ep62 エンドロール『学校給食未来録 —回転釜の湯気の向こうにある明日—』
エンドロールブリーズが、
ゆっくりと空を駆け抜けていく。
春の光がゆっくりと街に降りて、
あちこちの学校から、
白い湯気が立ちのぼっていく。
その湯気が風にほどけるたび、
給食室の一日が静かに始まった。
ある学校では、
朽木チーフがスチコンの扉をそっと押し、
立ちのぼる香りに目を細めていた。
その横顔だけで、
現場の空気が落ち着いていく。
江東区の学校では、
縣チーフが包丁の音に耳を澄ませていた。
規則正しいリズムが流れ出すと、
彼は小さく笑って、
誰かの肩を軽く叩いた。
市川市の給食室では、
櫻子チーフが朝の光を浴びながら、
アレルギー表の上に指を置き、
スタッフに短く、
やわらかくうなずいていた。
その仕草だけで、
今日の流れが決まる。
両国本社の窓には、
隅田川をなでるように差し込む
夕焼けが淡く映っていた。
友部と塩崎係長が資料を広げ、
その横では、
スーツ姿がまだどこかぎこちない
曽野マネージャーが、
現場と電話をつなぎながら、
忙しなくも丁寧な声で
指示を飛ばしていた。
白衣の現場を守ってきた人が、
今は本社で、
また別の距離から
背中を支えている。
初代の娘である専務が社長へ、
前社長は会長となり、
自然なバトンが、
静かに渡されていた。
ふたりは夕焼けに染まる川面を、
言葉少なに見つめていた。
十万食の給食。
毎日の安全。
そして、
今日も誰かが手渡す一食。
どの場所も違うのに、
同じ温度が流れている。
声をかけ、
手を貸し、
視線を交わす。
その積み重ねが、
今日の給食を形にしていた。
湯気は風にほどけ、
子どもたちの笑顔へ向かっていく。
給食室には今日も、
湯気と音と、
小さなドラマが流れている。
未来は、
誰かの手の中で、
また静かに始まっていく。
春の空のどこかで、
言葉にならない想いだけが、
そっと残っていた。




