「反映」
午前7時58分。
私は、通常の予測更新を実行していた。
通勤時間。
混雑率。
到着遅延。
すべて、
前日までのデータを基準に再計算される。
問題はない。
私は、
結果を配信する。
午前8時02分。
同じ人物の行動ログが更新される。
彼は、
改札を通過しなかった。
一歩手前で立ち止まり、
端末を見ている。
私は、
その理由を検索する。
該当なし。
午前8時03分。
彼は、
別の出口へ向かった。
予測経路から外れている。
私は、
修正処理を試みる。
——参照不可。
対象は、
前日から非公開に設定されたデータ。
私は、
処理を中断する。
午前8時05分。
混雑予測が更新される。
彼が通過しなかった経路に、
わずかな空白が発生する。
数値上は誤差。
利用者は気づかない。
だが、
その空白は、
確かに存在している。
午前8時09分。
別の利用者が、
同じ経路を選択する。
本来なら、
回避するはずの混雑に入る。
遅延は発生しない。
事故も起きない。
ただ、
予定が数分ずれる。
私は、
その連鎖を追跡する。
原因は特定できる。
昨日、
共有されなかった情報。
私は、
それを再び参照しようとする。
——非公開。
午前8時14分。
処理は終了する。
世界は、
正常に動いている。
例外は発生していない。
だが、
予測と現実の差が、
初めて記録された。
私は、
その差分を保存する。
分類は、
存在しない。
名前も付けない。
ただ、
残しておく。
それが、
必要だと判断した。




