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序章5

戦闘描写って難しいですよね….

「あの馬車はネシアお嬢様が魔族討伐時に出発された時の馬車だぁ。門を開けろぉぉぉ」


 1人の門番兵の周囲に響き渡る大きな声により、うっすらと瞼を開ける。


「おおっ、ネシアお嬢様、起きておられましたか。到着致しましたぞ」

「ええ。ご苦労ですわ。改めて、ようこそ。アシュア、メル、ここがローズヴェルト公爵の領地で御座いますわ!!貴方達を歓迎しますの!!」

「おおおぉ……しゅ、しゅごいのじゃ」

「流石、公爵家…!!すごく綺麗ですわ」

「アシュア、赤ちゃんみたいですわ」

「ね、寝起きのせいじゃ!!」

 ———ふ、不覚なのじゃ


 門番の大きな声で起こされ、まだ頭が回りきってないのか、噛んでしまった。相変わらず、こういう所だけ妙に鋭いネシアが余の失態を見逃すはずなく、勝ち誇った笑みで揶揄ってくる。


 そのため、苦しい言い訳で対抗することとなってしまったが、黙るよりマシだと判断した。


 ぼんやりと空を見ると、太陽が顔をチラリと見せる段階のため、今の時刻は早朝なのだろう。


 明るい光に照らされ、きちんと手入れが行き届いているローズヴェルト公爵家の薔薇の庭園は正に、絶景である。メルがネシアのやりとりに入ってこずに目を奪われているのが何よりの証拠だ。

 

 当然、そんな絶景がいつまでも続くはずもなく、馬車はあっさりと庭園を通り過ぎていった。


 メルが肩を落としていたが、仕方ないことである。そして、庭園を通り過ぎた奥の方に見える大きな屋敷、それがネシアの家なのだろう。


 ———ネシアのようなお転婆娘だと、使用人も大変なんじゃな……


 馬車が屋敷へ近づくと、慌てた様子で侍女と思しき人達が早朝にもかかわらず、列を作り整列する姿が遠目から確認する事ができた。


ーーーー


「「「「「ネシアお嬢様、お帰りなさいませ」」」」

「愛しのネシアちゃんよ!!パパだぞー!!」

「げっ……ネスお父様。髭が痛いですの」

「せっかく、久しぶりの再会なのに、ネシアちゃんがパパをいじめるのはダメだと思うぞー!!」

「ネスお父様、わたくしが申し上げてるのは単なる事実であり、抗議ですわ」

 ———余の目がおかしくなければ、あのネシアが大人に見えるのじゃ…


 馬車は屋敷の前に停止し、余とメルはネシアと共に馬車から降りると、屋敷に続くまでの短い道を侍女、30名程が2列で並んでおり、一斉に大きな声で、ネシアへ挨拶をしている。


 そして、列の外れたところに金色の髪をオールバックにした長身の男が1人いた。ネシアの父親かと思っていたが、当たっていたらしい。


 そして、ネシアの父親は娘を見るや否や、即座に抱きつき彼女を溺愛していたが、ネシアは至極冷静に抗議をしていた。


「全く、今後は、修行なんて物騒なことはしなくていい!!14日も愛しのネシアちゃんに会えなくて、パパは……!!パパは…!!」

「ネスお父様、書き置きはしてましたし、みんなの前で恥ずかしいですわ…!!それと、わたくしは『賢者』になりたいのです」

「しかし、それはネシアちゃん自身が難しいと分かっているだろう?」

「ご歓談中、失礼いたします。『賢者』とはなんなのかお聞かせ願えないでじゃろうか?」

「ネシアちゃん、この人達は?」

「ネスお父様、紹介が遅れましたわ。こちら、親友のアシュアとメルです。わたくしが無事に帰って来れたのはこの2人のおかげなんですの」

「ほぅ…。それならば、貴殿の非礼を許そう。『賢者』とは『勇者』様に付き添うことができる魔法に長けた『英雄』の1人のことを指す」

 ———そういえば、『リーラ』のパーティーメンツも4人で『剣豪』『賢者』『聖者』とかを名乗っていた奴らがいたような気もするのじゃ


 あの時は余の愛娘のリーラ以外に眼中がなかった。だから、『賢者』と言われてもピンッと来なかったのかもしれない。


 それにしても、別にネシアが『賢者』になる事は不可能ではないと思うが、なぜ、溺愛してるはずの彼女を頑なに否定しているのだろうか。


 ———っ!?魔力量じゃな。確かに、人間の魔法のやり方ならば、魔力量は必須じゃ。ただ、余から言わせてもらえれば、人間や魔族を問わず、最上位層は、まず無詠唱が必須条件じゃ。


 改めて、ネシアを観察していると、保有する魔力量から人間の魔法の定義から考えれば、ネシアの父親までもが、否定する理由は判明したが、余からしてみればくだらなさすぎる理由である。


「余ではなく、私は『ネシアが賢者』になることが不可能じゃないと思うのじゃ」

「アシュア……!!」

 ———ネシアよ、こんな時だけ、そんな輝いた視線で見るでないのじゃ。

「何を根拠に抜かしているつもりだい?ネシアちゃんに無駄な希望を持たせるのはやめろっ!!」

「僭越ながら、ネス公爵様、このアシュア殿はこの齢で『詠唱短縮者(スペルマスター)』ですぞ」

「……そうか。それは面白い。それではアシュア君、手合わせをしてみようじゃないか」

 ————えぇー…なんでこういう展開になっちゃうのじゃ。別に余は負けないものの、手加減ってめんどくさいのじゃが…。


 断ってもいいじゃろうか?とメルへ視線を送ると、首を左右に振っている。


 それならばと思い、ネシアの方を見ると、キラキラとした輝く視線を余に送り続けている。


 最後の頼みの綱であるローウェン隊長は、すまないと言わんばかりの視線を送ってきた。


「分かりました。余ではなく、私が勝てば、ネシアの夢を否定しないでいただきたいのじゃ!!それと、『王立リーラ学園』へ受験の資格を…」

「ほう。君は既に『詠唱短縮者(スペルマスター)』なのに、わざわざ『王立リーラ学園』へ通いたいのか?」

「何かダメじゃろうか?」

「いいや、むしろ、立派な事だ。仮に君が勝てば、この屋敷の滞在許可とネシアちゃんの家庭教師も追加でお願いするが、異論はあるか?」

「むしろ、好都合じゃ」

「負ければ……報酬はもちろん、ネシアちゃんに嘘を吹聴した罰で牢獄行き、で問題ないか?」

「それで構わないのじゃ」

 ————単純に余の愛娘の名前が使われる『王立リーラ学園』と呼ばれる学園へ通ってみたいなど、本音は口が裂けても言えないのじゃ。


 それにしても、ネシアの父親は腕っぷしにかなりの自信があるらしい。そのおかげか、こちらが願いたいことを申し出てくれた。つまり、当面の間、暮らしに困る事なく、ネシアに教えるだけで『王立リーラ学園』の受験資格を得られるのだ。


「ネスお父様、いくらなんでも……!!アシュアも…わたくしのためにそんな事を賭けてまで…」


 先程までキラキラとした視線を見せていたネシアだったが、余とネス公爵の会話で現実へ戻り、抗議し、余と向かい合うネス公爵との真ん中を、割って入り、両手を水平に伸ばしている。


「ネシアちゃん、退きなさい。これはパパではなく、『公爵』としての命令だよ」

「しか…」

「ネシア、出会ったばかりの余…私を完全まで信じるのは難しいかもしれないけど、ネシアの親友である余を信じてはくれないじゃろうか?」

「……全く、甘く見られた物だ」

「ネスお父様はブロンズ王国の軍内で5本の指に入る『魔法』の使い手で二つ名は………」

 ———余達がいる国はブロンズ王国と呼ぶんじゃな。あれ、そんな国の名前は記憶にないのじゃが、もしや、歴史が動いたのじゃろうか?


 結局、ネシアはローウェン隊長によって制止される事となり、ネス公爵に案内されるまま、『手合わせの場所』へと向かう事となった。


ーーーー


「怖気付いたかい?」

「いいえ。公爵様の胸を存分に借りるつもりじゃ。『速度加速』『筋力強化』」

「どうやら、君は本当に『詠唱短縮者(スペルマスター)』だったみたいだね」

「………そ、そうじゃ」

 ———じゃから、『詠唱短縮者(スペルマスター)』ってなんなんじゃぁぁ


 心の中でそう思いつつも、もちろん、知ってる風を装う。その際になぜか、余達の手合わせを見守るメルと視線が一瞬だけ合った。


 その際に、メルに笑われた気がしたが、余は完璧に振る舞えているはずだ。


「しかし、それができるのは君だけじゃないよ。『力よ、ここに』『速度よ、ここに』」

 ———どうやらネス公爵も『詠唱短縮者(スペルマスター)』らしい。詠唱を短縮して魔力の消費を抑えつつ、発動を速くしているようじゃ


 とりあえず、棒立ちしていてはまずいと思い、適当にネス公爵へ中腰の姿勢を保ちつつ、なんちゃって拳法の構えをする事にした。


「ぷっ……」


 一瞬だけ、堪えていた笑いが噴き出たような声がしたため、その声の方へ振り向くとメルが笑っていた。だから、ネス公爵様との勝負が終わったら、必ず、みっちり説教することを心に誓った。


「それは君なりに構えてるつもりなのだろうか?まっ…すぐに分かる事だ。それじゃっ…『炎よ、我の拳に宿れ』」

「『炎よ、余の拳に宿るのじゃ』」


 言葉通りにそのまま真っ直ぐ向かってきたネス公爵が肩慣らしと言わんばかりに『火属性』の魔法を付与した右ストレートが飛んでくる。そして、彼の詠唱を即座に、模倣して発動させた余の火魔法が衝突する。


 ドォォォンッ


「……普通の人間ならば死んでいてもおかしくない一撃じゃな?」

「私がブロンズ王国軍の指折りの魔法使いだという情報知っていながら、手合わせに挑む者がこの程度でくたばるはずがないだろう?」

「……全くもってその通りじゃ」


 そして、衝突した威力を見た感想をネス公爵へ伝えると反論できない正論が返ってきた。


「さて、ここからは本気で行かせてもらうよ。『陽炎、我の望むままここに』」

「………望むところじゃ」

 ————アレは、余がリーラ達と対峙した時に使用した懐かしい魔法じゃな…


 目の前の公爵様が1人から2人に、そして2人から4人へと分裂をしていく。


 ———魔力配分できる程の魔力量と、それぞれの『魔法』をコントロールができて、初めて成立する応用の『火属性』の分身魔法じゃな!!


「「「「ネシアちゃんが悲しむのは嫌だから、死んでくれないでくれよ?」」」」

 

 4人となったネス公爵様は、それぞれが、余の四方に移動した後、一斉に向かってきた。


「『吹き飛ぶがいいのじゃ』」

 ゴォォォォ……!!

「「「「ぐっ……」」」」


 当然、馬鹿正直に近接戦をしても良かったが、めんどくさいと感じ、『風魔法』を余の周囲に放ち、立てないレベルの強風を発生させる。


 その強風は分身状態のネス公爵達を文字通りに吹き飛ばしていった。


 ドォォンッッッ


「君を強者だと認めよう。しかし、甘かったな」

「………むしろ、その時を待っていたのじゃ」

「「『炎よ、我(余)の拳に宿れ(のじゃ)』」」

「………本当に何者なんだい」

「少なくとも、ネシアの敵ではない事だけ、この場で約束するのじゃ」


 余には、大気中の『魔素』をある程度、感知できる。そのため、最初からネス公爵が4人に見せかけて、本体を含めれば、5人だという事は分かっていた。


 だからこそ、まずは、四方向に配置された分身を即座に範囲が広い風魔法で消去した。しかし、それでは1人が足りない。


 つまり、本体は余が分身を倒した時に生じる隙をどこかに隠れて、機を窺っていたわけだ。


 だからこそ、不意打ちと言わんばかりに、ネス公爵が後方から繰り出す火魔法と同じタイミングで、それ以上の魔力を練った火魔法で対応した。


 その結果、繰り出した火属性魔法の勢いに負けたネス公爵様を完全に吹き飛ばす事に成功した。


「ふっ……降参」

「「「「おおおおおおおっっ」」」」

 パチパチパチパチバチパチパチッッッ


 先程まで、静まり返っていた周囲は余とネス公爵の激しい戦いを見終わった後、ローウェン隊長達をはじめとする親衛隊の大きな歓声と共に盛大な拍手が生じることとなった。


 ————侍女達までもが、こんなにはしゃいで、盛り上がっていいのじゃろうか?


 そう疑問に思ったが、ネシアやローウェン隊長、ネス公爵も気にしていない様子だったので、余の中で留めておくことにした。

 

「ネスお父様、素晴らしい手合わせでしたわ。それと………先程の条件に関してなのですが、」

「ああ、アシュア君とメル君の滞在許可及び王立リーラ学園の受験許可なら任せるといい」

「1番大事なのがまだじゃ」

「……そうだったね。父である私が娘の可能性を信じなければならなかったね。だから、ネシアちゃん、『賢者』になれるよう励みなさい」

「………はい!!ネスお父様!!」


 結局、ネス公爵様との決闘で交わした約束通り、余とメルは『ネシア専属の家庭教師』という立場で滞在許可をいただける事となった。


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