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序章4

「とりあえず、アシュアとメルはわたくしの馬車に乗るといいですの!!」

 ———馬車は遅いし、お尻が痛くなるから本当は嫌なのだが、こればかりは仕方ないのじゃ


 このまま立ち話をしていても他の魔物に襲われるかもしれないという結論に至り、余達はネシアの好意に預かることとなった。


 そのため、ネシアの馬車へ乗せてもらい、そのまま彼女の領地まで案内してもらう予定だ。


「今更かもしれぬのじゃが、余のことはアシュアと呼び捨てでもらって構わないのじゃ」

「そうなんですの?いつも、メルが呼ぶ時『様』って付けてるから……んまぁ助かるわ」

「それは良いのじゃ。メルは昔からの付き合いで、アレじゃ!!職業病のようなものじゃ。それより、助かるとはどういう事じゃ?」

「そ、それはっっ……アシュア、さ、さっき言いましたわよね!?その、わ、わたくしと………」

 ————確かに、ネシアの言う通り、友達ならば、『様』付けするのは変じゃ。それにしても、そこまで怯えなくてもいい気がするのじゃ。


 お馬鹿な一面とツンツンな一面しか見ていなかったため、ネシアのもじもじと手を組み、余の様子をちらりちらりと見つめる姿が可愛くて、不覚にもいじめたくなってしまった。


「アシュア様……?そのだらしない表情はなんですか?返事を返さないとは……お友達に意地悪は良くないと思います!!それならば私にも………」

「ひ、ひぃ!!む、無論、ネシアと余は友達じゃ!!いいや、会ったばかりじゃがもう親友じゃ!!」

「し、し、親友ですの!?平民のアシュアと!?こ、このわたくしが!?……いえ。でも、よく考えたら、それも悪くないですわね……」

「平民で悪かったのじゃ。それと、改めてネシア、よろしく頼むのじゃ」

「ええ……」


 余が言った『親友』という言葉の響きがネシアにとって良かったのか、暫くの間、彼女は小さな声で『親友』と安心するように呟いていた。


「余の方からも聞きたいことがあるのじゃ」

「な、何かしら?」

「改めて聞くようで悪いのじゃが、なぜ、ネシアのような貴族が人間と魔族の境界線のような危ない地にいたのじゃ?」

「そ、それは…………」

 ———これは失敗かもしれぬのじゃ。


 ネシアの言いにくそうな表情を見て、自分の質問がまずかったことに気づいた。


「ああ、アシュア殿、僭越ながら、その質問にはわしがお答えしましょうぞ!!」

「ちょっと、ローウェン!!あなたはわたくしの護衛の任務に集中するべきですわ!!」

「護衛はもちろん、ただ、ネシアお嬢様はもうお1人ではござらんでしょう?それにアシュア殿と親友の関係ならば、隠し事はなしですぞ…!!」

「それはそうですけども……恥ずかしいですの」

 ———隠し事か…。そうじゃな。余の本当の正体もいずれはネシアへ告げるべきなのかもしれぬが、でも、受け入れてもらえるじゃろうか……


 まだ出会ったばかりにもかかわらず、不思議と『親友』という言葉を言った瞬間、嬉しそうなネシアの表情が思い浮かんだ。そうすると、胸がぽかぽかと温かくなり、『ネシアを失いたくない気持ち』と『彼女に嘘をつき続けたくない気持ち』の相反する思いが余の心の中で芽生えていた。


「アシュア様は寂しかったんですよね…」

「い、いや、何の話じゃ……」

「アシュア様の顔を見れば大体、分かりますから……聞く内容、失敗しちゃいましたね」

「うぐっ……意地悪はや、やめるのじゃ」

「アシュア、大丈夫ですわ!!わたくしはローズヴェルト公爵家の娘ですの。来年には『王立リーラ学園』へ通う予定をしておりますわ」

 ————『王立リーラ学園』……リーラ、其方の名前は遥か未来にまで残っているのじゃな。


 本来、驚くべきところは目の前のお転婆娘のネシアが『公爵家令嬢』という事実かもしれない。

 

 しかし、彼女が最後に言った『王立リーラ学園』の言葉を耳にした瞬間、昔のリーラと過ごした大切な思い出の数々が脳内で蘇った。


「ネシア様、それはここで『スケルトン族』と戦っていた事と何か関係あるんですか?」

「し、失礼ね…!!最後まで聞くべきだわ!!」

「アシュア様ぁ、怒られてしまいました。」

「ち、ちょっと!!アシュアに泣きつくのは、ず、ずるいと思うわ!!」

「ネシアお嬢様、見てられませんぞ。僭越ながら、わしが説明させて頂くと、『スケルトン族』を倒した『実績』を作りたかったんですぞ!!」

「ローウェン様、『実績』を作る意味を教えて頂けませんか?」

「『王立リーラ学園』は魔法を学ぶ学校でしてな……実際に入学前に下級魔族とはいえ、倒していたとなれば…おっと、これ以上は……」


 ローウェン隊長と呼ばれた男が、意気揚々とネシアお嬢様の事情を話した結果、話していくうちにプルプルと全身を震わせるネシアの様子を見たのか、一目散に護衛の方へと戻っていった。


「………ゴホンッ、聞きたいことがあるのじゃがいいだろうか?」

「改まってどうしたんですの?」

「余とメルも『王立リーラ学園』に通いたいのじゃが、可能じゃろうか?」

「本来ならば難しいですわね…」

「ネシア様、『本来ならば』でございましたら、私達には他に方法があるのでしょうか?」

「ええ…。公爵家であるわたくしの危機を救った功績と数少ない『詠唱短縮者(スペルマスター)』なので受験の資格はあると思いますわ」

 ————ネシアが言う『受験の資格』の部分には、やや疑問が残るが、どうやら、余達も入学できる可能性があるらしくて安心するのじゃ


 その後、ネシア、メル、たまに会話に混じってくるローウェン隊長と幼い頃のネシアの話を中心に雑談しながら、馬車に揺られ続けた。


 最終的にネシアが住んでいる公爵の領地へ数日かけての長距離移動を行った結果、筋肉痛に苛まれる事となったのは言うまでもない。


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