ep61 エピローグ ⑥花束と明日の給食
披露宴のクライマックス。
ブーケトスの時間がやってきた。
会場の外に出ると、
夜の風が、ほんの少しだけ冷たかった。
ホテルのテラスには、小さなライトがいくつも並び、
いつも見ている隅田川の夜景とは、
また違うきらめき方をしている。
川辺には、白と淡いピンクの花。
隅田川の桜は、やっぱりきれいだ。
キンさんが、そっと近くに来て言った。
「チーフ。日本の桜って、きれいですね。
今日のチーフみたいです。」
すっかり流ちょうになった日本語。
少し照れたような笑顔。
伝統的なロングスカートのロンジー
「キンさんも、今日は民族衣装で
すごく素敵。かわいい」
ウェディングプランナーさん人から声がかかる
「独身のみなさま、前の方にお集まり
くださーい!」
司会者の声に、櫻子や重石後輩たちが
わいわいと集まってくる。
「チーフ、そのブーケ、全力で投げたら
危ないからね!」
「だいじょうぶです。ケガさせないから。」
わたしは笑いながら、
大きなブーケを胸の前に抱えた。
白と淡いピンクの花の間に、
小さなうさ耳の形をした花飾りが紛れ込む。
「しいな。」
小さな声が、耳元でささやいた。
誰にも聞こえないくらいの、秘密の音量で。
ドレスの内側のポケットから、
ふーぴょんが顔だけひょこっと出していた。
「最後に、一個だけ。」
「なに。」
「……ありがとう。幸せになれ。」
それは命令でも、祈りでもなくて、
ただの、役目を終えた相棒の言葉だった。
「なるよ。」
わたしは、迷わず答えた。
「だって、ここまで、
ちゃんと歩いてきたから。」
深呼吸をひとつ。
テラスの上空には、街の明かりを受けた雲が、
薄くミルク色に光っていた。
「いくよー!」
背中を向け、ブーケを高く掲げる。
その瞬間、胸の前でふーぴょんがふわっと
軽くなった。
ライトの光を反射しながら、
小さな白い影が、夜空へすっと駆け上がっていく。
くるり、と空中で一回転したふーぴょんは、
ブーケの花の隙間から、こちらを振り向いた。
うさぎ口のまま、片目だけをきゅっとつぶる。
——ウインク。
それは別れでも、約束でもない。
「引き渡し完了」の合図だった。
最後に映ったのは、
まん丸のほっぺと、いたずらっぽいウインクだけ。
--------
夜風が、そのすべてを均していく。
七年前、隅田川の風の中で始まった、
小さな給食とSFの物語は、
ここで、役目を終えた。
助けられる物語は、もう終わりだ。
選んで、背負って、進む番は、
最初から——わたしだった。
——さあ、明日の給食をつくろう。
。




