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学校給食未来録 ~ちょっとSF/浅倉椎菜の青春日記~  作者: STUDIO TOMO
12章 いただきますと七年目の約束

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ep54 研究室とモーション・プロテクター

 廊下の足音が、はっきりしてきた。


 コツ、コツ、と一定のリズム。

 白衣のすそが揺れる気配まで、

 耳の奥に伝わってくる。


 友部は、廊下の角に半歩だけ体をずらし、

 右手首のモーション・プロテクター

 にそっと触れた。


 銀のプレートが一瞬だけ、青白く脈打つ。


 「……来るぞ。」


 かすれたつぶやきが、非常階段の影まで届いた。


 わたしは息を止める。

 心臓だけが勝手に暴れている。

 足の裏から、床の冷たさが逆流するみたい。


 白衣の男の影が、角の向こうに伸びた。


 友部は、動かない。

 それどころか、微動だにしない。


 ――え、出ないの?


 そう思った瞬間だった。


 カチ、とバンドの中で何かが噛み合う音がして、

 空気がひやりと揺れた。


 白衣の男が角を曲がる。

 そのほんの一歩手前で、

 友部がふっと壁から離れた。


 「すみませーん。」


 驚くほど普通の声だった。


 「すみません、このビルの管理の方ですか?」


 白衣の男が、びくっと肩を揺らす気配。


 「……誰だ、君は。」


 低い警戒の声。


 「うちの社員が、さっきこのビルの前で

  倒れたって 連絡があってですね。

  救急車を呼んだ方がいいかどうか

  確認しているところなんです。」


 友部は、仕事モードのような、

 でもどこか演技っぽい口調で淀みなく続けた。


 「防犯カメラの映像を確認させてもらえませんか。」


 その瞬間だった。


 白衣の男が一歩踏み出した。


 「そんな権限が――」


 言い切るより早く、

 モーション・プロテクターが微かに光った。


 男の腕が上がる。

 その動きを、友部が半歩だけズラして受けながら、

 肘を軽く押し流し、前襟をつかむ。


 大きな音は立たない。

 だけど、空気が変わった。


 「ちょっ――」


 短い声と同時に、男の体が壁に吸い寄せられるように倒れた。


 友部は、力で押さえつけてはいない。

 動きの“行き先”だけを、先に塞いだ。


 プロテクターの補正が、相手の動きを先読みしている。


 男は、まるで自分でつまずいたみたいに

 壁に吸いつけられる形で崩れ落ちた。


 「……寝ててもらう。」


 友部は低くつぶやき、

 動かなくなった男をそっと横に寄せた。


 わたしは階段の陰から

 飛び出しそうになったけれど、

 友部の鋭い視線が、一瞬、こちらを止めた。


 「まだだ、しいな。」


 わたしは唇を噛んで、足を止めた。


 友部の顔は冷静そのもので、

 でもどこか痛いくらいの決意がにじんでいた。


 「この先は、三人いる。

  陸も、ふーぴょんも、その中だ。」


 わたしの胸がぎゅっとなる。


 「しいな。」


 友部が、こっちを見た。


 「ここからは、お前が“先頭”だ。」


 息が止まった。


 「俺が背中で止める。

  お前は陸のところまで一直線に行け。

  ふーぴょんを動かせるのは、お前だけだ。」


 頭の奥が熱くなる。


 怖い。

 でも、わたししか――できない。


 「……はい。」


 声は震えたのに、足は勝手に前へ出た。


 金属のドアは、ほんのりと温かい。

 陸の熱と、白衣の男たちの熱が、向こうにいる。


 テイスト・リスナーが、

 ふたたび音を拾いはじめる。


 『……まだ安定しない。』

 『契約は今日中だ、急げ。』


 そして、陸の弱い息遣い。


 ――行く。


 わたしはドアノブに手をかけた。


 その瞬間、後ろで友部が小さく息を吸った。


 「しいな。タイミングは、俺が取る。」


 わたしは、うなずいた。


 友部の手が、わたしの肩に触れた。


 「絶対に助けるぞ。」


 ドアの向こうで、椅子がきしむ音がした。


 陸の声が、かすかに漏れた。


 今、行く。

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