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第六章1 読書会の実体

 メリッサ=ハンプトンの話によれば、彼女を読書会に誘ったのは女学校の先輩だったようだ。それほど親しくもなかった先輩だったが、たまたま招かれたお茶会で再会し、声をかけられという。最初は、読書になど少しも興味がなかったし、つまらなそうな集まりだと思ったようだが、先輩に誘われては断れず、一度、一緒に参加してみることにしたようだ。


「私が案内されたのは、小さな部屋だったわ……円形に椅子が並んでいて、そこに座って、順番に話をするの。話題は……そう、なんでもよかったわ。イライラしたことや、反対に嬉しかったこと……流行のドレスやお店のことも……思っていたよりもずっと楽しかったわ。だって、みんな話を真剣に聞いてくれて、感想をや意見を言ってくれる。だから、相談事を持ちかける人が多かったわね……みんな、悩みを抱えていたから」

 メリッサがポツポツと話してくれたことによると、読書会というより、相談事を持ち寄る場のような感じだぅたようだ。それだけでは、特にないか害があるようには思えない。誰だって、あまり親しい人には言えない悩みはある。けれど、知らない相手や、秘密の場所では、打ち明けたくなるものだ。それで、実際に問題が解決できたり、心が晴れるなら、問題はない。


 メリッサも、何度か行くうちにすっかり、その集まりが気に入ったようだった。毎回、集まる人は違っていて、その人たちの素性も深くは知らない。もちろん、中には知った相手もいただろうが、その場合は知らないふりをするのがルールだったようだ。秘密を共有し合う遊びのようで、ドキドキしたのだと彼女は言う。

 

「場所は……もしかして、秘密クラブのあった場所?」

 私は彼女にそう尋ねてみた。けれど、メリッサは「いいえ」と首を振る。毎回、開催される場所は違っていたようだ。その場所の指定は、図書館のメッセージボードに書かれていたと言う。私とアイリーンは思わず目配せする。どういうこと――それは、あの公園内の図書館ということ?

 私が考え込んでいると、アイリーンがかわりに「どこの図書館だったの?」と尋ねる。彼女も同じことを思ったようだ。メリッサは「それは……」と一度、迷うように口を噤んでから場所を教えてくれた。彼女が躊躇したのは、今もその図書館のメッセージボードが集会の告知に使われているためだろう。


 その集まりに何度か参加するうちに、『特別な集まり』があるとう噂を耳にした。その『特別な集まり』には、選ばれた者しか招かれないらしい。読書会への貢献度に応じて決められるという。寄附と、そして多くの会員を集めた者。その集まりがどういうものか、メリッサも詳しくは知らなかったようだ。ただ、その『特別な集まり』に参加すれば、天使の祝福と加護が与えられ、願いが叶えられる。そう聞いていた。その願いとは、「恨みを晴らしてくれると聞いたわ……」とメリッサは小さな声で怯えるように言った。その特別な集まりに参加した子が、彼女から恋人を奪った者に復讐を果たしたと聞いたという。ただ、それがどんな復讐だったのか、偶発的なものか、あるいは誰かの手でなされたものかのはわからない。


 最初はその特別な集まりに参加したくて、会員となりそうな子に声をかけたと言う。その一人が、ダイアナだった。けれど、ダイアナが亡くなり、その集まりに参加した女性が幾人か死ぬ事件が起こったのを知って怖くなり、参加するのをやめた。メリッサは「もう、二度と行かないわ……あんなところ、もう二度とごめんよ……」と、青くなった顔で呟いていた。


「私が話したことは、絶対に誰かに言わないでね!」

 必死な様子で言うと、彼女は席を立って逃げるように帰っていってしまった。それ以上、迂闊に話せば今度は自分の命が狙われるかもしれないと不安を抱いたのだろう。


 温室に残された私とアイリーンは、メイドさんが運んできてくれたお茶のおかわりをもらう。置かれているポットのお茶はもうとっくに冷めてしまっている。

「彼女の話……どう思う? アイリーン」 

 私はお茶を飲んで考えながら尋ねた。アイリーンは両手をカップの縁に添えて、そっと口をつける。

「そうね……興味深いわね……集まりの目的はただの相談会というより、復讐の方なのでしょうね。だから、悩みを抱えた女性たちをあえて集めた……その代価が何だったのかはわからないけれど」 

「それって、憎んでいる相手とか、恨みを持っている相手を殺したり……不幸に陥れたりするということよね。それを実行する者たちが別にいたということかしら?」

「もっとも、その復讐が相手の命を奪うものとは限らないけれど……社会的に破滅に追い込むとか、奪われたものを奪い返すとか……色々あるでしょう?」

 アイリーンは「漠然としすぎているんじゃないかしら?」と首を傾げる。

 その通りだ。殺人ならむしろ、簡単明瞭だ。ターゲットさえわかればいい。でも、そうでない手段で復讐を果たそうとした場合、人も手間もかかる。そもそも、女性の個人的な恨みや復讐を果たすために、実行するなんてそれこそ、会の主催者に何のメリットがあるのだろう。依頼料がかなり必要となるというのならわかるけれど。お金持ちや貴族の令嬢ばかりではない。庶民の娘もいれば、娼婦もいた。それとも、その代償はお金ではないのか。


「…………でも、会に参加していた人たち全員が、誰かに恨みを持ってるわけではないでしょう? 悩みはあっても」

「だから、特別な集まりなんじゃないかしら?」

 アイリーンは肘に手を添え、人差し指を頬に当てている。

「……つまり、その読書会でみんなの悩みや話を聞くのは、ターゲットになりそうな女性を厳選しているということ?」

 恨みや復讐心を抱いている者を、特別な集まりに招き、そこで何かしらの交渉を行う。それは確かにありそうな話だ。

「その復讐、あるいは報復を代行するかわりに、何かしらの要求を行う……」

 その呟きは、アイリーンの独り言だ。頭の中で聞いた情報をじっくり整理しているのだろう。

 私も彼女の思考の邪魔にならないように、カップの紅茶をチビチビ飲みながら温室を眺める。

 それから、ふと気付いて顔を上げた。


「ねぇ、図書館で……私はダイアナの書いたメモを見つけたでしょう?」

 あのメモには、場所が書かれていた。てっきり、それは婚約者だったカルマンが通っていた秘密クラブの場所を彼女が特定してメモをしていたものだと思い込んでいた。けれど、もしそうじゃなかったら?

「あれは、読書会の集まりの場所をメモしたものだったのかも……」

 メリッサが教えてくれた、メッセージボードがある図書館もまさにあの公園の図書館だった。あそこはあまり人が訪れない。人にあまり怪しまれず、メッセージのやりとりを行うには最適な場所でもある。


 ダイアナは読書会の集まりに参加するためにあの建物に行き、カルマンが女性たちと遊んでいる姿を目撃した――とは考えられないだろうか。となれば、読書会にはカルマンは無関係なのだろうか。けれど、偶然とも考え難いような気がする。


「図書館に行ってみればわかるんじゃないかしら? それに、彼女が話していたでしょう? 読書会にはいつもシスターが参加していたって」

「ええ……えっと、シスター・クレアだったかしら?」

 その女性が読書会を取り仕切っていて、主催者とも繋がりがあったようだ。メリッサの話では、三十代の温厚な女性だったという。ただ、彼女はいつも聞き役で、部屋の隅に座って会を見守っていただけのようだ。会の進行役だったようだけれど、その目的は監視か選別の方にあったのかもしれない。

「教会か、修道院が関係していると思う?」

 私は考え込んでいるアイリーンに尋ねる。

「うーん、わからないわね。シスターの格好をしていただけかも。教会か修道院なら、私の知り合いがいるから……その名前で容姿や年齢が該当しそうなシスターに心辺りがないか訊いてみるわ」

「それなら、私は図書館の方を当たってみるわ。メッセージボードにメッセージが残されているかも……」

 それに、図書館員がメッセージを残していく人に心辺りがあるかもしれない。

「じゃあ、決まりね。でも……わかっていると思うけれど」

 アイリーンにジッと見つめられて、私は誓うように片手を上げた。

「わかっていますってば。勝手に行動したりはしません。でもあなたもよ? アイリーン」

「ええ……大丈夫。あなたよりは無茶をしないもの」

 そう言って、彼女はおかしそうに笑う。実際、いつも危なっかしい目にあっているのは私だから、言い返せなかった。


 そのたびに、ウィリアムに助けてもらっていたのよね……。


 


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