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序章3

「初めまして。貴殿がネシアお嬢様……で間違いないじゃろうな?」

「ええ。これはご丁寧にご機嫌ようって、貴方、誰でございますの!?」

「僭越ながら、戦況を見させていただき、助太刀に参った所存じゃ」

「貴方のようなちびっ子が来た所であの骨共には勝てませんわ!!ここはこのわたくしに任せて危ないから立ち去りなさい!!」

 ———だ•れ•がちびっ子だと……この………


 ネシアお嬢様の言葉に一瞬、イラッとしたものの、所詮はガキの戯言てある。すぐに、クールダウンをした後、冷静さを取り戻す。


 ———それに言葉はアレだが、彼女が余を守ろうとしてくれているのは理解できるのじゃ


「ネシアお嬢様、少し見てて欲しいのじゃ」

「ちょっと貴方、何を…」

「『速度加速』『筋力強化』、参るのじゃっっ」

「チビ…じゃなくて、貴方、その歳で『詠唱短縮者(スペルマスター)』ですの!?」

「え?…………えー、そ、そうじゃな!!」

 ———はて、『詠唱短縮者(スペルマスター)』ってなんじゃ…。とりあえず、ここは誤魔化しておいた方が良さそうじゃな……。


 世界の3剣のうちの1つ『邪剣』等を出せば、余の本来の力を発揮する事ができるが、怪しまれる可能性が高い。しかし、いつもの『無詠唱』を使用すれば、通常の人間の魔法過程と異なる。


 だから、詠唱を省略したかのように見せかけるのが吉と判断した。


 その結果、どうやら、『詠唱短縮者(スペルマスター)』とやらに勘違いされてしまったようだ。


 ちなみに『速度加速』は風魔法で『筋力強化』は地魔法である。元々、魔法には『闇魔法、光魔法、火魔法、地魔法、風魔法』の5個の属性が存在している。属性毎の相性は火は地に強く、風に弱い。地は風に強く火に弱い。風は火に強く地に弱い。光と闇は対等に喰らい合う属性である。


 そして、例外のケースはあるが、基本的に聖剣に認められる事で付与される光属性は勇者の専売特許であり、闇属性は魔族の専売特許である。


「ツヨイナンテモンジャナイ…」

「スケルトン族、手合わせする前に聞かせてもらうのじゃ。なぜ、ネシアお嬢様を襲う?」

 ———スケルトン族は魔族の中でも温厚な種族だから、人間を無闇に襲うとは思えないのじゃ。


 少し話は変わるが、魔族のランクは主に『下級魔族』『中級魔族』『上級魔族』『超上級魔族』『四天王』『魔王』『天魔』の羅列である。


 基本的にこのランクも各『種族』毎に分類されるが、稀に余やメルのような『種族』だけでは測れない『特殊固体(ユニーク)』が生まれる。


 その場合、自動的に『四天王』以上へ分類されるため、四天王以上の魔族は後ろの背中に生えている『羽』で判別するのがセオリーである。


 一応、『四天王』ならば2枚、『魔王』ならば4枚、『天魔』は6枚となっている。


 だから、目の前にいる『スケルトン』族が『下級魔族』であると分かるのだが、話を戻そう。


 余の知識が間違えていなければ、『下級魔族』の中で気性が荒くいことで有名な種族は『ゴブリン族』や『ウルフ族』あたりである。


「タンジュン……ワレラガオソワレタ」

「はっ?ネシアお嬢様……?弁明を」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。ま、ま、まさかとは思うけど、あんた、あの骨共の言うことを信じるつもりじゃないわよね??」

 ———額から汗を噴き出しながら、口がテンパってるのが何よりの証拠じゃ…


 ネシアお嬢様の近くを囲い、余を怪しんで彼女を守ろうとする護衛の騎士達も、この時ばかりはバツが悪そうな表情を浮かべていた。


「はぁ…スケルトン族、余…ではなく、私の顔を立てて許して頂けませんか?」

「一人称くらいなんでもいいけど、余か私かどっちかにしなさいよね!!」

 ———このクソガキぃ!!やかましいのじゃっ!!


 慣れない人間の振りをしようとすると不自然な綻びが生まれる。それをネシアに指摘されるたびに苛立ちが生じる。ただ、苛立っても仕方ないと割り切り、荒ぶる心をクールダウンする。


「ワカッタ。ドノミチ、オマエニハカテナイ」

「ソレハソウダガ、イイノカ?」

「モトヨリ、ワレラハムダナアラソイコノマズ。マタ、チクショウニハナリサガラズ」 

「ソウダナ…」

「お話の途中で申し訳ないのじゃが、チクショウってのはゴブリン族とかじゃろうか?」


 スケルトン族自身も余裕があるわけではないだろう。ただ、彼等が矛を収めてくれるのは、生存本能に加えて、『チクショウ』になりたくない、謂わばプライドも理由の1つにあるらしい。だからこそ、彼等の指し示す『チクショウ』と侮蔑する魔族の正体が気になったので質問をした。


「アア…ヤツラハニンゲンノメスヲスキホウダイスル。ソノカワリ、スグニシヌ」

「ゴ、ゴブリン族ですって!?」

「カカカカ……」

 ———ネシア、オーバーリアクション過ぎるのじゃ。それにそんな事すれば、人間側の『冒険者ギルド』あたりが黙っていないはずじゃ。


 スケルトン族が慌てるネシアの様子を見て一頻り笑い合った後、余達の方へ背中を向けて魔王城の方面へと移動していく。それにしても、スケルトン族ってあんな風に笑うのか、と感心した。


 ———ゆくゆくは上に立つ者として、『下級魔族』の処遇改善もせねばならないようじゃな…。まだまだ、余は知らないことばかりじゃな…


「ア、アシュア様ぁ〜」

「おー…メルよ、こっちじゃ」

「なんか芝居かかってますわね」

 ———いらぬ事に気づくのではないのじゃ!!


 頭の中で『魔族の未来』を考えていたら、機を見計らったと言わんばかりのタイミングでメルが余とネシア達のいる場所へ合流を果たす。こう言う時だけ妙に鋭いネシアお嬢様の何気ない一言に心の中でツッコミを入れてしまった。


「先ほどは、我々にとって命よりも大事なネシアお嬢様の危機にお助け頂きありがとうございました!!あなた方はわしらの命の恩人ですぞ!!」

「ああ、いえ…余…ではなく私とメルは偶然通りがかっただけですので…」

「いえいえ、それほどでもないです」

 ———なぜ、メルも含まれているのじゃ!?そして、メルも感謝を受け入れているのじゃ!?天然お嬢様を誤魔化しつつ、助けたのは余じゃ!!


 そう思って、メルへ抗議の視線を送るが、物の見事に涼しい表情で受け流されてしまった。


 ちなみに、ネシアお嬢様が漏らした感想はスルーである。その後、彼女の親衛隊が隊列を組み直す中、親衛隊の中で1番偉い人と思しき隊長が大きな声と共に余とメルの方へ話しかけてきた。


「それで、ちびっ子とえー…」

「ゴホンッ、ネシアお嬢様、この方々はわしらとネシアお嬢様の命の恩人ですぞ!!」

「そういえば、私達は正式に名乗っていなかったですね。改めまして、私の名前はメルです。どうぞ、気軽にメルとお呼びください」

「余…ではなく、私はアシュアだ」

「アシュアとメルね。ええ、覚えたわ。わたくしのことはネシアと呼んでくれて構わないわ。それで、アシュアとメルはどうするのかしら?」

 ———また余のことをちびっ子などと……


 先程のように苛立ちはしたものの、隊長様がネシアお嬢様へ注意してくれたため、余の方からは何も言わないことにした。


「余…ではなく私達はこの付近で修行をしていた身でそろそろ、街に戻ろうと思っていたのじゃ。もしネシアさえよければじゃが、その案内を…」

 ————なぜか、ネシアへ頭を下げることにすごく抵抗を感じるのじゃ。


 無意識のうちに徐々に会話の声が小さくなり、最後の方はネシアに聞こえるか聞こえないかスレスレのような声音になってしまった。


「あー…きっと、アシュア様は訳あって長年1人で過ごされていた身でして、きっと、ネシアお嬢様とお友達になりたいんだと思います」

「そ、そうなんですの!?」

「メ、メル!!余はそんなつも…」

「ふ、ふんっ!!わたくしと平民がお友達ですって!?で、で、でも、どうしてもと言うならなってあげなくもないってことですわ!!!」

「メル殿、本当ですか!?実は、ネシアお嬢様もこの性格ゆえに、昔と異なり、なかなか友達ができなくて困っていた所なんですぞ!!」


 メルが余のために、ネシアへ友達になってくれるよう頼んだことは分かっている。しかし、余は案内さえしてもらえれば良かったと思う反面、このまま別れるのも寂しいとも考えていた。


 だからこそ、この理解できない感情により、涙目になり、メルの胸をポカポカと叩く。


 そんな余の様子を見て、上機嫌だったネシアお嬢様もあっさりと隊長に自分の秘密を暴露されることとなった。当然、彼女も一時は隊長へ敵意を示したものの、最終的に恥ずかしさのあまり余と同じ涙目と言う末路を辿っていた。


 ———メルより余の方が歳上じゃ。戦闘も余の方が上じゃ。しかし、こう言うコミュニケーションの時はメルになかなか敵わないのじゃ。


 もちろん、劣る部分がある事実は自分が魔族である以上、悔しい事だと思う。しかし、不思議な事に、メルに負けても嫌な気はしなかった。


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