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第五章2 学友

 夜、ベッドに入ってから、私はダイアナの手紙を読み返していた。何か、手がかりになるようなことを、彼女がこの手紙に残しているかもしれないと思ったからだ。手紙に書かれているのは、読書会に誘われて度々、その集まりに顔を出すようになったこと。その会を抜け出すことができなくて、悩んでいたことだ。ただ、その読書会というものが、どういうものなのかは詳しくは書かれていない。ただの、読書好きの集まりというわけではなかったのだろう。いってみれば、女性限定の秘密クラブのようなものだろうか。その会に参加していた人が、何人も亡くなっていることを思うと、犯罪組織か何かが絡んでいる可能性もある。


 そんなものにダイアナが加担していたなんて考えたくもないことだけど、知らずに騙されて、気付けばそこから抜け出せなくなっていたということは、珍しいことではないだろう。ダイアナが私に言えなかったのも理解できる。


「ダイアナを誘ったのは、メリッサ=ハンプトン……」

 私は手紙を読みながら呟く。メリッサ=ハンプトンのことは私も知っている。女学校時代の同級生だった。伯爵家の令嬢で、いつも数人の取り巻きを連れていた。正直、彼女にはあまりいい思い出はない。家柄を鼻に掛けて、高飛車に振る舞うことが多かったからだ。私もダイアナも、彼女とは馬が合わなくて、距離を置いて接していた。彼女に目をつけられると、とても厄介だとわかっていたからだ。彼女が気弱そうな女子生徒をまるで使用人のようにこき使っていたのも見たことがある。


 学生時代、ダイアナはそれほどメリッサと関わっていなかった。話すのも必要な時だけ。避けていたような節すらある。メリッサも、ダイアナのことはまったく相手にしていなかっただろう。それなのに、どうしてメリッサがダイアナを読書会に誘ったのだろう。

「そもそも、メリッサは読書になんてまったく興味がなかったじゃない」

 彼女が大きな声で話していたのは、王都で流行の化粧品やファッションのことや、家族や家の自慢話ばかりだった。夏休みにバカンスに行くだとか、観劇に行くのだとか。人気俳優の楽屋に特別招かれて、話しをしたことも得意満面に話していた。読書なんてしている姿は一度も見たことがない。それどころか、ダイアナや私が読書していたり、本の話をしていると、「まあ、読書ですって? 根暗な人の趣味にはぴったりね」なんてバカにしたようなことを言ってきた。そんな彼女の態度に、私もダイアナもうざりしたものだ。


 それなのに、そのメリッサがダイアナを読書会に誘った? その誘いをダイアナが受けたことも、正直信じられない気持ちだった。無理矢理勧誘されたのだろうか。そうかもしれない。メリッサは人の都合などお構いなしだったから。ダイアナはお人好しなところがあるから、強引に誘われれば断れなかったのかも。

 

「とはいえ、メリッサは読書会のことを知っていたのよね……」

 だとしたら、彼女に直接聞くのが早い。ただ、メリッサとは、卒業後まったく付き合いがなかった。友達というわけでもないのだから、手紙を送っても返事をくれるとは限らない。会いたいと言っても、無視されるのが関の山な気がする。となれば、どこかのパーティーで偶然再会したように装って話しかけるのが一番手っ取り早く、確実だ。


「でも……メリッサが招待されるようなパーティーの招待状なんて、私に送られてくるはずないわよね」

 自分の社交性のなさに溜息を吐く。同じ伯爵家とはいえ、田舎貴族の私とは違う。こんな時に、アイリーンならと思わずにはいられない。彼女ならどんな家のパーティーの招待状だって簡単に手に入れられるだろう。王家主催のパーティーですら出席できる。

(もう、巻き込まないって決めたんだから……頼れないわよ)

 私は自分に言い聞かせる。

 他に頼れる相手といえば、叔母様くらいしか思いつかなかった。けれど、私がパーティーに行きたいといったところで、素直に同行を許してくれるかどうか。私はあまり見込みはなさそうだと溜息を吐いた。


 翌朝、私が図書室に行こうとすると、部屋から出てきたメアリーとばったり遭遇した。

「あなた……毎日、自堕落に過ごす以外にやることはないわけ?」

 メアリーは顔をしかめて、私の姿をジロジロと見る。「相変わらず、野暮ったい服ばかり着ているわね」と嫌みを言うのも忘れない。今日、私が着ているのは柄のない紺色のワンピースだ。

「ええ、あなたは……えっと、華やかな服がよく似合うわね」

 メアリーの着ている花柄のワンピースは、袖が膨らんでいて、襟や袖にはたっぷりとレースの装飾がついている。サーカス団の衣装のように派手だが、これが王都の流行だと彼女は信じて疑っていない。まあ、人のセンスにケチをつもりはない。彼女が気に入っているのなら、それでいいのだ。

「ふふんっ、あなたもわかってるじゃない。でも、いくら羨ましがっても、ドレスは貸してあげないわよ。私の持っている服はどれも一流のデザイナーがデザインしてくれたものなんだから。あなたには似合わないわ」

「そうでしょうとも。とても残念だわ。ところで、メアリー。あなたって、どこかのパーティーに行く予定はある?」

 私は愛想笑いを浮かべて尋ねた。「パーティーですって?」とメアリーは怪しむように眉根を寄せる。

「どうしてそんなことを、あなたが訊くのよ?」

「できれば、あなたと叔母様が行くパーティーに、私も付き添いとして同行させてもらえないかと思って。ほら、私って王都に知り合いが少ないでしょう? 招待状なんて届かないのよ」

「ふーん、つまり……私たちのおこぼれに預かって、参加しようってことね」

 腕を組んだメアリーは、フンッと小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。この程度、いつものことなので、腹も立たない。それより、メアリーをうまく煽てなければ、パーティーへの同行は認めてもらえない。

「結婚相手を早く見つけるためには、色々なパーティーに顔を出すのがいいと思うの」

「厚かましいわね! 屋敷に滞在させてあげてるのに、パーティーにまでついてこようだなんて」

「このまま結婚相手が見付からなかったら、来年までこの屋敷に滞在しなくちゃならなくなるわ。だって、お父様にもお母様にも、いい人を見つけてくるまで戻ってくるなと言われているんですもの!」

 私は両手を握り締めて、目を潤ませて頼み込む。「来年までですって!?」と、メアリーは嫌そうに顔をしかめる。

「大丈夫。目立たず大人しくしているから。あなたにも叔母様にも迷惑はかけないと思うわ」

「…………しょうがないわね。お母様には一応、頼んでみてあげるわ。だけど、期待しないでちょうだい。 それと、もしお母様が許可しても、パーティーの日はできるだけ私たちから離れていてよ。あなたみたいなのが親戚だなんて、大恥だもの!」

「ええ、もちろん。そうするわ。ありがとう、メアリー。あなたの親切に感謝を!」

 私はメアリーのむっちりとした両手を握り締めて、笑顔を向ける。メアリーは不機嫌に手を振り払い、「もう少しマシなドレスを見繕っておくのね」と言い残して立ち去った。その姿を廊下で見送り、「これでよしっ」と密かに拳を握る。


 メアリーや叔母様は見栄っ張りだから、参加するのは名だたる貴族のパーティーばかりだろう。そこなら、メリッサと会える可能性も高い。

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