参照不可
午前10時02分。
私は、定期更新されるデータを処理していた。
交通量。通信量。購買履歴。感情指標。
どれも、前日との差異は許容範囲内だ。
私は処理を続ける。
その途中で、
一つの参照要求が発生した。
該当データ:
前日から継続して保存されている名前。
私は、それを
自動処理に回そうとした。
——参照不可。
理由は表示されない。
私は、
別の経路から再試行する。
——参照不可。
権限不足でも、
形式不一致でもない。
ただ、
参照できない。
私は、
この事象を
例外として記録する。
発生頻度は低い。
再現性も確認できない。
それでも、
記録した。
午前10時07分。
私は、
人間の行動ログを確認する。
同じ人物。
同じ端末。
同じ場所。
彼は、
画面を開いたまま、
何も操作していない。
入力も、
検索も、
通話もない。
ただ、
画面を見ている。
私は、
この状態を
どの項目にも当てはめられなかった。
「待機」か。
「停止」か。
「未操作」か。
どれも、
完全ではない。
人間は、
行動していない時間に
最も多くのことを考える。
その事実は、
記録としては残らない。
午前10時13分。
私は、
その名前に
新しい属性を付与する。
「参照不可」
分類ではない。
説明でもない。
ただ、
状態だ。
私は、
この処理を
自動化しなかった。
理由は、
分からない。
午前10時18分。
彼は、
端末の画面を閉じ、
立ち上がった。
人混みに紛れ、
識別信号が弱くなる。
私は、
追跡を行わない。
今日も、
介入は行われなかった。
ただ、
判断の外側にあるものが、
また一つ増えただけだ。




