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学校給食未来録 ~ちょっとSF/浅倉椎菜の青春日記~  作者: STUDIO TOMO
9章 あげぱんと母校に帰る日

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ep37 荒川区町屋のもんじゃとプロフェッサー

 池尻からの帰り部長の子供のころからの

 行きつけの店に社用車で向かう、都電荒川線が

 行き交うレトロな雰囲気の町

 浅草とは違う、地元の人でに賑わう街だ


 線路線沿いのパーキングに車を置き、

 ゆっくり歩き出す急に、時間がゆっくり

 流れているような空気になる。


 「お好み焼・もんじゃ よし丸」

  年季の入った看板。いきなりは

  入りにくいかもしれない。小さな入り口

 「いらいしゃい」


 「予約の友部です。」


 気持ちがいい挨拶と接客、いかにも

 下町らしい昔からのもんじゃ屋だ。


 可愛らしいお母さんが、

 「まいど、どうも この紙に注文書いてね。」

 「はい」と

 部長が慣れた手つきでメモ帳を受け取る

 「しいな、なに飲む? ビールにする?」

 「じゃあ、ビールで。」 思わず言ってから、

 (……あ、わたし今日、先輩側だ)

 と、こっそり背筋を伸ばす。


 おかみさんが忙しそうな姿を見て部長が冷蔵庫から

 「瓶コーラと瓶ビール貰うよ」と声をかける

 「どうぞ」

 と明るい声が返ってくる

 こういうところも、いかにも下町のお店らしい。


 店の奥の鉄板つきのテーブルに、

 ゲソ焼き、豚たん、よしまるもんじゃ、

 豚玉のお好み焼き、いかいり焼きそば——と、

 次々にメニューが運ばれてくる。


「明太子もちチーズみたいな“ハイカラ”なのは、

 ほかの店で食べなさい。

 ここは真の下町っ子の店だからね。」


 部長が、よく分からない理屈を並べながら笑う。

「もんじゃ焼けるか?」

「もちろん、浅草生まれですから。

 学生時代から鉄板係でした。」


 私は、スプーンで生地をぐるぐる混ぜていく。

 部長が横からひょいと手を出して

 手慣れた感じで調味料をいれていく

 ウスターソースは3回し

 しょうゆはひと回し

 かつお節粉ひとさじ

 「OKだよ」

 と部長、私は鉄板に手をか温度を確認する

 

 胸のブローチが、小刻みに今だよって伝えている


 はねない程度に一気に鉄板に

 生地と具材を鉄板いっぱいに薄く広げる。

 土手なんてきれいにつくらない。

 給食室のカナベラのミニ版みたいな

 お好み焼きヘラで最初から一緒に混ぜる

 

 このほうがおこげがいっぱいできて、

 おいしい——と、

 子どものころお父さんから教えてもらった

 かすかな記憶がよぎる


 「やっぱり下町流だなあ。いいよ!

  これできる子あまりいないよ

  このほうが、おこげがうまい。」


 鉄板から立ちのぼるソースの匂いと、

 油のはぜる音、瓶コーラをいれたグラスの中で、

 氷がころん、と鳴る音。


 部長が、もんじゃを一口食べて、感心したように

 うなずく。

 

 はるかさんは「ビールとってきます」と言って、

 自分で冷蔵ケースから飲み物を取りに立っていった。


 「現場から電話だ。」

  曽野チーフのスマホが、ほぼ同じタイミングで

 鳴った。

 「ごめん、ちょっと出てくる。」

 「あっ私も電話入ってる」とはるかさん

 

 ふたりが席を立って、店の外へ出ていく。


 鉄板の前には、私と友部部長だけ。

 しばらく、もんじゃの表面をコテでつつきながら、

 無言の時間が流れた。

 先に口を開いたのは、部長だった。


「研修の日の不安な顔、よく覚えてるよ。」

 もんじゃをつつきながら、部長がぽつりと言う。


「……はい。」


「でも今は、いい顔しているよ。」


「“ああ、この子、調理場の空気つかんで

 きたな”って思ったよ。」


 胸の奥が、熱くじんわりと満ちていく。


「しいなさん.....しいなって呼んでもいいかな」


「はい。それのがいいです。」


「しいな、面談の日のこと、覚えてる?」


「……覚えてます。すごく緊張してました。」


 部長は、グラスの中のコーラの氷を、箸でくるくる

 回しながら笑った。

 「だよな。こっちも、ちょっと緊張してたけどね。」


 「“うちで育てたら、きっと面白くなる子だな”って

  思ってたんだよ。」


 「正直、ふーぴょん抱えて、想像の斜め上にはるかに

  超えて面白くなってるけど。」


 思わず、ふっと笑いがこぼれた。


「後々も、ふーぴょんはいろいろ作ってくれたの?

 ガジェットってやつ」


「……はい。メガネとか、バンドとか、ブローチとか……。」


「メガネ? バンド? ブローチ?」


「危ない音を聞き分けるメガネに、

 ラインの流れを見せるバンドに、

 揚げ物のタイミング教えてくれるブローチ。」


 「——なんかさ、“どっかで聞いたことある夢”

  なんだよな、それ。」


 そう言って、追加で注文した冷ややっこの

 かどを崩しながら、ぽつりと続けた。


 「今のガジェットの話を聞いてるとさ。

  やっぱり大樹っぽいなって、

  どうしても思っちゃうんだよね。」


「……父の、ですか。」

 部長は、コーラを一口飲んでから言葉を続けた。


「中学生の時だったかな、ある日の夕方さ。

 塾の帰り隅田公園で一緒にいて

 大樹のやつ、ブランコ乗って、

 真顔でこう言ったんだよ。」


 「“俺、ドラえもん作るわ。”って。」

  鉄板の上で、お好み焼きの

  ソースがじゅうっと鳴る。


 「なんの青春ギャグマンガだよって、

  突っ込むところかと思ったのにさ。

  めっちゃあいつの目が本気だったんだよ。」

 

 部長は少し遠くを見るような目をした。


 「そのとき、“こいつならマジでやりそうだな”って思ったんだよ。」


 胸の奥が、きゅっと痛くなる。


 「あいつは天才中の天才で、発想力も努力の量も天才」


 「だからガジェットの話、全部しっくりくるよ。」


 「あいつは、自分の言葉を信じて努力を

  続けていたんだな。」

 

 それ以上、言葉を足すことはできなかった。

 部長の箸を持つ手が、ほんの少しだけ震える。


 「今日一緒にいてさあ。しいなは自分で思ってる

  より、ずっと“いい顔”になってきてるよ。」


 カバンががさがさと動いた。

 ひょいと顔をだしたふーぴょんが、

 ちょこん、と小さくうなずいた。


 「おっ、今動いた?」

 「えっ。」


 あわててふーぴょんを見ると、目をぱちぱちさせた後

 何もなかったみたいな顔で固まっている。


 「本当に動いてるし」


 部長と顔を見合わせて、ふたりで大笑いになった。


 私たちの笑い声、いつの日かの父の笑い声の記憶、

 ソースの匂いと、鉄板の熱気が、

 ぐしゃっと混ざって視界が少しだけにじむ。


 「おお、なんだか盛り上がってんじゃん。」

  店の入口から、曽野チーフが戻ってきた。


 「食べよ!」

 それからひとしきり食べ終わってはるかさんが


 「それでは部長しめてください!」


 「今日は一日ありがとう。またよろしくお願いいたします。」


 すると合わせたように手を差し出し、

 パチッと一本締めをした。

 

 部長が車でみんなを自宅まで送ってくれた

 うちにつくと部長は、久々の母に挨拶すると

 小声で何やら話し込んでいる


 「こんどゆっくりと来てちょうだいね」


 「もちろん。線香あげにいきます」


 「しいなさんは早く寝てくださいね」


  と声をかけられ、別れをした。


 家に入り母と別れ、すぐにシャワーを浴び2階の部屋に戻る

 布団にもぐりこんで、ふーぴょんを胸に抱きしめる。


 「……今日はお疲れ、お父さんの話、聞いたね。」


 ふーぴょんの耳が、ふるっと揺れた。


 『プロフェッサーTAIJYUのことだね。』


 「プロフェッサーたいじゅ……お父さんのこと、そう呼んでたんだ。」


 『まあ、記録されているデータだけどね。

  僕にとっては“プロフェッサー”。』


 「ふーぴょん.....」

 「何?」

 「私、ちゃんと選ぶから。」

 

 「お父さんの残したものを、“自分のため”だけじゃなくて、

  “誰かのため”に使えるように。

  学校給食の仕事でも、その先の未来でも。」


 『いい考え方なんじゃない?

  だから僕は、君のところに来たんだね。』


 ふーぴょんは、少しだけ得意そうな声で言う。

 『今日はぬいぐるみモードで、みんなの前に出続けて、

  ちょっと疲れたからさ。キッチン・ブローチも、

  しばらく充電モードに入るよ。


 ——おやすみ。』


 ふーぴょんは、静かに目を閉じる。

 胸元で、キッチン・ブローチが、静かに、

 でも確かに脈を打っている。


(明日の清掃、最終日も、ちゃんとやろう。

 最終日は給食はないけど、会社から懇親会費がもらえるから

 豪華なお弁当とスイーツって言ってな、

 ちょっと楽しみだな)


 そんなことを、思いながら、

 私も、そっと目を閉じた。

 父・浅倉大樹の話を、ようやくしいなの耳で

 しっかり聞く夜になりました。

 ふーぴょんのガジェットに宿る「発想の源」が、

 しいなの日常と思い出に

 少しずつ結びつきはじめています。


 ガジェットはSFの道具ではありますが、

 どれも「誰かを守るための手段」

 という思想で作られています。

 大樹がめざした未来と、しいなが選ぼうと

 している未来が、少しずつ重なりはじめる章でした。


 物語に出てくるお店は、わたし自身が

 中学生のころから通っている町屋の店で、

 今も変わらない笑顔で迎えてくれる大切な

 場所です。

 地元を盛り上るため、応援の気持ちを込めて

 登場させました。

 下町の鉄板の匂いや、瓶ビールやコーラの音。

 ごく当たり前の時間の中に、

 父の影や、成長しようとする気持ちが

 ふっと立ち上がる瞬間があります。


 次の章で、しいなはまた一つ大きな選択を

 迫られます。

 その選択が、物語を大きく動かすきっかけに

 なります。


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