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第5話 特別あとがき「わたしが給食を書く理由」

  「特別あとがき」わたしが給食を書く理由です。

  よろしければお読みください。


 ”わたしは、給食が好き”です。


 子どものころ、楽しみだったのは「給食の時間」と、

 月に一度もらえる「こんだて表」でした。

 自分で勝手に“理想の献立表”を作っては、

 母に「こんなのどう?」と渡していたくらいです。


 子どものころに食べた給食も、

 大人になって自分たちで作る側になってからの給食も、

 どちらも同じくらい、大事な「記憶」として残っています。


 見た目には“映える”給食。

 写真に撮ればきれいに見える一枚のトレイ。

 けれど、その一枚を「安全に」「時間どおりに」

 子どもたちの前に届けることが、

 どれほど難しく、どれほどギリギリのバランスの上に

 成り立っているかは、

 実際に現場に立ってみないと、なかなか伝わりません。


 見えないウイルスや細菌との闘い。

 「これは感染症なのか、食中毒なのか」という、

 グレーゾーンでの判断を迫られる日々。

 この先8話のヒスタミンのような

 “目に見えないリスク”を前にして、

 受け取るか、返品するか、

 一瞬で決断しなければならない場面もあります。


 学校給食の現場では、「安全」と「子どもたち」

 利益を考えないといけない民間企業であっても

 その順番を取り違えないことが、どれほど難しく、

 どれほど尊いことか。

 人材不足が続くなかで、なおそれを守ろうとしている

 現場の人たちを、どうしても物語にしておきたかった。


 わたし自身はこれまで、

 社員食堂の栄養士、調理員、学校栄養士、応援要員、

 本社の巡回指導、本社管理、購買部、

 そして今は人事部・研修部・広報……と、

 いろいろな立場で学校給食の世界を見てきました。


 現場のチーフやスタッフさんたちと一緒に悩んだ日々。

 新卒やエリアマネージャーたちと、

 「どう現場を支えるか」を話し合ってきた時間。

 学校栄養士さんや、経営者の方々とやり取りしてきたリアルな経験。


 その全部が積み重なって、

 「給食を、すべての目線から俯瞰して見る」

 という視点を、少しだけもらえたのだと思っています。


 ありがたいことに、これまで関わってくださった方々の中には、

 元・文部科学省の調査官として

 学校給食のマニュアル作成に関わってくださった方もいます。

 あいまいだったルールに、現場目線で光を当て、

 明文化してくれたことで、

 どれだけ救われたチーフや栄養士さんがいたか

 数えきれません。


 けれど、そのマニュアルを

 「守り続けること」「みんなに実践してもらうこと」は、

 また別の難しさがあります。

 人が入れ替わる現場で、

 同じ基準を、同じ熱量で共有し続けること。

 口で言うほど簡単ではないと、日々痛感しています。


 学校栄養士だったころ、

 わたしは毎日のように教室を回って、

 子どもたちの様子を見ていました。

 よく食べる子、急に食べなくなった子、

 好き嫌いの裏側にある家庭の事情。

 それを担任の先生たちに伝え、

 「どう導けばいいのか」を一緒に考えてもらった時間は、

 今のわたしの“基礎”になっています。


 今は本社で、人事や研修を担当しています。

 採用の場で、研修の場で、

 できる限り言葉で伝えようとしていますが、

 それでも、現場で起きているすべてを

 伝えきれていない感覚がいつも少し残ります。


 「栄養士であることへの誇り」や、

「給食という仕事の奥行き」。

 自分が見てきた景色を、

 ちゃんと“物語”として残したい――

 そう思って始めたのが、

 この『学校給食未来録』です。


 その少し前、わたしは一度、芸術大学で学び直しました。

 卒業制作のテーマは、

 「インナー・アウターブランディング」。

 会社の“内側”と“外側”をつなぐイメージを、

 イラストにして、キーホルダーにして、

 ぬいぐるみにして――

 ふーぴょんたちの世界を、次々と形にしていきました。


 どうしても、ふーぴょんを「動かしたい」と思いました。

 動画の中で、ちゃんと呼吸をして、

 給食のことを語ってほしかった。

 それで、SORA2を使って動画も作ってみました。


 でも、AIに全部を任せてしまうと、

 “どこか違う”感じが、ずっと胸に残りました。

 ふーぴょんのセリフも、

 給食の描写も、

 「わたし自身の言葉で動かしたい」と思ったのです。


 そこから、いったんアナログに戻りました。

 ペンとノートに向かって、

 ひとつひとつ、シーンを言葉にしていく作業です。

 文章のプロでもない自分が書いていて、

 これで本当に伝わるのか、不安もたくさんあります。


 だからこそ、AIは“代わりに書くもの”ではなく、

 “確認してもらう相棒”として使っています。

 表現がわかりづらくないか、

 誤字や事実関係のズレはないか。

 ひとりで抱え込みすぎないための、

 ちょっと頼れる編集さん、という位置づけです。


 いまは、わたしの頭の中で、

 ふーぴょんが勝手に動いています。

 浅倉椎菜が、笑ったり、落ち込んだり、泣いたりしながら、

 給食室の中を走り回っています。

 その姿を、少しでも皆さんと共有したくて、

 ページをめくるたびに、そっと画面の向こうへ

 送り出している感覚です。


 作中に出てくる、ふーぴょんのガジェットたちは、

 わたしや現場のみんなの「こんなの、本当にあったらいいのに」

 という声を形にした、想像の産物です。


 作業動線を可視化して、

 危なそうなバックヤードの導線を教えてくれるメガネ。

 転倒しそうな動きや、無理な体勢になる前に

 「ちょっと休もう」と手首を振動で知らせてくれるバンド。


 現場で何度も耳にしてきた

 「ここをなんとかできないかな」

 「いつか、こういう道具ができたらいいね」というつぶやきが、

 ふーぴょんの“夜の工房”で、

 少しだけSFに変わっていきます。


 ふーぴょんのガジェットは、

 あくまでフィクションです。

 

 でも、その背景にあるのは、

 パートさん、新卒、社員、サブチーフ、

 チーフ、学校栄養士、エリア担当、

 本社の仲間たち、校長先生や学校栄養士さん

 行政の担当者さん、白衣や消耗品、食材を納品してくれる業者さんや

 農家さんや食材に関わるすべての方々、保護者の皆さん――

 そして、給食を食べてくれる子どもたち


 その全員への、ささやかなリスペクトです。


 わたしの子どもたちも、

 自分の会社が作る給食を食べて育ちました。

 給食を通じて育っていった子どもたちの中から、

 たくさんの有名人や著名人が出ていっていることも、

 もはや「過言ではない」と思っています。

 名前が出ないだけで、

 みんな、未来のだれかの将来の

 一部になって、生きている。


 『学校給食未来録』は、

 そんな「見えない支え」を少しだけ可視化して、

 物語として届けたい、という試みです。


 いつかこの本編とは別に、

 スピンオフとして

 「栄養士・南沢」や「スタッフ・東川」、

 「マネージャー・塩崎」たちの物語も描けたら――

 と考えています。需要があればですが、、、、。


 どの立場の人にも、それぞれのドラマがあって、

 それぞれの“ヒヤリ”と成長があります。


 ふーぴょんのガジェットたちは、

 現場の声から生まれた、ひとつの想像です。

 そして、この作品世界の細かな描写を支えてくれているのは、

 今も現場で働いている本社のみなさん、

 チーフやスタッフさんたちの声です。

 取材協力や、現場描写へのご指摘に、

 心から感謝しています。


 そして、どこかの誰かが、

 「給食の仕事をしてみたい」

 「この世界で働いてみたい」と

 思ってくれたら――

 

 それは、現場でがんばっている

 すべての仲間への、最高のエールになるはずだと

 信じています。


 ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

 これからも、『学校給食未来録』と、

 その先に続く世界を、

 どうぞ見守っていただけたらうれしいです。

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感動しました! 現場で給食を作る皆さんの熱い想いが伝わって来ます。こらからも椎菜ちゃんと給食室を応援していきます!
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