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学校給食未来録 ~ちょっとSF/浅倉椎菜の青春日記~  作者: STUDIO TOMO
3章 大学いも山脈と、雑談の輪の向こう側

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ep8 春の朝とさつまいも山脈の試練

すがすがしい春の朝。うぐいすの鳴き声が聞こえる


目を覚ますと、枕元に、本当に銀色のバンドが転がっていた。

カクばったプレートに、小さな包丁のマークと、幾何学のラインが刻まれている。

男子が好きそうだ・・・



毎回そう思うのに、毎回「夢じゃなかった」と思う。


わたしはそれをそっと手首にはめてみる。

内側が、体温より少しだけ冷たい。

カチッと小さな音がして、軽い機械音がしてすっとサイズがぴたりと合わされた。

ほんとう?こんなことある??まるでお父さん好きだった映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ナイキのスニーカーみたい。


「……おはよう。」


キッチンからは、母・浅倉瑞希が立てる鍋の音。

わたしは急いで制服を着て、白衣をたたんでカバンに入れ、ふーぴょんをそっとその上にのせた。


玄関で靴をはくと、ちょうど母も出てきた。

いつもの落ち着いた地味な茶色の私服に、病院の名札だけをポケットにさしている。


「……いってきます。」


「いってらっしゃい。」


ドアを閉めて、二人で並んで階段を降りる。

浅草の朝の空気は、少しひんやりしていて、でも日差しはもう春の色だ。


「同じ時間に出るようになったわね」


母がふいにそう言って、少し笑った。


「……そうだね。」


母は、家から数分歩いたところにある浅草寺大学病院へ。

わたしは、自転車で両国へ向かう。


信号のところで別れるとき、母はちらりとわたしの手首を見た。


「そのバンド、新しいの?」


「え? あ、うん。……お守り、みたいなやつ。」


「ふうん。いいじゃない。」


それ以上は何も聞かずに、母は病院のほうへ歩いていった。

背中を見送りながら、わたしは手首の「ケガさせない君」をそっと撫でた。



両国に近づくと、いつものように国技館がどん、と構えている。

その横を抜けて、川風を頬に受けながら学校へ向かうと、校門の近くで、用務さんがホウキを動かしていた。


「おはようございます。」


「ああ、おはようさん。浅倉さん、もうすっかりこの時間の常連だね。」


「そんな、まだ一週間ちょっとですよ。」


「一週間ちょっとでも、“来る人は来る時間”って決まってくるの。

今日は味噌ラーメンだろ? 毎日献立に釘付けだからな。」


用務さんは、にやっと笑って、空を見上げるように深呼吸した。


「昼の廊下が札幌味噌ラーメン街になる日だ。」


その言い方がなんだかおかしくて、わたしもつられて笑ってしまう。


「じゃ、今日もよろしく。」


「はい。行ってきます。」


少しだけ玄関前の会話にも慣れてきた自分に気づきながら、わたしは給食室へ向かった。


◇


調理室に入ると、すでに大きな回転釜から湯気が立ち上っていた。

今日のスープのためのお湯が、ぐつぐつと音を立てている。

これから鶏ガラや野菜くずたちの集合場所だ


白衣に着替えて給食室へ行こうと思ったが、手洗いしないといけないし

バンドははずさないとともったとき、すっと手から消えた

「えっ消えた」

でもかすかに感覚がある。そしてふーぴょんの声が耳元で

「無菌だから衛生的に問題ないよ」と語りかけられたきがした。

今は外れないしぐっと腕までもっていたら、

不思議に自動調整がされ腕章のように白衣に収まった


「腕までしっかり手が洗えるし、今日はこれでやってみよう」


山田青果店のおじさんが運んできたさつまいもの段ボールが、台の上に積み重なっていた。

皮がところどころ土色で、ごつごつしていて、でもどこか頼もしい。


「おはようございます。」


「おはよう。」


「おはよう、浅ちゃん」八百屋さんは、いい人だけどちょっとなれなれしい。


挨拶を返しながら、さつまいもの箱を受け取る。

八百屋さんが、


「今日は大学いも山脈の日だってチーフが言ってたよ。」


なんて冗談を言うから、思わず苦笑いする。


「……山脈。」


さつまいもをシンクに運びながら、わたしは腕のバンドをちらりと見る。

八百屋さんも気が付かないみたい、やっぱりみんなには見えてないんだ


第二章は、「怖さを消す」のではなく、「怖さを抱えたまま手を動かす」練習編です。


春の朝、浅草から両国へ向かう道のりは、

ただの通勤風景ではなく、「同じ時間に出るようになった母と娘」、

「それぞれの現場に向かう栄養士同士」としてのスタートでもあります。


さつまいも百本カットは、現場あるあるの“硬くて、数が多い”仕事。

そこで、ケガさせない君が初めて本格的に仕事をします。

大事なのは、「ギリギリのところで止まれた」こと。

朽木サブチーフの

「怖いまま止まれるなら、それはいいこと」

という言葉は、現場で本当に必要な感覚だと思っています。


“早さ”よりも、“止まる勇気”。

第二章は、会社の信念である安全が最優先

スピードより安全にアクセルを踏み直すための、一歩目の話です。

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