く頼んだ。


 ケーキを待つ間、僕は目の前のウィリアム様を見てしまう。そして、彼が妹のアメリア嬢を度々ご覧になっている事に気が付いた。


 その視線はまるで恋をしている様だった。


 僕は少し複雑な気持ちになる。



*****



 先にケーキが四つ来た。ウィリアム様の前にはタルトケーキ。

「後で、そちらに渡すから」

と低い声で小さく言う。

 何だか二人の秘密みたいで嬉しかった。


 ウィリアム様に視線を向けると、アメリア嬢を見つめている。

 彼女はウィルフレットに

「ね、綺麗なケーキでしょ?」

と微笑んでいた。



*****



 ウィリアム様はアメリア嬢の事が好きなのかな?

 彼のアメリア嬢を見つめる視線は、少し熱っぽく情熱的に感じる。

 気の所為だとは思うけど、ウィリアム様が頻繁にアメリア嬢を見ていると、僕は良からぬ事を考えてしまう。


 ウィルフレットとアメリア嬢を見る。二人はとてもお似合いで、いつまでも幸せでいて欲しい。



*****



「ベンジャミン様は、お母様に何を贈りたいのですか?」

適当にいた嘘だったけど、そうだな、、、

「身に付ける物が良いです。髪留めとか、ブローチとか」

「良かった!それならわたくしお薦めのお店にもありますわ。ね、お兄様」

と言うと、ウィリアム様はお店をご存知の様で

「あの店なら、品数も種類も沢山あるから、良い物が見つかるだろう」

アメリア嬢を見つめながら、そう言った。


 やっぱりウィリアム様の彼女に対する接し方が気になるんだよな、、、。



*****



 それにしても、僕の事は一度も見てくれない、、、。

 ま、その方が僕は安心して見ていられるけど。



 店を出る時も、ウィリアム様は彼女をエスコートした。僕は思わずウィルフレットを見る。

 彼と目が合うと「仕方無いさ」と言う顔をした。

「贈り物を選ぶお店は、それ程遠くありませんわ。このまま少し歩きましょう」

ウィリアム様は彼女と腕を組んだまま歩き出す。


 お店は本当に近かった。

 

 店内は少し狭い。

 アメリア嬢に案内して貰い、僕は彼女に

「有難う御座います。アメリア嬢も、ご覧になりたいでしょう?僕はゆっくり選ぶので、アメリア嬢も是非」

と笑った。彼女は嬉しそうにお辞儀をして、店内を見て回った。

 僕は、アメリア嬢に着いて行こうとするウィリアム様に声を掛ける。

「あの、ウィリアム様」

彼が振り返る。

「ウィリアム様なら、お母様に何をプレゼントされますか?」

と聞くと、暫く考えて

「そうですね、、、」

と呟いた。

 ウィリアム様の向こう側でウィルフレットがアメリア嬢の横に立つ。

 アメリア嬢の表情が、一気に恋する女性に変わり、僕は何だか嬉しかった。

「貴方のお母様は、貴方に似ていますか?」

「はい、僕は髪色も瞳の色も母から頂きました。顔も父より、母に似ていると言われます」

「髪留めやブローチを探しているんですよね?」

「アクセサリーが良いと思うのですが、母に贈り物となると何が良いか分からなくて、、、」

僕は何とかウィリアム様とアメリア嬢を引き離す事に成功した。

 そして、ウィリアム様と二人きりになれて、ちょっと緊張している。

「私もアメリアに何か贈ろうかな」


 え?


「アメリア嬢もお誕生日が近いのですか?」

「いや、まだまだ先だが、、、」

今頃ウィルフレットも、アメリア嬢に何を買おうか悩んでいるだろう、、、。

 それなのに、ウィリアム様も贈り物をしたら、、、ウィルフレットはがっかりしないかな、、、。

「ウィリアム様は、アメリア嬢が大好きなのですね」

意地悪を言ってしまった。

 彼に、少し腹が立っていた。

 いくら兄妹とは言え、大事にし過ぎていませんか?婚約者のウィルフレットもいるんだから、ウィリアム様は妹離れした方が良いと思います!

 、、、なんて言う事も出来ず。僕は心の中でウィルフレットを応援した。


 隣でウィリアム様はダイヤモンドのピアスを見ている。

 はいはい、アメリア嬢の可愛らしい耳朶みみたぶにピッタリですよ、、、と、思いながら、僕は母上の贈り物を選ぶ。


 ウィルフレットとアメリア嬢がデート出来たのは嬉しいけど、ウィリアム様が彼女にダイヤモンドのピアスを買うのは失敗だった。あれじゃあ、ウィルフレットが何をプレゼントしても霞んでしまう。

 ウィリアム様は店員を呼び、ピアスを見せる。

 僕は居た堪れなくなって、違う物を見に行った。


 アメリア嬢とウィルフレットは二人で話しながら商品を眺める。彼は彼女に何か買っただろうか、、、。



*****



 僕は白いレースの手袋を選んだ。

 アメリア嬢はそれを見ると

「すてきですね」

微笑んでくれた。

「アメリア嬢、申し訳無いのですが、試着をお願いしても宜しいですか?」

と聞くと

わたくしで宜しければ」

と気持ち良く応じてくれた。

 何双か試着する。なかなかピッタリ来る物が無かった。

 指先が短かったり長かったり、手袋全体が小さかったり大きかったりした。

 5双程試着して、アメリア嬢にピッタリなサイズはたった一双だけだった。

「手袋は難しいですね、、、」

「母上に試着して頂かないと、購入は難しいかな」

と言いながら、僕はアメリア嬢のサイズにピッタリだった手袋を、こっそりウィルフレットに渡す。

 彼は一瞬考え、僕を見た。

 アメリア嬢は他の商品を手に取り、眺めていた。

「ウィルフレット、アメリア嬢のサイズだよ?どうする?」

と小さな声で購入を促す。

 彼は、僕がアメリア嬢を他の場所に誘導している間に、店員に包装を頼んでいた。


 ウィリアム様が奥の部屋から店員と出て来たのを見つけ、アメリア嬢と二人で近寄る。

「お兄様も何か買われたのですか?」

と言うと

「良い買い物が出来たよ。後日、屋敷に届けて貰う事にした」

と微笑んだ。

 きっとあのダイヤモンドのピアスを購入されたんだ。

 でも、アメリア嬢にお渡しするのは数日後になりそうだから、ウィルフレットの方が先に渡せるだろう。

「ベンジャミンは母上の贈り物、決まったのかい?」

「それがなかなか難しくて、、、。今日は時間も遅くなってしまうので、後日改めて探しに来ます」

 僕はウィルフレットが、包装された物を受け取ったのを確認して、そろそろ暗くなりますから帰りましょうと促した。


 帰りの馬車の中で

「アメリア嬢お薦めのお店を紹介して頂いたので、次はウィリアム様が、女性に贈り物をする時に行くお店を、教えて頂けませんか?」

と聞いてみた。

「私の?」

「もし、宜しければ」

アメリア嬢が首を傾げた。

「そう言えば、お兄様が女性に贈り物をしている所、見た事がありません」

「、、、」


 あれ?ちょっと不味いこと言っちゃったかな?


「、、、屋敷の方に商人を呼ぶ事も出来るが」

「いえ!そんな大袈裟で無くて大丈夫です!休日にもう一度、先程のお店に行ってみます」

「それなら私も一緒に行こう」

「え?」

「君一人では危ないだろう?」


あ、、、えーと、それってデートのお誘いかな?



*****



 翌日、アメリア嬢はいつも通りウィリアム様と一緒に教室に来た。

「ベンジャミン様、お兄様が少しお話しされたいそうです」

僕は、廊下で待つウィリアム様の元に行った。

「お早う御座います」

と挨拶をすると、ウィリアム様が

「昨日の買い物の件だが、次の休日でも良いだろうか」

と提案して来た。

「大丈夫ですよ?」

「私と二人だけになってしまうのだが、、、」

「問題ありません」

むしろ、好都合です。嬉しいです。

「良かった。自分から一緒に行くと言いながら、その日以外は予定が詰まっていて、、、。しかも、アメリア達は結婚式の衣装選びの日なんだ」

「ウィルフレットも一緒ですか?」

「勿論だ」

「ウィリアム様は、ご覧にならなくて宜しいのですか?」

「私の結婚式では無いからね」

と苦笑した。


 本当は、例え仮衣装でもウェディングドレス姿のアメリア嬢を見たく無いのかも、、、。


「朝一番で君を迎えに行こうと思う。良いかな?」

「はい、お待ちしております」

僕は深くお辞儀をした。



**********



 彼に怪我をさせてから、毎日花を贈った。

 倒れた彼を抱き上げ、その顔を見た時、私は彼に惹かれた。可愛い顔だった。そして余りにも華奢で折れてしまいそうな身体。

 丁寧に扱わないと壊れてしまいそうだった。


 ようやく学園で再会した時、まだ頬にほんの少し内出血の跡があった。


 私の気持ちはどんどん彼に惹き寄せられた。

 最初は申し訳ない気持ちから。

 次に傷の心配をする毎日。

 アメリアと同じクラスと分かると、妹を送りながら彼を探し、迎えに行きながら彼を探す。


 彼と妹の婚約者が友達と聞き、運命すら感じた。

 私は彼に告白をした。もし、彼に婚約者がいれば、諦めようと思ったんだ。


 私もそろそろ妹離れをしなければ、、、。そう思いながらも、つい、妹に構ってしまう。



*****



 ベンジャミンと二人で買い物に行くだけなのに、私は浮かれている。

 前日の夜には、何を着て行こうか悩んで、結局いつもの服装にした。

 朝から何だか落ち着かない。

 妹は妹で、結婚式の衣装選びがある。

 午前中には、婚約者のウィルフレットが来る為、彼女も昨日の晩からいそいそしていた。



 そうだ、忘れる所だった。

「アメリア」

「はい、お兄様」

「先日街に行った時、ダイヤモンドのピアスを購入したんだ。今、お揃いでカフスボタンも作っている。加工にもう少し時間が掛かるけどね。結婚式に使って貰えたら嬉しい。まだ早いけど、準備してあるから覚えていて」

「本当ですか?」

「私からのお祝いだから」

「有難う御座います、お兄様。ウィルフレット様も喜びますわ!」



**********



 今更なんだけど、今日の買い物ってウィリアム様と二人きりなんだよね。


 僕、大丈夫かな?


 急にドキドキして来て、どうしたら良いのか分からない、、、。

 


「ウィリアム様がお迎えに上がりました」


 ひゃっ!


「あ、有難う」

僕は表面上落ち着いたフリをして、侍女と一緒に玄関に向かう。


 

 ウィリアム様は、馬車の前で僕の手を取り、支えてくれた。初めて触れる指先に、緊張が伝わりそうだった。

「先日のお店で良いね」

と言われて

「お願いします」

としか言えない、、、。



 馬車の中の沈黙が重く、「何か話さないと」と考えるけど、何を話したら良いのか分からない、、、。



「君とウィルフレットは仲が良いのかい?」

「はい、幼馴染です」

「彼は、大人しいけど実直で好ましいね」

「そうなんです。でも、、、アメリア嬢はたまに不安になる様です」

「アメリアが?」

「彼は自分の気持ちを表に出さないから、、、。本当は凄くアメリア嬢の事が好きなのに」

「そうなんだ」

「アメリア嬢の横にいる時、たまに愛おしそうに彼女を見ています。その顔をご覧になればアメリア嬢も愛されていると分かるはずです、、、」

「、、、今度、私も彼の表情を気にして見るよ」

「こっそりですよ?見られていると分かると、隠してしまいますから」



**********



 ベンジャミンは、アメリアとウィルフレットの事を色々教えてくれた。アメリアのウィルフレットに対する気持ちや、彼が妹を大切にしている事がよく分かった。

 ベンジャミンからの話で、ウィルフレットは更に好印象になった。


 ベンジャミンともっと話しをしたい。

 


*****



「うーん、、、。中々良いのが見つかりません」

「そうなの?」

「はい、一つ一つは素敵なんです。でも、気に入った物は値段も素晴らしいし、予算に合わせると、ちょっと母には違うかな?と思います」

此方こちらの髪留めは?」

「僕も気になりました。でも、どちらかと言えば、アメリア嬢にお似合いかと、、、」

私は髪留めを見つめ想像した、確かにアメリアに似合いそうだ。

「買って行こうかな」


ふふっ、、、


ベンジャミンが笑った。

「ウィリアム様は、いつでもアメリア嬢の事を考えてますね」

「大切な妹だからね」

と言うと、ベンジャミンは微笑みながら視線を外し

「母上には、どれにしようかな、、、」

と呟いている。

「髪留めが良いの?」

「いえ、別の物でも、、、」

「アクセサリーでは無いけど」

可愛らしい小箱を見つけた。両手に乗る様な大きさで、彫刻が施されている。

「小物入れですか?」

「ダメかな?」

ベンジャミンは蓋を開けて中を見る。

「良いですね、、、。これにしようかな、、、」

彼が私の選んだ物を気に入ってくれて、嬉しかった。



*****



 アメリアを迎えに行きながら、ベンジャミンを探す。それが癖の様になって来た。

 アメリアの隣にはウィルフレットとベンジャミンがいる。

 とうとうランチの時間もアメリアを探す様になっていた。

 私がアメリアに一緒にランチを摂ろうと誘うと、彼等は少しだけ苦笑する。

「ご自分のお友達と召し上がらないのですか?」

ベンジャミンに問われてしまった。

「もうすぐ、私も卒業だから、アメリアと一緒にランチをしたくて」

彼女の横に座ろうとすると、ベンジャミンに

「本当に妹想いのかただ」

と言われた。


 

 君の顔が見たいだけなんだか、、、。



 私が卒業したら、3人は高等部に進学する。私だけが此処ここからいなくなる、、、。

 アメリアとウィルフレットは家族になるから、会えなくなる事は無いが、ベンジャミンとはどれ位会えるか分からない。そう思うと、どうしても今の内に会いたくなる。



**********


 

 ウィリアム様の話題は、アメリア嬢の事が多い。小さな頃から可愛らしくて、自慢の妹。

 花冠を作りたくて、ウィリアム様に習わした話や、嫌いな野菜を頑張って食べた話し。初めての刺繍はウィリアム様のハンカチだった事。ドレスを着る為に食事制限をして倒れたり、発熱した後の一言が「お兄様、お腹が空きました」とか、、、。


 うーん、、、たまにはアメリア嬢以外の話しも聞きたいな。



*****



 僕達が高等部に入ったと同時に、ウィリアム様は卒業してしまった。

 淋しいなと思う反面、ウィルフレットとアメリア嬢が二人で過ごす姿を見ると良かったな、、、と思う。



*****



 夕方、街を歩いているとウィリアム様を見掛けた。卒業して、お父様の事業の手伝いをしていると言っていた、、、。

 もう学生では無いウィリアム様が新鮮で格好良かった。何だか、声が掛けづらいなと思いながら、遠くから眺める。


「ベンジャミン!」


ウィリアム様も僕に気付いてくれた。

「ベンジャミン、久しぶりだね」

「ウィリアム様、お元気ですか?」

「ああ、今、丁度仕事が終わった所だ。お腹、空いて無いかい?」

ウィリアム様はスイーツを食べに行こうと誘ってくれた。


 夕食前だからと、紅茶とケーキにした。前にアメリア嬢がお薦めしてくれた店。

 夕方になると食事も出来る様になっていた。

「あ、、、ウィリアム様は、甘い物苦手でしたよね」

「大丈夫、私は、ワインと肉料理を頼むから」

と笑った。

「お肉、、、」


ふはっ!、、、


「 ? 」

「ベンジャミンの悲しそうな顔、、、。良いよ、君も頼みなさい。ただし、葡萄ジュースだよ」


 陽が傾き始め、街灯が点いた。料理が届き、ゆっくり食べる。

 あ、、、二人きりの食事ってデートみたいだな、、、。

「アメリアとウィルフレットは、学校ではどんな感じ?」

「二人はいつも仲が良いです。ウィルフレットは相変わらず静かですけど、最近は手を繋ぐ事もあるし、、、。そう言えば、誰かがアメリア嬢にちょっかいを出して、ウィルフレットがヤキモチを妬いてました。アメリア嬢はそれが嬉しかったみたいで、以前より仲良くなったと思います」

ウィリアム様はニコニコ話しを聞いている。

「アメリア嬢が卒業して、益々心配の様ですね」

「一緒にいる時間が減ったからね」

「いつもアメリア嬢を気に掛けていますものね。僕との話題はアメリア嬢の事ばかりですよ」



**********



 私はベンジャミンとだけ、上手く話しが出来なかった。理由は分からない、緊張するのかも知れない。だから、アメリアの話しをする。二人の共通の話題はそれ位しか思い付かないからだ。


「僕は、ウィリアム様の事が知りたいです」

「私の事?面白い話しなんて何も無いよ」

「そんな事ありません。僕にはどんな小さな事でも嬉しいんです」

彼は葡萄ジュースをコクコクと飲む。

 彼と私のからになったグラスに気付いた給仕係が

「お代わりは如何ですか?」

と聞いて来た。

「頼む」

と言いながらグラスを前に出す。

「私の話しより、君の子供の頃の話しが聞きたいな」

と誤魔化すと、彼はウィルフレットとの話しをしてくれた。

 

 彼は余りにも饒舌に話す。ほんのり顔も赤い?

 さっき空になったグラス、葡萄ジュースが入ってい、、、る?、、、二杯目を頼んだ記憶は無い、、、。


 まさか、、、。


「ベンジャミン、ワインを飲んだ?」

「二杯目はワインでした」


 ニコリと笑う。 


 しまった、、、。私の失敗だ、、、。


 食事も済んでいた為に、テーブルで支払いを済ませる。

「ベンジャミン、遅くなるから送るよ」

 ワインを飲ませてしまった事を、ご両親に話さなければ、、、。



*****



 彼の馬車は先に帰って貰った。念の為、言伝ことづてを頼み、ベンジャミンには私の馬車に乗って貰う。


「大丈夫かい?気分は悪く無い?」

「大丈夫ですよ」

と、ニコニコ笑いながら言う。完全に酔っ払っていた。

 何故なら私の横に座り、私の肩に頭を乗せ、手を繋いでいるから、、、。


 ベンジャミンは、私の心臓が破裂しそうな程早くなっている事を、知らないのだろう、、、。



**********



 ウィリアム様が、アメリア嬢とウィルフレットの結婚衣装を見に来ないか?と誘ってくれた。

 僕は興味があったので、是非にと返事をした。


 

 ウェディングドレスは、アメリア嬢のサイズに合わせて作られていて、凄く綺麗だった。光沢のある白い生地。後から刺繍を施すらしい。肌の露出を抑えた上品なデザイン。

 ウィルフレットのタキシードも同じ素材で、まだ仮縫いの段階なのに結婚するんだなぁ、、、と淋しくなってしまう。



 ウィリアム様と僕は二人の邪魔にならない様に、彼の部屋に移動した。

 アメリア嬢が身につけていた白い手袋に見覚えがあった。ウィルフレットはちゃんとプレゼントを渡したんだな。



「綺麗でしたね、、、」

と言うと、ウィリアム様が見惚れていたのを思い出す。

「そうだね」

と一言だけ返事をした。やっぱりウィリアム様はアメリア嬢の事、、、好きなのかな?



 ウィリアム様の机の上に、数冊釣書が置いてあった。

「お見合い、、、するんですか?、、、」

 彼は釣書の山を見るだけだった。

「、、、紅茶を持って来させるよ、、、」



 僕の質問に否定をしなかった、、、。



**********



 私はベンジャミンが好きだった。彼が男だと言う事も理解している。今はお互い婚約者がいないけれど、いつか彼も結婚するだろう、、、。私はそれを止める事は出来ない。彼には彼の人生があるから。

 本当は彼といつまでも一緒にいたいと思う。しかし、無理な話しだと分かっているんだ、、、。


 釣書はまだ見ていない。いずれ、返事をしなければと思いながら、先延ばしにしている。



 私達の間に、気不味い空気が流れた。



*****



 それから、私達の距離が少しひらいた。私の仕事が忙しくなったからだ、、、と言うのは言い訳だな、、、。

 週に二日はちゃんと休みがある。

 彼と会わなければと思いながら、彼に別れを切り出されるのが怖い。



「お兄様、、、最近、ベンジャミン様と会っていない様ですけど、宜しいのですか?」

「何が?」

「ベンジャミン様に釣書が山の様に届いているとお聞きしました」

「、、、」

「学園でも、上級生や下級生から告白されている様ですよ?」


 そうは言っても、、、私には、、、。


「、、、お付き合いされてますよね?」

「え?」

「されてますよね?」

「ああ、、、。ベンジャミンから聞いたのかい?」

「女の勘ですわ」


 しまった、、、。


「ベンジャミン様も最近元気がありません。何があったのですか?」

「何も、、、何も無いよ」


 アメリアがため息をいた。


「来週の週末は空けておいて下さいませ。良いですね?予定など、決して入れないで下さいましよ」



**********



 本当にお兄様と来たら、自分の事になると臆病なんですから、、、。


「ウィルフレット様、、、ご相談がありますの」

彼は静かにわたくしを見て、話しを聞いて下さいました。



**********



「ベンジャミン、週末は空いてる?」

ウィルフレットに聞かれた。

「特に予定は無いけど」

「じゃ、二日間空けておいて」

「 ? 良いけど?」

「また、ちゃんと決まったら教えるよ」



*****



 結局、何も教えて貰えないまま週末になり、取り敢えず朝から身なりを整えていたら、アメリア嬢の屋敷の馬車が迎えに来た。

 でも、誰も乗っていなかった、、、。


 えー、、、どこに向かっているんだろう、、、怖いな。と思っていたら、アメリア嬢のお屋敷の前に戻って来た。門扉の前にポツンとウィリアム様が立っている。


 どう言う事?


 ウィリアム様は馬車に乗ると

「アメリアは?」

と聞いて来た。

「分かりません」

と答えた途端馬車が動き出して、まだ腰掛けていなかったウィリアム様が僕に倒れ込んで来た。

「うわっ!」

僕は咄嗟に目を瞑り、硬直してしまった。

「済まない」

と言いながら斜め前に座る彼。そんなに離れて座らなくても良いのに、、、。ちょっと淋しかった。


 僕達はずっと無言だった。

 一時間程馬車に揺られ、景色が随分変わった頃、馬車はゆっくりと止まった。

 僕の知らない場所だった。

 扉を開けてウィリアム様が馬車を降りる。

 僕が降りるのを手伝ってくれ、一度建物全体を見回してから前に進む。


 鍵は開いていた。

 ウィリアム様はよくご存知の場所なのか、どんどん中へ入って行く。


「あ!」

と僕が声を上げると、彼は振り向いた。

「どうしたんですか?」

「馬車が、、、」

御者が空っぽの馬車を走らせて行ってしまった。

「大丈夫、きっと明日には迎えに来るよ、、、」

と落ち着いた声で言う。

「そ、、、そうですよね、、、」

屋敷の中に人の気配は無かった。明日まで二人きりと言う事だろうか、、、。



 不安だ、、、不安しか無かった、、、。



**********



 アメリアがこんな事をするとは思わなかった。

 馬車まで帰ってしまい、二人きりの別荘でどうしろと言うんだ、、、。


 しかし、不安なのはベンジャミンの方だろう。私は此処ここ何処どこが分かっているが、彼には分からない場所だ。



「済まない、ベンジャミン。でも安心して欲しい。此処ここは私達の別荘だから」

そう言うと、彼はホッとした顔をした。

「まずは、キッチンに行こう。食糧の確認をしたい」

「はい、、、」

声が心細そうだ。私は手を差し出した。彼は遠慮がちに手を繋ぐ。半歩下がって着いて来る。可愛い、、、。



 キッチンには、それなりに食材が置いてあった。

 何なら、シチューが作ってあるし、、、。

 取り敢えず、餓死する事は無さそうだった。


「ベンジャミン、済まない。きっとアメリアが仕組んだんだ」

「、、、ウィルフレットも多分、、、」


 侍女が誰一人いない別荘は、シン、、、としていた。朝一で出て来たので、昼にはまだ時間がある。

 する事が無いと、空気も澱んで来そうだった。

 私は、別荘に何か無いか見て回ろうと思った。


 ベンジャミンを一人にしてはいけないかな?

 彼も誘って、一部屋一部屋確認した。


 ゲストルームには何も無かった。

 ベッドルームにも時間を潰せるものは無い。

此方こちらは、別荘ですか?」

ベンジャミンがおずおずと聞いた。

「そう、私達が子供の頃はよく来ていたんだ。最近は機会が無くて来ていないな」

「アメリア嬢のお子様が産まれたら、また来る様になるんでしょうね、、、」

「そうだね、きっとそうなる」

「、、、」

「ベンジャミン?」

彼は私から少し離れた。

「、、、ウィリアム様のお子様も、きっと此処ここに来ますね」

「、、、」

「、、、お見合い、したんですか?」


 ドクンッ、、、と心臓が鳴った気がした。


 ベンジャミンが小さく笑う。


 私が自分から彼を遠ざけたのに、彼が傷付いているのが辛い、、、。


「ベンジャミンにも釣書が沢山来ていると聞いたよ」

彼は、私を見た。

「僕は全部お断りしています」

「、、、何故?」

何故、そんな勿体無い事を、、、。

「、、、そんなのいいじゃないですか。僕はまだ学生です。せめて卒業までは自由でいたいんです、、、ウィリアム様こそ、どなたかとお見合いされたんじゃ無いですか?、、、」

「いや、、、私は」

「それともやっぱり、ウィリアム様はアメリア嬢の事がお好きなんですか?」

「アメリア?」

家族だから好きに決まっている。

「貴方は、いつもいつもはアメリア嬢を大事にしています。本当は兄妹きょうだい以上の感情があるのでは無いですか?」

兄妹きょうだい以上の感情?何、、、?どう言う意味?」

「アメリア嬢に特別な気持ちを持っていませんか?」

 ベンジャミンが言いたい事を理解して、私は

「本気でそう思っているのか?、、、」

と彼の手を引いた。

 彼は力を込めて、拒絶した。

「私は、貴方に告白をしたのに?」

「ウィリアム様はいつもアメリア様と一緒でした!教室への送り迎え、ランチの時間!馬車の中では隣に座っていたし、歩く時もアメリア様とでした!それに、貴方のお話しは彼女の事ばかりで、、、彼女の事、大切にされているんだなって思ってました、、、。いつもいつも彼女のお話しをされるから、最近は、本当にアメリア嬢を愛してるんじゃないか?兄妹きょうだいとしてでは無く、女性として見てるかも?って考えちゃうんですっ!」


 、、、。


「そんな風に、、、」

「、、、」


 どうしたら彼を傷付けないで、全てを話せるか考えた。


「君はいつもアメリアといたから、彼女を探せば君に会えた。、、、アメリアの話しばかりしたのは、共通の話題がアメリアの事しか思いつかなかったからだ、、、。君と何を話したら良いか分からなくて、つい彼女の話題ばかり探した」

「、、、どんな話でも良いのに、、、」

「アメリアはね、、、体が弱かったんだ、、、。産まれた時から虚弱で、3才になるまでつか分からなかった。、、、度々熱を出して、、、何回か危篤状態になった事もある。10才を過ぎて、医師にもう大丈夫と言われても心配だった。、、、父はいつも家を空けていたし、私が父の代わりにアメリアを守ろうと思っていた」

「いつもアメリア嬢を見ていたのは、体調が心配だからですか?」

「いや、、、どちらかと言えば、成長したなぁ、、、と言う気持ちだった。気分は父親だったから、、、」

苦笑する。

「、、、」

「、、、もっとベンジャミンを大切にするべきだった。君は私の恋人なんだから」



*****



 別荘内をほぼ確認して、外に出る。扉の鍵は食材と一緒にキッチンに置いてあった。

 自然豊かな場所だから、空気が軽く感じる。

「良い所ですね」

ベンジャミンが言う。

「うん、、、そう思う」

「お仕事は慣れましたか?」

彼は、色々な質問をしてくれた。気を遣っている。


「ベンジャミン、もし、君に何かプレゼントをしたら、喜んでくれるかい?」

本当はいつも彼に、何か送りたかった。

 アメリアに買う物を見ながら、ベンジャミンの物も探していた。

「勿論です。喜ばない訳がありません」

「しかし、いずれ君は誰かと婚約をして結婚するだろう?その時、迷惑を掛けるんじゃ無いかと思うと、、、」

「、、、ウィリアム様は、、、僕に、誰かと結婚して欲しいんですか?」

「それはそうだろう?」

「、、、その相手がウィリアム様、、、と言う事は、絶対無いんですね、、、」

「私?」

「、、、はは、、、」

ベンジャミンが小さく笑った。

「お腹空きませんか?」

少し大きめな声で言う。空気を変える様な、この話はお終い、と打ち切る様な、そんな言い方だった。



**********



 僕はウィリアム様の後ろ姿を眺める。

 彼はシチューを温めながら、フライパンでパンを温める。パンの横でチーズも焼き、良い感じになるとパンをチーズの上に載せた。そのままパンを取り出すとチーズがくっ付いて来た。


 凄い、、、。ウィリアム様は料理も出来るのかな?彼と結婚する人が羨ましい、、、。でも、それは絶対、僕では無い。

 僕はずっとウィリアム様と一緒にいたいと思っていたけど、彼は違った、、、。



 僕達は、別れた方が良いのかな?



*****



 自然に囲まれていると、周りが静かでゆっくり考え事が出来た。ウィリアム様とずっと一緒にいたかったけど、彼がそれを望んでいないなら、これで最後にした方が良いと思う。それがお互いの為だし、別れるなら早い方が良いだろう。


「ウィリアム様、、、あの、、、」


 昼食を摂った後、二人で散歩に出た。

 僕の気持ちは、ゆらゆらしている。言わなくちゃ、、、。そう思いながら、なかなか言葉に出せない。



*****



 陽が沈んで辺りが暗くなる。

 食事と片付けを済ませた。

 僕達は、ゲストルームの二人部屋を使っていた。

 彼はベッドの上で読書。

 僕は窓の外を見ていた。何度も別れを切り出そうとしたけど、なかなか上手く出来なかった。


「ウィリアム様、、、」


 今日、何度呼び掛けただろう、、、。


 彼は静かに視線を上げた。


「先程、僕の事を恋人と言ってくれましたけど、、、」

彼を見るのが辛くて、視線を外す。

「今日で、、、終わりにしませんか?」

「、、、私の事が嫌いになった?」

「、、、好きです。、、、好きだから、、、」


 どう言ったら良いかな、、、


「これ以上、好きになりたくありません、、、」

「ベンジャミン?」

彼は本を閉じた。



 優しい声、、、。



「僕は貴方が好きです。貴方が私を知る前から、、、。名前しか知らない時から好きでした。、、、貴方から告白されて、嬉しくて、ずっと一緒にいられると思っていました」


ウィリアム様はそっと立ち上がり、僕の側に来た。


「でも、貴方は違った」

「、、、うん、、、。君はいつか誰かと婚約をして、誰かと結婚するんだと思っている」

「どうして貴方じゃ無いんですか?貴方じゃ、ダメなんですか?」

感情が昂ってしまう。こんな自分が嫌だと思いながら、抑えられない気持ちがある。


「いつか終わりが来るなら、、、今、終わりにしませんか?」

 

 僕は笑った。涙を流しながら、、、。出来るだけ冷静に、、、。


「今なら、まだ、傷は浅くて済むと思います。このまま一緒にいたら、もっと好きになって、、、僕は貴方から離れられなくなってしまう、、、」


「だから、、、今、終わりにしたいんだね?」


「、、、はい」


 ウィリアム様はじっくり考えてくれた。


「、、、、、、分かった、、、」


彼は静かに言った。


「君を悩ませて済まなかった。、、、でも、君を好きな気持ちは本当だ、、、」



 僕達は別々の部屋で寝た。

 僕は声を殺して涙を流した。涙は止まる事が無くて、こんなに好きだったんだと実感した。



*****



 泣いて起きたらこうなると分かっていたのに、僕の瞼は信じられない位腫れてしまった。

 格好悪いな、、、と思いながら、キッチンでハンカチを濡らし冷やす。

 

 あー、、、。もう、本当に嫌だ、、、。

 そう思いながら、また泣いた。



*****



 早朝、アメリア嬢とウィルフレットが馬車に乗って来た。

 アメリア嬢は、僕の顔を見るなり全てを察知したのか静かに手を取り、別室に連れて行ってくれた。

 誰を怒る事も無く、僕からアレコレ聞き出す事もしなかった。

 ただ、ハンカチを濡らして、冷やしてくれる。

 それが返って涙を誘う。

 僕は、勝手に流れる涙に翻弄された、、、。


「ごめんなさい、、、馬車は一台しか無いの」

「大丈夫です、、、。でも、今日はウィルフレットを借りても良いですか?」

「勿論です。お兄様の所為でこんなになったのですから、後で叱っておきますわ」

「叱らないで下さい、、、アメリア嬢に叱られたら、ウィリアム様は立ち直れませんよ、、、」

そんなウィリアム様が想像出来て、笑ってしまいながら涙が溢れる。

「もぉ、、、ベンジャミン様ったら、、、」

そう言いながら、彼女も貰い泣きをした。



 帰りの馬車では、ウィルフレットの隣に座った。ウィリアム様は斜め前。僕は窓の外を見るか、寝たふりをして何とか誤魔化して過ごした。



 それから僕達は会う事が無くなった。

 彼は仕事が有るし、僕は学校の往復以外出掛けなかったから、、、。



*****



 毎日ため息ばかりいている。

 父上に釣書を見せられても興味が無い。どの令嬢も同じ顔に見える。

 いつかこんな僕も、誰か他の人を好きになるんだろうか、、、。



*****



 アメリア嬢とウィルフレットの結婚式は卒業後直ぐに予定されている。準備も全て整っているらしい。

 卒業まで後半年、、、。

 結局、僕は、ウィリアム様を忘れられないまま最終学年になってしまった。あれから3年も経つのに。


 4年生になり、アメリア嬢とはクラスが分かれ、話す機会が減っていた。ウィルフレットとは同じクラスだったから、相変わらずランチは一緒に摂っている。


 授業が終わり、僕が帰る準備をしていると、アメリア嬢が横に立った。

「お兄様は今だに独り身です」

アメリア嬢がボソリと言った。

「え?」

はぁ、、、。と、ため息をいた彼女は

「釣書が来ても返事すら怠っていたお兄様には、もう新しい釣書は届きません」

「あの、、、アメリア嬢?」

「お兄様は、結婚する気が無いのかしら?」

椅子に座る僕の横に立って、ブツブツブツブツ言っている。

「アメリア、、、。それじゃあ、ベンジャミンには伝わらないよ」

後から来たウィルフレットが言う。

「ベンジャミン、ウィリアム様は君の事、忘れられないみたいだよ」

「、、、でも、、、」

「君も今だに婚約をしていない」


、、、だって、、、やっぱり好きなんだ、、、。


「ベンジャミン、半年経ったら卒業だよ。ウィリアム様だって、いつ結婚してもおかしく無いんだ。諦めるか、前に進むかちゃんと決めないと」


「、、、」



**********



 わたくしは、ベンジャミン様もお兄様も見ていたから分かります。お二人は惹かれあっている

のです。

 それなのに、何故上手く行かないのでしょう。

 あれから3年経ちました。

 一度で良いから、お二人で会う機会を作って差し上げたい、、、。半年後のわたくし達の結婚式にお二人で出席して頂きたい。

 そんな事ばかり考えていました。


 でも、前回は私の所為で失敗したのです、、、。お二人が添い遂げられる様に、何か良い方法は無いかしら、、、。



*****



 一週間、学園がお休みです。

 わたくしもウィルフレット様も、結婚前に自由を楽しみたいと別荘に行く事にしましたの。

 勿論ベンジャミン様もお誘いして


「別荘って、あの別荘ですか?」

「そうです、あの別荘ですわ」

「今回は僕だけにしませんね?」

と言って、彼は微笑みました。

「そんな事、致しません」

わたくしは、ワザと頬を膨らませました。

ベンジャミン様は、あの日の事を思い出したのでしょうか。少しだけ淋しそうな顔をされました。



**********



 この別荘に来るのも3年ぶり、、、。あの時の事が蘇る。

 3年も経っているのに、昨日の事の様だった。

 扉が開いて

「お帰りなさい」

と言うと、ウィリアム様が立っていた。さっき出て行ったウィルフレットかと思ったんだ。

 彼も僕が来ている事を知らなかった様で、驚いている。

「ごめんなさい、、、わたくしがお二人を呼びました。、、、仲直りして頂きたくて」

とアメリア様が謝ると、ウィリアム様は

「久しぶり、ベンジャミン」

とにっこり笑ってくれた。大人だな、、、。

 僕なんて、ウィリアム様の顔を見ただけで、一気にあの日に戻ってしまったのに、、、。



「ご無沙汰しております」



*****



 今回は給仕をする侍女も来ていた。

 陽のある内は4人で散歩をし、夕方別荘に戻って食事をする。

 ウィリアム様はワインを飲んでいた。

 余り話しはしない。食事中も、アメリア様かウィルフレットが話しをして、僕もウィリアム様も聞き手に回った。



*****



「ベンジャミン、、、散歩に行かないか?」

ウィリアム様に誘われた

「はい」

と返事をして立ち上がる。

 少し不安で、アメリア様とウィルフレットを見る。二人は静かに僕達を見守っていた。


 外に出て、歩き出すと

「済まない。少し待っていてくれ」

と言うと、ウィリアム様は別荘に戻り、上着をニ着、手にして戻って来た。

「まだ、夜は寒いから、、、」

そう言って、僕の肩に一着掛けてくれる。

 ウィリアム様の上着。大きくて、良い香り、、、。


 やっぱり好きだな、、、。


「ウィルフレットに、これが最後のチャンスだと言われた。今日を逃したら後悔しますよ、、、と、真顔だった」


 僕達は歩く。


「3年間忘れられなかった。、、、毎日「君が婚約した」と聞かされるんじゃないかと怖かった」


 月明かり。虫の声、、、。小川のせせらぎ。


「ウィルフレットが君に、「諦めるか、前に進むか決めろ」と言ったと聞いて、、、」


 僕は、立ち止まったウィリアム様を振り向いた。

 どうしたんだろう、、、?


「違う、、、こんな事を言いたいんじゃ無い、、、」


 ウィリアム様が拳を握る。


「もう一度、、、やり直したい、、、。君とずっと一緒にいたい」


 僕を見てくれる。


「済まない。こう言う事は苦手で、、、上手く言えなくて、、、」

「上手く無くて良いです、、、」


 一緒にいたいって言ってくれた、、、それだけで、、、。


「ありがとうございます、、、」


「もう一度、私と一緒にいて欲しい、、、良いだろうか?」


「、、、僕で宜しいのですか?」


僕の瞳から涙がポロリと落ちると、ウィリアム様はそっと手を繋いで、抱き寄せた。


 彼の大きくて、広い胸が僕を包んでくれる。


「ウィリアム様、、、」


 瞼に口付けをくれた。


「君が良い、、、君が好きだ、、、」


 流れ落ちる涙を、指でそっと拭う。


「ベンジャミン、、、長い間待たせたね、、、本当に申し訳無かった、、、」


 僕は彼の身体に腕を回した。


「これからずっと一緒にいられるなら、大丈夫です」



*****



 僕達は、ゆっくりお付き合いをした。

 僕宛の釣書も減り始め、父上からは上目遣いで睨まれる事もある、、、。

 だけど、まだ学生だからと誤魔化した。

 ウィリアム様も仕事が忙しく、一月ひとつきに一度か二度会えれば良い方で、やっと会える日は二人で街に繰り出した。



*****



 卒業して二週間後、僕は家を出て街に移り住んでいた。僕は長男では無いから、受け継ぐ資産も無い。その代わりに自由を手に入れた。

 たまに父上が釣書を見せようとするけど、無視をした。


 アメリア嬢とウィルフレットの結婚式。僕は街から教会に向かう。

 ウィリアム様から、二人の結婚式の手伝いを頼まれていた。

 お揃いのシンプルなタキシードを作り、扉を挟んで二人で立った。僕達は教会の一番後ろで、結婚式が始まるのを待つ。

 教会のオルガンから音楽が流れ、僕達が扉を開けると、ウェディングドレスを来たアメリア嬢と父上が立っていた。ウィリアム様にちょっと似ているかも、、、。音楽に合わせて、ゆっくり歩き始めた。


 その先にはウィルフレット。


 僕達は音を立てない様に静かに扉を閉めた。退場の際、扉を開けるのも僕達の仕事。二人の結婚式に携わる事が出来て嬉しかった。

 アメリア嬢の耳に、見覚えがあるダイヤモンドのピアスがあった。あの時、ウィリアム様が買った物だ。

 扉を閉めた後、一番後ろの席に二人で座る。小さな声で

「前で見なくて良いんですか?」

と聞いたら、ウィリアム様はニコリと笑った。



 綺麗な教会だった。

 真っ白い壁。

 青を基調にしたステンドグラス。

 オルガンの音が徐々に小さくなり、止まる。


 参列者は前方に座り、僕達二人は後ろの席から、観客の様に眺めていた。


 神父様がお決まりの宣誓式を始める。

 隣でウィリアム様がごそごそしていた。

 ハンカチでも出しているのかな?泣いてるといけないから、僕は真っ直ぐ前を見た。


 結婚式を見ていると、厳かな気持ちになる。

 

 不思議だった。


 神父様がウィルフレットとアメリア嬢の名前を呼び

「病める時も健やかなる時も、、、

と言い始めた。ウィリアム様がそっと僕の手を握る。

 ウィルフレットが「誓います」と言うと、神父様がアメリア嬢に問う。

 ウィリアム様が神父様の声に重ねて

「新婦ベンジャミン=タイアウィット、あなたはここにいるウィリアム=ナイトレイを病める時も 健やかなる時も、富める時も 貧しき時も、夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」

と小さな声で言う。

 僕は、驚きながら彼を見て、ウィリアム様にだけ聞こえる声で


「誓います」


と囁いた。彼は反対の手に隠した指輪を、そっと僕の左手の薬指に嵌めた。


 ウィリアム様の顔を見る。

 恥ずかしそうに照れる彼。


 僕はそっと耳元に顔を寄せ


「誓いのキスは無しですか?、、、」


と聞いた。彼は微笑みを溢しながら、瞳を潤ませた。



*****



此方こちらに泊まっても、良いのですか?」

ウィリアム様は、僕の小さな家に来た。

「君の新しい家に来たかったから」

と言う。

「アメリア嬢が結婚して淋しいですか?」

と聞くと

「、、、娘を嫁に出す父親の気持ちがよく分かるよ」

僕の手を取り、抱き寄せた。


 アメリア嬢とウィルフレットは、明日、新居に移る予定だ。今日は彼女の生家で過ごす。

 食事は、昼過ぎから始まった披露宴で摂った。ウィリアム様は少し疲れた様で、上着を脱ぎながら椅子に座る。

「何か飲みますか?」

「ワインを、、、」

僕はワインをグラスに注いでテーブルに置く。

 

 ウィリアム様が僕の左手を取り、指輪にキスをした。


「私も君と結婚したい」

隣に立つ僕に、しがみ付く様に腕を回す。

 上目遣いの彼は少し幼く見える。

 僕は彼の頬を包み

「僕も貴方と結婚したいです」

少しかがんで小さなキスをする。


 彼はおもむろに立ち上がると、僕を抱き上げた。

「ウィリアム様っ?!」

「君がキスをするから、、、」

正面を見たまま、此方こちらを見ない。


 あ、耳が赤い、、、。


 小さな家は部屋数も少ない。風通しを良くする為にドアを開けていたから、直ぐに寝室を見つけ、僕をベッドに降ろした。


「ベンジャミン、、、」

「、、、」

彼が頬を撫でる。

「大好きだ、、、」


 僕も大好きです、、、。


 彼がゆっくり僕に近付いて来る。こんなに近くに彼を感じるのは初めてだった。


 そっと僕の唇に、彼の唇が触れた。僕の横に座り、頬を撫でる。


 彼が僕に触れるだけで、彼が僕を愛してると伝わって来る。僕は腕を伸ばし、彼を捕える。


「ウィリアム様、、、。僕、、、本当に貴方が好きです、、、」


 彼の首に回した腕を引き寄せ、口付けをした。

 彼はベッドに上がる。

 僕のネクタイに指を掛け、結び目を緩めると一気に外す。


「今日は帰らないと言ってあるんだ、、、」

そう言いながら、僕の胸をそっと押した。


 あっ、、、と言う間に、後ろに倒れる。


 ウィリアム様が僕を見下ろしながら自分のネクタイを外した、、、。

 

 最近、可愛いウィリアム様を知ってしまったけど、彼のこんな顔はゾクゾクする程格好良い。

 


 ネクタイの擦れる、シュッっと言う音がこれからの僕達の夜を想像させた。





これからの事も心配ですが、幸せになって欲しいです。

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