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学校給食未来録 ~ちょっとSF/浅倉椎菜の青春日記~  作者: STUDIO TOMO
10章 赤飯とチアメガホンで送るエール

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ep42 二年目の目標と謎のラボ

 数日後。本社研修室のホワイトボードの前で、

 わたしは、マジックを握りしめたまま、

 自分の書いた字を眺めていた。

 「二年目の目標」と書かれた紙が、

 壁一面に貼られている。

 いろんな現場の同期の字が、ぎっしりと並んでいた。


 「“みんなに、ちゃんと声をかける”か。」


 自分の書いた一文を見て、思わず小さく苦笑する。


 「しいな、らしいね。」


 背後から、聞き慣れた声がした。


 「友部……部長。」


 振り向くと、黒いコック服じゃなく、

 スーツ姿の友部部長が、スタバのマグを

 片手に立っていた。


 「“らしい”って、褒めてるんですか、それ。」


 「褒めてるよ。あと、ちゃんと課題も

  見えてるなあって。」


 友部部長は、わたしの書いた紙を少し離れた

 位置から眺める。


 「声ってさ、出そうとしないと出ないんだよね。

  でも、出そうとしすぎても、空回りするし。」


 「……空回りしてます、完全に。」


 つい、本音が漏れる。エールメガホンが

 あっても心の声を結局、給食室のみんなに

 うまく伝えられなかったことを話した。

 

 「空回りすると、自分が

 ダメに見えるかもしれないけどさ。」


 友部部長は、マグの中のコーヒーと

 ミルクを混ぜるよう

 くるくると回しながら言った。


 「研究って、だいたい最初は空回りから

  始まるからね。」


 「……研究、ですか。」


 「うん。人の心を、どうやったらちゃんと

  揺さぶれるのかっていう研究。」


 何気ない口調だった。でも、その言葉に、

 わたしの胸の奥が、ぴくりと反応する。


 「いじる、じゃなくて。揺さぶる……。」


 「そう。いじるのは簡単なんだよ。

  驚かせたり、怖がらせたり、

  不安を煽ったりすればいい。」


 友部部長の目が、一瞬だけ真面目な光を帯びる。


 「揺さぶるっていうのは、その人がもともと

  持ってるものを、ちょっとだけ前に

  出してあげること。“がんばりたい”とか、

  “支えたい”とかさ。」


 それは、聞いていてどこかお父さんの

 言いそうなことに似ている気がした。


 「……そういう研究を父としてたんですか?」


 「してた、というか。途中まで一緒に

  話していたって感じかな。」

  

 友部部長は、

 ふっと天井を見上げる。


 「大樹はさ、大学時代からそういうのに

  興味あってね。」


 胸の奥で、何かが小さく跳ねた。

 「お父さんが……。」


 「心をいじくるんじゃなくて“心があたたかくなる

  アルゴリズム”を、ずっと考えてたよ。

  俺はなんとなく冗談半分にこんなこと

  できたらいいなって

  勝手なこと言っていただけだよ。」


 その言葉に、頭のどこかが、じんわり熱くなる。

 心を揺さぶる研究。あたたかくなる

 アルゴリズム。

 バラバラだった単語が、少しずつ線で

 結ばれていく感じがした。


 「……そういうのって、今もどこかで続いてるんですか。」


 思わず、聞いていた。


 「さあ、どうだろうね。一緒に研究していた

  人はいるらしいけど」


 友部部長は、少しだけ意味ありげに笑った。


 「少なくとも、あいつが最後にこもってたのは、

  浅草のあの家の……。」


 そこで、ふと口をつぐむ。


 「家……家の、どこですか。」


 自分でも驚くくらい、声が食い気味に出た。


 「きっと……ラボ。」


 短く、でもはっきりと 言う。


 「ラボなんて、うちにないはずですけど。」


 友部部長は、肩をすくめる。


 「瑞樹さんからは何も?」


 「聞いてないです。」


 友部部長は静かに顎に手を当てて。


 「しいなが自分で確かめる時が……その時か。」


 「自分で……その時……。」


 友部部長は、飲み終えたコーヒーマグを置き、

 わたしのほうをまっすぐ見る。


 「しいな、もう“ただの新卒2年目”じゃないから。」


 その一言が、研修室の空気よりもずっと重く、

 だけど温かく、胸の奥に落ちてきた。


 「応援する側にも、応援される側にもなれる人が、

  の現場に、いちばん必要なんだよ。」


 わたしは、何も言えずにうなずく。


 ラボ。

 お父さんの心を揺さぶる研究。

 

 全部が、見えないまま、足元だけが少し揺れる感覚。


 「……今度、家の床や壁、全部たたいてみます。」


 「家壊すなよ。瑞樹さんとしっかり話してみて。」


 「お母さんとですか?」


 「そうだね」


 「まだ言えそうにないな…いつか聞いています。」


 今は決意のスイッチが入らない でもいつかは。

 

 そう心に刻んだ

 最後の章は、本社研修室での友部部長との会話でした。

 ここまでの十話を通して積み上げてきた

 「応援」「心を揺さぶる」「ガジェット」

 といったキーワードを、少しだけまとめる位置づけです。

 しいなの父・大樹の研究の話は、最初から

 この物語の根っこに置いていた設定です。

 心をいじるのではなく、あたたかくするアルゴリズムを考え続け

 た人。その横で、なんとなく付き合っていた友部部長。

 この距離感が、個人的にとても好きです。

 

 「ラボなんて、うちにないはず」という

 しいなのツッコミも含めて、ここから先は

 少しだけ「日常の外側」に踏み出す予感を

 出したつもりです。

 かといって、一気に大冒険にはせず、あくまで

 給食室の延長線上で広がる

 ちょとSFにしておきたい、

 というのが今のところの狙いです。

 あくまでも今のところです。

 

 また、友部部長のただの新卒2年目じゃないから。」

 というセリフは、私が新人たちにしばしば

 心の中でかけている言葉でもあります。

 二年目以降は、守られる側と守る側の

 境目があいまいになっていく。

 その揺れを、これからもていねいに描き、

 実際に現場悩むみんなに

 エールとして届けていきたいです。

 

 十話まで読んでくださった方、

 本当にありがとうございます。

 しいなと一緒に、まだ少しだけ続く

 給食室の物語を、

 そしてちょっとこれから走り抜けていく、

 筆者と椎菜をこれからも見守っていただけたら

 うれしいです。

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