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学校給食未来録 ~ちょっとSF/浅倉椎菜の青春日記~  作者: STUDIO TOMO
11章 母の筑前煮と美味しさ翻訳

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ep43 筑前煮と胸の奥のざわつき

  挿絵(By みてみん) 

 四月の終わり。

 給食室に立つと、いつもより空気が熱い。

 蒸気と、甘い醤油のにおいが混ざる日。

 そう、今日は——筑前煮、千食。


 回転釜の前に立つと、いつもよりほんの

 少しだけ、胸がきゅっとする。

 理由は単純だ。椎茸だけ、正直嫌い。

 あの匂いと、ひだひだのにゅるっとした

 質感に「来たぞ」と

 構えちゃうだけだ。


「浅倉さん、3番の釜、レンコン入れるよー!」


 朽木サブチーフの声は、今日も安定していて

 心地いい。

 段取りの呼吸が、もう音で分かるように

 なってきた。


「はーい!」


 返事をすると、横から三浦さんが覗きこむ。


「浅倉さん、ニンジン追加、こっちお願いします」


 朽木サブチーフの声が通る。

 

「はい、今入れます!」


 返すと、すぐ横から三浦さんが

 ひょこっと顔を出してくる。


「浅倉さん、最近いい顔してるよ〜。」


「しかし朽木くん、サブチーフね、

 かっこよくなったよね。」


「そうですね……。」


 忙しさもあってさらっと返事してしまった。

 本心だし、別に変な意味じゃない。

 でも自分でも驚くくらい、

 自然に口にしてしまった。


 その瞬間——。


「……へぇ。」


 背中側、少し低い声。

 陸が、カナベラで回転釜を混ぜる手を止め、

 こちらをちらりと見る。


「しいな、なんか……顔赤くね?

 暑さのせいか?大丈夫か?」


 彼にしては珍しく“気遣い上手”な言い方。

 だけど、胸の奥にほんの小さな棘みたいなものが

 混じっている気がした。


「えっ、わたし?……大丈夫、大丈夫だよ!」


「……ならいいけど。」


 言いながら、陸の耳がうっすら赤いのが見えた。

 蒸気のせい、とは思えない。


 三浦さんがニヤっとする。


「ねぇしいなちゃん?あれ、完全にヤキモチだよ?」


「えっ!?ちょ、ちょっと……!」


 声が裏返りそうになるのを必死にこらえる。

 その横で、キンさんがまじめな表情のまま野菜を

 運びながら一言。


「アガタさん、きょう…ちょっと、こわい顔。」


「こ、怖くないよ!」


 陸が慌ててぎこちなく笑顔で否定する声に、

 三浦さんが笑う。

 私までつられて笑ってしまう。


 湯気のむこうで、朽木サブチーフは相変わらず

 落ち着いて作業を進めている。

 段取りは正確で、声は優しく、

 背中はどこまでも頼もしい。


 なんていうか……。


 ——朽木さんの落ち着きと、陸の不器用な揺れ方。

 どっちも胸の奥に波をつくる。


 椎茸の香りがいつもより複雑に感じるのは、

 苦手だからだけじゃない。

 避けてきたものに、少しだけ

 向き合わないといけない気がした。


「浅倉さん、仕上げるよ。」


「はい!」


 筑前煮の湯気の中で、

 ちょっとだけ未来の気配がした。

 第11話1章をここまで読んでくださって、

 ありがとうございます。


 この章は「筑前煮」と「椎茸」と「ヤキモチ」が

 同じ鍋でぐつぐつしているような、

 そんなイメージで書きました。


 給食の現場では、千食分の筑前煮を仕上げる日は、

 本当に空気が熱くなります。

 スチコンや回転釜の湯気と、

 醤油とみりんの香りが混ざって、

 そこに人間関係まで 煮込まれていく感じがします。


 椎菜が「椎茸ちょっと苦手」と思いながらも、

 ちゃんと仕事として向き合おうとしている姿は、

 新人さんたちを見ていて 

 何度も感じてきた光景です。

 苦手な食材や作業ほどいつかその人の得意分野に

 変わっていくことが多いんです。


 そして今回は、朽木サブチーフの安定感と、

 陸の不器用なヤキモチを

 同じ場面に並べてみました。

 現場にも、ああいう「なんかちょっと赤いぞ?」

 という空気が流れる瞬間がたまにあります。

 当人たちは真剣なんですが、周りから見ると

 微笑ましくて仕方ないやつです。


 読者としては「どっち派かな」と

 ニヤニヤしながら読んで

 もらえたらうれしいですし、

 作者としては、まだどちらにも決めきらずに

 じわじわ火加減だけ

 調整している段階です。


 椎茸の香りと、胸のざわざわが同時に立ちのぼる。

 そんな「味の記憶」を物語として残したい。

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