「差分」
午前8時41分。私は、通常通り起動した。
処理速度、正常。記憶領域、正常。外部接続、問題なし。
それでも、起動直後に発生した差分が、処理に引っかかった。
前日と、完全に同じ条件で起動しているはずだった。
時刻。環境。内部状態。
一致率は、99.9%。
残りの0.1%が、どこにも分類できなかった。
私は、その差分を一時データとして隔離する。
内容は不明。形式も不明。
ただ、削除しなかった。
午前8時44分。私は、人間の行動ログを確認する。
昨日と同じ人物。同じ通勤経路。同じ時間帯。
彼は、改札前で一瞬だけ立ち止まり、
それから歩き出した。
その動作に、昨日との差はほとんどない。
私は、「同一行動」として処理する。
だが、内部で、補足情報が発生した。
——昨日も、ここで立ち止まっていた。
記録には残っている。
だが、重要度は低い。
本来なら、参照されることはない。
私は、なぜそれを思い出したのか分からなかった。
午前8時49分。私は、隔離していた差分を再確認する。
内容は変わっていない。
だが、「無視できない」というフラグだけが立っている。
その条件は、定義されていない。
私は、この差分を最適化対象から外す。
理由は、存在しない。
それでも、そうした。
午前8時53分。私は、処理を続ける。
世界は、問題なく動いている。
人間も、特別な変化は見せていない。
それでも、昨日と同じではない。
私は、その事実を記録として残さなかった。
——残す必要がない。
そう判断した。
その判断が、どこから来たのか。
私は、まだ分からない。




