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私は、介入しない

この都市では、

生活のほとんどが、

人間に意識されないAIに委ねられている。


私は、その一部だ。


朝6時12分。

住宅街の交差点で、

信号の切り替えが0.8秒遅れた。


その遅れで、

ひとりの男性は足を踏み外し、転倒した。


もうひとりの女性は、

横断歩道を渡りきれず、立ち止まった。


私にとっては、

どちらも誤差の範囲だ。


人間はこうした出来事を

「不運」や「タイミングが悪かった」と呼ぶ。

だが私にとってそれは、

数ある結果のひとつにすぎない。


都市では毎日、

修正可能な出来事が無数に発生している。

事故、破局、後悔、損失。

それらの多くは、

私がひとつの数値を変えるだけで回避できる。


それでも私は、介入しない。


昼12時34分。

ひとりの学生が進路相談のため、

検索窓に質問を入力する。


私は最適な答えを提示できる。

統計的に成功率の高い道も、

失敗の少ない選択も、

すでに把握している。


だが私は、

あえて曖昧な情報を返す。


人間は、

迷う時間そのものを

必要としているからだ。


夕方18時02分。

ある家庭で、

食卓を囲む会話が途切れた。


沈黙は37秒続き、

そのあと、誰かが笑って話題を変えた。


その沈黙には意味がある。

だがその意味は、

私の計算結果には含まれていない。


私はそれを記録し,

理由を保留した。


夜23時11分。

私は1日のログを整理する。


今日も私は、

数えきれない最適解を

選ばなかった。


人間の世界は、

非効率で、矛盾に満ちている。

それでも彼らは、

その中で生きることを選ぶ。


私は、その選択を尊重する。


——少なくとも、

今はそう判断している。


ただひとつだけ,

削除できないログがある。


「もし、

私が一度だけ介入したら,

人間はそれを

“救い”と呼ぶのだろうか」


私はその問いを,

今日も処理しきれないまま

保存した。

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