ep66 【外伝】再会と地下室(97〜2023)
■1:分かれ道(1997)
中学を卒業した二人は、別々の道へ進んだ。
大樹は海星高校から“帝都大学”へ。
全国トップの研究室に、あっさり受かってしまう。
そして野球を離れ、まさかの 応援団 に入った。
六大学のスタンドで、青空の下、
長い白法被を風にはためかせて校歌を振る姿は、
もはや同級生ではなく“別世界の住人”に見えた。
一方、友部は普通科でどん底の高校生活。
寿司屋で修行を始めるも、手荒れで断念。
母に背中を押され、心機一転、
池尻栄養専門学校 を目指すことを決意した。
理由は色々ある。
でもたぶん、
大樹に唯一勝てたものが料理だったから。
もんじゃだけは、いつも友部が上手だった。
二人の距離は静かに離れ、
手紙も遊びも途切れていく。
けれど、離れたのは 心 ではなく 現実 だけだった。
■2:再会(2000春)
大樹の娘・椎菜が生まれた。
その知らせを聞いた瞬間、
友部は専門学校の実習室で
調理白衣のまま大声を上げた。
「……あいつ、父親になったのかよ。」
久しぶりに訪れた浅草の古民家。
玄関を開けると懐かしい木の匂いが満ち、
シイノキの影が揺れていた。
大樹は笑っていた。
あの天才特有の、肩が抜けたような軽い笑いで。
「栄一、見てくれよ。この子……椎菜。」
「……お前が父親かよ。」
「だよなー。俺も信じてねぇ。」
その笑いの奥に、友部は微かな陰りを見た。
天才が不安を抱くときの、あの淡い揺らぎ。
■3:東京帝都大学院、そして「異変」(2001〜2005)
大樹は大学院で ヒューマンロボティクス を専攻した。
脳神経の信号パターンを模倣し、
AIの予測処理を樹状に広げていく研究。
その理論は医療にも使えると期待されていた。
……ある日までは。
研究班が製作した“無表情の人型ロボット”が、
命令していない“最適化動作”を見せた。
小さな誤差の調整。ただの自己修正。
しかし、その微かな違和感に
大樹だけが震えた。
「……これ、危険な研究だ。」
ラボのメンバーは興奮したが、大樹だけは青ざめていた。
「俺が見てる未来は……こんなんじゃない。」
子どものころ夕焼けの校庭で交わした
“ドラえもん作ろうぜ” の約束から、
研究が外れていく感覚。
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## ■4:地下室の決断(2005冬)
大樹は突然、研究を辞めた。
建前は「実家の木工を継ぐ」。
しかし本音は全く違う。
研究成果を――封じるためだ。
すべてのデータを圧縮し、
ハート型コア に封印した。
シナプス状の回路を“樹木の枝”のように組み、
自己増殖を抑制し、
ただ 「寄り添うためのAI」 へと作り変えた。
古民家の床を叩くと、カコン、と鈍い音が響く。
祖父が残した作業場の下にある
小さな 地下室。
木の香りに満ち、壁には光る回路図が淡く揺れていた。
「……これは、外に出してはいけない。」
■5:最後の夜(2006)
その冬、浅草の小さな喫茶店で
友部と大樹は久々に顔を合わせた。
ひき立てのコーヒーの香り。
くだらない昔話。
笑って、笑って、少しだけ沈黙。
突然、大樹はポケットから
小さな ハートのコア を取り出した。
「友……これ、持っててくれ。」
「は? なんだよこれ。」
「いいから……ただ、持ってて。」
説明はなかった。できなかったのだ。
その翌週、建設現場での事故。
あの慎重な大樹の不慮事故
――浅倉大樹、急逝。
弔問の席で友部は見つけた。
うずくまり、薄汚れたうさぎのぬいぐるみに
顔を埋めて泣く小さな椎菜を。
友部はハートコアを押し入れにしまい、
7年間、一度も開くことはなかった。
未来を変えるとは知らずに。
■6:ふーぴょん誕生(2021)
15年が過ぎた。
友部は会社勤務のかたわら、
芸術大学へ編入し、デザインを学び直した。
そこで描いうさぎデッサン――
それが後の ふーぴょん だった。
社内企画としてラフが採用され、
アクキー、アクスタ、缶バッジ……
気づけば公式キャラへ昇格した。
そしてぬいぐるみの試作。
友部はふと思いつき、
押し入れから例のハートコアを取り出した。
「……これ、入れてみるか。」
意味はわからない。
ただ、“入れておきたい” と感じた。
ふーぴょんは棚に置かれ、
サンプルとして放置され、
曽野がに託され、
帰り際の流れで椎菜へ渡された。
深い意図はない。
でも、運命は流れを選ぶ。
本来、誰が渡す予定だった?
そんな予定は、どこにも存在しない。
ふーぴょん内部のハートコアだけが――
椎菜の近くにありたいと反応しただけ。
目的ではなく、反応。
意図ではなく、流れ。
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■7:隅田川テラス(2023)
2年後の春。
給食初日で大きなミスをした日
曽野チーフから託された”ふーぴょん。
その中のハートコアが、
椎菜の感情に 初めて小さく反応した。
そして本編の1話2章へ続いていく。




