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序章 2

「もう、我慢ならんッッ!!余はここを出るのじゃ!!」

「『天魔様』…どうか…どうか…お考え直しを」

「メイ、そこをどくのじゃっ…」


 余も馬鹿ではないし、同じ失敗を繰り返そうとは思わない。しかし、300年間の退屈だ!!到底、許せる範囲ではない。そもそも、300年も待っただけでも感謝してほしいものだ。


 ちなみに『メイ』とは『魔王』の1つ下の階級の『四天王』ランクであり彼女もサキュバス族の『特殊個体(ユニーク)』である。要は、『魔王』が采配できる権限を全力で用いて、余が逃げ出さない様にした最強の監視役である。


 ————見てみるのじゃ。リーラ人形も500体作ってしまったのじゃぞ…

 ————こんな物を作っても本物のリーラは……もういないのにっ…じゃ


「『天魔様』、気になっていたのですが、そのたくさんの人形は……」

「変じゃろう?魔族のトップに君臨する余が歴代最強勇者をいつまでも娘の様に愛でている様子は……余も自分で理解しているつもりじゃ」


 自分の事を自分で言って自嘲気味になる。本当の意味でリーラと繋がることができない。それは頭でわかっていて、今も尚、余はリーラの事を本気で余の娘だと…………思い続けている。


「魔王軍四天王の立場から言わせて頂くならば、変だと思います。でも、個人の立場から言わせて頂くとすごく素敵な事だと思います」

「そう…言ってくれると助かるのじゃ…。余はリーラが守った人間の世界を見てみたいのじゃ」


 メイにとっては何気ない一言だったのだと思う。しかし、その言葉は不思議なくらいに、余の胸へストンッと落ちた。


「『天魔様』、その欲望は…ずるいです」

「……すまなかったのじゃ」

———分かっていたのじゃ、これを言えばメイは余の願いを断れないじゃろう。


『『天魔様』、今日は何してるんですかってまた例の人形作りですか!?』

『『天魔様』、人形が増えていってませんか?』

『『天魔様』、また魔王様が勇者へ勝利を収めたそうですよ……!!』

『『天魔様』、今日はですねー…』


 脳裏に過るのは300年間、リーラの件が契機となり、心を閉ざした余へ監視という職務上、仕方ない事とは言え、毎日毎日、話しかけてくれる献身的なメイの姿である。


 メイの顔を見ると、彼女は困ったそうな笑みを浮かべていた。


 しかし、優しい彼女を振り切ってでも。余は人間界に行きたかった。


「『天魔様』を制止をしようとしましたが、私は死亡、『天魔様』は脱走しました」

「え?………それはどういう意味じゃ…」

「ゴホンッ、『天魔』様を制止をしようとしましたが、私は死亡、『天魔』様は脱走しました」


 1度聞いた時は、メイの言葉を理解する事に時間を要した。しかし、2度目で彼女の言ってる事とその意図を理解した。喜ぼうとしたのも束の間、メイが余の口を人差し指を当てる。


「きっと、発覚すれば私は死ぬでしょう。ですが、その前に私へ見せていただけませんか?『天魔様』の娘が遺した人間の世界を………」

「安心するのじゃ。その時は余が其方を守るのじゃ。なにせ、余は長い魔族の歴史の中で唯一の存在である『天魔』じゃ」

「はいっ…!!」


 メイと握手した後、最低限のカモフラージュを施す。そして、彼女に道中の案内をされるまま、余は幾多年振りに人間界を訪れることとなった。


ーーー


「『天魔様』の魔力操作は美しいですね」

「メイもなかなかじゃ」


 現在、余とメイはあっさりと魔王城を抜け出し、魔界と人間界の境界付近へいる。この辺りから、余もメイも人間に変装するため空気中に存在する『魔素』を練り上げ『魔力』をコントロールして、『属性』を付与する。


 ちなみに、余達が扱った『変装』は『魔素』を身体に付着させ、自分より下の魔力量の者へ認識阻害を行う『風魔法』の一種である。


 基本的な『魔法』の論理だが、実は分かっていない者も多い。特に魔法が下手な魔族は『属性』から魔法段階へ入るケースが多く、きちんと理解していなければ、魔族の魔法は意味を為さない。


「それより、呼び方、どうしましょうか?」

「そうじゃな。余は其方のことをメルと呼ぶのじゃ」

「それでは、僭越ながら、私は『天魔様』の事をアシュア様と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」


 ドクンッ


 ———分かっているはずじゃ。メイがリーラのはずがないのじゃ。それでも、余のナニカが反応してしまったのじゃ。


 改めて繰り返そう。余の目の前にいるヒストリア•メイは『サキュバス族の特殊固体(ユニーク)』で、余と魔王に次ぐ四天王の1人である。


「あの…『天魔様』の真名を存じておりましたので、私なりにアレンジしてみたのですが、もしかして、失礼にございましたか?」

「い、いや。余はそれで構わぬのじゃ」

 ———リーラは勇者で人間じゃ。そして、もういないのじゃ。それなのに、余は何を……


 頭では分かっているはずだ。それなのに、未だに高鳴り続ける鼓動を無理矢理に鎮める。


「現在地である人間と魔族の境界付近には冒険者や下級魔族が多いので、呉々もご注意ください」

「ああ、余も理解しているのじゃ」

「アシュア様、流石です」


 メルと軽口を叩きながら、人間界の方向へ移動していると、微量の魔力の不和を感知した。


「メル、気づいておるじゃろうな?」

「ええ。アシュア様、まずは少し様子を見に行きましょうか」

「そうじゃな」


 人間と魔族では『魔法』の扱い方が根本から異なる。大多数の人間は『唱える』という動作を介入する事で、己が持つ『魔力』から『魔法』へ具現化する。もちろん、余の娘のリーラのような人間の中でも最上位クラスは異なるが、殆どの人間は『唱える』ことに固執していたはずだ。


 ちなみに魔族の魔法は『唱える』必要はないが、『魔素』を練り、『魔力』に変換する。そして、『魔法』へ具現化するために『コントロール』力が求められる。こう聞くと、人間側より優れている様に感じるが、デメリットも存在する。


 話を戻そう。それ故に、『魔族』と『人間』では一度に消費する魔力量も異なり、誤差が生じやすい。そのため、両者の魔法が衝突した時、余やメルのような魔力のコントロールに長けた者は周囲の『魔力』の源である大気中に存在する『魔素』の変化で気づく事がある。


「あれは…人間の貴族の子女とそれらを守る護衛達に、相対するのは下級魔族ですね…」

「………余が封印されている間に、度胸のある人間の貴族も出てきたもんじゃ」

「いや…あれは、もう少し近づいてみましょう」


 余が率直に感心していると、なぜかメルがジト目を送ってくる。とりあえず、彼女の言葉へ縦にこくりと頷き、近づくことにした。


「くっ……魔族め…!!卑怯ですわよ!!」

「ヒキョウトハ……ナンデスカネ」

「ネシアお嬢様、魔族へ無闇に口を聞く必要はありませんぞ……。ここはわしらが…!!」

「ええ。ローウェン、わたくしは貴方達ならば、勝てると信じてますわ!!」

「野郎共、ここが正念場だぞっ!!!命を賭しても、ネシアお嬢様へ一歩も近づかさせんぞー!!」


 ———ネシアお嬢様ってあの金髪の両サイドを縦ロールにしている女の子じゃな。そして、女の子を守っているのが銀の鎧を着た屈強の男達で、対する魔族はスケルトン族じゃな。


「魔法攻撃隊!!今度こそ行くぞー!!せーのといったら唱えろぉぉ」

「「「「せー……ぐあっ」」」」

「ちょっとは待ちなさいよ!!この骨共!!そんなに、わたくしの親衛隊が使う魔法が怖いのかしら?骨は骨らしく正々堂々戦いなさい!!」

「……サキホドカラナニヲイッテイル」

「きーっっ!!」

 ————あぁ……なるほど。メルが余へジト目を送った理由がわかったのじゃ。


 余の目の前にいる貴族子女はリーラとは似ても似つかない。リーラは聡明で優しい子だったが、目の前にいる子は一言で言えば、馬鹿である。


 しかし、命の駆け引きが行われている場で、正々堂々を魔物に言う姿勢や感情を表に出す姿を見て、不思議と嫌いじゃないと思えた。


 ちなみに、スケルトン族は近接戦闘を得意とする『下級魔族』であり、彼等は遠距離魔法の対処方法が苦手だったはずだ。


 もちろん、スケルトン族の弱点をネシアお嬢様や付き従う護衛も知っているのだろう。


 だからこそ、懸命に遠距離魔法を放とうとするものの、『唱える』動作が邪魔をしている。


 一方で、『スケルトン族』はそんな余裕のある隙を見逃すはずがない。


 ———こんな事を繰り返していれば、感知しやすい訳じゃな……。


「それでアシュア様、どうします?」

「スケルトン族は魔族の中では温厚じゃ。故に、殺したくはないのじゃ。余がでるとするのじゃ」

「ご武運を……」


 結局、ネシアと呼ばれたお嬢様と親衛隊の一団は、余が訪れるまで何度も立て直し、遠距離魔法を放とうとするが、その度にスケルトン族に距離を詰められる厳しい戦況が続くこととなった。



※不定期更新です。 

※序盤なのでスパンは短めです。


投稿する前に添削はしているんですが、それでも誤字や設定ミスが生じるのは、困りますね…。

それにしても、魔法の原理を論理的に説明するのは、なかなか骨が折れます。


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