表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/44

第六章3 警察署にて

 警察署を訪れると、「おお、嬢ちゃん。あんたを待ってたんだ」とロイド警部がやってきて私の腕をつかむ。「えっ、ちょ、ちょっと警部!」と焦る私にかまわず、廊下を引きずられて行き、いつもの取調室に放り込まれた。ここに入れられるのも三度目ねと、私は溜息を吐く。

「さあ、座ってくれ。ああ、茶がねーな」

 ロイド警部はドアを開いて女性の職員を呼び止めると、「茶を頼む」と頼んでいた。

 椅子に座ると、すぐに女性の職員がお茶を運んでくる。


「あんたに報告があってな。例の地下収納庫から見付かった被害者の遺品を調べ直してたら、あんたの言う通り……その読書会とか言うやつの図案が入ったものが何点か見付かった。一つはハンカチ、一つは懐中時計、それに手鏡だ。ここまで共通しているとなると、あんたの言う通り関係ないとは言えねぇな……」

 ロイド警部は遺品の入った箱を私の前に置く。手に取ってみれば、確かに同じ図案が控えめに入っていた。ということは、あの被害者たちはやはり読書会に参加していたのだろう。


 向かいに座ったロイド警部は、「ここだけの話だがな……」とテーブルに身を乗り出す。

「過去の事件の被害者の遺品の中からも、いくつか同じ図案の入った所持品が見付かってる……大きな犯罪組織が絡んでる可能性があるから、警察でも捜査チームを立ち上げることになった」

「ロイド警部、私の方でも少しわかったことがあるんです。その読書会に参加していた子から、話を聞くことができて……」

 私はメリッサから聞いた話をかいつまんでロイド警部に話した。一つは、その読書会の開催の告知が、図書館のメッセージボードを介して行われていたこと。一つは、その読書界にシスター・クレアという女性が関わっていたこと。読書会に参加した者の中から、特別な集まりに招かれた者がいるということ。さらに、図書館で見せてもらった告知の記録をメモした手帳を、ロイド警部に見せる。

 ロイド警部は険しい表情で私の手帳をめくって目を通していた。

「こいつはしばらく借りていいか?」

「ええ、それはもちろん。でも、私が見せてもらったのは三ヶ月分なんです。それ以前の告知もまだ、図書館には残っているかもしれません」

「そいつは、俺の方で調べさせる。ったく、とんでもねぇな……」

 相当厄介な事件のため、頭を抱えているのだろう。


「ロイド警部、前にお願いしていたダイアナの死亡の件……調べてくれました?」

 私は声を抑えて尋ねる。「ああ……ダイアナ=エリンコット嬢の死亡については事件記録と検死報告書をもう一度調べなおした。確かに、自殺にしちゃ不自然な点はある。だが、明確に他殺とも言いがたいな。なにせ、目撃者がいない。それに、自宅で死んでいたんだ……他殺であるなら、侵入者がいたはずだがその痕跡がなかった」

「警察が見つけられなかっただけかもしれないじゃありませんか!」

「そいつは面目ないというか……申し訳ない。だがな。毎日、王都のあちこちで事件やら事故やらが起こってんだ。そう、じっくり捜査していられないのが実情なのさ」

 わかってくれよとばかりに、ロイド警部は首を竦める。

 私は腕を組み、「警察の怠慢よ!」と憤慨して答えた。

「そう言われちまうと、言い返せねぇな……ただ、ダイアナ=エリンコット嬢の検死については疑念がある。部屋で首を吊ったということだが、薬物を服用した痕跡もあった」

「薬物……?」

 私は眉根を寄せる。それは聞き捨てならない話だ。

「ああ。それも、貴族のお嬢さまが手に入れるようなものじゃない……幻覚作用のある違法薬物だ。貧民街の一部で出回っている粗悪品さ」

「そんなもの……ダイアナが自分で服用するとは思えないわ。だとしたら、誰かに盛られたのかも……」

「可能性はあるだろうな。だが、となると屋敷の人間が一番怪しいってことだ……使用人を含めて」

「男爵家の使用人はみんな信用できる人たちだわ。薬を盛るなんて……考えられないわよ」

 それに、男爵家の使用人は少ない。古参のメイドや料理人、執事くらいだ。まして、男爵や男爵夫人は娘にそんなものを飲ませるような人ではない。

「この薬物は一見、茶やハーブと見分けがつかねぇ。だから、厄介なんだ。知らない間に飲まされてることもある。贈られた菓子や買ってきた菓子に入っていた可能性もあるだろうな」

「それは……わからないわね」

 もし、入っていたとしても、証拠の品は処分されているだろう。今さら、見つけるのは困難だ。

(それに……そんな話、男爵夫人にはできないわ……)

 

「その薬物って……簡単に入手できるもの?」

「ああ、嘆かわしいことにそう難しくはねぇな……エセ占いが、睡眠効果があるお茶だとうたって、客に売り渡していた事例もあるしな。少量なら実際にそういう効果もあるそうだ。だから、安易に手を出すやつが減らないのさ」

 お手上げだとばかりに、ロイド警部は肩を竦めていた。


 私は事件のことを頼んで警察署を出る。取調室を出る時に、「嬢ちゃん。あんたも気をつけな。なにかあったら、絶対警察を頼れ」と真顔で言われたことを思い出す。ロイド警部、顔はむさいけれどいい人なのよね。心配してくれているのだろう。


 私は通りで辻馬車を止めて、公爵邸に向かう。いきなりの訪問だけれど、これはすぐにでも知らせさせたかった。けれど、玄関に出てきた侍従は困った顔をして彼女が留守だと教えてくれた。侍従の話では王都を離れているらしく、数日は戻らないだろうということだ。行き先を尋ねてみると、「修道院です。ハープレーの」と教えてくれた。もしかして、シスターの件を調べてくれているのかしら。私はお礼を言って、公爵邸を離れた。


 ハープレーは国の北端にある小さな街だったはずだ。随分と遠い。それにしても、侍従が行き先を教えてくれた時に、「しまった」というような顔をしていたのが気になった。私に知られたくなかったのかしら。となれば、何か危なっかしいことをしている可能性もある。私は迷ってから、一度叔母様の屋敷に戻り、一日分の着替えをバッグに詰める。使用人には数日戻らないことを伝えて、駅へと向かう。

 

 北へと向かう汽車の最終便がちょうど出るところだった。アイリーンも出かけるなら、一言声くらいかけてくれたらいいのに。私は座席に座り、窓の外を眺めながらふっと息を吐く。すれ違いにならなければいいけれど。そう思いながら、私は持ってきたダイアナの日記をめくる。汽車は王都を出ると、薄暗くなりはじめた田園の中を煙を噴かしながら走り抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ